【完結】人は生まれながらにして孤独なものである

yanako

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かつて伯爵家次男だった僕

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僕は伯爵家の次男。 


次男というのは、ある時期まではスペアでしかない。
長男に何かあったときのため、スペアとして育てられる。
だが、あくまでもスペアだ。
扱いが異なることは、幼いながらも感じていた。
全て兄のお下がり。新しいものなど、僕のためだけのものなど、用意されたことはない。


跡継ぎとして、大事に大事に育てられていた兄には幼馴染がいて、兄は彼女のことが好きだった。
けれど、その幼馴染は平民で、伯爵夫人にはなれない。
父は家格の釣り合う、伯爵家の娘との婚姻を決めてきた。
兄は、幼馴染以外とは結婚したくないとごねて、僕に跡を継がせるように言った。
そんな勝手があるものか。
今まで跡継ぎとして、散々好きに生きてきたくせに。愛情を一身に受けて育てられたくせに。

結局父は、幼馴染を愛妾として迎えても良いと妥協案を出して、兄に結婚を認めさせた。

貴族の結婚とは、こういうものなのだろうか。家格の釣り合いや、政治的メリットの元で結ばれる契約。


兄の結婚が決まった後、僕も子爵家に婿入が決まって、ようやく自分の人生を歩けるような気持ちになった。
それまでは、兄のスペアの人生だったから。

あまり高位の貴族では、僕には荷が重いし、婚約者の彼女は跡継ぎということもあり、しっかりと教育を受けている。
婿の僕としては、気楽でありがたい。
そして何より、彼女は優しい。
僕のためだけの、婚約者。


その後、兄夫婦の間に長男が産まれて、父は大喜びだった。
紅茶のような赤い髪。ペリドットの瞳。
義姉に似ていると言われているが、僕はもう一人、似ている人を知っている。

義姉の義兄。
義姉の実家を継ぐために、遠縁から養子に入ったという。
その男に甥はよく似ていると思った。


兄も気づかないはずはない。
けれど、きっと兄にとってはどうでもいいことなんだ。
だって、兄には愛妾の幼馴染がいるから。


数年後、愛妾は兄の子どもを身籠った。

その頃。

学園に途中から編入してきた、ストロベリーブロンドの髪をした男爵令嬢。

派手な見た目とはうらはらに、不安そうな顔で、学園生活を送っていた。

そのうち騎士団長嫡男を始め、高位貴族の令息たちと過ごす姿が見られるようになり、令息の婚約者たちは腹を立てている様子だった。


僕と僕の婚約者は傍観者だった。
オドオドした様子で、高位貴族の令息たちと過ごす彼女は、とても楽しそうには見えなかった。
彼女はどうして彼らと一緒にいなければならないんだろう。


そんな彼女が複数の令息に乱暴されたという噂が聞こえてきた。


令息たちは噂を否定し、男爵令嬢も学園に来なくなった。

結局何もなかった、学園ではそういうことになった。


次に聞こえてきた噂は、男爵令嬢が妊娠したという話だった。
時期を考えると、例の暴行事件でのことだと思われた。

だが、暴行事件自体、無いものとされてる。
男爵家から追い出されるようだという話も聞こえてきた。

僕の婚約者は、酷すぎる、可哀想だと言って泣いていた。


そんな時、橋の上で一人佇む男爵令嬢を見かけた。

身投げするのでは?!

僕らは駆け寄った。

「僕の家で、乳母を探している。その子どもと同じくらいに生まれる予定だと思う。行くところがないのなら、僕の家に来て、メイドの仕事をやりながら、そのまま乳母にならないか?」

いきなり話し始めた僕に、男爵令嬢は驚いた様子だったが、僕の婚約者が彼女の手を取り、
「同じ女性として耐えられないことだ」
と言って、
「けれども粗末にしてはいけない。もう貴女だけの命ではないのだから」
と言うと、男爵令嬢は泣き出した。
僕の婚約者も泣いていた。


その後、男爵令嬢は男爵家から籍を抜かれ、僕の家にやってきた。
僕も学園を卒業して、婚約者の家に婿に入った。


元男爵令嬢は男の子を産んだと聞いた。


「僕たちも早く子どもが欲しいね」
というと、妻は真っ赤になって、私で良いのですか?と訊いた。

「君がいいに決まっている。何度僕が言っても君は信じないけれど、僕は君が好きなんだよ。僕のためだけの僕の奥さん、君を愛してる」
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