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ベレニ

第28話:報復

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「まさかクリアするなんて……凄い。凄いよ。君たち!」

「痛いっ!」

 フェアの首にフロードの剣先が触れると血が流れた。

「おい……フロード。なにをしてるんだ! やめろ!」

「なにをやめるんだ?」

 フロードは更にフェアの髪の毛を強くひっぱりながら笑い声をあげた。それを見て、アイレは魔力を高めたが

「妙な真似をするな。 まずはその武器を遠くに捨てろ」

 フロードはそれに気が付くと表情を一変させて強く制止した。アイレはフロードのただ事ではない雰囲気を感じ取り
フェアの身を案じて短剣を遠くに捨てた。

「どういうことだ。 なんでそんな事をする!」

 アイレは憤慨してフロードに叫んだ。

「僕はいつも思ってた。 悪人はどうしてベラベラしゃべるのかなってね。 でも、気が付いたんだよ。絶対的優位は楽しいってね」

 フロードはフェアの髪の毛を掴みながら、首の剣の刃先を動かした。血が再び滴り落ちる。フロードは話を続けた。

「初めはいつも通り不意を見て君たちを殺そうと思ってたんだよ。 ここは僕の遊び場なんだ。 死体はダンジョンが吸収してくれるから後は残らない。
挑戦者が現れるといつも涎が出るよ。 このダンジョンがクリアできてなかった要因は僕のせいもあるかもしれないな」

 フロードは薄ら笑いを浮かべながらアイレを見ながら嬉しそうにした。

「ずっと……俺達を狙ってたのか」

 アイレは自分を責めた。フェアはいつも警戒を解かなかった。少しでもフロードを疑っていればこんな事にはならなかったと。
それでも、今できる事を考えてなんとかフェアを守ろうと隙を伺っていた。

「そう。 でも君達は強すぎたんだ。 どうしようかなと思っている時にこのエルフだ! 僕は驚愕したよ。 しかもこの耳! 噂に聞くハーフエルフじゃないか!!!
 エルフの奴隷なんて喉から手が出る程ほしかった! ダンジョンのクリアはもったいないが、ここでの殺しも飽きてきた頃だ」

「ダンジョンの宝は全部くれてやる。だからフェアを離してくれ」

「はははははは! ダンジョンクリアの宝は一つしかもらえないんだよ。 だから君のは元からないんだ。  それに僕は宝に興味はない……出てこいお前ら」

 フロードは高笑いをしながら誰か呼んだ。するとフロードの後ろから男女二人組が姿を現した。男ははかなり図体がでかく、大きな斧を持っている。
女は魔法の杖を所持しており、二人ともアイレを見て笑みを浮かべている。どちらも薄着で、魔法の布を着ていて、印が浮かんでいる

「わからなかったのか? ずっと着いてきてたのさ」
「へへ! 待っていたかいがあったぜ」
「あたしの魔法はさすがだろう? 見えなかったかい?」

 フロードの仲間の女が布に魔法をかけて、姿を見えなくしていた。普段であれば間違いなくフェアが感知していたが
ダンジョン内は魔力の瘴気が濃く、フェアでさえもそしてアイレも気づく事ができなかった。呼吸ができる魔法はないが
海の中で素早く動く魔法をこの女が使用していた。なかなかの手練れぞろいだった。

 フロードの仲間は戦闘に参加してない為、魔力が十分に残っていたがフェアは一切魔力がなく
アイレも体力をかなり消費していた。ダンジョンに入ってから既に7時間は戦闘を続けている。

「ここまでうまく行くと笑いがとまらないな。 この女は必要だが、お前はもういらないよ」

 フロードがアイレを見て言った。

「……アイレだけは助けて……私は大人しく着いていくし。何もしない……」

 フェアはフロードに髪の毛を掴まれながら、フロードに懇願した。ヴェルネルとレムリとインザームが守ったアイレを
守るために。

「なんだ。好きなのか?」
「こいつの目の前で切り刻んでやろうぜ! 右手左手右足左足どれからイこうか!?」
「純愛をぶち壊すのってゾクゾクするねぇ」

 フロード達の仲間は発言から取れてわかるようにくず共の集まりだった。アイレは怒りに満ち溢れている。

「俺が大人しく手足を切られても声をあげなければ、フェアを助けてくれるか」

「ああ!? お前が意見すんなよ!」
「おもしれぇ! やろうぜフロード!」
「前にもいたねぇこんなやつ。 あいつは右手をもぎ取ったらピーピー泣いてたけどお前はどうだろうねぇ」

「やめて! アイレそんな!」

 3人はそれぞれアイレに反応して、フェアは叫んだ。


――クリア報酬 ――クリア報酬

 その時、アイレの頭の中に直接声が聞こえた。

(なんだこの声は?)


「なぁ、いいだろう! フロード!」

 図体のでかい男が言った

「ちっ。 モート、少しだけにしとけよ。 しかし、クリア報酬ってのは何があるんだ? 調べてこいよソンジュ」
「えー! あたいかい? 楽しんでからにしようよ」

 ソンジュと呼ばれた女は部屋の隅を探そうとして、モートと呼ばれた図体のでかい男は無防備のアイレに近づいた。

「おい。 動くなよ? まずは右手からいこうか」

 モートは大きな斧を振りかぶってアイレの右手を切ろうとした。 フェアはそれをフロードに髪の毛を引っ張られながら
良く見ておけよ と囁かれた。

「ソンジュ持てよ。 いくぜ。 綺麗に千切れるぜぇ!」

 ソンジュがアイレの右腕を伸ばす様に持ち、モートは大きな斧を振りかぶった。


――クリア報酬 ――クリア報酬


(ちきしょう。 なんでもいい。こいつらを倒せる何かを!


――承認しました ――承認しました


「な、おまえどっから!?」

 モートがアイレの右腕を目がけて斧を振りかぶったが
アイレは今まで持っていなかった短剣をどこからともなく出現させて斧を受け止めた。

 短剣は光輝いていて、バチバチと雷のような音を鳴らしている。気が付くと、右手にも短剣を持っていて
赤く炎の様に燃えていた。

 加えて、アイレは無意識ながら魔力を武器を通して電気を変換した。これはアイレの反射神経を何倍にも増幅させる効果があり、脳の電気信号を短縮化させた。

 つまりアイレは人間の反応速度を遥かに超えた動きができるようになった。

「――死ね」

 アイレはモートが反応できない速度で動くと首の動脈を一撃で切り裂いた。モートの首から血が吹き出る前と同時に
アイレは地を蹴ってフロードに接近すると右手を切り落とした。

「――てっ――めぇ……」 

 ここでようやくモートの首から血が噴き出しはじめた。モートは斧を落として首を抑えたが血が止まらず悲痛な叫びながら膝をついた。
フロードも右手を切り落とされた事に気が付いて痛みで大きく喚いた。


「ぐぁあああああああああああああああああああ! お前お前お前お前お前お前! なにをするんだ!」

 フロードの右手から大きく血が吹き出た。フェアはアイレに助けられてフロードから急いで離れた。
それを見たソンジュが驚愕してアイレを見た。

「あ……あたいはなんもしてない! 関係ない!」

「お前は……さっき同じような事をしてたとほざいてただろう」

 アイレはソンジュを睨んだ。フェアを危険な目に合わせた上にアイレの右腕も落とそうとした。

「うるさいうるさい!」

 ソンジュは捨て台詞と同時に透明になる魔法を詠唱して姿を隠したが、アイレは魔力の微妙な揺れを感じ取り
右手の炎の短剣をソンジュに投げた。

「――がぁっ」

 炎の短剣がソンジュの背中に突き刺さると、小さな炎が灯り燃えはじめた。

「あついあついよぉ!」

 アイレはゆっくりと歩いてソンジュの背中に突き刺さった短剣を無造作に抜いた。ソンジュは背中に大ダメージを負い瀕死の状態で暴れてながら火を消した。
 アイレは再びフロードを睨んだ。

「てめぇ……よくもやってくれたな。 フェアはお前を信じようとしてた。それを裏切ったんだ」

「黙れ! お前のせいで何もかもが台無しだ! ちきしょうちきしょう!」

 フロードは右手が切断されながらもアイレに対して罵倒を止めなかった。そして左手でポケットの水晶を掴んで地面に投げた。
 水晶は弾け飛び散るとフロードの姿を覆うような光に変化した。

「フロード……あたいを……置いて行かないで」

「黙れカス女! お前ら下級民と俺を一緒にするな! ――この街を出れると思うなよ――」

 フロードは捨て台詞を吐きながら水晶の光と共に姿を消した。魔力の欠片の痕跡がアイレにもわからなかった為
何かの脱出アイテムの様だった。
 その後すぐにソンジュとモートは息絶えた。

「くそ……逃がしたか」

 その言葉と同時にアイレは膝を付いた。全身が筋肉痛の様に痛みを感じしびれ始めた。

「代償か……」

 雷を帯びた短剣を介して魔力を電気に変化させる事は脳への電気信号を何倍も向上させたが
全身への負担は遥かに重かった。 例え全開の状態であれども、連発する事は出来ない程に。


「アイレ! 大丈夫!?」

 フェアは首から血を少し流しながらも、アイレに駆け寄った。

「大丈夫だ…… フェア。無事でよかった……」

 二人は涙しながら、お互いの無事を嬉しく思った。

「人を……殺した……」

 アイレは我に返ると、ソンジュとモートの死体を見た。今までアイレが人間を手にかけた事はなかった。

「アイレは私を守ってくれた。 人殺しなんかじゃない。 だからもう……あんな無茶な事は言わないで……」

 フェアは涙を流しながら、アイレが「手足を切られても声をあげなければ」と言った発言を悲しんだ。今まで人に守れる事なんてなかった。ヴェルネルとレムリとインザームを除いて。
フェアはアイレを心の底から大切な人だと感じた。

「……そうだな。俺はフェアを守れてよかった……」

 その瞬間に上から水が垂れてきた。水の神殿のダンジョンのボスが討伐された事で崩壊が始まっている。アイレとフェアの目線の先に
光の階段が出現した。

「急ごう……ぐっ」

 アイレは急いで歩こうとしたが、高速移動の代償で足がしびれ動けずにいた。
 フェアはアイレの手を掴んで、肩にかけると手助けをしながら一緒に階段まで歩いた。

「私が連れていく」

 アイレとフェアが階段を上がっていくと後ろはもう水で液状化していた。二人は急いで階段を駆け上がり
寸前の所でダンジョンの外にたどり着いた。

 それから二人は同時に地面に仰向けに倒れた。

「はぁはぁ……苦労したな……」

「もう……動けない……」

 アイレとフェアが少し休んで起き上がるり、街へ戻ろうと思ったとき馬の蹄と共に甲冑の金属音が聞こえた。

「な、なんだ?」

 アイレが目をやると、道の先から銀色に輝く重い甲冑を着込んだ兵がそれぞれ武器を持ち馬を走らせながら4人やってきた。


「お前らか。 そのまま動くな」


 兵隊はアイレとフェアを見つけると警戒しながら武器を構えた。


「どういうことだ?」


 アイレは聞いた。


「フロード・ルイウス領主様の命令により、貴様らを殺人容疑で連行する」
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