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9.私のことを愛して
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何が起きているのか分からずに混乱する私は、応接室へ通された。
「まずは、アニーには15年前の夜のことから説明しないといけないだろうね」
おばあちゃんは言った。
「今日、滝壺に落ちて死んだのは、アニーの妹ではない。あれは、人間では無いのだよ」
おばあちゃんが言っていることが分からない。
「人間ではないなら……何なの?」
おばあちゃんは話を続けた。
私たちが産まれた時、双子だったためか、負担が大きいお産となり、妹は生きて生まれてくることはなかったのだそうだ。
お父様とお母様は悲しみ、神でも悪魔でも構わないから、この子を生き返らせてくれと祈ったのだそうだ。
そして祈りは届き、妹は生き返った。
正確には生き返ったのではなく、妹の体に悪魔が入り込んだのだった。
そうとは知らずに、お父様もお母様も喜んだ。
私たち双子は、同じように、可愛がられて育った。同じように、育てているはずなのに、どうも違う。
そう気がついたのは、私たちが3つになった頃だった。
おとなしい私と、活発な妹。
双子でも、随分と性格が違うものだと思っていたが、段々と妹は傍若無人な態度をとるようになったのだそうだ。
この悪意に満ちた行動をする理由は何なのだろうと思っていた時、私たちが流行り病に罹り、神殿から神官が来てくれた。
私たちを診ると、神官は
「この妹の方は、人にあらざるものである。一体何をしたのか?」
といったのだそうだ。
驚愕する両親に神官は続けた。
「肉体は確かに人間のもののようですが、魂が人のものではありません。悪魔……悪魔が入っています」
両親は私たちが産まれた時のことを話した。
話を聞いた神官は、契約を結んだという訳ではないが、悪魔にすがったことで、入りこまれたのだろうと言った。
どうしたらいいのか?と問う両親に、肉体ごと消滅させるしかないと神官は言った。
「しかし…」
と神官は続けた。
「肉体を消滅させた時、姉の方の体を乗っ取る可能性もあります。双子ですから、容易に移れるでしょうな?」
「そうしたら、この子はどうなってしまうのですか?」
「人の魂は悪魔に喰われます。そうなったら、姉の肉体も消滅させるしかないでしょう。どうしますか?」
両親は言葉を失った。
生きて産まれることのなかった娘の命を願ったために、悪魔に取り憑かれることになるとは……
「どうしたらいいのですか?何の罪もない娘まで失うことはできません」
神官は言った。
15歳になれば、自我が確立するため、悪魔に乗っ取られる確率は低くなるだろから、それまでは双子を離して育てること。
また、姉を育てる環境は、神の加護が与えられている土地が望ましいこと。
それを聞いて、両親は私を母方の祖母の所で育てることにしたのだ。
また、悪魔は嫉妬深い。
自分ではなく、私が愛されていることを知れば、私に危害を加えることも考えられた。
「偽りの愛を妹アリーに与え続けることで、姉を守ることができるだろう」
と神官は言った。
そして、私は祖母のもとで12年間育ててられた。
そして15歳になり、両親は悪魔を倒すことを決めた。
神官と祖母も交えて、悪魔を討つ計画を立てた。
悪魔の魂を閉じ込める。
神の滝壺に封印することに決まった。
アリーを誘き出すためにはどうしたらいいのか。
その時に、彼が名乗り出た。
「俺がアニーを守りたい。俺がやる」と。
アニーが絶望の底に落ちて、悩み苦しむ様を見て、喜ぶ悪魔。
愛する者を奪い、喜ぶ悪魔。
悪魔に気付かれないように、心を鬼にして、家族は計画を実行した。
そして今日、悪魔を滝壺に封印することに成功したのだった。
「苦しい思いをさせて、すまなかったねぇ」
おばあちゃんは私を抱きしめた。
お父様もお母様も泣いていた。
「アニー」
彼が私の名前を呼ぶ。
「アニー。やっと呼べる。アニー」
愛おしい彼の声。
「私のことを愛してくれていたのね。みんな」
「そうさ。愛していたから、守りたかったんだよ。どんなに辛くても。君を守りたかったんだ」
私は、愛されていた。
「まずは、アニーには15年前の夜のことから説明しないといけないだろうね」
おばあちゃんは言った。
「今日、滝壺に落ちて死んだのは、アニーの妹ではない。あれは、人間では無いのだよ」
おばあちゃんが言っていることが分からない。
「人間ではないなら……何なの?」
おばあちゃんは話を続けた。
私たちが産まれた時、双子だったためか、負担が大きいお産となり、妹は生きて生まれてくることはなかったのだそうだ。
お父様とお母様は悲しみ、神でも悪魔でも構わないから、この子を生き返らせてくれと祈ったのだそうだ。
そして祈りは届き、妹は生き返った。
正確には生き返ったのではなく、妹の体に悪魔が入り込んだのだった。
そうとは知らずに、お父様もお母様も喜んだ。
私たち双子は、同じように、可愛がられて育った。同じように、育てているはずなのに、どうも違う。
そう気がついたのは、私たちが3つになった頃だった。
おとなしい私と、活発な妹。
双子でも、随分と性格が違うものだと思っていたが、段々と妹は傍若無人な態度をとるようになったのだそうだ。
この悪意に満ちた行動をする理由は何なのだろうと思っていた時、私たちが流行り病に罹り、神殿から神官が来てくれた。
私たちを診ると、神官は
「この妹の方は、人にあらざるものである。一体何をしたのか?」
といったのだそうだ。
驚愕する両親に神官は続けた。
「肉体は確かに人間のもののようですが、魂が人のものではありません。悪魔……悪魔が入っています」
両親は私たちが産まれた時のことを話した。
話を聞いた神官は、契約を結んだという訳ではないが、悪魔にすがったことで、入りこまれたのだろうと言った。
どうしたらいいのか?と問う両親に、肉体ごと消滅させるしかないと神官は言った。
「しかし…」
と神官は続けた。
「肉体を消滅させた時、姉の方の体を乗っ取る可能性もあります。双子ですから、容易に移れるでしょうな?」
「そうしたら、この子はどうなってしまうのですか?」
「人の魂は悪魔に喰われます。そうなったら、姉の肉体も消滅させるしかないでしょう。どうしますか?」
両親は言葉を失った。
生きて産まれることのなかった娘の命を願ったために、悪魔に取り憑かれることになるとは……
「どうしたらいいのですか?何の罪もない娘まで失うことはできません」
神官は言った。
15歳になれば、自我が確立するため、悪魔に乗っ取られる確率は低くなるだろから、それまでは双子を離して育てること。
また、姉を育てる環境は、神の加護が与えられている土地が望ましいこと。
それを聞いて、両親は私を母方の祖母の所で育てることにしたのだ。
また、悪魔は嫉妬深い。
自分ではなく、私が愛されていることを知れば、私に危害を加えることも考えられた。
「偽りの愛を妹アリーに与え続けることで、姉を守ることができるだろう」
と神官は言った。
そして、私は祖母のもとで12年間育ててられた。
そして15歳になり、両親は悪魔を倒すことを決めた。
神官と祖母も交えて、悪魔を討つ計画を立てた。
悪魔の魂を閉じ込める。
神の滝壺に封印することに決まった。
アリーを誘き出すためにはどうしたらいいのか。
その時に、彼が名乗り出た。
「俺がアニーを守りたい。俺がやる」と。
アニーが絶望の底に落ちて、悩み苦しむ様を見て、喜ぶ悪魔。
愛する者を奪い、喜ぶ悪魔。
悪魔に気付かれないように、心を鬼にして、家族は計画を実行した。
そして今日、悪魔を滝壺に封印することに成功したのだった。
「苦しい思いをさせて、すまなかったねぇ」
おばあちゃんは私を抱きしめた。
お父様もお母様も泣いていた。
「アニー」
彼が私の名前を呼ぶ。
「アニー。やっと呼べる。アニー」
愛おしい彼の声。
「私のことを愛してくれていたのね。みんな」
「そうさ。愛していたから、守りたかったんだよ。どんなに辛くても。君を守りたかったんだ」
私は、愛されていた。
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