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第45話 立ち上がってください。

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「むっふー、それで私のところに来たんですね。どうぞどうぞ、色々見て行ってください」

 笑顔で屋敷を案内してくれたのは、友人であり好敵手であり、錬金術師のチェコ・アーリル。
 無事にレナセールの奴隷契約を解除したこと伝えに来たのだ。

 それと、一級推薦を師匠にして頂いたことも。
 ただ、推薦は多ければ多いほどいいとされている。

 チェコは快く書いてあげると言ってくれた。報告が後になって申し訳なかったが、そんなことは気にしないでと工房を案内してくれた。
 一度だけレナセールは入口まで来たといっていたが、中は初めてだという。

 王都でも大貴族しか住んでいないストリートの一角、大きな屋敷が、アーリル家である。

 使用人の数は、それこそけた違いだった。
 既に廊下で数十人の執事やメイドとすれ違っている。

 一見すればチェコは旅人のような性格をしているが、実際の所は非常に良家の出だ。
 なんだか申し訳なくなり、レナセールと何度も顔を見合わせた。

 だがそんな事は、工房に入った途端、頭から消えてしまった。

「凄いな……」
「ほええ……凄いですねベルク様」

 扉を開けた瞬間、開いた口がふさがらなくなった。
 部屋、というよりは研究所だ。

 とてつもなく広い。
 錬金術で使う器具がいくつも並べられており、いたるところに高級材料が積まれている。
 中心には、見たこともない魔法陣が地面に付与されていた。

 また、その上には、デカいガラスの置物に、青と赤が混じった液体が入っている。

 壁には本棚が並べられていて、まるで図書館だ。

 おそらくだが、部屋の壁を壊して、数部屋を繋げているのだろう。

「ふふふ、凄いですか? 適当にくつろいでもらっていいので、疲れたら休んでくださいね。一応、端から説明していきます?」
「ああ、お願いできるか?」
「もちろんですよ。レナセールちゃんは、真ん中の液体触っちゃダメだよ。魔力が高いから、もしかしたら反発し合うかも」
「は、はい! わかりました」

 チェコは錬金術だけでなく、師匠と同じく魔法使いの資格を持っている。
 三級から一級までの錬金術師の資格と違って、魔法は十級からなるが、彼女は一級だという。

 文武両道に長けている、というべきだろう。

 ただ魔法使いになるには、幼い頃からの正しい訓練が必要だ。
 才能があって気づけば使えた、なんて一握り中の一握り。

 ただし魔法家庭教師を雇う為の費用は高く、貴族でしか雇えない。よって、魔法使いのほとんどが貴族だ。

 チェコは才能もあったらしく、噂によると魔法大会での優勝経験もあるらしい。
 だがそのそれを生かすことはなく、今は錬金術師として常に研鑽を積んでいるとのこと。

「このビーカーは西の生まれで、魔法耐性があるからよっぽどのことじゃ壊れないんですよ。後はこのアイテム、面白いですよ」
「ほほう?」

 取り出したのは、小さな箱だった。
 前世と違って、この世界の連絡手段は乏しい。

 だがそのおかげで、国が違えば文化も発達も違う。
 
 錬金術もまったく違うのだ。
 王都では魔法との組み合わせが多いが、他国では魔法陣を使った術式の組み込みによる発動が多いと聞く。

 そしてこの箱には、みっちりとプログラムの暗号のようなものが書かれていた。
 特殊なインクらしく、ごしごしと拭いてもとれないものらしい。

 チェコが箱を開けると、中から異様な魔力が湧きだしてきた。
 何だか、不安になるような感じだ。

 俺には何が何だかわからなかったが、レナセールがすぐに気づく。

「これ、もしかして【魔寄せ】ですか?」
「ふふふ、流石レナセールちゃんだね。参考までに、どうしてわかったの?」
「魔力には独特の匂いがあります。それで何となく。感覚なので、説明はしづらいのですが」
「【魔寄せ】とは何だ……?」
「その名の通りですよ。狩場に設置すると、魔物が匂いを辿って来るんです。あえて集めて狩りを効率化させたり、逆に別の場所に引き寄せることで安全な道を確保する、と色々ですね」
「おもしろいな。虫よけスプレーの逆か。その発想はなかった」
「虫よけスプレー?」

 以前、エルミック家で使った物をチェコに説明すると、凄く嬉しそうだった。
 自分で創造できないものを聞くと嬉しくなる気持ちはわかる。

「そういえば、【レベッカの絆創膏】凄すぎません? どうやったらあんなの思いつくんです?」
「……しいていえば、経験かな?」
「ベルク様は凄いのです!」

 格好よく言ったが、ズルみたいなものだ。とはいえ、一応経験、一応な。

 それから話はどんどん弾んで、気づけば夜になった。
 執事の一人が現れて、何と夕食にお呼ばれしたのだ。

「いいのか?」
「もちろんですよ。うちの料理長のご飯は美味しいので、是非食べていってください。ただ、サーチちゃんは大丈夫です?」
「自動でご飯を出すようにしてるから問題ないだろう。一人も好きみたいで、よく屋根で日向ぼっこしてるよ」
「へえ、可愛いですね。後で自動のそれ、詳しく教えてください」
「チェコさん、ありがとうございます!」

 俺は以前、チェコの誘いを断った。
 それでもこうやって仲良くしてくれるのはありがたい。

 夕食は大きな広間だった。
 見たことものないご馳走が並び、使用人が多くてドキドキしたが、チェコがお喋りしてくれたので緊張感はなかった。

 夜は入浴をさせてもらった。
 西洋の銭湯を思わせる作りで、ライオンの口からお湯が断続的に流れている。

 おそらくこれも手作りだろう。
 ……凄いな。

 すると、入口から音がした。
 慌てて立ち上がると、現れたのは、レナセールと――チェコだった。
 二人とも一応タオルは撒いているが、この世界の布は薄く、ほとんど透けている。

「ベルク様、お背中を流しします!」
「あ、ああ……え、ええと」

 俺が困っていると、チェコがとぼけた顔で首を傾げる。

「どうしました? あ、もしかして恥ずかしいですか?」
「そ、それは当たり前だろう!?」

 師匠と違ったスタイルの良さに、思わず立ち上がれなくなった。
 レナセールはそれに気づいたらしく、少しだけじと目に。
 これは不可抗力だ。

「やっぱり布、邪魔だなあ」

 そう言うと、突然チェコは布をはぎ取った。
 見事なスタイルが露わとなり、これにはレナセールも驚いていた。
 
 いや、俺が一番驚いているが。

「……ベルク様!」
「え、ああ」
「見るなら、私のにしてください!」

 すると次は、レナセールが布をはぎ取った。
 白い肌が露わとなり、美乳が姿を現した。

「ほら、お背中流ししますよ! 立ち上がってください!」

 ある意味では立ち上がっている。

 多分これは、引かれるので言わないが。
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