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第2話 出生の秘密
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あれから数週間が経過した。
まずはお金がないので、屋敷内のを必要があるものとないものを分けることにした。
おかげで以前より綺麗になって、不要な家具が無くなった分すっきりした。
デルクスは他人にケチな上に浪費家で、よくわからないものを買う趣味があったのだが、それを全部売り払ったのだ。
一つだけ高い壺が混じっていたおかげで使用人が一人増えていた。
今やメイド長になったエマが、丁寧に教えている。
そして――。
「デルクス様……本当に剣を今まで振ったことないんですか?」
「え? そうだけど……なんか変かな?」
「い、いえ。何でもありません」
王都から剣術の先生を呼んでいた。
名前はリミット・ミルさん。眼鏡をかけた長身お姉さまって感じだ。
髪の毛は薄いピンク色で、足がスラリと長い。
俺は原作でこの人を知っていた。
凄腕の魔法剣術の使い手で、原作でも非常に有能だった。
だったのだが、なぜかその相手に驚かれている。
先生になってもらう前、独学で一週間ほど剣を振っていたが、なぜか手によく馴染んではいた。
魔剣のレベルを上げるためには、まずは基礎剣術が必要だからだ。
「とても綺麗な型です。基本から習いたいとおっしゃっていましたが……既に一定のレベルは超えているように見えます」
……もしかすると、デルクスは剣が好きだったのか?
そう考えると辻褄は合うが、原作のデルクスは雑魚で主人公どころか脇役にも勝てない最低クラスの戦闘能力だった。
……妙だな。
「少し手合わせしてみましょうか」
リミットさんの剣は少し特殊だ。細くて、レイピアに近い。
だがそれがまた見えづらい。
魔力を漲らせ硬質化して受けることもできるが、一撃で相手を倒す。
――あれ、てか木剣とかじゃ――。
次の瞬間、リミットさんの剣が、俺の耳横切る。
え?
「戦場なら死んでますよ」
どうやら思っていたよりもスパルタだったらしい。
それから本気でやってみたが、全然勝てないどころか、一撃も当たらなかった。
攻撃が空を切るだけ。
褒められたのは嬉しかったが、ただの杞憂だったらしい。
しかし訓練が終わった後、リミットさんは笑っていた。
「デルクス様……あなたには素質があります。私が――もっと鍛えてあげますよ」
「え」
不敵な笑みを浮かべ、俺を見つめていた。
一撃も与えられなかったんだけどな……。
そして汗だくのまま、次は魔力について訓練を始めることになった。
正直、魔法なんて馴染みはない。
剣は幼い頃に誰だって棒を振り回したことぐらいあるだろう。
だが幼い頃に魔法が使えた人なんていないはずだ。
感じ方も、想像もさっぱりわからない。
「魔法もまったく使えないので、ってことでよろしかったですか?」
「はい、おそらく」
「おそらく?」
「あ、いえ!? そうです!」
魔力は誰にでも内に秘められいるらしく、それをまずは感じ取ることが魔法の基礎だという。
指示通りに目を瞑る。心臓を、身体に流れる血をイメージして、そこに、魔力を感じ取る。
するとなんだか、なんだかわからないが、黒いものが身体にながらている気がした。
これが、もしかして魔力なのか?
そして――。
「デルクス様、それ――」
「え?」
気づけば、俺の周りには黒いナニカが漂っていた。
「魔力ですよ。それが」
「これが……?」
だが認識した途端、それはすぐに消えた。
「あ、やっぱり難しいね」
「何を言ってるんですか? もしかしてからかってます?」
しかしリミットさんは、目を見開いて驚いていた。
訳が分からない。
一体何が?
「魔力は普通外に溢れるものではないです。なのにその魔力量、ありえませんよ。規格外です」
「……え?」
原作でデルクスは落ちこぼれだった。
魔法もたいして使えない、剣も使えない。
だがリミットさんから言われるすべては真逆だ。
剣はよく馴染むし、魔力だって確かに感じていた。
俺が知っているデルクスとは違う……?
いや、そんなわけがない。全部同じなはずだ。
調べてみる必要があるな……。
だが――。
「またやってみます」
「はい、デルクス様。――ふふふ、私はあなたを育てる為に生まれてきたのかもしれませんよ」
「言いすぎですよ……」
たとえ魔力量が多くても使えなければ意味がない。
地道な努力は欠かさないでおこう。
◇
そしてそれからまた数週間が経過した。
「デルクス坊ちゃま、こちらの本をどうぞ」
「ありがとう」
声を掛けてくれたのは、白い髭が似合う執事のビアだ。
新しく雇った人で、今はエマと一緒に食事のサポートをしてくれる。
お金についてはまだ十分ではないが、事業の一つを改善したことで、かなりお金が浮いていた。
それは、魔法札の事業だ。
この世界では、魔法札というものがあり、それは魔法が使えない人でも使える札になっている。
破りながら魔法を詠唱することで、その効果が得られる。
基本的には魔法より劣るのでたいしたことはないが、俺は原作の知識で、光を照らす魔法を知っていた。
それを術式に込めて販売し、まとまったお金が少し入ったということだ。
夜、俺は家系図を見ていた。
すると、エマがドアをノックした。
「また本をお読みなんですか?」
「いや、ちょっと調べものをね」
「無理しないでくださいね。事業も順調ですし、それに訓練だって大変でしょうし」
「ありがとう、でも好きでしてるから」
エマは本当に献身的でありがたい。
そして俺はもらった紅茶を呑もうとしたが、あまりの衝撃で飲み物を零してしまう。
「大丈夫ですか!?」
「――そういうことか」
そこには、衝撃的なことが書かれていた。
この世界では、生まれたときの魔力量を記載する習慣がある。
子供の体重のように、一定の数値を記載しておくのだ。
それが、将来基本的な示唆になるからだ。
だがそこに書かれていた数値はとんでもないものだった。
そしてそこには、『デルクスの魔力はあまりに強大すぎるため、封印を施した』と書かれていた。
俺がこの世界に来た時、エマを助ける為に解除魔法を詠唱した。
もしかしてそれが……封印を解いたきっかけになった?
しかしこの数値、主人公の何百倍じゃないか……。
まずはお金がないので、屋敷内のを必要があるものとないものを分けることにした。
おかげで以前より綺麗になって、不要な家具が無くなった分すっきりした。
デルクスは他人にケチな上に浪費家で、よくわからないものを買う趣味があったのだが、それを全部売り払ったのだ。
一つだけ高い壺が混じっていたおかげで使用人が一人増えていた。
今やメイド長になったエマが、丁寧に教えている。
そして――。
「デルクス様……本当に剣を今まで振ったことないんですか?」
「え? そうだけど……なんか変かな?」
「い、いえ。何でもありません」
王都から剣術の先生を呼んでいた。
名前はリミット・ミルさん。眼鏡をかけた長身お姉さまって感じだ。
髪の毛は薄いピンク色で、足がスラリと長い。
俺は原作でこの人を知っていた。
凄腕の魔法剣術の使い手で、原作でも非常に有能だった。
だったのだが、なぜかその相手に驚かれている。
先生になってもらう前、独学で一週間ほど剣を振っていたが、なぜか手によく馴染んではいた。
魔剣のレベルを上げるためには、まずは基礎剣術が必要だからだ。
「とても綺麗な型です。基本から習いたいとおっしゃっていましたが……既に一定のレベルは超えているように見えます」
……もしかすると、デルクスは剣が好きだったのか?
そう考えると辻褄は合うが、原作のデルクスは雑魚で主人公どころか脇役にも勝てない最低クラスの戦闘能力だった。
……妙だな。
「少し手合わせしてみましょうか」
リミットさんの剣は少し特殊だ。細くて、レイピアに近い。
だがそれがまた見えづらい。
魔力を漲らせ硬質化して受けることもできるが、一撃で相手を倒す。
――あれ、てか木剣とかじゃ――。
次の瞬間、リミットさんの剣が、俺の耳横切る。
え?
「戦場なら死んでますよ」
どうやら思っていたよりもスパルタだったらしい。
それから本気でやってみたが、全然勝てないどころか、一撃も当たらなかった。
攻撃が空を切るだけ。
褒められたのは嬉しかったが、ただの杞憂だったらしい。
しかし訓練が終わった後、リミットさんは笑っていた。
「デルクス様……あなたには素質があります。私が――もっと鍛えてあげますよ」
「え」
不敵な笑みを浮かべ、俺を見つめていた。
一撃も与えられなかったんだけどな……。
そして汗だくのまま、次は魔力について訓練を始めることになった。
正直、魔法なんて馴染みはない。
剣は幼い頃に誰だって棒を振り回したことぐらいあるだろう。
だが幼い頃に魔法が使えた人なんていないはずだ。
感じ方も、想像もさっぱりわからない。
「魔法もまったく使えないので、ってことでよろしかったですか?」
「はい、おそらく」
「おそらく?」
「あ、いえ!? そうです!」
魔力は誰にでも内に秘められいるらしく、それをまずは感じ取ることが魔法の基礎だという。
指示通りに目を瞑る。心臓を、身体に流れる血をイメージして、そこに、魔力を感じ取る。
するとなんだか、なんだかわからないが、黒いものが身体にながらている気がした。
これが、もしかして魔力なのか?
そして――。
「デルクス様、それ――」
「え?」
気づけば、俺の周りには黒いナニカが漂っていた。
「魔力ですよ。それが」
「これが……?」
だが認識した途端、それはすぐに消えた。
「あ、やっぱり難しいね」
「何を言ってるんですか? もしかしてからかってます?」
しかしリミットさんは、目を見開いて驚いていた。
訳が分からない。
一体何が?
「魔力は普通外に溢れるものではないです。なのにその魔力量、ありえませんよ。規格外です」
「……え?」
原作でデルクスは落ちこぼれだった。
魔法もたいして使えない、剣も使えない。
だがリミットさんから言われるすべては真逆だ。
剣はよく馴染むし、魔力だって確かに感じていた。
俺が知っているデルクスとは違う……?
いや、そんなわけがない。全部同じなはずだ。
調べてみる必要があるな……。
だが――。
「またやってみます」
「はい、デルクス様。――ふふふ、私はあなたを育てる為に生まれてきたのかもしれませんよ」
「言いすぎですよ……」
たとえ魔力量が多くても使えなければ意味がない。
地道な努力は欠かさないでおこう。
◇
そしてそれからまた数週間が経過した。
「デルクス坊ちゃま、こちらの本をどうぞ」
「ありがとう」
声を掛けてくれたのは、白い髭が似合う執事のビアだ。
新しく雇った人で、今はエマと一緒に食事のサポートをしてくれる。
お金についてはまだ十分ではないが、事業の一つを改善したことで、かなりお金が浮いていた。
それは、魔法札の事業だ。
この世界では、魔法札というものがあり、それは魔法が使えない人でも使える札になっている。
破りながら魔法を詠唱することで、その効果が得られる。
基本的には魔法より劣るのでたいしたことはないが、俺は原作の知識で、光を照らす魔法を知っていた。
それを術式に込めて販売し、まとまったお金が少し入ったということだ。
夜、俺は家系図を見ていた。
すると、エマがドアをノックした。
「また本をお読みなんですか?」
「いや、ちょっと調べものをね」
「無理しないでくださいね。事業も順調ですし、それに訓練だって大変でしょうし」
「ありがとう、でも好きでしてるから」
エマは本当に献身的でありがたい。
そして俺はもらった紅茶を呑もうとしたが、あまりの衝撃で飲み物を零してしまう。
「大丈夫ですか!?」
「――そういうことか」
そこには、衝撃的なことが書かれていた。
この世界では、生まれたときの魔力量を記載する習慣がある。
子供の体重のように、一定の数値を記載しておくのだ。
それが、将来基本的な示唆になるからだ。
だがそこに書かれていた数値はとんでもないものだった。
そしてそこには、『デルクスの魔力はあまりに強大すぎるため、封印を施した』と書かれていた。
俺がこの世界に来た時、エマを助ける為に解除魔法を詠唱した。
もしかしてそれが……封印を解いたきっかけになった?
しかしこの数値、主人公の何百倍じゃないか……。
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