超人気美少女ダンジョン配信者を救ってバズった呪詛師、うっかり呪術を披露しすぎたところ、どうやら最凶すぎると話題に

菊池 快晴

文字の大きさ
上 下
5 / 52

第5話 うっかり呪術を披露しすぎてしまう

しおりを挟む
「こ……こんばんブラックだ」

 近くのダンジョンに入場し、服を着替えてスマホをセット。

 今は空中に呪力を使って、空中停止で浮かしている。
 いつもの黒いコートをばさり。
 
 だが俺の声は震えている。

 その理由は単純明快、見たこともない数の同時接続者数、30万人と書かれているからだ。
 いや、数字がどんどんと増えていっている。

 ”ブラック様キター”
 ”こんばんブラック!”
 ”まだ昼だけどこんばんはww”
 ”相変わらずカワイイ”

 か、かわいい……?
 かっこいいならまだしも、どこにカワイイ要素が……。

「可愛くはない。けど、ありがとな」

 ”反応してくれたw”
 ”コメントを読み上げてくれる神”

 それからずっと嬉しくてコメントを読み上げていたら、丁寧すぎるから大丈夫と言われた。
 む、難しい。

 だが嬉しいのも無理はないだろう。
 今までずっと一人で頑張っていたのだ。なのに今は大勢に見てもらえている。

 ただの偶然とはいえ、この奇跡をものにしないとな。

 みんなに楽しんでもらえるような配信を心がける、これは基本だ。
 と、初心者サイトにも書いていた。

 ”ブラックどうした”
 ”もしかして固まってる?”
 ”ブラック様?”
 
 いかん、考え事をすると止まってしまう悪い癖だ。
 今日は、能力を披露すると決めていた。

「問題ない。今日は俺の呪術を紹介しようと思う」

 能力を明かすのは本来良しとされていない。
 その理由は、探索者同士でもめたり、それ以外でも問題ごとがあったりするからだ。

 だが俺は第一に視聴者のことを考えたい。
 楽しんでもらいたいのだ。

 ”楽しみすぐる”
 ”カウントダウン! カウントダウン!”
 ”ブラック様サービス旺盛”

 しかし……地味な能力ばかりだ。
 楽しんでもらえるかはわからないが、できること全てをしないと、すぐに登録解除されるだろう。

 がんばブラック!

 俺はまず、道を進んで分かれ道で【あみだくじ】の能力を見せた。
 黒い糸が広がっていく。

 これには呪力の探索がついているので、罠とかもわかるのだ。

 ”……え?”
 ”罠って、専門の能力者でも見抜くの大変なんでしょ?”
 ”いや、そもそも看破能力も稀有だよ。普通は罠の存在はかからないと不可能”
 ”あみだくじって何本まだ出せるの?”

「今は十本だ。それ以上の道に出会ったことがないのでわからないがな」

 ”ブラック様!?”
 ”これ能力の一つなんでしょ?”
 ”ヤバすぎんだけど”
 ”これ一本で世界変えれるよ”

 ただ手から黒い呪力が出るだけの地味な能力だが、随分と喜んでくれている。
 ありがたい。新人には優しいと聞いたことはあるが、いい世界だ。
  
 流石、風華さんの視聴者さんたちだ。

 と思っていたら――。

 君内風華”ふふふ、凄すぎですよ”
 
 目を疑う文字が見える。
 その横には、公式のマークがついていた。

 人気すぎて偽物と間違えられないようにする特別なものだ。
 
 もちろんそれに、大勢が反応する。

 ”え、まじもんじゃんw”
 ”風華ちゃんきちぁあああああああ”
 ”マジwwww”
 ”ほらブラック様やばすぎだってw”

「あ、え、あ、――ありがとう風華」

 驚いてしまって思わずいつものようにブラック語(タメ口)で話してしまう。

 これはさすがに偉そうになってしまった。

 炎上――。
 
 ”君内風華に対してもブレないブラックかっこよすぎ”
 ”媚びないブラックに惚れた”
 ”これが、男ブラック”
 ”俺もありがとう風華、とかいいてえ”
 ”風華の株、急上昇”

 いや、どうやら大丈夫らしい。
 助かブラック……。

 君内風華”騒がせてごめんなさい。静かにみておきますね”

 ”カワイスギワロタ”
 ”俺たち今風華ちゃんと同じ空気吸ってる?”
 ”お前は四畳半のアパートで風華ちゃんは豪邸だけど”
 ”心は一つ!”

 嬉しいが、喜びすぎてもよくない。
 動画は続けよう。

「では、次の呪術を紹介しよう。ちょっと分かりやすくするために、釣り・・をするか」

 そして俺は、そのまま真っ直ぐにかけた。

 ”え!?”
 ”ブ、ブラック!?”
 ”あ、あかーん!”

 ダンジョンの基本は【おかし】だ。

 追(お)いかけない。
 駆(か)けない。
 死(し)なない。

 最後はまあ当たり前すぎるが、逃げた魔物の止めを差すのも危険とされている。
 その先に大勢がいたりするし、罠も避けられないからだ。

 何より一番ヤバイのは、駆けない。

 魔物は人間を見つけたら追いかけてくる。魔物によっては永遠と。

 そして罠もある。だからこそこの二つは基本だ。

 まあ、俺にはあまり関係ないが。

 ”え、なにしてんの!?”
 ”ブラック様、魔物が凄いことになってますけど!?”
 ”え、、え、え、え、えどいうこと”
 ”大名行列すぎるだろ。ヤバすぎ”

 この時間、誰もいないことは確認済みだ。
 後ろには、わらわらと魔物が追いかけてきている

 昔、こういうジャンケンの催し物があったな。
 勝てば後ろについて、ムカデみたいに行進する奴だ。

 めちゃくちゃおもしろいのに、大人になるとやる機会ゼロなんだよな。

 ふふふと思い出し、笑えてきた。

 ”こいつ、笑ってやがる……”
 ”ブラック様、ヤバすぎ”
 ”これが、ブラックの本性”
 ”魔物なんて、ブラックにしたらただの雑草なのか?”

 君内風華”素敵”

 読み上げボットがなぜか「うはあああああああ」だらけになっている。
 誰かが何か言ったのだろうか?

 魔物の声で聞こえなかった。
 俺としたことがいかん。気を付けよう。

 そして大きな部屋に到着。
 魔物が大勢ついてきている。大体百体くらいだろうか?

「さて、いきます。――陰陽五行いんようごぎょう

 俺の呪術は、歴史に基づいている。
 色々なまじないや陰陽術、仙術、方術、それがひとくくりになっている感じだ。

 地面に手を翳すと、黒と白の模様が広がって、ぐるぐると回転しはじめた。

 俺が持っている呪術の中でもできるだけ派手なのを選んだ。

 ”なにこれなにこれ”
 ”こんなデカい陣初めて見た”
 ”なんか、魔物の様子がおかしくない?”
 ”よわって……る?”

「これは、敵対象にを与えてる。そしてその分、俺に加護を与える技だ。魔法抵抗力、防御力、攻撃力、免疫力、全てが低下、そしてそのすべてが俺に付与される」

 敵が多ければ多いほど有利になる技だ。
 あんまり使うことはないが、まあ使い勝手はいい。

 なんかコメントがとまった?
 ラグかな?

 あちゃー、これも地味だったか。

「さて、とどめいきます」

 次の瞬間、俺は【刀印】右手と人差し指をピンと立て、全魔物に呪いを付与――【金縛り】を与えた。
 対象の動きを固める技だ。

 最後に【死の宣告】。
 弱っているからだろう。秒数がほぼ全員10秒だった。

 静かに読み上げる。

「5-4-3-2-1-0――」

 同時に倒れ、轟音が響いた。
 あまりのうるささに俺も驚く。

 配信のみんなもびっくりしたかもしれない。

 音がデカいとうざいと思われ、登録者も解除されるかもしれない。
  
 やってしまった……。

「ま、こんなもんだ」

 だがかっこつけなければ……。
 その時、通知が――一気に鳴り響いた。

 ”え、ええええええええええええええ”
 ”おいおい何だよ今のコンボ!?”
 ”え、なにこれどうやったの!?”
 ”手順もそうだけど、呪力量どれだけあるんだ?”
 ”ブラック様凄すぎるだろwwwwwww”
 ”奇跡の動画だろ”
 ”なんだこれ、ブラックヤバすぎね?”


 ……良かった。

 どうやら音について言及されていないらしい。

 だが流石の俺も呪力を使いすぎたかもしれない。
 少しだけ疲れた。今日はこのくらいでいいか。

 みんな優しいな。こんな地味な配信を見てくれるなんて。

「ありがとう。みんなが見てくれるからこそ、俺は頑張れた」

 ”献身ブラック”
 ”飴と鞭すぎる”
 ”正直惚れた”
 ”ブラック様かっこよすぎ”
 ”ありがブラック”

 丁寧に感謝を伝え(ブラックっぽく)配信を閉じる。
 最後に配信接続数70万人878人と書いてたような気がするが、多分見間違いだろう。

 
 その日、寝る前にニュースを開いたのだが、君内風華の今一押しはブラック。
 という文言が見えた。

「――ブラックコーヒー飲めるのか。すげえな、大人だな」

 人気配信者でキレイで、更に丁寧にお礼まで言う。

 すごいな、でももし俺がブラックだとわかったら落ち込むだろうな。

 ……夢を壊さないでおこう。

 そう思うながら、眠りについた。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~

ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。 玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。 「きゅう、痩せたか?それに元気もない」 ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。 だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。 「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」 この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。

キモオタ レベル0★世界最弱のオタク高校生の僕だけレベルアップ!美女に囲まれハーレム青春物語

さかいおさむ
ファンタジー
街中にダンジョンが現れた現代日本。 人々には戦士としてのレベルが与えられる。 主人公は世界最弱のレベル0。 レベルの低さに絶望していたある日、戦士のレベルの10倍の強さになるというボスが現れる。 世界で倒せるのレベル0の主人公だけ。 ダンジョンで戦うことは諦めていた主人公だが、その日から自分だけがレベルアップできることに。 最強戦士になって、美女の仲間たちとダンジョンの秘密を解き明かす。

削除予定です

伊藤ほほほ
ファンタジー
削除します

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

記憶喪失の逃亡貴族、ゴールド級パーティを追放されたんだが、ジョブの魔獣使いが進化したので新たな仲間と成り上がる

グリゴリ
ファンタジー
7歳の時に行われた洗礼の儀で魔物使いと言う不遇のジョブを授かった主人公は、実家の辺境伯家を追い出され頼る当ても無くさまよい歩いた。そして、辺境の村に辿り着いた主人公は、その村で15歳まで生活し村で一緒に育った4人の幼馴染と共に冒険者になる。だが、何時まで経っても従魔を得ることが出来ない主人公は、荷物持ち兼雑用係として幼馴染とパーティーを組んでいたが、ある日、パーティーのリーダーから、「俺達ゴールド級パーティーにお前はもう必要ない」と言われて、パーティーから追放されてしまう。自暴自棄に成った主人公は、やけを起こし、非常に危険なアダマンタイト級ダンジョンへと足を踏み入れる。そこで、主人公は、自分の人生を大きく変える出会いをする。そして、新たな仲間たちと成り上がっていく。 *カクヨムでも連載しています。*2022年8月25日ホットランキング2位になりました。お読みいただきありがとうございます。

異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。 異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。 せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。 そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。 これは天啓か。 俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。

借金背負ったので死ぬ気でダンジョン行ったら人生変わった件 やけくそで潜った最凶の迷宮で瀕死の国民的美少女を救ってみた

羽黒 楓
ファンタジー
旧題:借金背負ったので兄妹で死のうと生還不可能の最難関ダンジョンに二人で潜ったら瀕死の人気美少女配信者を助けちゃったので連れて帰るしかない件 借金一億二千万円! もう駄目だ! 二人で心中しようと配信しながらSSS級ダンジョンに潜った俺たち兄妹。そしたらその下層階で国民的人気配信者の女の子が遭難していた! 助けてあげたらどんどんとスパチャが入ってくるじゃん! ってかもはや社会現象じゃん! 俺のスキルは【マネーインジェクション】! 預金残高を消費してパワーにし、それを自分や他人に注射してパワーアップさせる能力。ほらお前ら、この子を助けたければどんどんスパチャしまくれ! その金でパワーを女の子たちに注入注入! これだけ金あれば借金返せそう、もうこうなりゃ絶対に生還するぞ! 最難関ダンジョンだけど、絶対に生きて脱出するぞ! どんな手を使ってでも!

処理中です...