上 下
53 / 61

第53話 強敵、ストロイ・エリーン

しおりを挟む
「錬金術師、それがお前の剣技か? 武器はよくても、剣の腕はまだまだ未熟だな」

 続く二回戦目を撃破し、三回戦目はまさかの四刀流だった。
 ちなみに片手に二本ずつ持つストロングスタイル。凄まじい斬撃を繰り出してくる。

 王都ではめずらしい獣人族だった。
 背中に灰色のタテガミがあり、ウルフのような風貌をしている。
 モフモフで気持ちよさそうだが、触ったら怒られそうだ。

 それより――。

「そうか。で、どうするんだ、まだ戦うのか?」
「ふっ、わかるだろ?」
「ああ」

 獣人は、とても満足気だった。
 そして――。

「降参です」
「はい」

『勝者、ベルク・アルォオオオオオオン! すべての剣を叩き折り、最後は心までポッキリ折ったああああああああああああ』

 地面には、デカい四本の刀が粉々になっていた。 
 一本だからいいというわけではないが、何だか申し訳なくなる。
 
 その俺の視線に気づいたのか、獣人が肩をぽんと叩いてきた。

「気にするな。負けたほうが悪いのさ」
 
 その割にはさっきの言葉や、目に涙がたまっていることに違和感を覚えるが、何を言っても仕方がない。
 ちなみに片づけ専用の係の人が来るのだが、チリトリみたいなので剣が掃かれていく。

「お、俺の剣が……」

 これが自分の剣の可能性もあったと思うと、いやはや恐ろしい。

 控室に戻ると、大勢が俺を見ながらヒソヒソしていた。

「四刀流のヴォルもやられるとはな」
「錬金術ってのはマジなのか? 今までなんで無名だったんだ?」
「思い出した。ベルクのポーションのやつか、こんな実力を隠してたとはな……」

 どうやら知っている人みいたらしい。
 といってもまだまだ色眼鏡というか、距離は置かれているが。

「凄かったのう、人間とは思えぬ動きじゃったわ」
 
 すると後ろから声がした。
 だが違和感を覚えてしまう。

 なぜなら喋り口調というか、話し言葉は変だが、声が――凄く可愛らしいのだ。
 ん、人間ってんだ?

「ありがとうございます」

 とはいえ褒められたので、礼は急いで言っておく。そして振り返った。
 だがそこに――誰もいない?

「ん……?」
「どこで剣技を覚えたのだ? 見たことある動きだったが、いかんせん思い出せんのう」

 透明人間だと? まさか、そんな魔法が――。

「下じゃよ、ほれほれ」

 視線を下げると、そこには金髪ロリ幼女がいた。
 頭に黒い角が二本生えている。どうやら俺の知らない人種のようだ。

 顔立ちはレナセールと少し似ているが、真逆のような雰囲気がある。

「……子供?」
「本当に錬金術師なのか? ふむ、見えんのう」
「本当だが……そちらは……?」
「暇人かの?」

 暇人……?
 だがその瞬間、ストロイ・エリーンと名が呼ばれて、「いっちょやるかあ」と闘技場へ歩いて行く。
 あんな小さい子が戦えるのだろうか?
 
 と、思っていたら、ヒソヒソと話していた男たちが震えていた。

「お、おい今、エリーンって言ったか?」
「……マジ?」
「嘘だろ。大会なんて出られるのかよ!?」

 そんなに有名なのだろうか? 

 気になった俺は、闘技場の近くまで歩き、眺めていた。
 試合が開始。
 するとエリーンは、ポケットから小さな短剣を取り出した。まるでおもちゃのようなものだ。

 相手は、俺が初戦で戦った相手よりもデカい男だった。
 禍々しい、刃がギザギザになった大剣を持っている。

 身長差が凄まじく、大人と子供以上だ。
 勝敗は明らかに見えるが――。

「クソッ、なんで!」
「――遅いな」

 勝負は一瞬だった。
 男が振りかぶった大剣に、エリーンと呼ばれた幼女が見事に回避、短剣を大剣に斬りつけた。
 次瞬間、粉々に砕け散った。

 魔法のエフェクトではない。
 剣の特殊能力? いや――腕力か?

『しょ、勝者エリーンんんんんんんん、さすがとしか言いようがありません。これが、魔族・・の力というべきなのでしょうか!』

 魔族……だと?

「どうじゃった?」

 エリーンが戻ってきて、俺に向かってちょっとだけどや顔していた。

 師匠が言っていたことを思い出す。
 昔、この世界は魔王が牛耳っていた。だが勇者に討伐されてしまい、残った魔王軍は散り散りとなった。
 だがもちろん全員が駆逐されたわけじゃない。

 人間だって祖国がもし戦争に負けたとしても全員に罪はないだろう。
 それと同じで、魔族にも生きのこりがいると。

 見分け方はわかりやすく、頭部に角を携えている。

 そして何よりも魔力が強く、人間の何倍も力が強い。

 ――なるほど、敵はエリオットだけではないらしい。

 だがそれでもいい。壁は高ければ高いほどいいからな。

 するとそのとき、ちょいちょいと金髪ロリエリーンが俺を呼んだ。
 何かと思い姿勢をかがむと、なぜかほっぺにキスをされた。

「やっぱ、強い人間は美味しいのぅ。戦うのが楽しみじゃ!」

 魔族は気に入った相手に対してマークするという。
 その方法は様々で、呪いだったり、単純な印だったり。

 そして俺の頬には、唇の形の赤い口紅がついていた。

 ……これ、取れるよな?

    ◇

 同時刻、レナセールは、控室で何かを感じ取った。

「……ベルク様、今何か……されたような……なんか、心がざわつく……」

 気のせいのような気のせいじゃないような、そんな気持ちで、次の試験を待った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

戦争から帰ってきたら、俺の婚約者が別の奴と結婚するってよ。

隣のカキ
ファンタジー
国家存亡の危機を救った英雄レイベルト。彼は幼馴染のエイミーと婚約していた。 婚約者を想い、幾つもの死線をくぐり抜けた英雄は戦後、結婚の約束を果たす為に生まれ故郷の街へと戻る。 しかし、戦争で負った傷も癒え切らぬままに故郷へと戻った彼は、信じられない光景を目の当たりにするのだった……

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

【完結】魔法は使えるけど、話が違うんじゃね!?

綾雅(りょうが)電子書籍発売中!
ファンタジー
「話が違う!!」  思わず叫んだオレはがくりと膝をついた。頭を抱えて呻く姿に、周囲はドン引きだ。 「確かに! 確かに『魔法』は使える。でもオレが望んだのと全っ然! 違うじゃないか!!」  全力で世界を否定する異世界人に、誰も口を挟めなかった。  異世界転移―――魔法が使え、皇帝や貴族、魔物、獣人もいる中世ヨーロッパ風の世界。簡易説明とカミサマ曰くのチート能力『魔法』『転生先基準の美形』を授かったオレの新たな人生が始まる!  と思ったが、違う! 説明と違う!!! オレが知ってるファンタジーな世界じゃない!?  放り込まれた戦場を絶叫しながら駆け抜けること数十回。  あれ? この話は詐欺じゃないのか? 絶対にオレ、騙されたよな?  これは、間違った意味で想像を超える『ファンタジーな魔法世界』を生き抜く青年の成長物語―――ではなく、苦労しながら足掻く青年の哀れな戦場記録である。 【注意事項】BLっぽい表現が一部ありますが、BLではありません      (ネタバレになるので詳細は伏せます) 【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう 2019年7月 ※エブリスタ「特集 最強無敵の主人公~どんな逆境もイージーモード!~」掲載 2020年6月 ※ノベルアップ+ 第2回小説大賞「異世界ファンタジー」二次選考通過作品(24作品) 2021年5月 ※ノベルバ 第1回ノベルバノベル登竜門コンテスト、最終選考掲載作品 2021年9月 9/26完結、エブリスタ、ファンタジー4位

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

ぐ~たら第三王子、牧場でスローライフ始めるってよ

雑木林
ファンタジー
 現代日本で草臥れたサラリーマンをやっていた俺は、過労死した後に何の脈絡もなく異世界転生を果たした。  第二の人生で新たに得た俺の身分は、とある王国の第三王子だ。  この世界では神様が人々に天職を授けると言われており、俺の父親である国王は【軍神】で、長男の第一王子が【剣聖】、それから次男の第二王子が【賢者】という天職を授かっている。  そんなエリートな王族の末席に加わった俺は、当然のように周囲から期待されていたが……しかし、俺が授かった天職は、なんと【牧場主】だった。  畜産業は人類の食文化を支える素晴らしいものだが、王族が従事する仕事としては相応しくない。  斯くして、父親に失望された俺は王城から追放され、辺境の片隅でひっそりとスローライフを始めることになる。

テンプレを無視する異世界生活

ss
ファンタジー
主人公の如月 翔(きさらぎ しょう)は1度見聞きしたものを完璧に覚えるIQ200を超える大天才。 そんな彼が勇者召喚により異世界へ。 だが、翔には何のスキルもなかった。 翔は異世界で過ごしていくうちに異世界の真実を解き明かしていく。 これは、そんなスキルなしの大天才が行く異世界生活である.......... hotランキング2位にランクイン 人気ランキング3位にランクイン ファンタジーで2位にランクイン ※しばらくは0時、6時、12時、6時の4本投稿にしようと思います。 ※コメントが多すぎて処理しきれなくなった時は一時的に閉鎖する場合があります。

処理中です...