上 下
49 / 114
エルフの集落

第45話:エルフの集落

しおりを挟む
「ロック達はどうして傭兵をしてるんだ?  冒険者とかにはならなかったのか?」

 アイレとフェア、そしてロック達は東の森にあるエルフの集落に向かっていた。そんなに遠くないという事だったが
ロックがどこからともなく龍車を借りてきてくれたので、フルボが御者をしてくれている。隣には道を間違えない様にとフェアも座っている。

 その龍車の籠の中にアイレ、ロック、ワイズ、ミット、グレースがいた。全員がオストラバ王国と戦う可能性があるかもしれないのとことで
緊張感が漂っていたが、アイレがロックに話しかけた。

「戦うしか能がねえからな。 俺にとって冒険者は制約が多すぎる」

「あんたは違うだろ、ロック。 俺やミットやフルボはとにかく何をやっても続かなくてな。その日暮らしで魔物を狩って犯罪に手を染めそうになった所をそれぞれロックに拾われたのさ。
こいつひでえんだぜ。俺達全員に同じ口説き文句を言ってやがる」

 ワイズが直ぐに笑いながらロックを褒めた。体格の大きいワイズはそれだけでも強そうに見えるが、スタンピードの時の魔物の戦い方を見るとかなりの技術を持っている。

「ああ。俺もあんたの口説き文句に見せられたが今はこうやって逃げて逃げて次はオストラバ王国と戦うかもしれんとは割にあわねえな」

 ミットも笑いながら言ったが、誰もがロックを信用してるのはスタンピードの時にすぐ理解した。なぜならロックが決めた指示には誰も一言も文句を言わないからだ。

「ひでぇな。俺は何時でも本気だぜ」

「口説き文句って?」

 アイレが笑いながら聞いた。

「俺と一緒に国を作らないか?」
「俺と一緒に国を作らないか?」

 ワイズとミットが二人で顔を見合わせながら言った。ロックはやれやれと言う顔をしていた。

「ってグレースは?」

 アイレが隣で一緒に笑っていたグレースに聞いた。青い髪がなびく度に綺麗な横顔が見えるグレースはロック達と一緒にいるとは思えない雰囲気を醸し出している。

「あたしはロック達に拾われた哀れな少女なの。ああ、なんて悲劇……こんな男だけの世界で血なまぐさい毎日を送ってるなんて……」

 グレースはあたかも演技をしながら笑いながら踊るように笑った。全員が本当に仲が良いのが伝わってくる

「ってのは冗談で。私はゴミみたいな町でゴミみたいな親から逃げた所を助けてくれたのがロック達よ。今は最低で最高の毎日って感じ」

「最低で最高な毎日か。いいじゃねえか」

 ロックもワイズもミットも嬉しそうに笑った。

「アイレ。お前とフェアもなにやら訳が深そうだな。 グレースとそう変わらない年齢でそこまで動けるやつは見ねえぞ。それに二人で旅をしてるのもな。
なんでエルフの森の集落へ行くんだ?」

 真剣な表情を浮かべてロックが聞いた。ワイズもミットもグレースも気になっていた様でアイレに注目してる。エルフの集落でどんな事が待っているかわからない
割に合わない依頼を受けてくれたロック達に対して真剣に答えるのが礼儀だとアイレは思った。

「フェアの古くからの友人に会いにいくんだ。ダンジョンをクリアしたんだけど、それで聞きたい事があって」

「ダンジョンをクリアしたのか? まさか二人でか?」

「ああ」

 アイレの答えに嬉しそうに声をわっとあげた。傭兵達にとってダンジョンのクリアは夢のまた夢だ。いつのもは落ち着いているロックでさえ興奮気味になっている

「お宝!? 武器!? それとも願い事!?」

 グレースが目をお金のマークにしながらアイレに近寄りながら滲みよった。近くに顔がくると、より可愛さが目立つ。

「え、あ、ぶ、武器だよ。でも……いつでもその武器が使えるわけじゃなくて。気が付いたらなぜか手に持ってるんだ」

「……あのスタンピードの時のか?」

 ロックが思い出しながら聞いた。カナリアを殺そうとした時にアイレが目にも止まらない速度で動いた事がずっと気になっていたからだ。

「ああ。その理由を知っているかもしれない人に会いにいくんだ。それと……」

 アイレは続けて

「……ヴェルネルとレムリってわかるか?」

「ああ、その辺のガキでも知ってるぜ。魔王を倒した勇者と魔法使いだな。俺もガキの頃はよく見たぜ冒険記」

「私も好きだったなぁ」

 ロックとグレースが思い出に浸るように語った。

「俺はその為に――」
「皆、もうすぐ着くみたいだよ!」

 アイレと殆ど同時にフルボが前方から叫んだ。

「ヴェルネルとレムリか。後で色々聞かせてもらうぜ」

 ロックが嬉しそうにアイレの頭をぽんぽんと叩いた。アイレはロックの姿にインザームを少し重ねた。

 龍車を下りると、とても入口があるようには見えない程木が生い茂っていた場所に着いていた。

「フェア。ここで合ってるのか?」

「うん、間違いないよ。こんなに大勢の人間を連れてきたらなんて言われるか……でも、事情を説明すれば分かってくれると思う。
下がっててもらえる?」

 フェアはそう言うと、両手の掌を翳した。ロック達が少し恐れるぐらいの魔力が手に漲っていく。

「穢れなき精霊達よ。その姿を現し導きたまえ」

 言葉が終わる共に木が段々と道を避ける様に左右に動いた。すると、一本道が現れた。アイレやロック達が少しそれに驚いて声をあげた。

「急ぎましょう」

「ああ、行こう」

「フルボ。ここから周囲の感知は欠かすなよ。グレース。ミット。お前らは一番後ろに。ワイズは広く視野を見ておけ」

 気持ちを直ぐに切り替えた様にロックは全員に声をかけた。全員が了解と返事をした。
 10分程、森を真っ直ぐ進んで突如、フェアが全員を止めた。フルボには気付かない程、微量の魔力の流れを感じ取った。

「前!」

 フェアが突然叫んだ。アイレを含む全員がそれぞれ戦闘態勢を取った。前方から木を切り裂きながら、風の刃の魔法攻撃が無数に飛んできた。フェアはそれを見て魔法障壁を詠唱したが、数が多すぎて防ぎきれず
破裂音と共に弾け飛んだ。

 残りの風の刃をアイレやロック、ワイズやミットが魔力を通わせた剣で切り裂いた。グレースは仲間に任せて、弓を弾きながら戦闘態勢を取ったまま狙いをいつでも動けるようにしている。
 それから誰も声を出さず、静寂な時間が続いた後にアイレが

「……フェア、これはいった――」 

 
「お前等全員動くな」

 上空にある木の枝の上からアイレ達を囲む様にエルフの男女が6人程、それぞれ掌を翳して物凄い魔力を漲らせていた。フルボもフェアも何も気づく事ができなかった。
 純粋なエルフの魔力はフェアとはまた違う禍々しさを持っている。アイレは冷や汗と共にルチルを思い出した。


    tobe continued




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

ギルドから追放された実は究極の治癒魔法使い。それに気付いたギルドが崩壊仕掛かってるが、もう知らん。僕は美少女エルフと旅することにしたから。

yonechanish
ファンタジー
僕は治癒魔法使い。 子供の頃、僕は奴隷として売られていた。 そんな僕をギルドマスターが拾ってくれた。 だから、僕は自分に誓ったんだ。 ギルドのメンバーのために、生きるんだって。 でも、僕は皆の役に立てなかったみたい。 「クビ」 その言葉で、僕はギルドから追放された。 一人。 その日からギルドの崩壊が始まった。 僕の治癒魔法は地味だから、皆、僕がどれだけ役に立ったか知らなかったみたい。 だけど、もう遅いよ。 僕は僕なりの旅を始めたから。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる

名無し
ファンタジー
突如、異世界へと召喚された来栖海翔。自分以外にも転移してきた者たちが数百人おり、神父と召喚士から並ぶように指示されてスキルを付与されるが、それはいずれもパッとしなさそうな【互換】と【HP100】という二つのスキルだった。召喚士から外れ認定され、当たりスキル持ちの右列ではなく、外れスキル持ちの左列のほうに並ばされる来栖。だが、それらは組み合わせることによって最強のスキルとなるものであり、来栖は何もない状態から見る見る成り上がっていくことになる。

【破天荒注意】陰キャの俺、異世界の女神の力を借り俺を裏切った幼なじみと寝取った陽キャ男子に復讐する

花町ぴろん
ファンタジー
陰キャの俺にはアヤネという大切な幼なじみがいた。 俺たち二人は高校入学と同時に恋人同士となった。 だがしかし、そんな幸福な時間は長くは続かなかった。 アヤネはあっさりと俺を捨て、イケメンの陽キャ男子に寝取られてしまったのだ。 絶望に打ちひしがれる俺。夢も希望も無い毎日。 そんな俺に一筋の光明が差し込む。 夢の中で出会った女神エリステア。俺は女神の加護を受け辛く険しい修行に耐え抜き、他人を自由自在に操る力を手に入れる。 今こそ復讐のときだ!俺は俺を裏切った幼なじみと俺の心を踏みにじった陽キャイケメン野郎を絶対に許さない!! ★寝取られ→ざまぁのカタルシスをお楽しみください。 ※この小説は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

処理中です...