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ラコブニーク王国

第66話:侵入前

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「なんだか……懐かしいな」

 冒険者組合と書かれた看板に描かれた剣と盾の紋章を眺めながら、アイレがぼやいた。アクアのことを今でも思い出す。

 グレースが勢いよく扉をあけ、フェアとアイレが続く。木で作られた2階建ての建物に入ると、今まで蒸し暑かったのが嘘のように涼しい風が流れていた。壁にはギルドの依頼や人を探しているという紙が貼っている。
それなりに広く見えるが、冒険者の姿はない。

 受付にはこの街に似つかわしくないといっては失礼だが、とても綺麗な服装と白い肌が似合う人間の女性が座っていた。髪は短く揃えており、小豆色の髪色が目立つ。
アイレが『すみません』声をかけると勢いよく立ち上がり、元気よく応答した。服装がちらりと見え、元の世界でいうとメイドのような黒と白の服を着ている。ちなみにグレースは冒険者ではない。

「ハイ! わたくし、リンと申します! おやおや、珍しいですね。 見ての通り、閑散としてまして……。でも、依頼はたっくさんありますよッ!」

「すまないな。依頼は今は探してないんだ」

 アイレの言葉に、リンはわかりやすくガックリと肩を落とす。

「宿を探してるんだけど、安くていいところはないか?」

「えーと、身分証ありますか? あ、名前を!」

 リンはアイレとフェアの名前を聞くと、裏で名簿を調べてから再び元気よく声をあげた。

「アイレさん、フェアさんともにB級ですので、良ければこの2階にあるお部屋にお泊りいただけますよ! えーと、もう一人の方は……? お連れ様ですか?」

「それはありがたいな。仲間だが、大丈夫か?」

「ええ、勿論っ! 宿の報告もついでにしておきますねッー! ここはねッー! なんと湯舟がついてるんですよ! あったか~いお湯につかって疲れを癒してくださいッー!」

「それは助かる」

 リンは久しぶりの客人に嬉しいのか、まるで宿舎に来たかのようにアイレ達を歓迎してくれた。

「ついでに聞きたいことがあるんだけどいいかな?」

「はいはいっ! なんでしょーッ?」

「この国にレムリがいるって聞いたことないか?」

「大魔法使いレムリ様ですか!? 勿論、存じ上げますが、この国でとは!?」

 リンは嬉しそうに声をあげてからすぐに首を傾げた。アイレが口を開く前に、横からフェアが、

「な、なんでもないのよ! ありがとうね! じゃあ、今日は疲れたからもう寝ようかな~アハハ~」

 声を荒げてアイレの首根っこを捕まえると、リンから案内された2階に上がった。グレースは去り際におやすみ~とリンに軽くてを振る。

「レムリ様……この国? はて?」

 先ほど以上にリンは首を傾げた。

「あんなバカなの!? もし、この国にレムリが捕らえられてたとして、あのリンって子が仲間だったら情報なんか得れるわけもないし、何が起きるかわからないでしょ!」

 2階の用意された部屋でフェアが静かにそして大きな声という矛盾を可能にする声量でアイレに怒鳴っていた。部屋は4つのベットが置いてあり、一つは荷物置きに使った。
グレースはふかふかの白いベットにダイブすると、横目で二人のやり取りを嬉しそうに見ている。

「そんなこと言われても……冒険者の受付ってことは俺たちの仲間だろ?」

 少しは悪いと思っていながらも、あまりのフェアの激怒に納得がいかないとアイレも。

「あんたはもう……」

「アイレちゃん、あんたは強いけどまだ世の中のことをわかってないよ。仲間だと思ってたのに敵だったってパターンはどこにでもある
油断はしないほうがいいってことをフェアちゃんは教えてくれてるのさ」

 グレースの言葉にアイレはフロードを思い出した。あの時はアイレがすぐに味方だと手放しで喜んだせいでフェアを危険な目にあわせた。

「そうだった……ごめん……」

「まぁ……それがあなたのいいとこでもあるけど」

 あまりにしょんぼりとしたアイレに、思わずフェアの本音がこぼれる。それをグレースが茶化そうとしたが、すぐにフェアは本題に移った。

「まぁ、でも、リンの反応を見る感じでは冒険者の関りはなさそうね、魔力の揺らぎもなかった」

「確かに~、あたしが見たところ素の感じだったね~」

「てことは……ここにレムリはいないってことか?」

 アイレは少し残念そうな声を出した。フォンダトゥールの予知はかなり曖昧で、どこにいるかもわかっていないからだ。そもそも本当に生きてるかどうかも。

「まだわからないわ。冒険者が関与していないだけで、ここの王や軍関係者に裏がある可能性もあるし、城……じゃなかった。宮殿? そこの近くまでいけば私なら何か痕跡を探せるかもしれない」

「昔、ロック達とこんな国に来たことがあるけど、城と違って宮殿は住居みたいな感じだから入るのはそう難しくないかも。でも、この国はオストラバと同じぐらい大国だからね~」

「ジスティ王国の可能性もあるし、魔王軍のことも考えると……あまり派手なことはできないわね」

 少し残念そうに顔を下に向けていたアイレが突然顔をあげて、

「……今日の夜にでも、近くまでいってみないか? フェアなら感知できるんだよな? もし……レムリがいるなら強い魔力を放ってるはずだ。きっとわかるだろ?」

「夜って……まだこの国のこと何もわかってないのよ? それにあなたも見たでしょ? 私たち、ここの人達から相当警戒してるわよ」

「いや、だからこそなんだ。日が経てばたつほど、俺たちがここにいることが怪しく思われる。それに、フェロー達がモジナに現れなかったこと、何か急がないと行けない気がするんだ」

「……急がないといけない根拠は?」

「ない。勘だ」

 アイレの真っ直ぐな瞳と答えに、フェアは額に手を当ててタメ息をついた。ベットで横になり、肘で頭を支えているグレースが、

「ま、アイレの言っていることも一理あるよ。もし、レムリがこの国にいるとしたら、それは大魔法使いを拘束し続けているってことになる。ってことは、あたしたちが入国してきたことや
魔王軍のことは警戒してるはず。それを考えると、あまり時間をかけたり、調べている姿を目撃されるのは良くはないねぇ」

「はぁ……わかったわ。じゃあ、まだ日は明るいし、夜中になったらその宮殿の近くまでいってみましょう。あまりにも危険だと私が判断したら、すぐに引くわよ」

「おう! ありがとうな、フェア」

 アイレの嬉しそうな返答に対して、フェアは何も答えなかった。


 もし……レムリが生きていたら、アイレ、あなたはどうするの? あなたはヴェルネルを本当に殺せるの? そう、問いかけようとした。だが、直前で止めた。
魔王軍やレムリのことを考えるたびにフェアの悩みは晴れなかった。

「さてさて、じゃあ久しぶりのシャワーでも浴びて、ご飯でも買いにいこうかにゃ~」

 グレースはそう言いながら、ぽんぽんと服を脱ぎはじめた。それにいち早く気づいたフェアが

「ちょっと、グレース! アイレがいるのよ!」

 見えないようにアイレを壁のほうにぐいっと向けた。フェアはそのままグレースの裸を凝視してしまい、あまりのスタイルの良さに目を奪われ、自分では勝てないなと唖然としていたら

「フェアちゃんも~なかなかよ~」

 と、グレースがフェアの服を脱がせた。アイレは壁を向いていたが、何も気づかず振り向こうとしたが、

「ちょっと、お前ら何して――」

 言い終わる前に『見るなああああ』と、フェアから右頬にビンタを食らった。


 それからフェアとグレースは二人で湯舟につかり、右頬が腫れているアイレも続いてお風呂に入った。
 何かご飯でも食べようかと思っていたが、良ければどうぞとリンが柔らかいパンと塩漬け肉と暖かいお茶を用意してくれていたので
3人は部屋でゆっくりとそれを食べた。

 リンはこの街に来てちょうど1年だそうで、魔王軍の侵略もあり、ほとんど何もしない日々が続いていたという。怖くないのか?というアイレに対して
私こう見えて強いですから。と腕を見せていたが、とても強そうには見えなかった。

 それから3人は夜中になったら音がなる魔法をフェアにセットしてもらい、久しぶりの布団でぐっすりと眠った。


 そして、夜中の3時頃。3人はふたたび目を覚ましすと、戦闘準備も兼ねて気合を入れた。

「もし、レムリがいれば俺はこの国と敵対することになっても構わない。――それでもいいか?」

「あたしは大丈夫だよ」

 二人の言葉から、少し間をあけてフェアが、

「当たり前よ」

 レムリアンシードの宝石がついた杖を構えながら、落ち着いた声で言った。
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