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第3話:それで、名前は何て言うんだ?

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 S級ポーションの効き目はすさまじいものだった。
 手足がジュクジュクと音をたてながら肌の傷が塞がり、眼球や鼓膜が回復していく。

 だが流石にすぐ、というわけではないらしく、相応の痛みもあるらしい。

 時折悲鳴をあげるのがいたたまれないが、我慢してもらうほかにない。

 しかし予想以上だ。
 となると、俺にはそろえなきゃいけないものがある。

 それは服と下着だ。

 ここは俺しか住んでいないので、女性の服なんてない。

 ベッドに寝かせたエルフの頬を撫でたあと、お金を握りしめて商店へ向かう。

 購入はドキドキしたが、よく考えれば奴隷や冒険者が溢れている世界。
 誰だって男でも女性ものの服の一枚や二枚買うことがあるのだろう。

 適当に少し大きめの服と下着を買って部屋に戻ると、そこには見知らぬ女性がいた。
 金髪碧眼、まだ皮膚はところどころ傷だらけだが、耳がピンとしたエルフだ。

 想像していたよりもすらりと長い手足に、年齢は不明だが身長はそれなりに高いとわかった。

「……あ……あ」

 ……というか、見たところ魔力もかなり回復してるかもしれない。

 俺が買ったのバレたら殺されるんじゃないか?

 マズイぞ、自衛できるのはナイフぐらいしかない。

 クソ、こんなの――。

「……助けてくれて……ありがとうございます」

 と思っていたが、エルフは涙を流した。
 身体をだらんとさせて、反抗の意思などまったくないらしい。

 なんだか拍子抜けというか、安心した。

 俺は急いでタオルを渡す。

「人間語はわかるか?」
「はい」
「……記憶とかは?」
「……少しずつ、色々と思い出してきています」
「そうか。俺は――」
「ベルク様。私を買って助けてくださった方です。音は、少し聞こえてましたから」

 言葉ではなく、音と発言した彼女の言葉が、心に刺さった。

「そうか。ええと、どうしよう。とりあえずその――服を買ってきたんだ。それを着てもらえるか?」
「手が……まだ動かなくて……」
「そうか。なら着替えさせるぞ」

 予想外だ。
 いやいずれこうなると思っていたが早すぎる。
 
 ボロボロの布服をはがしたあと、真っ白い肌が露わになる。
 傷が完全に治れば、違う意味で直視できなくなりそうだ。

 少しだけ汚れがあったので布で拭いた後、一般的な服に着替えさせる。

「とりあえず……ご飯食べるか?」
「ご飯……」
「ああそうか、胃袋が受け付けないか」
「食べて……いいんですか」

 すると彼女は涙をぼろぼろ流した。
 人間と違って魔力から栄養補給ができると聞いた事はある。
 だがそれでも辛かっただろう。

「吐きそうだったらすぐにやめていいからな。ほら」

 俺はパンをちぎって口に運ぶ。
 すると彼女は、ゆっくりと、まるで探すように噛んだ。

「……美味しい……」

 咀嚼すらまだしていないというのにただそれだけで大粒の涙を流した。

 ……ああよかった。

 俺のやったことは、良い事だったのだ。

 もうずいぶんとわからなくなってきた。
 たったの一年で、この世界に馴染みすぎていた。

 魔物がいて、昨日話していた人が死んでしまう世界。

 自分の命が惜しくて、救える命に手を差し伸べなかったこともある。

 ただほんの少し、俺は自分が誇らしくなった。

「それで、名前は何て言うんだ?」
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