72 / 114
ラコブニーク王国
第66話:侵入前
しおりを挟む「なんだか……懐かしいな」
冒険者組合と書かれた看板に描かれた剣と盾の紋章を眺めながら、アイレがぼやいた。アクアのことを今でも思い出す。
グレースが勢いよく扉をあけ、フェアとアイレが続く。木で作られた2階建ての建物に入ると、今まで蒸し暑かったのが嘘のように涼しい風が流れていた。壁にはギルドの依頼や人を探しているという紙が貼っている。
それなりに広く見えるが、冒険者の姿はない。
受付にはこの街に似つかわしくないといっては失礼だが、とても綺麗な服装と白い肌が似合う人間の女性が座っていた。髪は短く揃えており、小豆色の髪色が目立つ。
アイレが『すみません』声をかけると勢いよく立ち上がり、元気よく応答した。服装がちらりと見え、元の世界でいうとメイドのような黒と白の服を着ている。ちなみにグレースは冒険者ではない。
「ハイ! わたくし、リンと申します! おやおや、珍しいですね。 見ての通り、閑散としてまして……。でも、依頼はたっくさんありますよッ!」
「すまないな。依頼は今は探してないんだ」
アイレの言葉に、リンはわかりやすくガックリと肩を落とす。
「宿を探してるんだけど、安くていいところはないか?」
「えーと、身分証ありますか? あ、名前を!」
リンはアイレとフェアの名前を聞くと、裏で名簿を調べてから再び元気よく声をあげた。
「アイレさん、フェアさんともにB級ですので、良ければこの2階にあるお部屋にお泊りいただけますよ! えーと、もう一人の方は……? お連れ様ですか?」
「それはありがたいな。仲間だが、大丈夫か?」
「ええ、勿論っ! 宿の報告もついでにしておきますねッー! ここはねッー! なんと湯舟がついてるんですよ! あったか~いお湯につかって疲れを癒してくださいッー!」
「それは助かる」
リンは久しぶりの客人に嬉しいのか、まるで宿舎に来たかのようにアイレ達を歓迎してくれた。
「ついでに聞きたいことがあるんだけどいいかな?」
「はいはいっ! なんでしょーッ?」
「この国にレムリがいるって聞いたことないか?」
「大魔法使いレムリ様ですか!? 勿論、存じ上げますが、この国でとは!?」
リンは嬉しそうに声をあげてからすぐに首を傾げた。アイレが口を開く前に、横からフェアが、
「な、なんでもないのよ! ありがとうね! じゃあ、今日は疲れたからもう寝ようかな~アハハ~」
声を荒げてアイレの首根っこを捕まえると、リンから案内された2階に上がった。グレースは去り際におやすみ~とリンに軽くてを振る。
「レムリ様……この国? はて?」
先ほど以上にリンは首を傾げた。
「あんなバカなの!? もし、この国にレムリが捕らえられてたとして、あのリンって子が仲間だったら情報なんか得れるわけもないし、何が起きるかわからないでしょ!」
2階の用意された部屋でフェアが静かにそして大きな声という矛盾を可能にする声量でアイレに怒鳴っていた。部屋は4つのベットが置いてあり、一つは荷物置きに使った。
グレースはふかふかの白いベットにダイブすると、横目で二人のやり取りを嬉しそうに見ている。
「そんなこと言われても……冒険者の受付ってことは俺たちの仲間だろ?」
少しは悪いと思っていながらも、あまりのフェアの激怒に納得がいかないとアイレも。
「あんたはもう……」
「アイレちゃん、あんたは強いけどまだ世の中のことをわかってないよ。仲間だと思ってたのに敵だったってパターンはどこにでもある
油断はしないほうがいいってことをフェアちゃんは教えてくれてるのさ」
グレースの言葉にアイレはフロードを思い出した。あの時はアイレがすぐに味方だと手放しで喜んだせいでフェアを危険な目にあわせた。
「そうだった……ごめん……」
「まぁ……それがあなたのいいとこでもあるけど」
あまりにしょんぼりとしたアイレに、思わずフェアの本音がこぼれる。それをグレースが茶化そうとしたが、すぐにフェアは本題に移った。
「まぁ、でも、リンの反応を見る感じでは冒険者の関りはなさそうね、魔力の揺らぎもなかった」
「確かに~、あたしが見たところ素の感じだったね~」
「てことは……ここにレムリはいないってことか?」
アイレは少し残念そうな声を出した。フォンダトゥールの予知はかなり曖昧で、どこにいるかもわかっていないからだ。そもそも本当に生きてるかどうかも。
「まだわからないわ。冒険者が関与していないだけで、ここの王や軍関係者に裏がある可能性もあるし、城……じゃなかった。宮殿? そこの近くまでいけば私なら何か痕跡を探せるかもしれない」
「昔、ロック達とこんな国に来たことがあるけど、城と違って宮殿は住居みたいな感じだから入るのはそう難しくないかも。でも、この国はオストラバと同じぐらい大国だからね~」
「ジスティ王国の可能性もあるし、魔王軍のことも考えると……あまり派手なことはできないわね」
少し残念そうに顔を下に向けていたアイレが突然顔をあげて、
「……今日の夜にでも、近くまでいってみないか? フェアなら感知できるんだよな? もし……レムリがいるなら強い魔力を放ってるはずだ。きっとわかるだろ?」
「夜って……まだこの国のこと何もわかってないのよ? それにあなたも見たでしょ? 私たち、ここの人達から相当警戒してるわよ」
「いや、だからこそなんだ。日が経てばたつほど、俺たちがここにいることが怪しく思われる。それに、フェロー達がモジナに現れなかったこと、何か急がないと行けない気がするんだ」
「……急がないといけない根拠は?」
「ない。勘だ」
アイレの真っ直ぐな瞳と答えに、フェアは額に手を当ててタメ息をついた。ベットで横になり、肘で頭を支えているグレースが、
「ま、アイレの言っていることも一理あるよ。もし、レムリがこの国にいるとしたら、それは大魔法使いを拘束し続けているってことになる。ってことは、あたしたちが入国してきたことや
魔王軍のことは警戒してるはず。それを考えると、あまり時間をかけたり、調べている姿を目撃されるのは良くはないねぇ」
「はぁ……わかったわ。じゃあ、まだ日は明るいし、夜中になったらその宮殿の近くまでいってみましょう。あまりにも危険だと私が判断したら、すぐに引くわよ」
「おう! ありがとうな、フェア」
アイレの嬉しそうな返答に対して、フェアは何も答えなかった。
もし……レムリが生きていたら、アイレ、あなたはどうするの? あなたはヴェルネルを本当に殺せるの? そう、問いかけようとした。だが、直前で止めた。
魔王軍やレムリのことを考えるたびにフェアの悩みは晴れなかった。
「さてさて、じゃあ久しぶりのシャワーでも浴びて、ご飯でも買いにいこうかにゃ~」
グレースはそう言いながら、ぽんぽんと服を脱ぎはじめた。それにいち早く気づいたフェアが
「ちょっと、グレース! アイレがいるのよ!」
見えないようにアイレを壁のほうにぐいっと向けた。フェアはそのままグレースの裸を凝視してしまい、あまりのスタイルの良さに目を奪われ、自分では勝てないなと唖然としていたら
「フェアちゃんも~なかなかよ~」
と、グレースがフェアの服を脱がせた。アイレは壁を向いていたが、何も気づかず振り向こうとしたが、
「ちょっと、お前ら何して――」
言い終わる前に『見るなああああ』と、フェアから右頬にビンタを食らった。
それからフェアとグレースは二人で湯舟につかり、右頬が腫れているアイレも続いてお風呂に入った。
何かご飯でも食べようかと思っていたが、良ければどうぞとリンが柔らかいパンと塩漬け肉と暖かいお茶を用意してくれていたので
3人は部屋でゆっくりとそれを食べた。
リンはこの街に来てちょうど1年だそうで、魔王軍の侵略もあり、ほとんど何もしない日々が続いていたという。怖くないのか?というアイレに対して
私こう見えて強いですから。と腕を見せていたが、とても強そうには見えなかった。
それから3人は夜中になったら音がなる魔法をフェアにセットしてもらい、久しぶりの布団でぐっすりと眠った。
そして、夜中の3時頃。3人はふたたび目を覚ましすと、戦闘準備も兼ねて気合を入れた。
「もし、レムリがいれば俺はこの国と敵対することになっても構わない。――それでもいいか?」
「あたしは大丈夫だよ」
二人の言葉から、少し間をあけてフェアが、
「当たり前よ」
レムリアンシードの宝石がついた杖を構えながら、落ち着いた声で言った。
0
お気に入りに追加
168
あなたにおすすめの小説
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる
名無し
ファンタジー
突如、異世界へと召喚された来栖海翔。自分以外にも転移してきた者たちが数百人おり、神父と召喚士から並ぶように指示されてスキルを付与されるが、それはいずれもパッとしなさそうな【互換】と【HP100】という二つのスキルだった。召喚士から外れ認定され、当たりスキル持ちの右列ではなく、外れスキル持ちの左列のほうに並ばされる来栖。だが、それらは組み合わせることによって最強のスキルとなるものであり、来栖は何もない状態から見る見る成り上がっていくことになる。
ギルドから追放された実は究極の治癒魔法使い。それに気付いたギルドが崩壊仕掛かってるが、もう知らん。僕は美少女エルフと旅することにしたから。
yonechanish
ファンタジー
僕は治癒魔法使い。
子供の頃、僕は奴隷として売られていた。
そんな僕をギルドマスターが拾ってくれた。
だから、僕は自分に誓ったんだ。
ギルドのメンバーのために、生きるんだって。
でも、僕は皆の役に立てなかったみたい。
「クビ」
その言葉で、僕はギルドから追放された。
一人。
その日からギルドの崩壊が始まった。
僕の治癒魔法は地味だから、皆、僕がどれだけ役に立ったか知らなかったみたい。
だけど、もう遅いよ。
僕は僕なりの旅を始めたから。
俺だけレベルアップできる件~ゴミスキル【上昇】のせいで実家を追放されたが、レベルアップできる俺は世界最強に。今更土下座したところでもう遅い〜
平山和人
ファンタジー
賢者の一族に産まれたカイトは幼いころから神童と呼ばれ、周囲の期待を一心に集めていたが、15歳の成人の儀で【上昇】というスキルを授けられた。
『物質を少しだけ浮かせる』だけのゴミスキルだと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
途方にくれるカイトは偶然、【上昇】の真の力に気づく。それは産まれた時から決まり、不変であるレベルを上げることができるスキルであったのだ。
この世界で唯一、レベルアップできるようになったカイトは、モンスターを倒し、ステータスを上げていく。
その結果、カイトは世界中に名を轟かす世界最強の冒険者となった。
一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトを追放したことを後悔するのであった。
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
【破天荒注意】陰キャの俺、異世界の女神の力を借り俺を裏切った幼なじみと寝取った陽キャ男子に復讐する
花町ぴろん
ファンタジー
陰キャの俺にはアヤネという大切な幼なじみがいた。
俺たち二人は高校入学と同時に恋人同士となった。
だがしかし、そんな幸福な時間は長くは続かなかった。
アヤネはあっさりと俺を捨て、イケメンの陽キャ男子に寝取られてしまったのだ。
絶望に打ちひしがれる俺。夢も希望も無い毎日。
そんな俺に一筋の光明が差し込む。
夢の中で出会った女神エリステア。俺は女神の加護を受け辛く険しい修行に耐え抜き、他人を自由自在に操る力を手に入れる。
今こそ復讐のときだ!俺は俺を裏切った幼なじみと俺の心を踏みにじった陽キャイケメン野郎を絶対に許さない!!
★寝取られ→ざまぁのカタルシスをお楽しみください。
※この小説は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。
何者でもない僕は異世界で冒険者をはじめる
月風レイ
ファンタジー
あらゆることを人より器用にこなす事ができても、何の長所にもなくただ日々を過ごす自分。
周りの友人は世界を羽ばたくスターになるのにも関わらず、自分はただのサラリーマン。
そんな平凡で退屈な日々に、革命が起こる。
それは突如現れた一枚の手紙だった。
その手紙の内容には、『異世界に行きますか?』と書かれていた。
どうせ、誰かの悪ふざけだろうと思い、適当に異世界にでもいけたら良いもんだよと、考えたところ。
突如、異世界の大草原に召喚される。
元の世界にも戻れ、無限の魔力と絶対不死身な体を手に入れた冒険が今始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる