18 / 36
第18話 目覚めし者、再習得をする?
しおりを挟む
「どうしたの二人とも、そんなキョロキョロして」
「室内も凄くてびっくりしてました。こんな素敵な場所は初めてです」
「私もだ。落ち着くたたずまいで安心する」
佐々木亭に招き入れられた椿姫と伊織は、主屋である居間に座していた。
四季折々の風景が描かれた掛け軸と、季節の花が生けられた花瓶が置かれている。
肌ざわりの良い木テーブルには、帆乃佳が用意したほうじ茶と和菓子が用意されていた。
「そうね。私も気に入ってるわ」
「ここは、佐々木さんの叔父様のお家だったのですか?」
「正しくは叔父様の弟さんね。都内に来てから初めて会ったけど、顔もそっくりで驚いたわ。叔父様よりは少し優しいけれど、声も似てて驚いた」
「帆乃佳の叔父様は、少々厳しいお人だったからな」
「そうね、椿姫にも強く当たっていたわね」
椿姫が厳しいというならば恐ろしい人だったんだろうと、伊織が少し震える。
それから少しして話を切り出した。
「それでメッセージは送らせてもらっていたと思うのですが、椿姫さんの――」
「よい伊織。私のことだ。私が話す。――帆乃佳、目覚めし者の使い方を教えてほしい。あれから一度も……発動しないのだ」
目覚めし者になったとしてもすぐに使いこなせる者は殆どいない。発動条件は人それぞれであり、なおかつ能力には個人差がある。魔法系は比較的多いが、二人は稀有な具現化。
任意で発動できるようにすることを再習得といい、人によっては二度と発動できないこともある。
「……ふうん」
(もちろんオッケーに決まってるでしょ!? 椿姫の悩んでいる顔かわいいかわいい。食べちゃいたいくらい好き好き好き好き好き。……でも)
「その前に聞きたいことがあるわ」
帆乃佳が、真剣な表情で尋ねる。
「何でも言ってくれ」
「目覚めし者は特別なことだし、本当に凄いわ。でも、凄すぎるのよ。私は椿姫、あなたの事を知ってる。どれだけの努力をして今に辿り着いたのか。そして……能力を使うと今までの努力が虚しさに変わることもある。私はあった。つらい時期も。でも、あなたは……大丈夫なの。ドラゴンを倒したとき、どう思ったの?」
帆乃佳は誰よりも強くなりと願った。しかしその気持ちはいつしか変わっていった。叔父様や椿姫に認められたいという気持ちに。
努力を捨てたわけではない。ただ、能力のおかげだと言われてしまう椿姫を見るのが怖かった。
そしてそれで傷ついてしまわないかと。
椿姫は、深呼吸してから答える。
「帆乃佳の言う事は心から理解できる。事実、私はドラゴンを倒した喜びなど感じていない。むしろ、空しくすらある。己の剣技を否定したとも言えるからだ。それは、今までの自分を否定することになる」
「……ならやっぱり――」
「だが、伊織に教えてもらったのだ」
「え? 私……ですか?」
椿姫は、顔を伊織に向け、優しく微笑みながら頭を撫でる。
「私は今まで強くなることに貪欲だった。今の自分を超え、叔父を超えたいと。だが――強さにはそれぞれ違いがあるとわかったのだ。目覚めし者として活動することは、今までとは違う自分になるだろう。ただ、それでもいい。いや、それがいいのだ。その先も、見たくなったのだ」
椿姫はダンジョン崩壊の後、自分を責めていた。それでも、前を向いた。
新しい自分に、新しい世界へ、飛び出したくなったのである。
それを聞いた帆乃佳は――。
「……わかった。でも、あまり期待しないで。私は、私のやり方を教えるだけで、あなたも同じとは限らないわ」
「もちろんだ。ありがとう帆乃佳」
「私からもお礼を言わせてください。ありがとうございます、佐々木さん」
「べ、別にいいわよ。さて、じゃあ道場に行きましょうか。――椿姫、久しぶりに勝負するわよ。私が、手取り足取り教えてあげる」
「――ふっ、望むところだ」
それから三人は道場に移動していった。
伊織が、その前に厠へ移動する。
そのとき見逃さず、帆乃佳は口を開いた。
「椿姫」
「なんだ?」
「……ちょっと、頭がかゆいの。ちょっとだけかいて。でも、ぽんぽんって触れるだけでいいわ」
「ぽんぽん? ああ、わかった。――こうか?」
(やったあああああああああああ。頭ぽんぽんされたああ。伊織さんにだけナデナデするなんてズルい。ああ、もう、可愛い可愛い好き好き好き)
「もうちょっとこう、撫でるような感じで」
「こうか」
(好き好き好き好き好き。好き好き。はあっ、大好き。椿姫、私が絶対にあなたに再習得させてあげる。――でも、あなたは能力がなくても誰よりも強いからね。――私は……知ってるから)
「室内も凄くてびっくりしてました。こんな素敵な場所は初めてです」
「私もだ。落ち着くたたずまいで安心する」
佐々木亭に招き入れられた椿姫と伊織は、主屋である居間に座していた。
四季折々の風景が描かれた掛け軸と、季節の花が生けられた花瓶が置かれている。
肌ざわりの良い木テーブルには、帆乃佳が用意したほうじ茶と和菓子が用意されていた。
「そうね。私も気に入ってるわ」
「ここは、佐々木さんの叔父様のお家だったのですか?」
「正しくは叔父様の弟さんね。都内に来てから初めて会ったけど、顔もそっくりで驚いたわ。叔父様よりは少し優しいけれど、声も似てて驚いた」
「帆乃佳の叔父様は、少々厳しいお人だったからな」
「そうね、椿姫にも強く当たっていたわね」
椿姫が厳しいというならば恐ろしい人だったんだろうと、伊織が少し震える。
それから少しして話を切り出した。
「それでメッセージは送らせてもらっていたと思うのですが、椿姫さんの――」
「よい伊織。私のことだ。私が話す。――帆乃佳、目覚めし者の使い方を教えてほしい。あれから一度も……発動しないのだ」
目覚めし者になったとしてもすぐに使いこなせる者は殆どいない。発動条件は人それぞれであり、なおかつ能力には個人差がある。魔法系は比較的多いが、二人は稀有な具現化。
任意で発動できるようにすることを再習得といい、人によっては二度と発動できないこともある。
「……ふうん」
(もちろんオッケーに決まってるでしょ!? 椿姫の悩んでいる顔かわいいかわいい。食べちゃいたいくらい好き好き好き好き好き。……でも)
「その前に聞きたいことがあるわ」
帆乃佳が、真剣な表情で尋ねる。
「何でも言ってくれ」
「目覚めし者は特別なことだし、本当に凄いわ。でも、凄すぎるのよ。私は椿姫、あなたの事を知ってる。どれだけの努力をして今に辿り着いたのか。そして……能力を使うと今までの努力が虚しさに変わることもある。私はあった。つらい時期も。でも、あなたは……大丈夫なの。ドラゴンを倒したとき、どう思ったの?」
帆乃佳は誰よりも強くなりと願った。しかしその気持ちはいつしか変わっていった。叔父様や椿姫に認められたいという気持ちに。
努力を捨てたわけではない。ただ、能力のおかげだと言われてしまう椿姫を見るのが怖かった。
そしてそれで傷ついてしまわないかと。
椿姫は、深呼吸してから答える。
「帆乃佳の言う事は心から理解できる。事実、私はドラゴンを倒した喜びなど感じていない。むしろ、空しくすらある。己の剣技を否定したとも言えるからだ。それは、今までの自分を否定することになる」
「……ならやっぱり――」
「だが、伊織に教えてもらったのだ」
「え? 私……ですか?」
椿姫は、顔を伊織に向け、優しく微笑みながら頭を撫でる。
「私は今まで強くなることに貪欲だった。今の自分を超え、叔父を超えたいと。だが――強さにはそれぞれ違いがあるとわかったのだ。目覚めし者として活動することは、今までとは違う自分になるだろう。ただ、それでもいい。いや、それがいいのだ。その先も、見たくなったのだ」
椿姫はダンジョン崩壊の後、自分を責めていた。それでも、前を向いた。
新しい自分に、新しい世界へ、飛び出したくなったのである。
それを聞いた帆乃佳は――。
「……わかった。でも、あまり期待しないで。私は、私のやり方を教えるだけで、あなたも同じとは限らないわ」
「もちろんだ。ありがとう帆乃佳」
「私からもお礼を言わせてください。ありがとうございます、佐々木さん」
「べ、別にいいわよ。さて、じゃあ道場に行きましょうか。――椿姫、久しぶりに勝負するわよ。私が、手取り足取り教えてあげる」
「――ふっ、望むところだ」
それから三人は道場に移動していった。
伊織が、その前に厠へ移動する。
そのとき見逃さず、帆乃佳は口を開いた。
「椿姫」
「なんだ?」
「……ちょっと、頭がかゆいの。ちょっとだけかいて。でも、ぽんぽんって触れるだけでいいわ」
「ぽんぽん? ああ、わかった。――こうか?」
(やったあああああああああああ。頭ぽんぽんされたああ。伊織さんにだけナデナデするなんてズルい。ああ、もう、可愛い可愛い好き好き好き)
「もうちょっとこう、撫でるような感じで」
「こうか」
(好き好き好き好き好き。好き好き。はあっ、大好き。椿姫、私が絶対にあなたに再習得させてあげる。――でも、あなたは能力がなくても誰よりも強いからね。――私は……知ってるから)
57
お気に入りに追加
254
あなたにおすすめの小説
辻ダンジョン掃除が趣味の底辺社畜、迷惑配信者が汚したダンジョンを掃除していたらうっかり美少女アイドルの配信に映り込み神バズりしてしまう
なっくる
ファンタジー
ダンジョン攻略配信が定着した日本、迷惑配信者が世間を騒がせていた。主人公タクミはダンジョン配信視聴とダンジョン掃除が趣味の社畜。
だが美少女アイドルダンジョン配信者の生配信に映り込んだことで、彼の運命は大きく変わる。実はレアだったお掃除スキルと人間性をダンジョン庁に評価され、美少女アイドルと共にダンジョンのイメージキャラクターに抜擢される。自身を慕ってくれる美少女JKとの楽しい毎日。そして超進化したお掃除スキルで迷惑配信者を懲らしめたことで、彼女と共にダンジョン界屈指の人気者になっていく。
バラ色人生を送るタクミだが……迷惑配信者の背後に潜む陰謀がタクミたちに襲い掛かるのだった。
※他サイトでも掲載しています
超人気美少女ダンジョン配信者を救ってバズった呪詛師、うっかり呪術を披露しすぎたところ、どうやら最凶すぎると話題に
菊池 快晴
ファンタジー
「誰も見てくれない……」
黒羽黒斗は、呪術の力でダンジョン配信者をしていたが、地味すぎるせいで視聴者が伸びなかった。
自らをブラックと名乗り、中二病キャラクターで必死に頑張るも空回り。
そんなある日、ダンジョンの最下層で超人気配信者、君内風華を呪術で偶然にも助ける。
その素早すぎる動き、ボスすらも即死させる呪術が最凶すぎると話題になり、黒斗ことブラックの信者が増えていく。
だが当の本人は真面目すぎるので「人気配信者ってすごいなあ」と勘違い。
これは、主人公ブラックが正体を隠しながらも最凶呪術で無双しまくる物語である。
底辺ダンチューバーさん、お嬢様系アイドル配信者を助けたら大バズりしてしまう ~人類未踏の最難関ダンジョンも楽々攻略しちゃいます〜
サイダーボウイ
ファンタジー
日常にダンジョンが溶け込んで15年。
冥層を目指すガチ勢は消え去り、浅層階を周回しながらスパチャで小銭を稼ぐダンチューバーがトレンドとなった現在。
ひとりの新人配信者が注目されつつあった。
天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜
八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。
第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。
大和型三隻は沈没した……、と思われた。
だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。
大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。
祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。
※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています!
面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※
※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
俺だけ展開できる聖域《ワークショップ》~ガチャで手に入れたスキルで美少女達を救う配信がバズってしまい、追放した奴らへざまあして人生大逆転~
椿紅颯
ファンタジー
鍛誠 一心(たんせい いっしん)は、生ける伝説に憧憬の念を抱く駆け出しの鍛冶師である。
探索者となり、同時期に新米探索者になったメンバーとパーティを組んで2カ月が経過したそんなある日、追放宣言を言い放たれてしまった。
このことからショックを受けてしまうも、生活するために受付嬢の幼馴染に相談すると「自らの価値を高めるためにはスキルガチャを回してみるのはどうか」、という提案を受け、更にはそのスキルが希少性のあるものであれば"配信者"として活動するのもいいのではと助言をされた。
自身の戦闘力が低いことからパーティを追放されてしまったことから、一か八かで全て実行に移す。
ガチャを回した結果、【聖域】という性能はそこそこであったが見た目は派手な方のスキルを手に入れる。
しかし、スキルの使い方は自分で模索するしかなかった。
その後、試行錯誤している時にダンジョンで少女達を助けることになるのだが……その少女達は、まさかの配信者であり芸能人であることを後々から知ることに。
まだまだ驚愕的な事実があり、なんとその少女達は自身の配信チャンネルで配信をしていた!
そして、その美少女達とパーティを組むことにも!
パーティを追放され、戦闘力もほとんどない鍛冶師がひょんなことから有名になり、間接的に元パーティメンバーをざまあしつつ躍進を繰り広げていく!
泥臭く努力もしつつ、実はチート級なスキルを是非ご覧ください!
日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊
北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。
現代ダンジョンで成り上がり!
カメ
ファンタジー
現代ダンジョンで成り上がる!
現代の世界に大きな地震が全世界同時に起こると共に、全世界にダンジョンが現れた。
舞台はその後の世界。ダンジョンの出現とともに、ステータスが見れる様になり、多くの能力、スキルを持つ人たちが現れる。その人達は冒険者と呼ばれる様になり、ダンジョンから得られる貴重な資源のおかげで稼ぎが多い冒険者は、多くの人から憧れる職業となった。
四ノ宮翔には、いいスキルもステータスもない。ましてや呪いをその身に受ける、呪われた子の称号を持つ存在だ。そんな彼がこの世界でどう生き、成り上がるのか、その冒険が今始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる