【完結】人は生まれながらにして孤独なものである

yanako

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子爵家長女の私

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私は子爵の嫡女だ。
父は婿養子。
母は私がまだ小さい時に、病気で死んだ。
私が子爵家を継ぐにはまだ幼すぎ、父が子爵代理となった。
そしてすぐに、継母がやって来た。
私と大して年の変わらない娘と一緒に。
その娘は、父との間にできた娘なのだと継母は言った。

父は、母が病気で苦しんでいる間、浮気をしていたんだ。
許せない。


父は婿養子で、子爵代理でしかないのに、まるで自分が子爵を継いだように振る舞い、継母もまた子爵夫人のように振る舞った。
義妹も子爵令嬢のように振る舞った。

子爵令嬢なのは、私だけなのに。


家に届くお茶会の招待状を見た義妹が、一緒に行きたいと泣きわめいた。
貴族としてのマナーも何も知らない義妹を連れて行くわけにはいかないと言うと、継母にぶたれた。

「お前は、美しい義妹に嫉妬しているのだろう?お茶会に連れて行ったなら、お前は引き立て役にしかならないからな」
と訳の分からないことを言った。
容姿云々の話ではない。
所作、教養、何もかもが足りないと言っているのだ。

結局、父親にも怒鳴りつけられ、義妹を連れてお茶会に行くことになった。

父親に似て、華やかな容姿の義妹は、大勢の令息たちに囲まれてご満悦だった。
私は、令嬢たちに義妹の無作法を詫て歩かなければならなかった。


それからも義妹は子爵令嬢として、社交したがった。
その立場に無いと、何度言っても父も継母も聞いてくれなかった。


けれど、この子爵家を継ぐのは私なのだ。それは、国に提出してある書類にも明記されているのだ。


私はいずれ婿養子を取らなければならないことを父に伝えた。
すると父は、
「お前のようなさえない容姿の女のところに来てくれる婿などいないだろう?」
と言って笑った。
「せめて義妹いもうとの半分でも可愛さがあればな」


部屋に駆け込んだ私は、鏡を見た。
背も低く、小太りで、目は大きくなく、鼻は大きい。母にそっくりな私。
悔しくて、悲しくて、一晩中泣いた。
泣いて腫れ上がった顔を見て、義妹は指で差して笑った。


父の言う通り、私と婚約してくれる人は見つからなかった。

子爵家の次男、三男。
男爵家の次男、三男、四男
準男爵家の次男まで探しても、誰も居なかった。
釣書の私を見ただけで、断られたのだった。


「お姉様。このままだと、子爵家を継ぐことができませんわね。未婚で養子を取るのですか?」
と義妹が言って来た。

「私でしたら、あっと言う間に婿に入ってくれる人が見つかりますのにね」

義妹がそう言うと、父も
「裁判所に子爵を私に変更する手続きができないか確認してみるか」
と言った。


できるわけないのに。
私がいる限り。
いる限り……。
いなくなれば……。


私、殺されちゃうかも!
嫌だ!怖い!死にたくない!
でも、母の子爵家を、あんな奴らに取られたくない!


そんな時に、私に会いたいと伯爵家から連絡がきた。
伯爵家の次男の婿入先を探していたところ、私の存在を知ったとのことだった。

「伯爵家ですって!」
義妹と継母は興奮していた。

「どうせ、お前の顔をみたら、断られるに決まってる」
そう悔し紛れに言った二人は、どうにかして伯爵家の令息とお近づきになれないか考えているようだった。


そして、顔合わせの日。
「こんにちは。突然お会いしたいだなんて、申し訳ありませんでした」
そう言って、彼は微笑んだ。


「こちらこそ、お会いできて光栄です」
「そんな、僕はただの伯爵家の次男です。兄の結婚が決まったので婿入先を探すことになりまして。こうして縁があって、お会いできて嬉しいです」


彼は目が悪い人なのだろうか。

「あの……がっかりされませんでしたか?」
「何がですか?」
「その……私の容姿です」
「容姿ですか?」

彼は言われていることが分からないとでも言いたげな顔した。

「容姿は特に感じることはありませんが、所作が美しいなと感じました」


私はもう胸がいっぱいになってしまって、もし断られてしまっても、今日のこの言葉を思い出して生きていけると思った。

「では、返事は後日ご連絡致します」
彼はそう言って、私の手に口づけた。
ただの挨拶。そう思っても胸がドキドキする。
ありがとう。私に会ってくれて。
ありがとう。私に幸せな気持ちをくれて。


「次は、僕の家に遊びに来て下さい」
彼はそう言って馬車に乗って去って行った。

翌日、「早々のお返事で失礼します。婚約をお願いしたく存じます」との連絡が届いた。


私は彼と婚約することになったのだ。
このまま、彼と結婚すると私が子爵になる。

父と継母は苦い顔をしていたが、相手は伯爵家。文句は言えなかった。



私たちの卒業を待って結婚することとなり、父と継母と義妹は家を出ていなかければならなくなった。

領地に行くか、王都で部屋を借りるかと言うと、王都からは離れたくないと言う。
王都の郊外に小さな別邸を借りることになった。
父は一応貴族であるが、継母と義妹は子爵である私と血縁がないため、平民に戻るのだ。
贅沢はさせない。贅沢したいなら、働けばいいのだ。


結婚後暫くして、伯爵家でメイドをしている学友が男の子を産んだと聞いた。

幸せになってほしい。
そう思っていると


「僕たちも早く子どもが欲しいね」
と彼が言った。
「私で良いのですか?」
と訊くと、

「君がいいに決まっている。何度僕が言っても君は信じないけれど、僕は君が好きなんだよ。僕のためだけの僕の奥さん、君を愛してる」

「私も、あなたを愛しています。心から」
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