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第53話 強敵、ストロイ・エリーン

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「錬金術師、それがお前の剣技か? 武器はよくても、剣の腕はまだまだ未熟だな」

 続く二回戦目を撃破し、三回戦目はまさかの四刀流だった。
 ちなみに片手に二本ずつ持つストロングスタイル。凄まじい斬撃を繰り出してくる。

 王都ではめずらしい獣人族だった。
 背中に灰色のタテガミがあり、ウルフのような風貌をしている。
 モフモフで気持ちよさそうだが、触ったら怒られそうだ。

 それより――。

「そうか。で、どうするんだ、まだ戦うのか?」
「ふっ、わかるだろ?」
「ああ」

 獣人は、とても満足気だった。
 そして――。

「降参です」
「はい」

『勝者、ベルク・アルォオオオオオオン! すべての剣を叩き折り、最後は心までポッキリ折ったああああああああああああ』

 地面には、デカい四本の刀が粉々になっていた。 
 一本だからいいというわけではないが、何だか申し訳なくなる。
 
 その俺の視線に気づいたのか、獣人が肩をぽんと叩いてきた。

「気にするな。負けたほうが悪いのさ」
 
 その割にはさっきの言葉や、目に涙がたまっていることに違和感を覚えるが、何を言っても仕方がない。
 ちなみに片づけ専用の係の人が来るのだが、チリトリみたいなので剣が掃かれていく。

「お、俺の剣が……」

 これが自分の剣の可能性もあったと思うと、いやはや恐ろしい。

 控室に戻ると、大勢が俺を見ながらヒソヒソしていた。

「四刀流のヴォルもやられるとはな」
「錬金術ってのはマジなのか? 今までなんで無名だったんだ?」
「思い出した。ベルクのポーションのやつか、こんな実力を隠してたとはな……」

 どうやら知っている人みいたらしい。
 といってもまだまだ色眼鏡というか、距離は置かれているが。

「凄かったのう、人間とは思えぬ動きじゃったわ」
 
 すると後ろから声がした。
 だが違和感を覚えてしまう。

 なぜなら喋り口調というか、話し言葉は変だが、声が――凄く可愛らしいのだ。
 ん、人間ってんだ?

「ありがとうございます」

 とはいえ褒められたので、礼は急いで言っておく。そして振り返った。
 だがそこに――誰もいない?

「ん……?」
「どこで剣技を覚えたのだ? 見たことある動きだったが、いかんせん思い出せんのう」

 透明人間だと? まさか、そんな魔法が――。

「下じゃよ、ほれほれ」

 視線を下げると、そこには金髪ロリ幼女がいた。
 頭に黒い角が二本生えている。どうやら俺の知らない人種のようだ。

 顔立ちはレナセールと少し似ているが、真逆のような雰囲気がある。

「……子供?」
「本当に錬金術師なのか? ふむ、見えんのう」
「本当だが……そちらは……?」
「暇人かの?」

 暇人……?
 だがその瞬間、ストロイ・エリーンと名が呼ばれて、「いっちょやるかあ」と闘技場へ歩いて行く。
 あんな小さい子が戦えるのだろうか?
 
 と、思っていたら、ヒソヒソと話していた男たちが震えていた。

「お、おい今、エリーンって言ったか?」
「……マジ?」
「嘘だろ。大会なんて出られるのかよ!?」

 そんなに有名なのだろうか? 

 気になった俺は、闘技場の近くまで歩き、眺めていた。
 試合が開始。
 するとエリーンは、ポケットから小さな短剣を取り出した。まるでおもちゃのようなものだ。

 相手は、俺が初戦で戦った相手よりもデカい男だった。
 禍々しい、刃がギザギザになった大剣を持っている。

 身長差が凄まじく、大人と子供以上だ。
 勝敗は明らかに見えるが――。

「クソッ、なんで!」
「――遅いな」

 勝負は一瞬だった。
 男が振りかぶった大剣に、エリーンと呼ばれた幼女が見事に回避、短剣を大剣に斬りつけた。
 次瞬間、粉々に砕け散った。

 魔法のエフェクトではない。
 剣の特殊能力? いや――腕力か?

『しょ、勝者エリーンんんんんんんん、さすがとしか言いようがありません。これが、魔族・・の力というべきなのでしょうか!』

 魔族……だと?

「どうじゃった?」

 エリーンが戻ってきて、俺に向かってちょっとだけどや顔していた。

 師匠が言っていたことを思い出す。
 昔、この世界は魔王が牛耳っていた。だが勇者に討伐されてしまい、残った魔王軍は散り散りとなった。
 だがもちろん全員が駆逐されたわけじゃない。

 人間だって祖国がもし戦争に負けたとしても全員に罪はないだろう。
 それと同じで、魔族にも生きのこりがいると。

 見分け方はわかりやすく、頭部に角を携えている。

 そして何よりも魔力が強く、人間の何倍も力が強い。

 ――なるほど、敵はエリオットだけではないらしい。

 だがそれでもいい。壁は高ければ高いほどいいからな。

 するとそのとき、ちょいちょいと金髪ロリエリーンが俺を呼んだ。
 何かと思い姿勢をかがむと、なぜかほっぺにキスをされた。

「やっぱ、強い人間は美味しいのぅ。戦うのが楽しみじゃ!」

 魔族は気に入った相手に対してマークするという。
 その方法は様々で、呪いだったり、単純な印だったり。

 そして俺の頬には、唇の形の赤い口紅がついていた。

 ……これ、取れるよな?

    ◇

 同時刻、レナセールは、控室で何かを感じ取った。

「……ベルク様、今何か……されたような……なんか、心がざわつく……」

 気のせいのような気のせいじゃないような、そんな気持ちで、次の試験を待った。
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