エロゲーの悪役に転生した俺、なぜか正ヒロインに溺愛されてしまった件。そのヒロインがヤンデレストーカー化したんだが⁉

菊池 快晴

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第二十七話 文化祭が破壊されてしまった件

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 教室に近づいた瞬間、叫び声が聞こえた。
 廊下に人が溢れている。

「燐火、未海、知宇、えーと誰だっけ、悪童くん大丈夫か!?」

 クラスに入った瞬間、戦慄が走る。
 
 一生懸命作った装飾は全て引きちぎられて、机と椅子が散乱している。
 窓ガラスも割られていた。

 しかしそこに犯人たちの姿はなかった。

 六島灯はなぜここまで……。

 その瞬間、脳裏に原作の記憶がフラッシュバックのようによみがえる。

『ぎゃっはは、おい天堂! 真面目にやってんじゃねえよ!』
『いいねえ、藤堂! アンタさすがだよお!』

 ……俺と六島灯が、教室をめちゃくちゃにしている。
 そうか、本当なら、俺はここで同じように破壊するのだ。
 だが、ここまではしないはず。精々机と椅子を蹴りつける程度だった。

 ……俺が六島灯を追いつめたせいで、世界が変わったんだ。
 そのせいで、更に最悪なことになっている。

「藤堂のせいだ。あいつのせいで文化祭がめちゃくちゃに」
「最悪だ、せっかくみんなで作ったのに」
「くそ! 藤堂さえいなければ……」

 俺を現実に引き戻したのは、クラスメイトの罵倒だった。
 黒板を見ると、六島灯が書いたであろう挑戦状が書かれていた。

 藤堂、近くの公園で待ってるから、こいと。

「充っち、いったらあかんで……」
「燐火さん、大丈夫ですか!?」

 ふと視線を下げると、燐火が倒れていた。
 未海が傍にいて介護していた。

「燐火! やられたのか!?」
「ちょっと押し倒されただけや、怪我はしれへん」
「私たちのために……守ってくれて……」

 クソ、なんてことだ。なんてこんなことに。

「藤くん、ざあこどもをやっつけにいこう。ボクも許さない」

 知宇は今までにないほど怒りをあらわにしてた。
 色々と募ることもあるのだろう。だが――。

「危険すぎる。俺だけ行ってくる。お前らはここで待ってろ」
「そんな……」
 
 知宇は肩を落として項垂れた。
 そういえば、悪童の姿がない。

「悪童は急いで追いかけたんや、許さんって」
「そうか……」

 うーんでも、悪童くんなら何をされたっていい。
 腕の一本や二本、足の一本や二本。

 いや、嘘ごめん。
 ちゃんと悪童くんも守らないと。

「藤堂!」

 その時、司が現れた。用事で外に出ていたらしい。
 事情を説明すると、歯がゆそうに机を叩いた。

「くそ! ……行こう、藤堂」
「ああ」
「私も行きます。連れていってください」

 その時、ひよのさんが両手を広げて前に出る。

「危険だ、行かせられない」
「嫌です。私はこう見えて強いのです」
「ダメだ! 危険――」
「勝手に着いて行きますよ!」

 ひよのさんの瞳は真剣だった。こうなれば、もう動かないだろう。
 時間がない。

「……行こう」

 なんちゃら凛先生は警察に連絡しようとしたが、流石にそれはダメだと司が止めた。
 警察沙汰になれば、恐らく俺が不利になるのかもしれない。
 最悪退学、それを避けてくれたのだろう。

 そして俺たちは公園に向かった。

 ◇

「BL、大丈夫か? ワシのせいですまんな……」
「ふっ、君の為なら大丈夫さ」

 物陰からBLと悪童くんを発見した。
 周りには六島灯一味が俺を待っている。

 ひーふーみーよー、くそ、かなり大勢だ。

「悪童くんを助け出すには、彼らの前に姿を晒さなきゃならない」
「私が耳打ちすれば一発です。やりましょうか」
「いや、あいつらもあそこまでやったんだ。何を言うか知らないが、今までと同じでは危険すぎる」

 おそらくだが、世界が原作を守ろうとしているのかもしれない。
 俺が行かないと、世界は変えられないだろう。

「二人は後ろで見ていてくれ。隙があったら、BLと悪童くんを頼む」

「藤堂!」
「充さん!」

 二人の制止を払いのけ、俺は歩き出す。


「おや……あんた、一人で来たのかい?」

 六島灯が、俺を見つけて嬉しそうに笑みを浮かべた。

「ああ、二人を放してくれ」
「おやおや、虫が良すぎるんじゃないのかい? 私たちは退学になったんだよ?」
「じゃあ、どうすればいい?」
「ふうん、じゃあ土下座しな

「あにぃ! ワシの為にそんな!」

 土下座? 土下座だと?

「極悪非道、最強最悪、藤堂充が土下座なんてするのなんてありえないよねえ。ほら、やってみ――」
「……二人を、放してくれ」

 そして俺は、地面に頭を擦りつけた。
 このくらいで円満に終わるなら、何でもない。
 俺が藤堂充? 極悪非道? 違う。

 俺は皆が大好きな、ただの男だ。

「ぎゃっはは、見てみろよ、やべえこいつ」
「ほら、カメラカメラ、撮影撮影」
「六島灯さんやっるー!」

 周囲の不良が喜んでスマホを向けた。これでいい、俺の評判がいくら下がろうが問題ない。
 それで皆が助かるのなら。

「藤堂……あんたがそんな情けなかったとはね」

 六島灯が俺に近づいてくる。

「ほら、もっと地面を舐めるようにしな!」

 頭に足を踏みつけようとした瞬間、誰かが庇ってくれた。

 それは、ひよのさんだった。

「くっ……」
「邪魔なんだよ、てめえ!」
「充さんには、手を出させない!」

 ありえない。いくら女性とはいえ、ひよのさんに蹴りを入れるなんて――。

「てめえ!」

 俺は起き上がって、六島灯の胸ぐらを掴んだ。
 スマホで撮影されているが、関係ない。

 こいつだけは、ぶん殴らないと気がすまない。

「藤堂、駄目だ! そんなのが世に出回ったら!」

 司が、こっちに走って来る。不良どもが前に立ち塞がっていた。

 ここで殴りつけたら、間違いなく退学になるだろう。
 ネットに出回れば、俺は……。

「ほら、やりなよ。私はもう何もないんだ。やれよ」

 そうか……これは六島灯の罠だ。
 ひよのさんのことをこいつは知っている。ピンチの時、手助けすることもわかっていた。
 代わりに俺が激怒することも。

「お前ら、その女を殴りな! 囁かれても、何言われても無視するんだよ!」

 ――我慢ができない。
 メイド喫茶を破壊して、燐火を、未海を、知宇を、ひよのさんを。
 悪童くんとBLはいいけど、いや、良くない。
 
 俺の仲間を……。

「ちきしょう!」

 拳を強く握る。
 腹の底からふつふつと湧き上がる感情。
 前世で、味わっていた無力。
 だが今なら、今ならぶち壊せる。

 ――くそ。

「……な、何をやってるんだ」

 俺は、胸ぐらを外し、ひよのさんの体を強く抱きしめた。そして亀のようにしゃがみ込んだ。

「くそ! ほら、お前らやりな!」
「があっぐ……」

 男たちが、背中を蹴りつけてくる。それでも、俺は動かない。動くわけがない。
 俺のために、ひよのさんは身を挺してまもってくれた。

 暴力はダメだ。何も生み出せない。

「充さん、駄目です!」
「……嫌だ。どかない」 

 痛い、痛い、痛い。
 だけど、絶対に――ここから離れない。

 そして――。

「充っち! 助けにきたで!」
「わ、わたしも……」
「ざあこ♡ ども! ばーかばーか!」

 その時、いつもの声がした。燐火、未海、知宇だ。
 来るなといっていたのに……。

 次の瞬間――警察のサイレンが鳴り響く。

「なぜだ!?」

 誰かが通報したのだろう。
 あまりに騒ぎが大きくなりすぎていた。
 すぐにパトカーが現れた。

「ちっ、まずいよ! 逃げるよ!」

 不良どもは蜘蛛の子を散らしたように逃げ回ったが、大勢が逮捕される。
 そして、なぜか俺にも。

「藤堂、またお前か」

 この映像、どこかで見たことがある。
 これは――最後のエンディング、藤堂充が……終わってしまう時のだ。

「違います! 彼はやっていません!」
 
 ひよのさんが必死に前に出て説得すしてくれた。
 だが、俺の名前は警察内でも知れ渡っていたらしい。
 事情を聴くだけだからといい、取り合ってくれなかった。

 皆の前で俺はそのまま連れて行かれてしまった。

 皆と一緒にいたかった。

 だが、何もかも……失った。

 ◇

 俺は何もしていないと伝えたが、ただメモを取られるだけだった。

 一人取り残された個室、取調室で、天井を見上げる。

 何もかも無駄だったのか?

 これが、俺の結末だったのか。

 
 ドンドンドン。


 ドンドンドン。


 足音が聞こえ、近づいてくる。

 次の瞬間、扉が勢いよく開いた。

「みつにぃ!」
「充、大丈夫か!?」
「充ちゃん!」

 現れたのは、家族だった。
 夜宵が、俺に抱き着いてくる。

「ど、どうして……?」

「事情を聞いてきたんだ。ほら、外に出るぞ」
「え? でも、俺……」
「もうわかってる。問題ない」

 丁寧に誘導され、半信半疑で外に出た。

 そこに待っていたのは今までの仲間たちだった。

「充っち! 大丈夫か?」
「藤堂君、大丈夫ですか?」
「藤くん、よかったあ……♡」
「あにぃ! わしが不甲斐なくてすいません!」
「子猫ちゃん、良かったよ」

 燐火、未海、知宇、悪童、BL。

「おかえり、藤堂」
「おかえりなさい、充さん」

 そして司と、ひよのさん。

「お前ら……」

 皆が俺の為に警察、学校に駆け寄ってくれたらしい。
 なんちゃら凛先生も頑張ってくれたらしく、家族も必死になってくれたとのことだった。

「ありがとう……皆……」

 俺の破滅は――完全に回避されたのだ。
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