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第20話 パーティーピンクは最強の死神

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「久しブラック!」

 ”ブラック様キター”
 ”ブラックシュヴァルツ見参ッ!”
 ”待ってました”
 ”世界最速Cランクおめでとうございます!”
 ”配信久しぶりだね”
 ”みんな服装が、おしゃれに!?”

「こんばんはー!」
「こんブラー!」

 学校の授業が終わって近くのダンジョンへ。
 コメントの通り順調にランクが上がっている。

 服装もお洒落になり、俺はより黒く、二人もより黒い服装と露出が増えていた。
 人気も考えてくれているのはありがたいが、目のやりどころに困る。

 ”ブラック恥ずかしそう”
 ”カワイイw”
 ”美琴ちゃんの太ももエロイ”
 ”これは……最高”
 ”風華ちゃんの白肌と黒のコントラスト、イイ!”
 ”どんどんビックになってる感あるね”
 ”既にダンジョン内部か”
 ”どこだろう?”

「えー今日は、新宿ダンジョンの第七深層からお送りしてますー」

 俺の発言にコメントが鬼の速度で流れていく。

 ”だい……なな?”
 ”は?”
 ”第七深層ってボスクラスがうようよしてるんじゃないの?”
 ”ヤバすぎるんだけど”
 ”もう怖いわ”
 ”ブラック、洒落にならない”

「……そ、そうなのか」

 相変わらずダンジョンは難しい。
 すると美琴が、俺の肩に手を置いた。

「ブラックさん、あなたは強すぎるんです」
「はい、自覚しましょう」

 二人は俺を諭すような優しい目をしていた。

 なぜだブラック!

「さて本題に入ろう。今日ここに来たのは、魔法武具を探しにきたからだ」

 俺は素手ブラックでいいのだが、美琴や風華さんにもっといい武器や防具を蜜てあげたい。
 とはいえいくらブラックな俺でも、そう簡単に見つかるものではない。
 最近、配信を控えていたのも、地味な捜索作業ばかりでつまらない動画になるからだ。

 なので再開したのには、もちろん理由がある。

「ごほんっ、ええーええ。俺たちブラックシュヴァルスは、ついに見つけた」

 ”見つけた?”
 ”だいぶもったいぶる”
 ”気になる”
 ”お宝ですか?”
 ”てか、後ろ後ろww”
 ”後ろwwwwwwww”

 配信中、気づいたら後ろに魔物が20体くらい襲ってきた。
 静かに回避しながら、死の宣告を付与。

 20秒と表示されたので、後は二人に任せて配信を続ける。

「そう、宝物庫だ」

 ”いや後ろwww”
 ”後ろ、妖怪大戦争ですよ兄貴ww”
 ”ブラックww 後ろwww”
 ”あかーん!”

 視聴者が騒ぐので一応二人に声をかけてみたのだが、「大丈夫」と返事がきた。
 なので配信を続ける。

 20秒後、一斉に地面に倒れる音がした。

 宝物庫とは、ダンジョン内部でまれに存在する部屋だ。
 ダンジョンボスのような門番がいることも多いが、宝が隠されている。

 弓、剣、短刀、盾、アクセ、ランダムなので欲しい武器を狙えるわけじゃないが、どれも良いものばかりだ。
 一攫千金を夢見る人も多い。

「そういえばブラックさんの漆黒のコートって、ダンジョンボスのですか?」
「私も思ってた。それ、めちゃくちゃ高いヤツですよね?」
「そうなのか? まあでもそんな感じだよ」

 過去にダンジョンボスが十体ほど襲ってくるところでドロップしたものだが、今する話題でもないだろう。

 ”気になるw”
 ”ヤバい予感”
 ”宝物庫楽しみ”

「さて、行くぞ」

 扉は金色で輝いていた。
 この扉も売れば儲かるだろうが、ドロップでないものは外に出すとすぐに砂となるので意味がない。

 中に入ると、冷気が漂っていた。

 広い部屋、というわけではない。
 むしろ、狭い。何でもないような部屋だ。

「なんですかね?」
「……なんか、ひんやりする」

 二人も気づいているらしい。
 俺は嫌な予感がして、扉を開けっぱなしにしようとした。

 だがその瞬間、扉が魔法のように消えてく。
 すると途端にどこからゴボゴボと音が聞こえ、次の瞬間、水が思い切り入り込んできた。

 ――罠だ。

 ”やべえええええええええ!?”
 ”うわああああ”
 ”これはヤバイいいいい”

「え、あえ、ああ!?」
「ど、どうしよう!? で、出口は!?」
「落ち着くんだ二人とも」

 何度かこういう罠にかかったことがある。 
 冷静に見極めることが大事だ。

 正常な思考が大事だ。小さな綻びから、脱出ルートを探す。

 だがまずは、二人を落ち着かせよう。

「宝物庫 罠にかかって さあ、たいへん」

 ”俳句いってる場合じゃねえwwwwww”
 ”いそげwww”
 ”流石ブラック”
 ”でも落ち着いてる場合では!?”
 ”やばい”

 だ、ダメだった。

「いいか、丁寧に出口を探すぞ。魔力感知を怠るなよ」
「「はい!」」

 俺の俳句で冷静さを取り戻した(多分)二人と共に、部屋中をくまなく探す。
 水が、どんどん足を攫って、膝まで辿り着く。

 美琴や風華の顔に恐れが浮かび、配信のコメントも怖がっていた。
 
 そのとき、俺は壁の謎の文字に気づく。

「……怪しいな」
「ブラックさん、水が!?」
「ど、どうしよう!?」

 更に水が勢いを増す。
 俺は、ブラックシールドを二人に付与した。
 水が排出され、中の酸素が固定化される。

「あまり息をするなよ」

 次の瞬間、部屋の中が完全に水でいっぱいになった。
 ドローンカメラはブラックシールドで覆っている。

 ”こわすぎる”
 ”どうなるんだ”
 ”でも、ブラック様は怯えてない”
 ”どういう訓練したらここまで冷静になれるんだ”

 ブラックの俺でも息はそう長く続かない。
 1分か2分、5分、もしくは頑張っても20分から二時間くらいだ。

 ブラックシールド内部の酸素が薄くなる前に急ぐか。

 この文字……どこかで……そうか。

 っして俺は、ついにその文字を読み解いた。

「――アンテ・アリガル・ヴェルステ」

 次の瞬間――地面が開いて、まるで大洪水のように地面に流されていく。
 ブラックシールドが限界だったらしく、解除された。

 ”何今の言葉!?”
 ”すげええ”
 ”全然わからんかった”

 しかしそのまま俺たちは水に埋もれていく。

 俺は二人の身体を掴んだ。

 そして――。
 
 ――――
 ――
 ―

「……ふう。美琴、風華、大丈夫か?」

 二人は意識を失っていた。だが気絶してるだけだ。
 少ししたら無事目を覚ますだろう。

 今いる場所は、まるで洞穴だ。
 だがその先に、箱を見つけた。

 ドローンカメラは動いている。配信は問題ないらしい。
 心配する視聴者に無事を伝えると、ホッとしていた。

 俺は宝箱に歩み寄り、開く。中には、黄金の腕輪があった。
 見たことがある。
 これは――。

 そのとき、隣から声を掛けられる。

「先を越されてしまいましたね」
「……誰だ?」
「あら、覚えていませんか?」

 すると後ろに、背丈の低い女の子が立っていた。
 ピンク色の髪の毛、小さな背丈。
 顔が見えないように、変な眼鏡をかけている。

 これ、パーティー用じゃないか?

「なにそれ」
「パーティー用です」

 ”まんますぎるww”
 ”わろた”
 ”ダンジョン探索者?”
 ”女の子ぽい”
 ”でも、水にぬれてない”
 ”誰だろう”

 ……まさか。

「ゴォオオオオォオオ!」

 そのとき、鳴き声が聞こえた。
 すると奥からドシドシと大きな鱗に覆われた化け物が姿を現す。
 鋭い爪に牙、深淵を見据えるような瞳――竜。

 いや、水竜だ。

 ”次はボスかよ!?”
 ”これが本当の裏ボスか”
 ”見たことない”
 ”見たことない奴はヤヴァイ”

 ダンジョンは昔からあある。なので、世界中にボスの名前や討伐ランクは図鑑に収められている。
 とはいえ、俺は見たことがなかった。

 それは、視聴者もらしい。

 ダンジョンには格言がある。

【知らない魔物が現れたら、一目散に逃げろ】

 その理由は一つだ。

 なぜ知られていないのか。

 それは、見た奴が生きて帰れなかったからだ。

 とはいえ、俺は逃げるつもりなんてない。

 美琴と風華はまだ気を失っている。担いで逃げると、下手に怪我をしてしまいかねない。

 すると隣の女の子が、俺の横に立つ。

「お手伝いしましょうか」
「……戦えるのか?」
「ふふふ、よく言いますわ。――その代わり、それ、貸してください」

 そういって、女の子は、俺から腕輪を奪った。
 そのまま装着、すると手に死神の鎌が出現した。

 その瞬間、俺は確信に変わった。

「お前――」
「さて、チョールヌイ・・・・・・様行きましょう」

 配信に聞こえない声で小さく俺に呟いた。

 そのまま、同時に駆ける。

 死の宣告を付与。カウントは驚くべきことに300000秒だった。

 ”やべええええええええなんだこれ”
 ”こんなの勝てるのかよ”
 ”ブラックの死の宣告で、これ!?”
 ”いやまて、この女の子の動き、なんだ!?”
 ”すごすぎる”

 ”ブラック様と、そっくりだ”

 ピンク色のパーティー野郎は、俺と同じような動きで敵の攻撃を回避していた。
 爪や強靭な攻撃をものともせず、そして笑っている。

 はっ! おもしろい。

「ダメージを与えろ!」
「了解しましたわ」

 そういうと、鎌を思い切りぶち当てた。
 竜は悲鳴をあげ、カウントが2750000となる。

 ――これからだ。

「ゴォオオォオオ」
「――黙れ」

 手加減はしない。須佐之男命スサノヲノミコトを詠唱すると、デカい黒剣が出現した。
 そのまま切り伏せると。更に1550000となる。

「あら、流石ですわ」
「配信時間はもうすぐ2時間。フィナーレだ。――連続攻撃をするぞ」
「了解ですわ」

 そして彼女・・は、ニヤリと笑った。
 八重歯が見え隠れしたかと思えば、狂喜乱舞して鎌を振りまくる。

 ”やべえ、この子何者だ?”
 ”つよすぐる”
 ”ブラック様もヤバいけどこの子もやばい”
 ”いや、ブラックの手数なんて見えないぞ”
 ”パーティー無双”

 そしてカウントが残り10000となり、彼女は、俺に視線を向けた。

「――じゃあな」

 そして水竜は、そのまま駆逐された。

  ◇

「ありがとうございます。ブラックさん! すみません、気絶していて」
「本当に助かりました。ブラック様」
「気にするな。そんなときもある。また頑張ろう。今日はちょっと予定があるから、またな」

 配信は無事終わり、同接も過去最高だった。
 嬉しくてたまらないが、それよりも俺はすぐにブラックコートを脱いで、魔力感知を高めた。

「――みつけた」

 そのまま急ぎ路地のところで、いそいそとパーティー眼鏡を取った奴がいる。

「――なにしてんだ」

 声をかけると、慌てて振り返ったのは、中二病転校生、水面川ローザだった。

「我の後ろから声をかけるとは、何ものだぁぁっああ!?」
「何してんだ?」
「我は邪眼の王、そして世界の王、偽りの深淵、またの名も」
「――普通にしゃべれ」

 するとローザは、いやピンク・・・は表情を一変させた。

「お久しぶりでございますわ。お元気にしていたでしょうか」
「……何してんだ? 日本・・になんでいる?」
「もちろん、あなた・・・に会いにきたのです!」
「……学校であった時の口調とそのキャラはなんだったんだ」
「私はアニメが大好きで、特に中二病が好きなのですわ」
「……まあいいか。でもなんでここに」
「お約束をお忘れですか? 私は、あなたに命を助けられました。その御恩は一生かけてお返ししたいのです」
「……もしかしてそれで転校してきたのか?」
「はい、配信を見ました」

 全てが繋がった。
 以前、とてつもないほどのスパチャがあった。
 Pというのはピンク。
 ローザはロシア語でピンク、チョールヌイは、ロシア語でブラックだ。

 なるほど、そういうことか。

「相変わらずの強さでしたわ。さすが、ブラックルーム・・・・・・で全ての試験を最高点で合格、最凶の称号を手にした唯一無二のブラック様です!」
「……その話はいい。てか――」

 そのとき、後ろから声がした。
 美琴と、風華さんだ。

「あれ、黒羽? どうしてここに? それに、水面川さん?」

 まずい――。

「ふふふ、それは借りをしのぶ姿、私は今、ダンジョン配信者ローザなのじゃ」

 変わり身が早い。
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「うんうん、黒斗、ほら」

 俺は手を引っ張られる。だがローザにもまだ色々聞きたいことが山ほどある。

「なあ、ローザも連れていっていいか?」
「え? いいけど、いいの?」
「私も構いませんが、ローザさんはいきたいのですか?」
「そこまで言うならついて行ってやろう。我がローザ、カラオケはちいぃとばかし得意なのだ」
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