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第21話 優しい嘘、覚悟の真実
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「クライン、起きてるか?」
「……ああ」
「もしかして、寝てないのか?」
「そうだよ」
「俺と同じだな……」
ベットに寝転んだまま、ルージュと声を掛け合う。
外がだんだんと明るくなってきたのはわかっていたが、昨日のことをずっと考えていた。
俺は、強いと思っていた。
魔印が五本、試験を一位、苦労はほとんどしなかった。
だが――。
『なるほど、五本といっても所詮はこの程度か』
ココア先生に魔結界を仕掛け、魔滅もしたが、まったく傷つけることができなかったのだ。
それはミリシアも同じだった。あの正確無比だった結界、ココア先生の動きにはまったくついていけなかった。
ルージュの魔滅も当たらず、あえて受けられたが、ダメージは殆どない。
候補生だと言われて舞い上がっていた頭に、ガツンと衝撃を食らったのだ。
「ぐるぅ」
ごろんと寝返りを打つと、おもちが端っこで背中をまるめて寝ていた。
おもちの攻撃は効くのだろうか。
いや……そんなことは逃げの考えだ。
俺自身が強くなければならない。
それと勝てなかったことだけが辛いんじゃない。
3人のうち1人しか合格できないことを知ったからだ。
口には出さないが、ルージュも同じ気持ちだろう。
とはいえ、棟の違うミリシアはもっと考えているに違いない。
「とりあえず飯いこうぜ。考えてもしゃーねーよ」
そのとき、ルージュが頭をくしゃりとしながら声をかけてくれた。
その通りだ。
まずは胃袋を満たそう。
もしかしたら、ミリシアも深く考えてないのかもしれない――。
「……おは……よう」
「お、おはようミリシア」
「だ、大丈夫か?」
俺たちが寝泊まりしている棟の真ん中に食堂がある。
候補生はやっぱりそれなりに権威はあるらしく、大勢の使用人に案内されて席に座る。
他の班は見かけないが、ミリシアが目にクマを付けて現れた。
体調はもう間違いなく最悪らしい。
「もしかして眠れなかった?」
「うん。色々考えちゃって……」
「そっか……。だよね」
「気にすんな! もう頑張るしかねえぜ!」
明るいルージュの声に励まされながら視線を向けると、パンを食べているつもりが手には何も持っていなかった。
エアーパンになるほど動揺しているらしい。
――ダメだダメだ。
俺は二人より大人なんだ。
ちゃんとしないと。
「ルージュ、ミリシア。俺たち一人しか合格できないとしてもやることは同じだ。ココア先生にも確かに敵わなかったけど、まだ一年も訓練がある。あの痛みを思い出そう。それを乗り越えたんだ。何でもできるはずだ」
俺たちには耐えがない苦痛を乗り越えた共通の記憶がある。
それは、俺たちだけの強みだ。
「……だな」
「そうね。やっぱり、クラインは凄いわ。なんか、大人って感じがする」
「あはは、そうかな」
見透かされたようなミリシアの目にドキッとしつつ、ふたたび集合場所へ向かうと、またもや仁王立ちのココア先生がいた。
二日目だというのに、俺たちは既に身体に刻み込まれている。
――急げ、と。
「早いじゃないか。さすがに堪えたか」
俺たちの様子に気づいたらしく、ふっと微笑む。
昨日はずっと怖かったが、こんな表情もできるのかと怯えた。
「――四回、この数字は何わかるか? ルージュ」
「……わかりません」
「この国が――崩壊しかけた回数だ」
その言葉に、俺たちは目を見開いて驚いた。
四回も……。
「一回目と二回目は他国との戦争だ。三回目は内部。四回目は魔族だ。そしてそのどれもが、最終的には結界師のおかげで助かったと言われている。この王都には大勢が住んでいる。お前たちが採用されれば、全員の命を背負うことになる」
その言葉に唾を飲み込んだ。
俺は甘かった。
結界師になれば家族が幸せになれると思っていた。
給与も良くてと、それだけを考えていた。
だが違う。
ココア先生が強いのは、覚悟しているからだ。
その言葉には重みがある。
昨日はわからなかったが、身体に傷がたくさんある。
それも気づかなかった。
対して俺たちは綺麗だ。
勝てないなんて、当たり前なんだ。
そのとき、空からおもちの声が聞こえた。
ああ、わかってる。
――俺たちは、弱虫じゃない。
「クライン・ロイク。ルージュ・ビアリス。ミリシア・インバート。――昨日までのお前たちは貴族の子供だった。だが今は違うな。――いい顔だ」
ちらりと視線を向けると、クラインとミリシアも覚悟が決まっているみたいだった。
たとえ合格が一人でも、もうブレないだろう。
「さて訓練の続きだ。ああそれと、昨日の話は嘘だからな」
するとココア先生が、さらりととんでもないこと言う。
え、嘘? ど、どれが!?
「どのこと……ですか?」
「1人しか合格しないという話だ。当分言わない予定だったが覚悟は決まったのなら嘘を伝える意味もないだろう」
……ありえない。
一睡もできなかったというのに。
ひどい、すごいひどい。
「だが全部が嘘じゃない。合格するかどうかは班ごとに決まってる。つまり、お前たちは仲間だ。わかるか?」
「それは、私たち3人が合格できるという意味ですか?」
「そうだ。その代わり、不合格になる場合も一緒だがな」
その言葉に、俺たちは喜んだ。
それなら、全力を出せる。余計なことを考えずに、全てをぶつけることができる。
「今の気持ちを決して忘れるな。お前たちは、血よりも濃い絆をこの一年間で作り上げる必要がある。だが安心しろ。私が担当したからには必ず合格させてやる」」
「「「はい!」」」
その言葉に、間髪入れず3人で返事をする。
ココア先生は、またふっと笑う。
ココア先生は厳しくも酷い、けど――それだけじゃない。
本当に優しい人だ。
「今ら夜中まで山を往復する。まずは基礎鍛錬だ」
「え? 今まだ朝っすけど」
「何か問題か?」
ルージュの顔から血の気が引いていく。もちろんそれは、ミリシアと俺もだった。
……前言撤回、優しくはない。
けど――頑張るぞ。
「……ああ」
「もしかして、寝てないのか?」
「そうだよ」
「俺と同じだな……」
ベットに寝転んだまま、ルージュと声を掛け合う。
外がだんだんと明るくなってきたのはわかっていたが、昨日のことをずっと考えていた。
俺は、強いと思っていた。
魔印が五本、試験を一位、苦労はほとんどしなかった。
だが――。
『なるほど、五本といっても所詮はこの程度か』
ココア先生に魔結界を仕掛け、魔滅もしたが、まったく傷つけることができなかったのだ。
それはミリシアも同じだった。あの正確無比だった結界、ココア先生の動きにはまったくついていけなかった。
ルージュの魔滅も当たらず、あえて受けられたが、ダメージは殆どない。
候補生だと言われて舞い上がっていた頭に、ガツンと衝撃を食らったのだ。
「ぐるぅ」
ごろんと寝返りを打つと、おもちが端っこで背中をまるめて寝ていた。
おもちの攻撃は効くのだろうか。
いや……そんなことは逃げの考えだ。
俺自身が強くなければならない。
それと勝てなかったことだけが辛いんじゃない。
3人のうち1人しか合格できないことを知ったからだ。
口には出さないが、ルージュも同じ気持ちだろう。
とはいえ、棟の違うミリシアはもっと考えているに違いない。
「とりあえず飯いこうぜ。考えてもしゃーねーよ」
そのとき、ルージュが頭をくしゃりとしながら声をかけてくれた。
その通りだ。
まずは胃袋を満たそう。
もしかしたら、ミリシアも深く考えてないのかもしれない――。
「……おは……よう」
「お、おはようミリシア」
「だ、大丈夫か?」
俺たちが寝泊まりしている棟の真ん中に食堂がある。
候補生はやっぱりそれなりに権威はあるらしく、大勢の使用人に案内されて席に座る。
他の班は見かけないが、ミリシアが目にクマを付けて現れた。
体調はもう間違いなく最悪らしい。
「もしかして眠れなかった?」
「うん。色々考えちゃって……」
「そっか……。だよね」
「気にすんな! もう頑張るしかねえぜ!」
明るいルージュの声に励まされながら視線を向けると、パンを食べているつもりが手には何も持っていなかった。
エアーパンになるほど動揺しているらしい。
――ダメだダメだ。
俺は二人より大人なんだ。
ちゃんとしないと。
「ルージュ、ミリシア。俺たち一人しか合格できないとしてもやることは同じだ。ココア先生にも確かに敵わなかったけど、まだ一年も訓練がある。あの痛みを思い出そう。それを乗り越えたんだ。何でもできるはずだ」
俺たちには耐えがない苦痛を乗り越えた共通の記憶がある。
それは、俺たちだけの強みだ。
「……だな」
「そうね。やっぱり、クラインは凄いわ。なんか、大人って感じがする」
「あはは、そうかな」
見透かされたようなミリシアの目にドキッとしつつ、ふたたび集合場所へ向かうと、またもや仁王立ちのココア先生がいた。
二日目だというのに、俺たちは既に身体に刻み込まれている。
――急げ、と。
「早いじゃないか。さすがに堪えたか」
俺たちの様子に気づいたらしく、ふっと微笑む。
昨日はずっと怖かったが、こんな表情もできるのかと怯えた。
「――四回、この数字は何わかるか? ルージュ」
「……わかりません」
「この国が――崩壊しかけた回数だ」
その言葉に、俺たちは目を見開いて驚いた。
四回も……。
「一回目と二回目は他国との戦争だ。三回目は内部。四回目は魔族だ。そしてそのどれもが、最終的には結界師のおかげで助かったと言われている。この王都には大勢が住んでいる。お前たちが採用されれば、全員の命を背負うことになる」
その言葉に唾を飲み込んだ。
俺は甘かった。
結界師になれば家族が幸せになれると思っていた。
給与も良くてと、それだけを考えていた。
だが違う。
ココア先生が強いのは、覚悟しているからだ。
その言葉には重みがある。
昨日はわからなかったが、身体に傷がたくさんある。
それも気づかなかった。
対して俺たちは綺麗だ。
勝てないなんて、当たり前なんだ。
そのとき、空からおもちの声が聞こえた。
ああ、わかってる。
――俺たちは、弱虫じゃない。
「クライン・ロイク。ルージュ・ビアリス。ミリシア・インバート。――昨日までのお前たちは貴族の子供だった。だが今は違うな。――いい顔だ」
ちらりと視線を向けると、クラインとミリシアも覚悟が決まっているみたいだった。
たとえ合格が一人でも、もうブレないだろう。
「さて訓練の続きだ。ああそれと、昨日の話は嘘だからな」
するとココア先生が、さらりととんでもないこと言う。
え、嘘? ど、どれが!?
「どのこと……ですか?」
「1人しか合格しないという話だ。当分言わない予定だったが覚悟は決まったのなら嘘を伝える意味もないだろう」
……ありえない。
一睡もできなかったというのに。
ひどい、すごいひどい。
「だが全部が嘘じゃない。合格するかどうかは班ごとに決まってる。つまり、お前たちは仲間だ。わかるか?」
「それは、私たち3人が合格できるという意味ですか?」
「そうだ。その代わり、不合格になる場合も一緒だがな」
その言葉に、俺たちは喜んだ。
それなら、全力を出せる。余計なことを考えずに、全てをぶつけることができる。
「今の気持ちを決して忘れるな。お前たちは、血よりも濃い絆をこの一年間で作り上げる必要がある。だが安心しろ。私が担当したからには必ず合格させてやる」」
「「「はい!」」」
その言葉に、間髪入れず3人で返事をする。
ココア先生は、またふっと笑う。
ココア先生は厳しくも酷い、けど――それだけじゃない。
本当に優しい人だ。
「今ら夜中まで山を往復する。まずは基礎鍛錬だ」
「え? 今まだ朝っすけど」
「何か問題か?」
ルージュの顔から血の気が引いていく。もちろんそれは、ミリシアと俺もだった。
……前言撤回、優しくはない。
けど――頑張るぞ。
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