5 / 39
第5話 フェア・レディス(side)
しおりを挟む
私、フェア・レディスはロイク家に仕えるメイドです。
メアリー様はどんな方にも優しく、リルド様は厳格ではありますが、思慮深く、それでいて情に厚い人です。
命を賭ける仕事をしていていつも不安ですが、何よりも家を大事しておられます。
そんなお二人様の間に、ついにご長男が誕生されました。
「フェア、私の息子――クラインよ。これからもよろしくね」
「はい。メアリー様と同じで可愛らしく、リルド様に似て恰好いいです!」
クライン様は生まれながらにして強い魔力を保有していたらしく、すぐに魔獣を出現させていました。
名前はおもち。
おそらくですが、子竜でしょう。
……おそろしい才能です。
ですが、素晴らしいことです。
魔印も無事に出現し、メアリー様とリルド様はホッと胸をなでおろしていました。
しかしながら、クラン様はとても苦しそうです。
力が強すぎるのでしょう。
朝は早く、夜は遅く、メアリー様はほとんど寝ていませんでした。
リルド様も家を支える為に必死に働いています。
私も、少しのその支えが出来ていたら良いのですが……。
「クライン――お前は――かわいいでちゅね」
厳格だったリルド様の子煩悩っぷりには驚いた。
思わず笑ってしまいそうになるが、頑張って堪えている。
あまりにも可愛すぎるのだ。
メアリー様はとても嬉しいらしく、私も見ていて幸せだ。
こんな愛情深いロイク家に仕えることができて、とても誇らしい。
平穏な日々が続き、クライン様がようやく歩けるようになった頃、私は――とんでもないものをみた。
いや、見てしまった。
というか――やばすぎる。
「魔結界!」
「ぐるぅ!」
まだ三歳だというのに、クライン様は魔結界を習得していたのだ。
更に魔獣とも心を通わせていて、とてつもない速度で動いているおもちを捕まえようとしていた。
意思疎通はもちろん、魔力供給にも長けているのだろう。
……凄すぎる。
メアリー様に伝えようと思ったが、クライン様は二人をびっくりさせたいらしい。
「おもち、秘密だぞ!」
「ぐるぅ!」
私はただのメイドだ。クライン様の意思を尊重したい。
とはいえそれとは別に、とても愛らしいが。
その日から、私はできるだけメアリー様やリルド様にバレないようにする仕事が始まった。
「フェア、クラインは――」
「今、おもち様とすやすた寝ているみたいです!」
「あらそうなの? 少し様子を――」
「大丈夫です! 私がしっかりと見ていますので!」
「そう。ありがとね、フェア」
「とんでもございません!」
なかなか大変だったが、これもまた、愛するクライン様の為。
そして――。
「魔結界、魔結界、魔結界!」
……え、いま三連続じゃなかった?
……え、今の動きなに!?
……凄すぎる。
クライン様の成長がとても楽しみだ。
きっと、とてつもないことになる。
私が言うのもなんだが、今のロイク家は厳しい立場にある。
辺境だということもあって王都との連携が厳しく、魔物の活発化で仕事が大変すぎるのだ。
ですが……クライン様ならきっと変えてくださる。
私は、それが楽しみで仕方ない。
……それに、クライン様は良いお人だ。
「ふぇあ、いつもありがとう」
「とんでもございません。何かありましたら、いつでもお申し付けください」
「ぐるぅ」
「おもちも、ありがとうって」
「ふふふ、クライン様は何でもわかるんですね」
「うん!」
しかしある日、私は気づいてしまった。
魔印が、他の指にもあることに。
……凄いなんてもんじゃない。
歴史が変わるだろう。
私はこの目で見てみたい。
クライン様がどんな世界を作っていくのか。
その手助けを、少しでもできたら嬉しい。
私のこの、汚れた手でも、きっとできることはあるはずだ。
「フェア、私の留守中、二人を頼んだぞ」
「もちろんでございます。私は戦う事しかできませんから」
「そんなことない。フェア、お前はもう変わったんだ。メアリーもクラインも、お前を慕ってるよ」
「ありがとうございます、リルド様」
私は幼い頃から暗殺を生業としていた。
生きる術が、それしかなかったからだ。
そんな私を、リルド様が拾ってくれた。
「フェア、どうしたの? 何かボクの顔についてる?」
「いえ、愛らしいなと思ってみていただけです」
「ええ!? あ、ありがとう」
――クライン様、私はあなたに全てをささげます。
私が命に代えて守りますので、ご安心くださいね。
メアリー様はどんな方にも優しく、リルド様は厳格ではありますが、思慮深く、それでいて情に厚い人です。
命を賭ける仕事をしていていつも不安ですが、何よりも家を大事しておられます。
そんなお二人様の間に、ついにご長男が誕生されました。
「フェア、私の息子――クラインよ。これからもよろしくね」
「はい。メアリー様と同じで可愛らしく、リルド様に似て恰好いいです!」
クライン様は生まれながらにして強い魔力を保有していたらしく、すぐに魔獣を出現させていました。
名前はおもち。
おそらくですが、子竜でしょう。
……おそろしい才能です。
ですが、素晴らしいことです。
魔印も無事に出現し、メアリー様とリルド様はホッと胸をなでおろしていました。
しかしながら、クラン様はとても苦しそうです。
力が強すぎるのでしょう。
朝は早く、夜は遅く、メアリー様はほとんど寝ていませんでした。
リルド様も家を支える為に必死に働いています。
私も、少しのその支えが出来ていたら良いのですが……。
「クライン――お前は――かわいいでちゅね」
厳格だったリルド様の子煩悩っぷりには驚いた。
思わず笑ってしまいそうになるが、頑張って堪えている。
あまりにも可愛すぎるのだ。
メアリー様はとても嬉しいらしく、私も見ていて幸せだ。
こんな愛情深いロイク家に仕えることができて、とても誇らしい。
平穏な日々が続き、クライン様がようやく歩けるようになった頃、私は――とんでもないものをみた。
いや、見てしまった。
というか――やばすぎる。
「魔結界!」
「ぐるぅ!」
まだ三歳だというのに、クライン様は魔結界を習得していたのだ。
更に魔獣とも心を通わせていて、とてつもない速度で動いているおもちを捕まえようとしていた。
意思疎通はもちろん、魔力供給にも長けているのだろう。
……凄すぎる。
メアリー様に伝えようと思ったが、クライン様は二人をびっくりさせたいらしい。
「おもち、秘密だぞ!」
「ぐるぅ!」
私はただのメイドだ。クライン様の意思を尊重したい。
とはいえそれとは別に、とても愛らしいが。
その日から、私はできるだけメアリー様やリルド様にバレないようにする仕事が始まった。
「フェア、クラインは――」
「今、おもち様とすやすた寝ているみたいです!」
「あらそうなの? 少し様子を――」
「大丈夫です! 私がしっかりと見ていますので!」
「そう。ありがとね、フェア」
「とんでもございません!」
なかなか大変だったが、これもまた、愛するクライン様の為。
そして――。
「魔結界、魔結界、魔結界!」
……え、いま三連続じゃなかった?
……え、今の動きなに!?
……凄すぎる。
クライン様の成長がとても楽しみだ。
きっと、とてつもないことになる。
私が言うのもなんだが、今のロイク家は厳しい立場にある。
辺境だということもあって王都との連携が厳しく、魔物の活発化で仕事が大変すぎるのだ。
ですが……クライン様ならきっと変えてくださる。
私は、それが楽しみで仕方ない。
……それに、クライン様は良いお人だ。
「ふぇあ、いつもありがとう」
「とんでもございません。何かありましたら、いつでもお申し付けください」
「ぐるぅ」
「おもちも、ありがとうって」
「ふふふ、クライン様は何でもわかるんですね」
「うん!」
しかしある日、私は気づいてしまった。
魔印が、他の指にもあることに。
……凄いなんてもんじゃない。
歴史が変わるだろう。
私はこの目で見てみたい。
クライン様がどんな世界を作っていくのか。
その手助けを、少しでもできたら嬉しい。
私のこの、汚れた手でも、きっとできることはあるはずだ。
「フェア、私の留守中、二人を頼んだぞ」
「もちろんでございます。私は戦う事しかできませんから」
「そんなことない。フェア、お前はもう変わったんだ。メアリーもクラインも、お前を慕ってるよ」
「ありがとうございます、リルド様」
私は幼い頃から暗殺を生業としていた。
生きる術が、それしかなかったからだ。
そんな私を、リルド様が拾ってくれた。
「フェア、どうしたの? 何かボクの顔についてる?」
「いえ、愛らしいなと思ってみていただけです」
「ええ!? あ、ありがとう」
――クライン様、私はあなたに全てをささげます。
私が命に代えて守りますので、ご安心くださいね。
18
お気に入りに追加
1,022
あなたにおすすめの小説
乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?
シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。
……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。
向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。
それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない!
しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。
……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。
魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。
木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。

あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?
水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが…
私が平民だとどこで知ったのですか?

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。
公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
朱色の谷
恋愛
公爵家の末娘として生まれた幼いティアナ。
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。
ただ、愛されたいと願った。
そんな中、夢の中の本を読むと自分の正体が明らかに。
◆恋愛要素は前半はありませんが、後半になるにつれて発展していきますのでご了承ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる