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第6話 君内風華(side)*閲覧注意*
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配信を始めたきっかけは、些細なことだった。
「あ、あのお友達に――」
「なんで目、青いの?」
「え、ええと、これはね」
「気持ち悪いーいこー」
私の生まれは海外で、いわゆるハーフだ。
元々引っ込み思案だったこともあり、日本に戻って来てからもあまり友達もできなかった。
目が青いという理由で、避けられ、虐められることもあった。
だけど中学生になると、逆にその青い目が良く見えてきたらしい。
「君内さんってカワイイよね」
「わかる。ハーフいいよね」
「羨ましい―」
だけど嬉しくなかった。その中に、私を虐めていた人もいたからだ。
覚えていないだろう。そのくらい、大したことのない出来事だったらしい。
だけど私にとっては、非常につらい思い出だ。
自宅に戻ると、いつも【ダンジョン配信】を見ていた。
特定の人、というわけではなく、人気配信者を見ながら、羨ましいと思っていた。
幸い、私は能力を授かった。
だけどなかなか勇気が出なかった。
でもそんなとき、ある男の子に勇気をもらった。
「き、君内さん」
「はい?」
恥ずかしいのか、緊張しているのかはわからないけれど、ビクビクしていた。
何だろうと思っていたら、その手には、私が落としたハンカチが握られていた。
「あ、あの落とし物です」
「ありがとう。――ええと……」
……名前がわからない。
だけど彼は、ニコリと笑って。
「大丈夫。それじゃあ」
そのまま消えていった。訳がわからなかったが、後日理解した。
「黒羽って地味だよな」
「確かに」
別クラスだったのと、私も人に興味がなかったので知らなかったが、彼の名前が黒羽くん、だということがわかった。そして、地味だということであまり他人から名前を憶えられていないことに。
きっと、慣れていたんだろう。
だけどそれをきっかけに、いつの間にか私は、黒羽くんを目で追いかけるようになった。
「黒羽って花、好きだよなー」
「なんか、前に居なくなった担任が大事にしてたらしいぜ」
「それを引き継いでるのか。静かだけどいい奴だよな」
物静かで特に目立つところはないけれど、私は彼がとてもいい人だとすぐにわかった。
あの花は、私も好きだった先生が大事にしていたものだ。
それを、彼が黙って引き継いでいる。
……いいな。 素敵だな。
彼が風邪で休んだときは、私が代わりに手入れをしていた。
戻ってきたときの黒羽くんの慌てた顔と、誰がやったんだろう? という呟きは、たまらなく可愛かった。
そして私は、彼が休み時間、よく配信を見ていることに気づいた。
それはダンジョン配信だった。
――好きなんだ。
あれほど悩んでいたのに、翌日、私はアカウントを開設していた。
「――【光】浄化」
私は生来魔力が強く、幸いにもダンジョンで苦労することはなかった。
昔と違って人と話すのは苦手ではなくなっていたし、段々と楽しくなっていって、気づけば企業からスポンサーになりたいと連絡がきた。
”風華ちゃん可愛すぎ”
”風華の光魔法を当てられ隊”
”俺の風華だぞ”
”どうして風華ちゃんは、配信してるの?”
「みんなを楽しませて、人気者になりたかったからだよ!」
半分本当で、半分嘘。
仕事になったことで色々と制約も増えたけど、視聴者も増えていく。
黒羽くんは相変わらず配信を見ているけれど、私のを見ているのだろうか。
気になる。
でも、聞けない。
そのとき、ちょっとだけ過激な事をしてみようと思った。
炎上商法とまではいわないけれど、強い場所で戦ってみようと。
それなら、黒羽くんが見てるかどうかわかるかもしれない。
その気持ちで最下層へ向かったところ、思わぬ出来事がおきた。
”風華逃げて”
”ヤバい、なんでこんなとこに”
”ヤバすぎる”
これは……私が悪い。
身の丈を忘れ、調子に乗りすぎたのだ。
助けて、黒羽くん……!
だけどそこに現れたのは、黒いコートを着たブラックという人だった。
「大丈夫か?」
「……はい」
その声、その匂い、その風貌は、黒羽くんに似ている。
……もしかして。
「ここで待っていろ」
だけど、実際の黒羽くんとは口調も態度も違う。
少しだけそっけない。けど、優しい。
「じゃあな」
そういってブラックと名乗る彼は消えていった。
……どっちなんだろう。
翌日、私は知りたい一心で、気づけば黒羽くんに声をかけていた。
企業側から、恋愛は禁止されているし、噂も気を付けてほしいと言われていた。
だけどこの思いはもう止められない。
「ねえ、黒羽くん、ブラックって知ってる?」
「え?」
だけどその反応は、本当に知らないみたいだった。
……ああ、同じ人だったら良かったのに。
だけど、黒羽くんは相変わらず恰好良くて、いい匂いがした。
……でも、私が間違えるわけがないんだけどなあ。
別れた後、私は、鞄から黒羽くんのハンカチを取り出した。
「――すぅすぅ、ああ……黒羽くんの匂いだ」
これは黒羽くんからもらったものだ。
今はジップロックにいれて、大事に持っている。
私の精神安定剤でもある。
匂いを堪能した後は、すぐジップロックに戻す。
じゃないと匂いが消えてしまうから。
ああ、黒羽くん。
黒羽くん。黒羽くん。黒羽くん。
好き、好き好き。
抑えてた気持ちが溢れ出しそう。
……もしブラックなら、凄く嬉しい。
今度、ブラック様に会ったら匂いを嗅いでみよう。
「えへ……えへへ」
ピロン【ブラックの配信が始まりました】。
「あ、……ちょっとだけ、ちょっかいだしてみようかな」
私が配信を始めた本当の理由、それは、黒羽くんを養いたいから。
彼の家はそこまで裕福じゃないらしい。
だけど私がもっともっともっともっと人気になったら、一生一緒に暮らせる。
家から出ないでほしいし。誰とも喋らないでほしい。人目にも触れてほしくない。
ずっとずっと、私だけを見てほしい。
「――えへ、えへ黒羽くん」
彼と会うまでの私は、ただ茫然と生きていた。
だけど今は違う。黒羽くんとの将来の為に生きている、動いている。
彼に何かあったら、誰であろうと絶対に許さない。
「好き、黒羽くん。――貯金、もっと頑張って溜めるからね」
夜空を眺めながら願いを込める。
あ、寝る前にまた、匂いを嗅いで寝ようっと。
「あ、あのお友達に――」
「なんで目、青いの?」
「え、ええと、これはね」
「気持ち悪いーいこー」
私の生まれは海外で、いわゆるハーフだ。
元々引っ込み思案だったこともあり、日本に戻って来てからもあまり友達もできなかった。
目が青いという理由で、避けられ、虐められることもあった。
だけど中学生になると、逆にその青い目が良く見えてきたらしい。
「君内さんってカワイイよね」
「わかる。ハーフいいよね」
「羨ましい―」
だけど嬉しくなかった。その中に、私を虐めていた人もいたからだ。
覚えていないだろう。そのくらい、大したことのない出来事だったらしい。
だけど私にとっては、非常につらい思い出だ。
自宅に戻ると、いつも【ダンジョン配信】を見ていた。
特定の人、というわけではなく、人気配信者を見ながら、羨ましいと思っていた。
幸い、私は能力を授かった。
だけどなかなか勇気が出なかった。
でもそんなとき、ある男の子に勇気をもらった。
「き、君内さん」
「はい?」
恥ずかしいのか、緊張しているのかはわからないけれど、ビクビクしていた。
何だろうと思っていたら、その手には、私が落としたハンカチが握られていた。
「あ、あの落とし物です」
「ありがとう。――ええと……」
……名前がわからない。
だけど彼は、ニコリと笑って。
「大丈夫。それじゃあ」
そのまま消えていった。訳がわからなかったが、後日理解した。
「黒羽って地味だよな」
「確かに」
別クラスだったのと、私も人に興味がなかったので知らなかったが、彼の名前が黒羽くん、だということがわかった。そして、地味だということであまり他人から名前を憶えられていないことに。
きっと、慣れていたんだろう。
だけどそれをきっかけに、いつの間にか私は、黒羽くんを目で追いかけるようになった。
「黒羽って花、好きだよなー」
「なんか、前に居なくなった担任が大事にしてたらしいぜ」
「それを引き継いでるのか。静かだけどいい奴だよな」
物静かで特に目立つところはないけれど、私は彼がとてもいい人だとすぐにわかった。
あの花は、私も好きだった先生が大事にしていたものだ。
それを、彼が黙って引き継いでいる。
……いいな。 素敵だな。
彼が風邪で休んだときは、私が代わりに手入れをしていた。
戻ってきたときの黒羽くんの慌てた顔と、誰がやったんだろう? という呟きは、たまらなく可愛かった。
そして私は、彼が休み時間、よく配信を見ていることに気づいた。
それはダンジョン配信だった。
――好きなんだ。
あれほど悩んでいたのに、翌日、私はアカウントを開設していた。
「――【光】浄化」
私は生来魔力が強く、幸いにもダンジョンで苦労することはなかった。
昔と違って人と話すのは苦手ではなくなっていたし、段々と楽しくなっていって、気づけば企業からスポンサーになりたいと連絡がきた。
”風華ちゃん可愛すぎ”
”風華の光魔法を当てられ隊”
”俺の風華だぞ”
”どうして風華ちゃんは、配信してるの?”
「みんなを楽しませて、人気者になりたかったからだよ!」
半分本当で、半分嘘。
仕事になったことで色々と制約も増えたけど、視聴者も増えていく。
黒羽くんは相変わらず配信を見ているけれど、私のを見ているのだろうか。
気になる。
でも、聞けない。
そのとき、ちょっとだけ過激な事をしてみようと思った。
炎上商法とまではいわないけれど、強い場所で戦ってみようと。
それなら、黒羽くんが見てるかどうかわかるかもしれない。
その気持ちで最下層へ向かったところ、思わぬ出来事がおきた。
”風華逃げて”
”ヤバい、なんでこんなとこに”
”ヤバすぎる”
これは……私が悪い。
身の丈を忘れ、調子に乗りすぎたのだ。
助けて、黒羽くん……!
だけどそこに現れたのは、黒いコートを着たブラックという人だった。
「大丈夫か?」
「……はい」
その声、その匂い、その風貌は、黒羽くんに似ている。
……もしかして。
「ここで待っていろ」
だけど、実際の黒羽くんとは口調も態度も違う。
少しだけそっけない。けど、優しい。
「じゃあな」
そういってブラックと名乗る彼は消えていった。
……どっちなんだろう。
翌日、私は知りたい一心で、気づけば黒羽くんに声をかけていた。
企業側から、恋愛は禁止されているし、噂も気を付けてほしいと言われていた。
だけどこの思いはもう止められない。
「ねえ、黒羽くん、ブラックって知ってる?」
「え?」
だけどその反応は、本当に知らないみたいだった。
……ああ、同じ人だったら良かったのに。
だけど、黒羽くんは相変わらず恰好良くて、いい匂いがした。
……でも、私が間違えるわけがないんだけどなあ。
別れた後、私は、鞄から黒羽くんのハンカチを取り出した。
「――すぅすぅ、ああ……黒羽くんの匂いだ」
これは黒羽くんからもらったものだ。
今はジップロックにいれて、大事に持っている。
私の精神安定剤でもある。
匂いを堪能した後は、すぐジップロックに戻す。
じゃないと匂いが消えてしまうから。
ああ、黒羽くん。
黒羽くん。黒羽くん。黒羽くん。
好き、好き好き。
抑えてた気持ちが溢れ出しそう。
……もしブラックなら、凄く嬉しい。
今度、ブラック様に会ったら匂いを嗅いでみよう。
「えへ……えへへ」
ピロン【ブラックの配信が始まりました】。
「あ、……ちょっとだけ、ちょっかいだしてみようかな」
私が配信を始めた本当の理由、それは、黒羽くんを養いたいから。
彼の家はそこまで裕福じゃないらしい。
だけど私がもっともっともっともっと人気になったら、一生一緒に暮らせる。
家から出ないでほしいし。誰とも喋らないでほしい。人目にも触れてほしくない。
ずっとずっと、私だけを見てほしい。
「――えへ、えへ黒羽くん」
彼と会うまでの私は、ただ茫然と生きていた。
だけど今は違う。黒羽くんとの将来の為に生きている、動いている。
彼に何かあったら、誰であろうと絶対に許さない。
「好き、黒羽くん。――貯金、もっと頑張って溜めるからね」
夜空を眺めながら願いを込める。
あ、寝る前にまた、匂いを嗅いで寝ようっと。
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