上 下
13 / 30

第13話 気づかぬうちにぶっ壊す。

しおりを挟む
 中庭のベンチから、ソードマジック学園の建物を眺めていた。
 全ての試験が終わったからだ。

 後はルビィの魔法使いの試験と、エマのメイドとしての試験が終わるのを待っている。

 剣士と違って、魔法テストは秘匿な部分が多い。
 
 1人だけ応援ができないのは申し訳ないが、二人が合格すること信じている。

 そのとき、俺を見つけた受験生たちがヒソヒソと話していた。

「あいつ、ヤバすぎだろ」
「ああ、さすがに……」
「マジで殺すつもりだったんじゃねえのか?」

 その言葉に、心がズキズキとする。

 ……やりすぎだったのか?

「ねえ」

 そのとき、ふと声を掛けられる。
 綺麗な金髪が揺れる。ハープのような声、原作主人公のオリヴィアだった。

「……なんだ?」

 なぜここに?
 すると、突然――頭を下げた。

「ごめんなさい! 私が、間違ってた」
「――え?」
「あなたの事、噂だけを聞いて鵜呑みにしてた。あの剣、あの強さ。間違いなく正義の剣だった。私にはよくわかった」

 ……驚いた。
 オリヴィアは正義感に溢れている上に真面目だ。
 にもかかわらず、たった一回の試験で戦ったことで認めてくれたとは。

 嬉しかったが、一方で返事にも困っていた。
 認められたことはいいが、あまり仲良くなりすぎると未来に影響ができるかもしれない。

 今後俺は、色んな死亡フラグを止めるつもりだ。
 そう考えると、原作主人公の行動はそこまで変わってほしくない。

 ありがとうと返したいが、それは――許されない。

「俺は俺だ。噂なんてどうでもいい」
「――そっか。君は強いんだね。――隣いい?」

 すると、突然座ってくる。
 何がしたいんだ……?

「手加減しないでくれたこと、嬉しかった。――おかげで、まだまだ強くなれるかも」

 えへへと笑った笑顔は、とても綺麗だった。
 俺はつい数時間前――彼女を叩き潰した。

『はぁっ……はぁっはぁあっ――ハアアアアアアア!』
『魔剣――飛行』

 圧倒的だった。
 俺は、自分が思っているよりも強くなっていた。

 だが彼女は血反吐を吐きながら何度も起き上がった。
 そのたびに叩き潰した。

 俺は無傷だった。一太刀も浴びせられることはなかった。

 だれそれよりもオリヴィアに驚いた。
 冷静沈着で傲慢という設定だったはずだが、そうは見えない。

 遠目から見た時は綺麗な肌だったが、今こうして近くで見ると無数の傷跡がついている。
 
 努力家なのだ。そして、間違ったことを訂正する正しい心を持っている。

 俺に負けても周りの目も気にせず声をかけてくるなんて、普通じゃできない。

 彼女は戦うのが好きだ。
 それは、原作の設定と同じだろう。

 強さの確認ができた上に、彼女からも認められた。
 これ以上は求めない。

「そうか。まあ、頑張ってくれ」
「ふふふ、自信満々だね。――それじゃあありがと、次は同級生としてよろしくね」

 そういって、オリヴィアは離れていく。
 彼女は二位だが、合格は間違いないだろう。

 筆記よりも実技が重要視されている学園で俺も一位だった。

 完璧に近い成功を収めた。

 後は原作で不満に思っていたイベントをクリアしていく。
 更に死亡フラグを回避、そして――自分自身の幸せも勝ち取る。

 まだまだこれからだ。
 けど――戦うのは思っていたよりも楽しかった。

 リミット先生、ルビィ、エマのおかげだろ――。

「……デルクス、浮気はいけませんわ」
「え? ル、ルビィ!? あれ、いつのまにエマも!?」
「金髪美少女の正統派美人、更におっぱいも大きい……これは強敵ですね、ルビィ様」
「絶対にデルクスは渡しませんわ!」
「何の話だよ。二人とも終わったのか」
「はい! 合格間違いなしですわ!」
「自信満々だなルビィ。エマは?」
「私も大丈夫だと思います。学園もみんなで一緒に登校しましょうね」
「そうか。ならよかった。――ありがとう、二人とも」

 どうやら試験に満足のいく結果だったらしい。
 内容まで聞く必要もないだろう。

 試験の結果、学園が始まるまでまだ時間もあるはず。

 さあ、次の死亡フラグを砕きにいくか。

 ――――
 ――
 ―

「――はああ……かっこよかったああ」

 デルクスと話した後、オリヴィアは物陰に隠れて頬を赤くしていた。
 圧倒的なまでの強者、更には自身をも超える努力を感じ取ったのだ。

 絶対的強さを求める彼女にとって、その感情は当然だった。

 ――カッコイイ。

「デルクス・ビルスか。噂ってやっぱりあてにならないな。反省……。次は、登校日かな」

 すべてのフラグをぶっ壊すと決めたデルクス。

 本来のオリヴィアは、誰も好きになんてならない。
 ただひたすらに強さに向かっていく。

 これこそが最大のフラグ破壊だったことは、知る由もなかった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

わたしを追い出した人達が、今更何の御用ですか?

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:404pt お気に入り:1,187

カラーメモリー『Re・MAKECOLAR』

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:938pt お気に入り:11

悪役に転生したのにメインヒロインにガチ恋されている件

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:198pt お気に入り:1,101

虹色のプレゼントボックス

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:164

婚約破棄致しましょう、あなたがいなくても困らないので

恋愛 / 完結 24h.ポイント:461pt お気に入り:601

必殺・始末屋稼業

歴史・時代 / 連載中 24h.ポイント:476pt お気に入り:4

処理中です...