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第18話 目覚めし者、再習得をする?
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「どうしたの二人とも、そんなキョロキョロして」
「室内も凄くてびっくりしてました。こんな素敵な場所は初めてです」
「私もだ。落ち着くたたずまいで安心する」
佐々木亭に招き入れられた椿姫と伊織は、主屋である居間に座していた。
四季折々の風景が描かれた掛け軸と、季節の花が生けられた花瓶が置かれている。
肌ざわりの良い木テーブルには、帆乃佳が用意したほうじ茶と和菓子が用意されていた。
「そうね。私も気に入ってるわ」
「ここは、佐々木さんの叔父様のお家だったのですか?」
「正しくは叔父様の弟さんね。都内に来てから初めて会ったけど、顔もそっくりで驚いたわ。叔父様よりは少し優しいけれど、声も似てて驚いた」
「帆乃佳の叔父様は、少々厳しいお人だったからな」
「そうね、椿姫にも強く当たっていたわね」
椿姫が厳しいというならば恐ろしい人だったんだろうと、伊織が少し震える。
それから少しして話を切り出した。
「それでメッセージは送らせてもらっていたと思うのですが、椿姫さんの――」
「よい伊織。私のことだ。私が話す。――帆乃佳、目覚めし者の使い方を教えてほしい。あれから一度も……発動しないのだ」
目覚めし者になったとしてもすぐに使いこなせる者は殆どいない。発動条件は人それぞれであり、なおかつ能力には個人差がある。魔法系は比較的多いが、二人は稀有な具現化。
任意で発動できるようにすることを再習得といい、人によっては二度と発動できないこともある。
「……ふうん」
(もちろんオッケーに決まってるでしょ!? 椿姫の悩んでいる顔かわいいかわいい。食べちゃいたいくらい好き好き好き好き好き。……でも)
「その前に聞きたいことがあるわ」
帆乃佳が、真剣な表情で尋ねる。
「何でも言ってくれ」
「目覚めし者は特別なことだし、本当に凄いわ。でも、凄すぎるのよ。私は椿姫、あなたの事を知ってる。どれだけの努力をして今に辿り着いたのか。そして……能力を使うと今までの努力が虚しさに変わることもある。私はあった。つらい時期も。でも、あなたは……大丈夫なの。ドラゴンを倒したとき、どう思ったの?」
帆乃佳は誰よりも強くなりと願った。しかしその気持ちはいつしか変わっていった。叔父様や椿姫に認められたいという気持ちに。
努力を捨てたわけではない。ただ、能力のおかげだと言われてしまう椿姫を見るのが怖かった。
そしてそれで傷ついてしまわないかと。
椿姫は、深呼吸してから答える。
「帆乃佳の言う事は心から理解できる。事実、私はドラゴンを倒した喜びなど感じていない。むしろ、空しくすらある。己の剣技を否定したとも言えるからだ。それは、今までの自分を否定することになる」
「……ならやっぱり――」
「だが、伊織に教えてもらったのだ」
「え? 私……ですか?」
椿姫は、顔を伊織に向け、優しく微笑みながら頭を撫でる。
「私は今まで強くなることに貪欲だった。今の自分を超え、叔父を超えたいと。だが――強さにはそれぞれ違いがあるとわかったのだ。目覚めし者として活動することは、今までとは違う自分になるだろう。ただ、それでもいい。いや、それがいいのだ。その先も、見たくなったのだ」
椿姫はダンジョン崩壊の後、自分を責めていた。それでも、前を向いた。
新しい自分に、新しい世界へ、飛び出したくなったのである。
それを聞いた帆乃佳は――。
「……わかった。でも、あまり期待しないで。私は、私のやり方を教えるだけで、あなたも同じとは限らないわ」
「もちろんだ。ありがとう帆乃佳」
「私からもお礼を言わせてください。ありがとうございます、佐々木さん」
「べ、別にいいわよ。さて、じゃあ道場に行きましょうか。――椿姫、久しぶりに勝負するわよ。私が、手取り足取り教えてあげる」
「――ふっ、望むところだ」
それから三人は道場に移動していった。
伊織が、その前に厠へ移動する。
そのとき見逃さず、帆乃佳は口を開いた。
「椿姫」
「なんだ?」
「……ちょっと、頭がかゆいの。ちょっとだけかいて。でも、ぽんぽんって触れるだけでいいわ」
「ぽんぽん? ああ、わかった。――こうか?」
(やったあああああああああああ。頭ぽんぽんされたああ。伊織さんにだけナデナデするなんてズルい。ああ、もう、可愛い可愛い好き好き好き)
「もうちょっとこう、撫でるような感じで」
「こうか」
(好き好き好き好き好き。好き好き。はあっ、大好き。椿姫、私が絶対にあなたに再習得させてあげる。――でも、あなたは能力がなくても誰よりも強いからね。――私は……知ってるから)
「室内も凄くてびっくりしてました。こんな素敵な場所は初めてです」
「私もだ。落ち着くたたずまいで安心する」
佐々木亭に招き入れられた椿姫と伊織は、主屋である居間に座していた。
四季折々の風景が描かれた掛け軸と、季節の花が生けられた花瓶が置かれている。
肌ざわりの良い木テーブルには、帆乃佳が用意したほうじ茶と和菓子が用意されていた。
「そうね。私も気に入ってるわ」
「ここは、佐々木さんの叔父様のお家だったのですか?」
「正しくは叔父様の弟さんね。都内に来てから初めて会ったけど、顔もそっくりで驚いたわ。叔父様よりは少し優しいけれど、声も似てて驚いた」
「帆乃佳の叔父様は、少々厳しいお人だったからな」
「そうね、椿姫にも強く当たっていたわね」
椿姫が厳しいというならば恐ろしい人だったんだろうと、伊織が少し震える。
それから少しして話を切り出した。
「それでメッセージは送らせてもらっていたと思うのですが、椿姫さんの――」
「よい伊織。私のことだ。私が話す。――帆乃佳、目覚めし者の使い方を教えてほしい。あれから一度も……発動しないのだ」
目覚めし者になったとしてもすぐに使いこなせる者は殆どいない。発動条件は人それぞれであり、なおかつ能力には個人差がある。魔法系は比較的多いが、二人は稀有な具現化。
任意で発動できるようにすることを再習得といい、人によっては二度と発動できないこともある。
「……ふうん」
(もちろんオッケーに決まってるでしょ!? 椿姫の悩んでいる顔かわいいかわいい。食べちゃいたいくらい好き好き好き好き好き。……でも)
「その前に聞きたいことがあるわ」
帆乃佳が、真剣な表情で尋ねる。
「何でも言ってくれ」
「目覚めし者は特別なことだし、本当に凄いわ。でも、凄すぎるのよ。私は椿姫、あなたの事を知ってる。どれだけの努力をして今に辿り着いたのか。そして……能力を使うと今までの努力が虚しさに変わることもある。私はあった。つらい時期も。でも、あなたは……大丈夫なの。ドラゴンを倒したとき、どう思ったの?」
帆乃佳は誰よりも強くなりと願った。しかしその気持ちはいつしか変わっていった。叔父様や椿姫に認められたいという気持ちに。
努力を捨てたわけではない。ただ、能力のおかげだと言われてしまう椿姫を見るのが怖かった。
そしてそれで傷ついてしまわないかと。
椿姫は、深呼吸してから答える。
「帆乃佳の言う事は心から理解できる。事実、私はドラゴンを倒した喜びなど感じていない。むしろ、空しくすらある。己の剣技を否定したとも言えるからだ。それは、今までの自分を否定することになる」
「……ならやっぱり――」
「だが、伊織に教えてもらったのだ」
「え? 私……ですか?」
椿姫は、顔を伊織に向け、優しく微笑みながら頭を撫でる。
「私は今まで強くなることに貪欲だった。今の自分を超え、叔父を超えたいと。だが――強さにはそれぞれ違いがあるとわかったのだ。目覚めし者として活動することは、今までとは違う自分になるだろう。ただ、それでもいい。いや、それがいいのだ。その先も、見たくなったのだ」
椿姫はダンジョン崩壊の後、自分を責めていた。それでも、前を向いた。
新しい自分に、新しい世界へ、飛び出したくなったのである。
それを聞いた帆乃佳は――。
「……わかった。でも、あまり期待しないで。私は、私のやり方を教えるだけで、あなたも同じとは限らないわ」
「もちろんだ。ありがとう帆乃佳」
「私からもお礼を言わせてください。ありがとうございます、佐々木さん」
「べ、別にいいわよ。さて、じゃあ道場に行きましょうか。――椿姫、久しぶりに勝負するわよ。私が、手取り足取り教えてあげる」
「――ふっ、望むところだ」
それから三人は道場に移動していった。
伊織が、その前に厠へ移動する。
そのとき見逃さず、帆乃佳は口を開いた。
「椿姫」
「なんだ?」
「……ちょっと、頭がかゆいの。ちょっとだけかいて。でも、ぽんぽんって触れるだけでいいわ」
「ぽんぽん? ああ、わかった。――こうか?」
(やったあああああああああああ。頭ぽんぽんされたああ。伊織さんにだけナデナデするなんてズルい。ああ、もう、可愛い可愛い好き好き好き)
「もうちょっとこう、撫でるような感じで」
「こうか」
(好き好き好き好き好き。好き好き。はあっ、大好き。椿姫、私が絶対にあなたに再習得させてあげる。――でも、あなたは能力がなくても誰よりも強いからね。――私は……知ってるから)
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