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第26話 半年の成長
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森の中の集落。
門とはいいがたいような柵に向かって、村人たちが逃げていた。
その後ろでは、獰猛で強い魔物たちが群れをなしている。
「き、来たぞ! オーク軍団だあああ!」
「早く門を閉めろ。はやく! い、いつになったら応援が来るんだ」
「クソ、なんだってこんなに! ……おい、なんだあの子供!? お前、早く逃げろ!」
「違うあの服の模様……結界師だ!」
俺たちが候補生として入団してから半年が経過していた。
実践テストから三か月だろうか。
色々と懐かしく思える。
今こうやって冷静に頭が回るのも、訓練の成果だ。
目の前から第一陣と思われるデカいオーク飛び出してきた。
身長は四メートル以上あるだろう。
だが――。
次の瞬間、鋭く巨大な魔滅が飛んでいく。
それはオークにぶちあたると、腹に穴をあけた。
もし人間が食らえば大変なことになるだろう。
「ルージュ、残りのデカいのも頼んだよ」
「任せとけ」
「クライン――北に4体、ゴブリンキング、オーク、サイクロプス、ウェアウルフ、空にワイバーン、東には魔狼が12体。後は、西と南にそれぞれ指定の数通り」
「わかった。――ミリシア、足場だけお願い」
俺は、何もない空に右足を進めた。
そこに魔結界が形成される。
次に左足、右足。魔結界が消えたと同時に、交互に出現していく。
消えていく透明の階段だ。
空を見上げると、おもちがワイバーンに向かって炎の玉を放っていた。
そのまま高く高く、全方位が視える位置まで駆け上がった後、小さな魔結界の上で、前後左右を見渡す。
数は四十体ほど。ルージュに任せることを考えると――よし、全部囲える。
村人たちが叫んでいる。
だけど安心してほしい。
もう――大丈夫だから。
「魔結界」
静かに詠唱すると、いくつもの魔結界がジジジという音を響かせて一気に形成された。
透明な箱に囲われた魔物たちが、訳も分からず箱の内側を叩く。
破壊できるわけもないのに。
「――それじゃあね。――魔滅」
そして次の瞬間、全ての魔物を葬りさった。
――――
――
―
「ありがとうありがとう。てっきり冒険者だと思っていたが、まさか王都から結界師さんたちが来てくれるとは……」
全てが終わったあと、村長に感謝されていた。
だがむしろ申し訳なかった。
結界師とはいえ、俺たちは候補生だ。
この仕事は候補生としての任務も兼ねている。
さらにこの村は郊外にあるので、王都からちゃんとした人員を割くほどの余裕はない。
だからこそ何かあれば俺たちのような下の者が行くらしい。
内情を知っているからこそ、手放しには喜べなかった。
「気にしないでください! これも俺たちの役目なんで!」
だけどルージュは、愛想たっぷりに笑顔で握手していた。
英雄のように手を振りながら村を去る。
たまにこうして大規模侵攻もどきのような群れが出現する。
小さな村には生死を分けるほどの出来事だ。
王城の兵士の多くは、こんな危険な所ではなく王都に住んでほしいと思っている。
とはいえ、村の人達からすれば故郷なのだ。
俺も辺境に住んでいた。気持ちは痛いほどよくわかる。
「クライン、ルージュを見習わなきゃ駄目よ」
「え?」
「彼だってわかってるわ。私たちよりももっと強い人がいるのにって同じ葛藤してる。けど、村人たちからすれば安心して過ごせているのよ。大丈夫だって余裕を見せるのも、仕事の一環よ」
「……そうだね。見習わないと――」
「いやあ! 人助けって気持ちがいいなあ! うんうん!」
「ごめんクライン……前言撤回、ルージュはわかってないかも」
「ん? 何の話だ?」
「何でもないよ。俺もルージュを見習わないとなって」
「? そうかそうか! でも流石クラインだよな! 強すぎだろ!」
「そんなことないよ。ルージュの魔滅は消費も少なくて使い勝手がいいし、俺はミリシアみたいに繊細な技術もない。みんなそれぞれ長所が違うだけだよ」
俺はそう思っている。だが、ルージュとミリシアはため息を吐いた。
「だってよミリシア。魔物を四十体一気に瞬殺できるやつがそういってるぜ」
「まったくもってありえないわ。クライン、あなたは王城の兵士たちからなんていわれてるか知ってる?」
「……え、なんて?」
「「静かなる最凶だ/よ」」
……知らなかった。
「な、なんでそんな怖いあだ名が!?」
「魔結界の時のお前、めちゃくちゃ静かだからな。で、その後にドカーンって出てきたらそうなるだろ」
「まあでも、規格外さんが味方で良かったわ。来週からでしょ? 他の候補生たちとの対面」
呆れられているのか、喜ばれているのかはわからない。
でも、やるべきことをやるだけだ。
ミリシアの言う通り、来週初めて他の候補生と顔合わせをする。
驚いたことは、近隣諸国からも集まってくることだ。
俺たちと同じように半年間もみっちり試練を乗り越えてきた候補生たち。
「きっと凄い人たちだろうね。油断しないでいこう」
「……安心しろクライン、お前以上の奴はいない。いや、この世に存在しない」
「そうね。ルージュの言う通りよ」
「そ、そんなことないでしょ!?」
するとそのとき、空から降りてきたおもちがぐるぅと頭をこすりつけてきた。
そんなことないよね? と心の中で声をかける。
「ぐるぐる」
「なんで首を横に振るの」
門とはいいがたいような柵に向かって、村人たちが逃げていた。
その後ろでは、獰猛で強い魔物たちが群れをなしている。
「き、来たぞ! オーク軍団だあああ!」
「早く門を閉めろ。はやく! い、いつになったら応援が来るんだ」
「クソ、なんだってこんなに! ……おい、なんだあの子供!? お前、早く逃げろ!」
「違うあの服の模様……結界師だ!」
俺たちが候補生として入団してから半年が経過していた。
実践テストから三か月だろうか。
色々と懐かしく思える。
今こうやって冷静に頭が回るのも、訓練の成果だ。
目の前から第一陣と思われるデカいオーク飛び出してきた。
身長は四メートル以上あるだろう。
だが――。
次の瞬間、鋭く巨大な魔滅が飛んでいく。
それはオークにぶちあたると、腹に穴をあけた。
もし人間が食らえば大変なことになるだろう。
「ルージュ、残りのデカいのも頼んだよ」
「任せとけ」
「クライン――北に4体、ゴブリンキング、オーク、サイクロプス、ウェアウルフ、空にワイバーン、東には魔狼が12体。後は、西と南にそれぞれ指定の数通り」
「わかった。――ミリシア、足場だけお願い」
俺は、何もない空に右足を進めた。
そこに魔結界が形成される。
次に左足、右足。魔結界が消えたと同時に、交互に出現していく。
消えていく透明の階段だ。
空を見上げると、おもちがワイバーンに向かって炎の玉を放っていた。
そのまま高く高く、全方位が視える位置まで駆け上がった後、小さな魔結界の上で、前後左右を見渡す。
数は四十体ほど。ルージュに任せることを考えると――よし、全部囲える。
村人たちが叫んでいる。
だけど安心してほしい。
もう――大丈夫だから。
「魔結界」
静かに詠唱すると、いくつもの魔結界がジジジという音を響かせて一気に形成された。
透明な箱に囲われた魔物たちが、訳も分からず箱の内側を叩く。
破壊できるわけもないのに。
「――それじゃあね。――魔滅」
そして次の瞬間、全ての魔物を葬りさった。
――――
――
―
「ありがとうありがとう。てっきり冒険者だと思っていたが、まさか王都から結界師さんたちが来てくれるとは……」
全てが終わったあと、村長に感謝されていた。
だがむしろ申し訳なかった。
結界師とはいえ、俺たちは候補生だ。
この仕事は候補生としての任務も兼ねている。
さらにこの村は郊外にあるので、王都からちゃんとした人員を割くほどの余裕はない。
だからこそ何かあれば俺たちのような下の者が行くらしい。
内情を知っているからこそ、手放しには喜べなかった。
「気にしないでください! これも俺たちの役目なんで!」
だけどルージュは、愛想たっぷりに笑顔で握手していた。
英雄のように手を振りながら村を去る。
たまにこうして大規模侵攻もどきのような群れが出現する。
小さな村には生死を分けるほどの出来事だ。
王城の兵士の多くは、こんな危険な所ではなく王都に住んでほしいと思っている。
とはいえ、村の人達からすれば故郷なのだ。
俺も辺境に住んでいた。気持ちは痛いほどよくわかる。
「クライン、ルージュを見習わなきゃ駄目よ」
「え?」
「彼だってわかってるわ。私たちよりももっと強い人がいるのにって同じ葛藤してる。けど、村人たちからすれば安心して過ごせているのよ。大丈夫だって余裕を見せるのも、仕事の一環よ」
「……そうだね。見習わないと――」
「いやあ! 人助けって気持ちがいいなあ! うんうん!」
「ごめんクライン……前言撤回、ルージュはわかってないかも」
「ん? 何の話だ?」
「何でもないよ。俺もルージュを見習わないとなって」
「? そうかそうか! でも流石クラインだよな! 強すぎだろ!」
「そんなことないよ。ルージュの魔滅は消費も少なくて使い勝手がいいし、俺はミリシアみたいに繊細な技術もない。みんなそれぞれ長所が違うだけだよ」
俺はそう思っている。だが、ルージュとミリシアはため息を吐いた。
「だってよミリシア。魔物を四十体一気に瞬殺できるやつがそういってるぜ」
「まったくもってありえないわ。クライン、あなたは王城の兵士たちからなんていわれてるか知ってる?」
「……え、なんて?」
「「静かなる最凶だ/よ」」
……知らなかった。
「な、なんでそんな怖いあだ名が!?」
「魔結界の時のお前、めちゃくちゃ静かだからな。で、その後にドカーンって出てきたらそうなるだろ」
「まあでも、規格外さんが味方で良かったわ。来週からでしょ? 他の候補生たちとの対面」
呆れられているのか、喜ばれているのかはわからない。
でも、やるべきことをやるだけだ。
ミリシアの言う通り、来週初めて他の候補生と顔合わせをする。
驚いたことは、近隣諸国からも集まってくることだ。
俺たちと同じように半年間もみっちり試練を乗り越えてきた候補生たち。
「きっと凄い人たちだろうね。油断しないでいこう」
「……安心しろクライン、お前以上の奴はいない。いや、この世に存在しない」
「そうね。ルージュの言う通りよ」
「そ、そんなことないでしょ!?」
するとそのとき、空から降りてきたおもちがぐるぅと頭をこすりつけてきた。
そんなことないよね? と心の中で声をかける。
「ぐるぐる」
「なんで首を横に振るの」
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