エロゲーの悪役に転生した俺、なぜか正ヒロインに溺愛されてしまった件。そのヒロインがヤンデレストーカー化したんだが⁉

菊池 快晴

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第十八話 藤堂充はやっぱり悪役だった件

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 俺――藤堂充がこの世界に来てから数ヵ月が経過した。
 桜はすっかり枯れ落ち、距離感を確かめ合っていた同級生たちもグループが出来上がるくらいには仲良くなっている。

「ねえ、天堂くん今度あそぼうよ~」
「天堂お! どうしてレイカとだけ遊ぶのよお!」
「司ちゃんは、あたしとモールに行くもんねー!」

 元主人公と言うべきなのか、天堂司《てんどうつかさ》くんはその中でも中心的な人物になっていた。
 ここは原作通り、俺と絡んでいない女子がハーレムを作っている。

 可愛くてスタイル抜群のレイカ、ツンデレのミミ、妹キャラのマナが勢ぞろい。
 どれも原作ではメインの攻略ルートとなりで人気も高いが、そこに正ヒロインが入っていないことに違和感を覚える。

 陽陰学園の姫――結崎ひよのさんだ。

 彼女はクラスメイトでも一目置かれた存在。
 とはいえ、天堂司と絡むことはほとんどない。
 それは燐火と未海、知宇もそうで、興味がないと口揃えている。

 間違いなく俺の影響で原作を破壊しているとも言える。

 一《いち》登場人物になっていることは嬉しいが、モブキャラのように眺めていたかったというのも事実。
 とはいえ、それを許されないのは俺がこの世界で破滅を待つばかりの悪役だからだ。

 小さなピンチは行くとどなく乗り越え、大きなピンチも乗り越えてきた。


 そして今日、俺はまた大きなイベントを迎える。
 実はけっこ―、いや、かなり緊張している……。

「充さん、今日はもの凄い形相してますね」
「え? ああ、そうかな。ちょっと考え事をしててね」

 どうやら表情にも出てしまっていたらしい。
 だが俺の視線は、天堂司に向けられている。

 実はこの日、彼と俺はひと悶着を起こすのだ。
 そこで俺はクラスメイトから責め立てることになる。

 その理由はというと――ほら、はじまった。

「ねえ、ここに置いてた私の体操服知らない?」

 一人の女子生徒が、何気ない一言を言い放つ。
 次第にその輪が大きくなっていく。
 当然、その耳は天堂司に入った。

 犯人捜しとまでは行かないが、どこにあるだろうと探しはじめる。

 どこかに落ちてないか、誰かが間違えていないか、それとも……意図的か。
 そして順番通りに訊ねて、ついに天堂くんは俺の所へ来た。

「……藤堂君、彼女の体操服知らない?」

 原作通りであれば「あ? 邪魔な場所にあったから外に投げ捨てといたぜ」だ。

 そして俺は――。

「邪魔な場所にあったから外に投げ捨てといたぜ」

 原作通り、舌を巻きながら言った。

 ◇

「分かってたけど辛いな……」

 放課後、屋上で項垂れていた。
 精神的なショックが大きい。

 あの後俺は、周りからもの凄い勢いでバッシングを受けた。
 最低最悪、やっぱり藤堂だと。

 ちなみに本当に窓の外には、体操服が落ちてあった。
 草むらに引っかかっていたので、取るのも大変だったらしい。

 危険を顧みず、天堂くんがなんとか持って帰って来た。

 当然、俺――藤堂充は悪口、陰口のオンパレード。
 まあ、最低だよな。

「はあ……」

 大勢の目に晒されること自体きついというのに、罵倒と陰口で、吐き気がする。
 ひよのさん、燐火、未海の表情もかなりきつい顔をしていた。

 何をどう感じたのかはわからないが、想像もしたくない。

「――充さん、大丈夫ですか?」
「……ひよのさん?」

 気づくと、隣にひよのさんが立っていた。
 俺と同じく、屋上から外を眺めながら言った。

「大丈夫とは……」
「だって、辛かったでしょう?」

 心臓が、ドクンと鳴った。
 なぜ、どうして? おかしいだろ。
 俺が辛い? どうしてそう思う?

「意味がわからないな……辛いってなんだ?」
「どう見ても辛そうじゃないですか。クラスメイトの暴言だったり、陰口だったり。私も擁護しようと思ったんですが、余計に酷くなるとおもいまして」
「擁護? 何を言ってるんだ?」

 わけがわからなかった。俺は「邪魔だったから外に捨てたぜ」と全員に聞こえるように言ったのだ。
 当然ひよのさんの耳にも入っているはず。
 それなのに擁護?

「だって、充さんがそんなことをするわけがないと知っています。たとえそうだったとしても、何か理由があったか、それとも相手に非があるのでしょう?」

 突然顔を向けて、ひよのさんは涼しい顔で髪をかき上げる。最後に、ニコリと笑顔を浮かべた。
 無条件で俺を信じてくれて、更に相手が悪かったのなら味方になりますよ、と言ってくれているのだ。
 
 ありえない、どうしてそこまで……。

「……理由もなかったとしたら? ただ、ムカついただけとか」
「そうですね。その場合は一緒に謝りにいきましょう。人間生きていたら機嫌悪い時もありますし」
「どうしてそこまで俺の味方を?」
「今までの充さんを知っているからです。不良から私を助けてくれたこと、燐火さんの悪い行いを止めたこと、未海さんの性格を明るくさせて、知宇さんの不登校を救って、盗撮魔をも捕まえました。そんな優しい充さんのどこに疑う余地があるというのですか?」

 透き通った声とまっすぐな瞳。
 俺が思ってた以上に、彼女は思慮深く、素晴らしいヒロインだ。
 初めから……説明しておけばよかったな。

「ありがとう……ひよのさん。でも今は……何も聞かないでくれないか」
「はい♪ でしたら帰りましょうか?」

 何も言わず、何も聞かず、ひよのさんは俺に手を差し伸べてくれた。

 ◇

 一週間後、天堂くんが俺を裏庭に呼び出してきた。
 怪訝そうな顔で、訊ねてくる。

「藤堂くん、どうして嘘をついた?」
「……何がだ?」
「君が体操服を捨てたわけじゃないんだろ? さっき、同じクラスの女子生徒が僕に伝えてくれた。あれは――私がしたと」
「ふん、知らねえな」

 そう、俺は嘘をついた。
 これは原作通りなのだ。

 必要不可欠の、負けイベントとでも言おうか。

 仮に体操服を捨てられてしまった女子生徒をA。
 外に捨てた女子生徒をBとしよう。

 Bはたまたま落ちていたAの体操服を見つけてしまい、それを移動させようと思い運んでいたが、体勢を崩して倒れてしまう。
 その拍子にストンと手から体操服が抜け落ち、外に落ちた。

 だが、当然のようにBは事故だと言えばいいだけだ。
 とはいえ、それは出来なかった。

 なぜなら、AとBは最近喧嘩していて仲が悪かった。些細なことがきっかけだが、このタイミングでは明らかに腹いせだと思われる。
 なかなか言い出せなかったところ、Aが体操服がないと言い出したのだ。

 なぜ嘘をつくのかというと、実は藤堂はこの場面を目撃しているのだ。
 何も言えずにBがオドオドしているのに気づき、藤堂は嘘をつく。
 悪役だけど実は良い所もあるエピソードのテンプレみたいな話だ。
 

 もちろん、周りからの評判は最悪となる。
 だが、天堂くんはその事実を知って、藤堂充という人物に興味を持ち、好感度が上がる。
 そして、AとBが唯一仲良く元に戻れる選択肢でもあった。
 あそこで藤堂充が犯人はBだと言えば、誤解は解けず、AとBは絶縁関係となる。
 その二人のことも、今回は助けたかった。

 それをわかっていても、全員から最悪最低、氏ねゴミカスと言われるのは相当辛い。
 しかもこのイベントはいつ起きるかわからなかったので、対策のしようがなかった。
 体操服を落とした瞬間、気づいたということだ。

「俺は何もしらねーよ」
「……藤堂くん、ちょっと待てよ」
「じゃあな」

 打算的かもしれないが、必要なイベントだった。
 覚悟はしていたが、これでようやく肩の荷が下りた。

 とはいえ、周りからはまだ責めたてられるのは変わらない。
 二人の女子生徒はもちろん誤解だというが、藤堂充が言わせたと思うからだ。
 
「あれ……ひよのさん?」

 しかし校門で、ひよのさんが待ってくれた。

「話は終わりましたか、帰りましょう。誤解も解けたようですね」
「……全部知ってたのか?」
「どうでしょうか、二人の女子生徒が喧嘩せずに仲直りしたことは知ってますけど」

 脱帽だ。どうやらひよのさんに隠し事は出来ないらしい。

「完敗です」
「ふふふ、やっぱり充さんは素敵ですね」

 しかし、周りからの評判は下がった。
 皆にも、悲しい思いをさせ――。

「充っち! かえろやー!」
「ふ、藤堂くん……お疲れ様です」
「ばあかばあか♡」
「あにぃ! 行きましょうや!」

 燐火、未海、知宇、悪童くんが、前から現れる。

「な、なんでオマエラ……いや、お前ら……」

「ほんまはすぐに擁護しようとと思ってんけど、ひよのさんが今は充っちのために静かにしてって!」
「……はい。だ、だから全部知ってますよ」

 なるほど、俺が何かしようとしていたのはわかっていたからこそ、周りを止めておいてくれたのか。
 そして俺がやりたいことを分かった上で、皆も黙っていてくれたと。

「ふ……ありがとうな。――じゃあ帰ろうか」

 これからも何度かイベントは訪れるだろう。
 けれども、周りの仲間たちがいれば、全てを乗り越えられるはずだ。

「充さん、ご褒美は?」
「はっ、じゃあ。帰るか」
 
 おもむろに手を差し出してくるひよのさん。
 俺はそれを受け取った。

「あー! ずるい! うちも!」
「わ、私も……」
「ボクも! ボクも!」
「あ、あにぃ! わ――」
「悪童、テメェはダメだ」

 帰り道、俺はこの世界がより好きになった。

 一歩下がって、四歩進んだ――気がした。


 
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