エロゲーの悪役に転生した俺、なぜか正ヒロインに溺愛されてしまった件。そのヒロインがヤンデレストーカー化したんだが⁉

菊池 快晴

文字の大きさ
上 下
5 / 28

第五話 破滅は変わらないし、変わるかもしれない件

しおりを挟む
「……どうみても青空も作りもんじゃねえもんなあ」

 翌日の昼休み。

 昨日は、何とか無事に初日を終えた。
 家族の仲も良好だが、クラスメイトは俺にびびってまもとに会話をしてくれない。

 そのため、屋上で空を見上げながら、購買で購入したサンドイッチをハムハムしていた。
 本来は鍵がかかっているのだが、近くの箱の上に置いてあるのを知っている。

 所謂、アイテムのようなものだ。

 思考を色々纏めてみよう。

 まず、俺――藤堂充《とうどうみつる》は最終的に破滅する。
 それにはいくつかのルートがある。
 一家離散、退学、そして――死。

 最後は考えたくもないが、事実なのだ。

 極悪非道にならないように、俺は世界を改変する必要がある。

 しかし元主人公の天堂司《てんどうつかさ》が、明らかにゲームでは見せない表情を浮かべていた。
 心に――不安が残る。

 これから色々なイベントがあるはずだ。その度に、本来の俺は揉め事を起こす。
 それを全て防ぎ、安定した未来を獲得する。

 これは俺の願望だが、できればハッピーエンドを迎えたい。
 天堂くんにはひよのさんと仲良くなってほしいし、様々な需要なキャラクターとも絡んでほしい。

 俺自身は自重しながらも、最高のルートを選択。

 ……できるのかなあ。

 その時、青空を一凛の花が視界を遮る。

 いや――結崎ひよのさんの顔だ。

「ここにいたんですか」
「え、うわああ!」

 思わず驚いて後ずさり。ひよのさんは悲しそうな表情を浮かべる。

「ひどいです。どうして離れるんですか?」
「い、いやびっくりしただけだ」

 どこからともなく突然現れる。というか、鍵はもう一度締めていたはずだが……。

「なんでここに?」
「そこに充さんがいるからです」

 当然のように返されるが、まったく答えになっていない。
 もしかしてGPS? 俺の体にタグかなんか付いてる?

「追跡装置は付けてませんよ。付けてもいいですけど」

 どうやらバレてしまったらしい。鋭い。

「じゃあどうやってわかったんだ?」
「企業秘密です」

 怖い、こんな……人だっけ?
 あれ、というか、手に何か持っている。
 お弁当――のような。

「健全な男子高校生はそのくらいじゃ足りませんよね。お弁当を作ってきました」
「……誰のために?」
「決まってるでしょう、充さんです」
「は、はあ……」

 嬉しいが、嬉しいが、なんだか不安も。
 中を開けてくれると、そこにはみかんがぎっしり詰まっていた。

 そういえば……好きな食べ物を聞かれていた。
 もしかして、そのために?

 そして、皮も剥かれている。

「ありがたいが……みかんだけ?」
「違います。ちゃんと本命もあります」

 もう一つの玉手箱、そこにはギッシリと男子の夢が詰まったようなオカズが並べられていた。
 元主人公に悪いと思いつつ、さすがに誘惑には勝てない。

「……いただきます」
「はい♡」

 ひよのさん、やはり目がハートですよ。

 ◇

「ふう、うまかった。ありがとうな」
「いえ、美味しく食べてもらって、ご飯も喜んでいます」

 この独特な言い回しは、ひよのさんそのものだ。行動は原作と違うが、根本は変わっていないみたいだった。

 ぽんぽん、ぽんぽん、ひよのさんは、正座しながら自らの膝を叩く。

「どうぞです」
「どうぞです?」
「健全な男子は、ご飯を食べたらゆっくりしてください」

 ひよのさんの柔らかそうなふとももが視界に入る。何とも言えない魔力、真っ白い太もも。
 妖艶な瞳に、ほのかに香るシャンプーの匂い。

 誰もいないし……いいのか?

「……お邪魔します」
「はい♡」

 幸せだ、ああ、幸せだ。


 お昼の終了を告げるチャイムが鳴り響き、俺たちは別々に教室へ戻る。
 さすがに二人でいるところを見られると、どんな噂をされるのかわからない。

 ただでさえ俺はひよのさんを脅していると思われているのだ。
 これ以上、悪評を広めたくはない。


 教室へ戻ると、次は体育の授業だった。
 体操服に着替える。周囲との体つきに――自分でも驚いた。

 前世では比べものにならないほどの筋肉質。しかし、傷が無数についている。
 家ではまじまじと見ていなかったので、他人の体という感覚が拭えない。
 
 しかし、どこか一体感もある。

「ほらほら! 行くぜ!」

 天堂司《てんどうつかさ》は、サッカーの授業で明らかに異質を放っていた。
 プロサッカー選手かとまごうほどのボール運び、運動神経に自信がある男たちをごぼう抜き。

 ああ――恰好いい。

 俺のああなりたい、彼みたいな人生を歩んでみたいと、感情移入していた。

 そして俺にボールが回ってくる。

「げ……藤堂」
「ひーこええ」

 周囲がざわつく。いや、授業中だよ!? 別に良くない!? ボールで殺人事件なんて起こさないよ!?
 と思ってたら、天堂くんが鋭い動きで俺に近づいてくる。

 盗られたくないと、俺も鋭く動いた。
 いつもより体が動く感覚、運動神経が大幅に向上している。

 あまりの楽しさに、笑みを浮かべた――「ぐがああああああ」

 次の瞬間、天堂くんが思い切り倒れ込んだ。俺……当たってないよな?
 そのまま周囲がざわめき、保健委員が連れて行く。

 当然、俺はわざとやったんだと思われているだろう。
 違う、当たっていない。

 ◇

 結局、俺の評判は地に落ちた。
 
 やっぱり噂通りだったのかと、周囲からの悪評は更に酷いことになっただろう。

 ネガティブなワードが頭に残る。

 運命は変えられないのか? それとも、俺はまた引き籠るべきなのか。
 家から一歩も出ないで、また窓から人を眺めるだけの人生?
 
 せっかく……生まれ変わったの――

「帰りましょう、充さん」
「……今の俺に話し掛けると、火傷するよ」

 少しキザかもしれない。いや、自分の保身かもしれないが。

「? どういうことですか?」
「いや、俺と仲良くしてたら評判が悪くなるよってこと」
「そんなの関係ありませんよ。私は知ってますから、充さんのこと。サッカーのことだって聞いていますが、ただの事故でしょう? 気に病む必要なんてありませんよ」

 ……ひよのさんは、俺のことを理解してくれている。
 ゲームでも、彼女は大和撫子のような女性だった。彼女なら――本当の俺を受け入れてくれるのかもしれない。

「はい、行きますよ」

 突然、俺に手を差し出す。

「手?」
「下校は手つなぎでしょう」

 こういう天然なところも、ゲーム通りだ。

「ちょっとまったあ!」

 振り返ると、昂然燐火《こうぜんりんか》がそこにいた。

「藤堂はうちと手を繋いで帰るんや、結崎っちはそもそも帰り道も違うやろ?」
「そんなことはありません。私のルートには充さんの家の前を通るコースが組み込まれていますから」

 現れるやいなや、ひよのと目をばちばちさせる。
 俺は、ふと笑みを浮かべた。

 わかってくれる人もいる。だからこそ、諦めない努力をしよう。
 破滅を回避するために、一生懸命に。

「どっちとも手を繋がねえよ……ほら帰るぞ」

「そうですね、燐火さんを放っていきましょう」
「な!? うちも帰るわ!」

 前世のような寂しい思いはしたくない。
 俺はこの世界で――幸せを手に入れる。



 後出来れば――まともな彼女も欲しい。
 



しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

異世界召喚されたら無能と言われ追い出されました。~この世界は俺にとってイージーモードでした~

WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
 1~8巻好評発売中です!  ※2022年7月12日に本編は完結しました。  ◇ ◇ ◇  ある日突然、クラスまるごと異世界に勇者召喚された高校生、結城晴人。  ステータスを確認したところ、勇者に与えられる特典のギフトどころか、勇者の称号すらも無いことが判明する。  晴人たちを召喚した王女は「無能がいては足手纏いになる」と、彼のことを追い出してしまった。  しかも街を出て早々、王女が差し向けた騎士によって、晴人は殺されかける。  胸を刺され意識を失った彼は、気がつくと神様の前にいた。  そしてギフトを与え忘れたお詫びとして、望むスキルを作れるスキルをはじめとしたチート能力を手に入れるのであった──  ハードモードな異世界生活も、やりすぎなくらいスキルを作って一発逆転イージーモード!?  前代未聞の難易度激甘ファンタジー、開幕!

クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした

コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。 クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。 召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。 理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。 ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。 これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。

スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜

東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。 ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。 「おい雑魚、これを持っていけ」 ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。 ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。  怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。 いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。  だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。 ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。 勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。 自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。 今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。 だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。 その時だった。 目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。 その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。 ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。 そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。 これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。 ※小説家になろうにて掲載中

召喚学園で始める最強英雄譚~仲間と共に少年は最強へ至る~

さとう
ファンタジー
生まれながらにして身に宿る『召喚獣』を使役する『召喚師』 誰もが持つ召喚獣は、様々な能力を持ったよきパートナーであり、位の高い召喚獣ほど持つ者は強く、憧れの存在である。 辺境貴族リグヴェータ家の末っ子アルフェンの召喚獣は最低も最低、手のひらに乗る小さな『モグラ』だった。アルフェンは、兄や姉からは蔑まれ、両親からは冷遇される生活を送っていた。 だが十五歳になり、高位な召喚獣を宿す幼馴染のフェニアと共に召喚学園の『アースガルズ召喚学園』に通うことになる。 学園でも蔑まれるアルフェン。秀な兄や姉、強くなっていく幼馴染、そしてアルフェンと同じ最底辺の仲間たち。同じレベルの仲間と共に絆を深め、一時の平穏を手に入れる これは、全てを失う少年が最強の力を手に入れ、学園生活を送る物語。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

~最弱のスキルコレクター~ スキルを無限に獲得できるようになった元落ちこぼれは、レベル1のまま世界最強まで成り上がる

僧侶A
ファンタジー
沢山のスキルさえあれば、レベルが無くても最強になれる。 スキルは5つしか獲得できないのに、どのスキルも補正値は5%以下。 だからレベルを上げる以外に強くなる方法はない。 それなのにレベルが1から上がらない如月飛鳥は当然のように落ちこぼれた。 色々と試行錯誤をしたものの、強くなれる見込みがないため、探索者になるという目標を諦め一般人として生きる道を歩んでいた。 しかしある日、5つしか獲得できないはずのスキルをいくらでも獲得できることに気づく。 ここで如月飛鳥は考えた。いくらスキルの一つ一つが大したことが無くても、100個、200個と大量に集めたのならレベルを上げるのと同様に強くなれるのではないかと。 一つの光明を見出した主人公は、最強への道を一直線に突き進む。 土曜日以外は毎日投稿してます。

異世界で美少女『攻略』スキルでハーレム目指します。嫁のために命懸けてたらいつの間にか最強に!?雷撃魔法と聖剣で俺TUEEEもできて最高です。

真心糸
ファンタジー
☆カクヨムにて、200万PV、ブクマ6500達成!☆ 【あらすじ】 どこにでもいるサラリーマンの主人公は、突如光り出した自宅のPCから異世界に転生することになる。 神様は言った。 「あなたはこれから別の世界に転生します。キャラクター設定を行ってください」 現世になんの未練もない主人公は、その状況をすんなり受け入れ、神様らしき人物の指示に従うことにした。 神様曰く、好きな外見を設定して、有効なポイントの範囲内でチートスキルを授けてくれるとのことだ。 それはいい。じゃあ、理想のイケメンになって、美少女ハーレムが作れるようなスキルを取得しよう。 あと、できれば俺TUEEEもしたいなぁ。 そう考えた主人公は、欲望のままにキャラ設定を行った。 そして彼は、剣と魔法がある異世界に「ライ・ミカヅチ」として転生することになる。 ライが取得したチートスキルのうち、最も興味深いのは『攻略』というスキルだ。 この攻略スキルは、好みの美少女を全世界から検索できるのはもちろんのこと、その子の好感度が上がるようなイベントを予見してアドバイスまでしてくれるという優れモノらしい。 さっそく攻略スキルを使ってみると、前世では見たことないような美少女に出会うことができ、このタイミングでこんなセリフを囁くと好感度が上がるよ、なんてアドバイスまでしてくれた。 そして、その通りに行動すると、めちゃくちゃモテたのだ。 チートスキルの効果を実感したライは、冒険者となって俺TUEEEを楽しみながら、理想のハーレムを作ることを人生の目標に決める。 しかし、出会う美少女たちは皆、なにかしらの逆境に苦しんでいて、ライはそんな彼女たちに全力で救いの手を差し伸べる。 もちろん、攻略スキルを使って。 もちろん、救ったあとはハーレムに入ってもらう。 下心全開なのに、正義感があって、熱い心を持つ男ライ・ミカヅチ。 これは、そんな主人公が、異世界を全力で生き抜き、たくさんの美少女を助ける物語。 【他サイトでの掲載状況】 本作は、カクヨム様、小説家になろう様でも掲載しています。

処理中です...