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第23話 原作主人公、オリヴィア・フェルト
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アクアがいじめっ子に勝利してから、彼女の立ち位置は大きく変わっていた。
ただそれはきっかけでしかない。
彼女自身が変わったからだ。
「アクアさん、私にも防御を教えてもらえたりしないかな? 今度のテスト、不安で……」
「私でいいのなら、もちろん大丈夫だよ」
「本当? やった!」
「えーズルいよ、だったら私も!」
「俺も教えてくれよ、アクア!」
教室でそれを眺めていた俺は、とても満足だった。
原作ではなかった光景。
胸糞の悪いフラグを壊すきっかけを自らの手で創ることができたのだ。
更に俺自身も強くなれた。順調、順調すぎる――が。
「ハァッ!」
放課後、普段は誰も寄り付かない校舎裏の修練所。
人気がない理由は野外だからだ。
もっと広い設備が室内にあるので、ここを使っている奴はほとんどいない。
だが――そこには主人公、オリヴィア・フェルトがいた。
汗だくの金色の髪が揺れている。
原作と同じだが、ここを使うのは随分と後だった気がする。
その理由は、誰にも邪魔をされないからだ。
魔剣や聖剣のような構築術式は、具現化しているだけでも体力と精神力を使う。
それでも彼女が必死なのは、いや、頑張りすぎている理由はわかっている。
俺だ。
原作でこのタイミングの学年一位はオリヴィアだった。それを奪われているからだろう。
まったく、どれだけ強さに貪欲なんだ。
「右の軸がぶれてるぞ。オーバーワークは身体に悪いと教わらなかったか?」
「ハァッ、――ん? え、え、な、なんであなたがここに!?」
俺が声をかけて振り返った後、頬を赤らめながら肌を少し隠す。
……こんな奴だったか?
「おぉばあわぁくとは……なんだ?」
「頑張りすぎってことだ。たまたま校舎裏がどうなってるのか見に来たら激しい声が聞こえてきてな」
「……ここは修練所だ。そういえば、ドラゴンを退治したらしいな」
その言葉に驚いた。
まさかそれが耳に入っているとは。
俺はあえて情報を操作していたというのに。
「なんで知ってるんだ?」
「……そ、それは、いやそんなことはどうでもいいだろう!?」
「なんで濁すんだよ」
「う、うるさいぞ! そ、それより……君は凄いな」
「何がだ?」
突然にしんみりとなり、剣を下に下げる。
「ドラゴンを倒したんだぞ。あそこは町があっただろう。多くの子供達が住んでいたときく。それを撃退したのだ。――英雄だよ」
……違う。
俺は未来を知っていただけだ。
本来、その役目はお前だった。
英雄はお前だよ。
「私は将来、自らの力を使って人を助けたいと思ってる。自分が強いとも思っていたが、この学園にきて大勢の強者を知った。もちろんその中でデルクス、君は特別だ」
「褒めても何も出ないぞ」
「ああ、だが本音だ」
俺はお前の敵だ。
その根本は変えない。
未来を大きく改変したくないからだ。
行動が変わるとフラグが変わる。
ドラゴンを退治したのもその一環に過ぎない。
だがオリヴィアは本当に正義の心を持っている。
未来を変えない為にも……少しは自己肯定感を上げてもらわないとな。
「俺もお前のことを知ってるよ。北の街で修練してたことも、そこで子供を魔物から救ったことも」
「え? ふぇ、な、なんでだ!? 何で知ってるんだ!?」
「ハッ、秘密だ」
そう。こいつはやっぱり主人公だった。
原作にはなかったはずなのに、そこでまた人を助けていた。
ドラゴン退治なんかよりもずっと凄いことだ。
「俺は確かに弱くはない。そこに嘘はつかない。けどオリヴィア、お前は凄いよ。だからあんま無理すんなよ」
十分強いんだ。これ以上強くなりすぎても原作を超えてしまうだろう。
それもまた改変になりそうだしな。
「……ご忠告感謝する。あの町には私の知り合いもいた。――ありがとう」
「どういたしまして。後、俺はお前になりたかったんだよ。ずっと昔からな」
「私に……? ど、どういう意味なんだ!?」
「さあね」
慌てふためくオリヴィアを横目に去っていく。
それから少しすると彼女の掛け声がまた聞こえてくる。
原作の彼女は本当に格好良かった。
俺はずっと憧れていた。
ドラゴンを退治したときも、自分がオリヴィアになれたんだと喜んだくらいだ。
……ま、俺も頑張るか。
するとそこに、ルビィとエマが現れる。
「あら、どこいってたんですの?」
「ちょっとな」
「デルクス様、帰りに美味しいパン屋さんよっていきませんか。同級生に教えてもらったんですよ!」
「西のストリートだろ」
「どうして知ってるんですか!?」
「けど今日はパスだ。帰って訓練する」
「今からですか!? ――私も付き合いますわ」
「わ、私も!」
◇
デルクスが帰った後、修練を終えたオリヴィアが空を見上げる。
「……バレてなかっただろうか……私が彼の動向を調べていることを……う、うーん!? これって付きまといか!? やりすぎか!? ……でも……嬉しかったな。彼は、やはりかっこいいな」
褒められた事が何よりも嬉しかったのか、ニコニコと笑うオリヴィアであった。
ただそれはきっかけでしかない。
彼女自身が変わったからだ。
「アクアさん、私にも防御を教えてもらえたりしないかな? 今度のテスト、不安で……」
「私でいいのなら、もちろん大丈夫だよ」
「本当? やった!」
「えーズルいよ、だったら私も!」
「俺も教えてくれよ、アクア!」
教室でそれを眺めていた俺は、とても満足だった。
原作ではなかった光景。
胸糞の悪いフラグを壊すきっかけを自らの手で創ることができたのだ。
更に俺自身も強くなれた。順調、順調すぎる――が。
「ハァッ!」
放課後、普段は誰も寄り付かない校舎裏の修練所。
人気がない理由は野外だからだ。
もっと広い設備が室内にあるので、ここを使っている奴はほとんどいない。
だが――そこには主人公、オリヴィア・フェルトがいた。
汗だくの金色の髪が揺れている。
原作と同じだが、ここを使うのは随分と後だった気がする。
その理由は、誰にも邪魔をされないからだ。
魔剣や聖剣のような構築術式は、具現化しているだけでも体力と精神力を使う。
それでも彼女が必死なのは、いや、頑張りすぎている理由はわかっている。
俺だ。
原作でこのタイミングの学年一位はオリヴィアだった。それを奪われているからだろう。
まったく、どれだけ強さに貪欲なんだ。
「右の軸がぶれてるぞ。オーバーワークは身体に悪いと教わらなかったか?」
「ハァッ、――ん? え、え、な、なんであなたがここに!?」
俺が声をかけて振り返った後、頬を赤らめながら肌を少し隠す。
……こんな奴だったか?
「おぉばあわぁくとは……なんだ?」
「頑張りすぎってことだ。たまたま校舎裏がどうなってるのか見に来たら激しい声が聞こえてきてな」
「……ここは修練所だ。そういえば、ドラゴンを退治したらしいな」
その言葉に驚いた。
まさかそれが耳に入っているとは。
俺はあえて情報を操作していたというのに。
「なんで知ってるんだ?」
「……そ、それは、いやそんなことはどうでもいいだろう!?」
「なんで濁すんだよ」
「う、うるさいぞ! そ、それより……君は凄いな」
「何がだ?」
突然にしんみりとなり、剣を下に下げる。
「ドラゴンを倒したんだぞ。あそこは町があっただろう。多くの子供達が住んでいたときく。それを撃退したのだ。――英雄だよ」
……違う。
俺は未来を知っていただけだ。
本来、その役目はお前だった。
英雄はお前だよ。
「私は将来、自らの力を使って人を助けたいと思ってる。自分が強いとも思っていたが、この学園にきて大勢の強者を知った。もちろんその中でデルクス、君は特別だ」
「褒めても何も出ないぞ」
「ああ、だが本音だ」
俺はお前の敵だ。
その根本は変えない。
未来を大きく改変したくないからだ。
行動が変わるとフラグが変わる。
ドラゴンを退治したのもその一環に過ぎない。
だがオリヴィアは本当に正義の心を持っている。
未来を変えない為にも……少しは自己肯定感を上げてもらわないとな。
「俺もお前のことを知ってるよ。北の街で修練してたことも、そこで子供を魔物から救ったことも」
「え? ふぇ、な、なんでだ!? 何で知ってるんだ!?」
「ハッ、秘密だ」
そう。こいつはやっぱり主人公だった。
原作にはなかったはずなのに、そこでまた人を助けていた。
ドラゴン退治なんかよりもずっと凄いことだ。
「俺は確かに弱くはない。そこに嘘はつかない。けどオリヴィア、お前は凄いよ。だからあんま無理すんなよ」
十分強いんだ。これ以上強くなりすぎても原作を超えてしまうだろう。
それもまた改変になりそうだしな。
「……ご忠告感謝する。あの町には私の知り合いもいた。――ありがとう」
「どういたしまして。後、俺はお前になりたかったんだよ。ずっと昔からな」
「私に……? ど、どういう意味なんだ!?」
「さあね」
慌てふためくオリヴィアを横目に去っていく。
それから少しすると彼女の掛け声がまた聞こえてくる。
原作の彼女は本当に格好良かった。
俺はずっと憧れていた。
ドラゴンを退治したときも、自分がオリヴィアになれたんだと喜んだくらいだ。
……ま、俺も頑張るか。
するとそこに、ルビィとエマが現れる。
「あら、どこいってたんですの?」
「ちょっとな」
「デルクス様、帰りに美味しいパン屋さんよっていきませんか。同級生に教えてもらったんですよ!」
「西のストリートだろ」
「どうして知ってるんですか!?」
「けど今日はパスだ。帰って訓練する」
「今からですか!? ――私も付き合いますわ」
「わ、私も!」
◇
デルクスが帰った後、修練を終えたオリヴィアが空を見上げる。
「……バレてなかっただろうか……私が彼の動向を調べていることを……う、うーん!? これって付きまといか!? やりすぎか!? ……でも……嬉しかったな。彼は、やはりかっこいいな」
褒められた事が何よりも嬉しかったのか、ニコニコと笑うオリヴィアであった。
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