超人気美少女ダンジョン配信者を救ってバズった呪詛師、うっかり呪術を披露しすぎたところ、どうやら最凶すぎると話題に

菊池 快晴

文字の大きさ
上 下
14 / 52

第14話 未曾有の災害vsブラック

しおりを挟む
 ”西口に魔物が二体”
 ”ブラック、渋谷駅すぐ傍に魔狼が出現”
 ”南口でも魔物が多いって”
 ”ほかの探索者とか警察はどうなってんの?”
 ”集まってるらしいけど個人で動けないみたい”

「うわあああ、に、逃げろお」
「く、くるなああ」

「――死の宣告」

 オーガに追いかけられていた少年たちの前に出ると、そのまま呪いを付与。
 数秒後、オーガが地面に倒れるも、散り散りとなり消えていく。

 ダンジョンが崩壊した後の魔物は、数日で形を保てなくなる。
 それより早く消滅させたいのならば、倒すしかない。

 ”ブラック、マジでかっけえ”
 ”B級以上の探索者が向かってるって。でも、結構参加しぶってるみたい”
 ”なんで?”
 ”人助けは割にあわないからでしょ。助けられたらいいけど、間に合わなかったらヘイトがくるし”
 ”そうか……でも俺たちも何もできないもんな”

「そんなことない。気持ちだけで十分だ」

 だが想像以上に魔物が多い。
 コメントも読み上げているが、数千体以上だという。

 するとそこに、少し遅れて美琴と風華さんがやってきた。
 ダンジョン終わりでかなり魔力を使っているだろう。
 既に一時間以上もフルで動いている。限界は近いはず。

「はあはあ……風華さん、大丈夫?」
「何とか……」
「二人ともよくやった。後は俺に任せろ」

 ”ほんとだよ。無理しないで”
 ”死んじゃうよ”
 ”十分頑張った。後は他に任せてもいいと思う”
 ”ブラック様に任せよう”

 視聴者も気遣ってくれる。
 しかし、二人の目は、諦めていなかった。

「諦めない。絶対に」
「私も。――こんな時の為に動かなきゃ、探索者じゃないよ」
「――はっ」

 その目、その瞳、上からで偉そうかもしれないが、俺は嬉しかった。
 美琴は昔から強かった。肉体的ではなく、心が。

 そして風華さんには、いちリスナーとして憧れていた。

 ――なら。

「呪術には代償がある。全てではないが、二人の力を底上げすることはできるぞ」
「本当、ですか?」
「是非、お願いします」
「その代わり、後が辛いが」

 二人は、顔を見合わせる事頷いた。
 そして俺は、二人の肩に手を置く。

「――チャクラ解放、第一段階「呪戦士じゅせんし」」

 その瞬間、二人の魔力が漲る。
 チャクラが立ち上り、何倍も強くなっていくのがわかる。

 ”こんなこともできるのか”
 ”すげえ”
 ”かっこいい”

 ただし、反動はある。

「すごい、力があふれてくる……」
「本当だ……」
「ここからは別れよう。各自配信を付け、視聴者にナビゲートしてもらえ。リスナーたち、君たちは無力じゃない。俺と同じだ。――行くぞ」
 
 ”ブラックかっこよすぎんよ”
 ”みんなこれが最後の配信かもしれない。頑張ろう”
 ”ブラック様、二丁目に大勢のウェルストベアーが!”

 俺たちは別れ、逃げ遅れた人たちを助けていく。

 だがそのとき、とある読み上げコメントが――。

 ”イベントしていた中学校で、ボスみたいなのが出たって――”

 すぐさま駆け付けるも、想像以上に魔物が多い。
 どれも亜種だ。個体差がある上に、魔力も強い。

 ”めっちゃ人多い”
 ”お祭りしてたらしい”
 ”うわああああああおおすぎる”
 ”これはヤバイ”

 ――ここが正念場だ。呪力度外視でいいだろう。

 俺は、『陰陽五行』を地面に展開した。

 黒と白の模様が広がっていく。
 更に防御術式を指定した。邪念のない人たちの身体に、黒いシールドが付与される。
 
 ”すげえ、こういう使い方が”
 ”みんなにシールドが!?”
 ”ブラックマジですごすぎる”
 ”マジで戦いっぱなしじゃね?”

「――死の宣告、死の宣告、死の宣告、死の宣告、死の宣告」

 遠隔で呪いを付与したいところだが、防御に術式を割いている。
 そのまま高速移動、左手で触れ、直接呪いを付与していく。

 ”画面が処理しきれてないほど速い”
 ”ブラック様、マジで何者なんだ”
 ”今のみた? 五体の攻撃をかわしたぞ”
 ”おい、他の探索者はなにやってんだ?”
 ”頼む、もっとみんな来てくれ”
 ”ブラック、がんばれ!”
 ”がんばれ、がんばれ、がんばれ”

 敵が時間差で倒れていく。
 しかしどうやらこの学校の近くのダンジョンが崩壊したらしく、魔物がまだまだ溢れてくる。

 だが朗報だ。

 ここさえ抑えれば、問題ないはず。

 俺の最後の配信だ。出し惜しみはしないでいこう。


「――お前ら、好きに暴れろ。ただし、魔物が相手だ」

 俺は、ポケットから今扱える呪力限界ギリギリのダンモン札を投げた。

 大天使ミカエル。
 氷のウィンディーネ。
 そして、殺戮のアルマジロと虐殺のダルガス。

「ミカミカ!」
「ご主人様のためなら、ネ」
「ふしゅうう……」
「ギリイイイイイイイイイイ」

 ”ミカエルとウィンディーネだ”
 ”調伏四体同時召喚!?”
 ”ヤバすぎ。どうなってんだ!?”
 ”このアルマジロって、誰も倒せなかったモンスターじゃない? 突然消えたって聞いたけど、ブラックだったんだ”
 ”ダルガスってあの数百人の探索者をまとめて倒したっていう!?”

「――いけ」

 そして、四体のモンスターはそのまま魔物に突っ込んでいく。
 ちなみにデフォルメされている。

 ”やべえ、つよすぎる”
 ”だいぶ魔物が減ってる”
 ”近くの魔物も戻ってきてない?”
 ”魔物は魔力に反応する。ラックはこれも考えてるのか”
 ”探索者もようやく到着”
 ”もう少しだ、ブラック様頑張って!”

 視聴者のコメントのおかげで、戦況がわかる。
 ああ、やっぱり、配信をやっていて良かった。

 あの時・・・の努力は、無駄じゃない。

 しかし、学校の校庭、その裏から、超巨大な魔物が現れた。

「――ようやくボスのお出ましか」

 ”でけえええええええええええええ”
 ”なにこれ、サイクロプスの亜種?”
 ”ヤバいこれは”
 ”ブラック様、逃げて”
 ”こんなのが外に逃げたら”
 ”ちょっとまて、ブラック何をしようとしてるんだ”

 俺が、逃がすわけないだろう。

「――簡易結界」

 俺は、あえて結界で囲った。こうなると俺を倒すか、それとも解除しない限り出られないだろう。
 それに気づいたらしいサイクロプスが、俺に向かって吠えた。
 地鳴りが、音が、電波に乗って、頭に響く。

 これが、こいつの魔法か。

 ”こんなの勝てるのか?”
 ”やばすぎる”
 ”ブラック様なら”

 ああ、俺は本当にダメだな奴だ。

 敵が、強ければ強いほど――楽しい。

 昔の自分が、ついでてしまいそうだ。

 ”笑ってる”
 ”ブラック様が笑ってる”
 ”勝てるよ、絶対”
 ”怖い”
 ”怖い、けど安心できる”

「悪いが――一瞬でカタをつけさせてもらう」
「ギャギャギャッアアア」

 ”何するんだ”
 ”なにこの印!?”
 ”これは――”

「イザナミよ、呪力よ。俺――ブラックに従え。――須佐之男命スサノヲノミコト

 その瞬間、俺の手に巨大な黒剣が現れた。

 これは、あまりにも強すぎるがゆえに使わなくなった技だ。

 まあでも、こいつ相手ならちょうどいいだろう。

 ”なんだこれ、画面がブレてる”
 ”呪力で、電波が――おくれて――”
 ”なんでブラック様――こんな強いんだ?”
 ”わからない。でも――カッコイイ”
 ”いけええええええ”
 ”や――ば――すぎ――る”

  このサイクロプスは、逃げ惑う人達に攻撃を仕掛けようとしていた。
 容赦はしない。

「――お前に呪いは必要ない。じゃあな」

 そして俺は、思い切り振りかぶった。
 サイクロプスの右肩に剣が深く突き刺さり、腐食の力で防御や魔法耐性を貫通していく。

「はっ、はっ、はははは! ははは!」

 ”つ、つよすぎる”
 ”ブラック、何者なんだ”
 ”でも、いい人だよ”
 ”だな”

「――討伐完了」
 
 ――――
 ――
 ―

 翌朝、スーツ姿の男女のアナウンサーがマイクを持っていた。

「おはようございます。朝のニュースの時間です。昨晩、未曽有の大災害が渋谷の街を襲いました。巨大なダンジョンが謎の崩壊、魔物が街に流れこみました」
「いや驚きました。三十年ほど前にもありましたよね。その時は確か死者数200人……悲しい事件でした。それに今回は、その規模よりも数十倍だったと。いや、更に驚いたことがありましたが」
「はい。私も……驚きましたが、まさか、犠牲者がゼロなんて……」
「迅速な活動のおかげでしょうね。それと、確定したお話でないので公で言うべきではないんですが」
「もしかして彼でしょうか? ――ブラック」
「おや、ご存知でしたか」
「もちろんです。今、凄く話題ですから。いやほんと、ブラック様格好良かったですよ。人々を救った上に、何とダンジョンボスまで倒しましたから! 最後のスサノヲなんて、語彙力がなるほど格好良く! あ、し、失礼しました……」
「いえわかります。私もファンですから。しかし、どうなるんでしょうね。探索者のランク問題もありますから」
「私のような立場で発言することではないのですが、是非寛大な処置をしてほしいと願っております」
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~

ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。 玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。 「きゅう、痩せたか?それに元気もない」 ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。 だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。 「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」 この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。

キモオタ レベル0★世界最弱のオタク高校生の僕だけレベルアップ!美女に囲まれハーレム青春物語

さかいおさむ
ファンタジー
街中にダンジョンが現れた現代日本。 人々には戦士としてのレベルが与えられる。 主人公は世界最弱のレベル0。 レベルの低さに絶望していたある日、戦士のレベルの10倍の強さになるというボスが現れる。 世界で倒せるのレベル0の主人公だけ。 ダンジョンで戦うことは諦めていた主人公だが、その日から自分だけがレベルアップできることに。 最強戦士になって、美女の仲間たちとダンジョンの秘密を解き明かす。

削除予定です

伊藤ほほほ
ファンタジー
削除します

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

記憶喪失の逃亡貴族、ゴールド級パーティを追放されたんだが、ジョブの魔獣使いが進化したので新たな仲間と成り上がる

グリゴリ
ファンタジー
7歳の時に行われた洗礼の儀で魔物使いと言う不遇のジョブを授かった主人公は、実家の辺境伯家を追い出され頼る当ても無くさまよい歩いた。そして、辺境の村に辿り着いた主人公は、その村で15歳まで生活し村で一緒に育った4人の幼馴染と共に冒険者になる。だが、何時まで経っても従魔を得ることが出来ない主人公は、荷物持ち兼雑用係として幼馴染とパーティーを組んでいたが、ある日、パーティーのリーダーから、「俺達ゴールド級パーティーにお前はもう必要ない」と言われて、パーティーから追放されてしまう。自暴自棄に成った主人公は、やけを起こし、非常に危険なアダマンタイト級ダンジョンへと足を踏み入れる。そこで、主人公は、自分の人生を大きく変える出会いをする。そして、新たな仲間たちと成り上がっていく。 *カクヨムでも連載しています。*2022年8月25日ホットランキング2位になりました。お読みいただきありがとうございます。

異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。 異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。 せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。 そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。 これは天啓か。 俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

処理中です...