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オストラバ王国

5章へ行く前に、ある人のエピソード

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――――30年以上前、とある町。

 
 その町はとても大きいともいえず、町民も裕福に暮らしてるとも言い難かった。しかし、街は幸福に満ちていた。
なぜなら町には誰からも好かれる領主様がいた。 貴族として鼻に掛ける事もなく家族全員が素晴らしい人格者で愛に溢れていた。

 領主様は誰かが病気になればすぐに医者を手配し、生活が苦しいとなれば仕事を与えた。

 そんな領主様の家族には一人娘がいた。少女は才色兼備で町で知らない人はおらず、明るく元気な子であった。

 お父様とお母様は娘を愛しており、どんなに忙しくても娘の為に出来る事は全て行った。ただ甘やかすだけではく、十分に厳しい教育を与え
女の子はすくすくと素晴らしく育っていった。

 10歳になった少女は、お父様とお母様の結婚記念日で驚かせようと、使用人の目を搔い潜ると一人森の中へ花を摘みに出かけた。
 エーデルワイスと呼ばれたその花はとても綺麗でお母様が以前大好きだと言っていたのを少女は覚えていた。

 森へは何度か足を運んでいた事があり、少女は時間はかかったものの無事お花を摘む事ができた。鼻歌を歌いながら、喜ぶ両親の顔を浮かべて女の子が町へ戻ると
そこはまるで地獄に様変わりしていた。

 人間の死臭と建物から立ち昇る炎。聞いた事もない金切声が町に響いていた。大勢の魔物が町に押し寄せてきていたのだ。

 この近辺で魔物の出現は珍しく、油断していた事がきっかけとなった。

 少女はエーデルワイスを地面に落とすと、裏道を通って両親の元へ向かった。 大粒の涙を流しながらも、自分の身の安全より
お父様とお母様の無事を祈った。

――お父様、お母様、どうかご無事で……。

 幸い魔物と遭遇する事はなかったが少女の希望空しく、家には無残にもお父様とお母様の死体が横になっていた。

 まるで食い荒らされたかの様に見るも無残な姿形となって。

――嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。

「――いやああああああ!!」

 少女は頭が恐怖で支配されると、その場から逃げる様に家を飛び出た。そしてお腹を空かして町を闊歩していた魔物は少女を発見した。

 涎を垂らし、金切り声をあげながら少女を食べようと襲い掛かった。少女は自分も死ねばお父様とお母様と会えるのかもと頭が過った。しかし、女の子は諦めなかった。

――死にたくない!

近く落ちていた剣を拾い構えて魔物の初撃を防いだ。

 反動で剣と少女は地面に吹き飛ばされた。 再び、魔物が少女に襲い掛かった時
青い剣を持つ男性と杖の先に宝石をつけた女性、そして斧を持った小さなおじいちゃんが女の子を助けた。

 町にいる魔物を全て駆逐すると、女の子を強く抱きしめて男性と女性は涙した。鎌を持ったおじちゃんは優しい目で女の子を見ていた。


 町で生き残ったのは少女ただ一人だった。


「すまない……もっと早く助けられたら」

「ごめんね……。もう、大丈夫だよ」

「怪我はないか? すまぬな……」

 少女は不思議に思った。どうしてこの人達は私に謝っているんだろう。あなた達は悪くない。

 悪いのは全部、魔物なのに……。お父様とお母様を殺したあいつらが悪いんだよ。あいつらが悪い。魔物が憎い。憎い。殺したい。殺す。


「君の……名前は?」


 男性は少女に名前を聞いた。後に男性はヴェルネル、女性はレムリ、背の低いおじいちゃんはインザームと名乗った。


「私の名前は……ふぇろー……フェロー・スカーレット」



 私は許さない。お父様とお母様と、大好きなこの町の皆を殺した魔物を許さない



 どんな手を使ってでも殺してやる。
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