配信の片隅で無双していた謎の大剣豪、最終奥義レベルを連発する美少女だと話題に

菊池 快晴

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第14話 最凶の誕生

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「腕を上げたな、帆乃佳」
「あら、本当に思っているのかしら、椿姫」
「私は嘘をつかない。知ってるだろう」
「……そうね」

 ”うおおおおおおお、帆乃佳ちゃんつええええ”
 ”さすが! でも、死なないでね”
 ”大剣豪とはお友達なの?”
 ”旧友との再会っぽいけど、今この状態で話せないのはつらいな”
 ”でもマジで二人とも強い”

「凄い。凄い二人と――も……」

 伊織が立ち上がるも、そのまま倒れこみそうなり、急いで椿姫が抱きかかえた。

「伊織、伊織!?」
「――魔力欠乏マナノーゼの症状が出てるわ。かなり無茶してたみたいだし」

 そこに帆乃佳が駆け寄り、伊織の額に手を当てた。

「どうしたいいのだ。教えてくれ。伊織は、私にとって初めての友人なのだ」
「……初めて?」
「帆乃佳?」
「何でもないわ。――治癒は多くの魔力を使う。これ以上の能力使用は死ぬんじゃないかしら。幸い魔物もいないし、ここから離れたほうがいいわ」
「……そうだな。ここまで――」
「……ま、まだ、いけます」

 そこで、伊織が目を覚ます。再び、立ち上がろうとする。

「ダメだ。伊織」
「まだ、まだ絶対に怪我人はいるはずです……」
「あなた、死ぬ気?」
「……死にません。私は、死なない」
「なぜそこまでするの? あなたにとって、無関係な人でしょう?」

 帆乃佳の問いかけに、伊織が答える。

「……はい。でも、私は……私は助けられたんです。この命は、自分のものだけじゃない」

 伊織の言葉に、帆乃佳はため息を吐いた。
 ふたたび問いかけようしたとき、椿姫が口を開く。

「なら私が守る。伊織、行こう」
「……はい」
「椿姫、あなた自分が何を言ってるのかわかってるの? これ以上は、本当に死ぬわよ」
「死なない。伊織はわかっている。それに、後悔はしたくないんだ。そうだな、伊織」

 椿姫の言葉に、伊織が静かに頷く。

「あーもう。……ま、あなた達といれば配信映えるし。せっかくだし、私もついていくわ」
「ありがとう、佐々木さん」
「人助けじゃない。私は、配信の為よ」

 ”帆乃佳ちゃんがいれば安心できる”
 ”頼むからみんな死なないでくれ”
 ”探索者がもうすぐつくらしい”
 ”がんばれ! もう少しだ!”
 
 三人は、更に前線に近づいていく。
 それぞれが仕事を全うしていた。
 特に椿姫と帆乃佳は、恐ろしいほどの強さを見せつける。

「ねえ、椿姫――」
「――なんだ」
「いつから東京こっちに来てたのよ。叔父さんは?」
「亡くなった。寿命だった。。穂香の叔父は――」
「……同じよ」
「そうか」

 ようやく崩壊ダンジョンに辿り着いたとき、三人は目を見開く。

 深淵を見据える目、巨大な緑の鱗、キラリと光るかぎづめ。 
 皮膚の溶け始めているドラゴンが何かを探していた。
 目の前には学校の校庭。
 子供たちが、隠れていた。

 ”ダンジョンボスじゃね!?”
 ”ドラゴンってマジかよ”
 ”なんで溶けてるんだ?”
 ”ダンジョン外に出たからかも”
 ”これ……絶対S級指定のネームドじゃないか”
 ”マジかよ……”
 ”こんなの街に行ったら大変なことになるぞ”
 ”逃げてえええええええええ”

 しかし椿姫は剣を構えた。伊織もなけなしの魔力を漲らせる。
 それを見ながら、帆乃佳も伸縮刀を構える。

 ”やるのか!? S級のダンジョンボスなんて100人でやるもんだろ!?”
 ”それも洗練された精鋭たちでだよ……”
 ”嘘だろ……”
 ”三人は流石に無茶では!?” 

「――宮本流――瞬地しゅくち
「――佐々木流――急地きゅうち
 
 二人は配信の声には耳を傾けず駆ける。
 一方伊織は、子供たちの元へ真っ直ぐに向かった。

 椿姫と帆乃佳は、巨大なドラゴンに立ち向かいながら、一切の恐怖も浮かんでいない。

「来るぞ、帆乃佳!」
「――わかってるわ」

 敵を認識したドラゴンは、二人に向かって勢いよく炎を吐いた。
 熱風とともにおそろしいほどの熱波が肌に突き刺さる。

 寸前で左右に回避した二人は、間髪入れずに攻撃を与えた。
 しかしあまりの鱗の硬さに驚く。ただ、帆乃佳の一撃だけは皮膚をえぐり取る。

 二人は着地したあと、すぐに剣を構える。
 椿姫は、己の剣に視線を向ける。刃零れが凄まじい。

 だがそのときドラゴンは吠えた。武者震いかのように耳をつんざくような悲鳴が響き渡る。
 だがそこで、目を疑う。

 二体目のドラゴンが現れたのだ。遥か上空から、向かってきている。
 狙うは伊織と子供たち。

「――椿姫、この手負いは私に任せない!」

 帆乃佳が叫び、駆ける。
 椿姫は急いで伊織の元へ駆ける。
 ドラゴンは空から伊織に向かって炎を吐く。

「――防御シールド

 最後の力を使って伊織は炎を防ぐも、そこで完全に魔力が尽きてしまう。
 完全に気を失って、その場に倒れこむ。

 ”うわああああああああああああ”
 ”どうしたらいいんだ”
 ”ヤバイヤバイ”
 ”大剣豪でもさすがにこれは”
 ”どうなるんだ!?”
 ”誰か来てくれ”

 椿姫は、ドラゴンの首を狙って渾身の一撃を与えた。
 だがそこで、最悪な出来事が起きる。

「――刀が」

 余りの鱗の硬さに折れてしまう。
 視界の端では、帆乃佳が竜を相手に立ちまわっていた。

 伸縮自在の長刀で、竜を切り刻んでいる。

 椿姫は伊織と子供たちを守るかのように前に立つ。

「グオォオオォオォオォォオオン」
「――椿姫!」

 帆乃佳が叫ぶも、椿姫は引かなかった。

 叔父の言葉を思い出す。


 ――最後まで諦めるな。動ける限り、戦え。


 椿姫は拳を固めた。
 硬すぎる鱗に打撃が通用するとは思っていない。

 それでも、諦めなければ勝機はあるかもしれない。
 時間を稼げば、何かが変わるかもしれない。

 だがそこで、ドラゴンが炎をふたたび溜めた。

 圧倒的な力、それでも椿姫は目を逸らさない。


 ――力が、欲しい。


 ――負けぬ、力が。



 その時、椿姫の手が、輝き始めた。

 

 目覚めし者アウェイカーには共通点がある。

 人とは、欲深い生き物だ。

 この世に誕生したのち、ただひたすらに願う。

 幼き者は両親に願う。あるものは兄弟に願う。他者に願う。
 やがて願いは細分化していく。格好よく。可愛く。強く。賢く。稼ぐ。他者よりも――上へ。

 果たしてその想いはどれほどのものだろうか。

 願いを数値化することはできない。

 だが魔力は、人の強い願いを、想いを、叫びを、形にする。

 ある一定の、強い――願いを超えると、それを具現化する力を持っていた。

 宮本椿姫は強さに貪欲である。

 だがそれを強請ったことも、誰かに委ねたこともない。

 ひたすらに研鑽を積み、叔父のようになりたいと己を虐め、自制、高見を目指し続けた。

 彼女にとって欲とは、この手で掴み取るものでしかない。


 今――この時までは。


 椿姫は生まれて初めて願う。

 自分ではどうにもならないこの現状を、願った。

 誰か、自分ではない何か、己では届かない、初めての感情を、強く、強く、強く。叫んだ。恨んだ。妬んだ。

 人は願う。この世に誕生した後、ただひたすらに欲深く願う。


 それが、想いとなり、形となるまで、ただひすらに、願う。


「――これは」



 宮本椿姫の両手に握るは、 無限の光を放つ剣――そして深淵の如く闇の剣。
 
 ――二刀流。

 唯一無二。
 
 二つの能力を持つ、目覚めし者アウェイカー――。

 ――世界最凶の誕生・・である。
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