上 下
28 / 50

28話 普通のおじさん、大人げないおじさん。

しおりを挟む
 ポテトチップスとコーラの魔力ですっかり忘れてしまっていたが、船に乗ったということは、別の大陸に移動するということだ。
 ククリもまだ行ったことがない土地に。

 今まで頼りにしていたが、彼女の知らない文化や風習が増えていくことだろう。

 特にククリとエヴァはまだ子供だ。

 私が、おじさんが、彼女たちを守らなければならない。

「シガ様、大丈夫ですか?」
「シガ、顔色やばい」
「あ、ああ……こんなに揺れる乗り物が存在するんだな……」

 深夜、船の甲板で、私は二人に背中をさすってもらっていた。
 辛すぎるので考えごとをしていたが、それでも辛いのは変わらない。

 ありえない揺れ具合、こんなのジェットコースターのほうがマシだ。

 もはや船ではない。これは人を意図的に揺らす為に作られた乗り物だ。

 なのになぜ……二人は平気なのだ。

「何か飲み物を飲まれますか?」
「いや……今飲むと全部出してしまいそうだ」
「シガ、顔色やばい」

 エヴァの語彙力が無くなるぐらい、私の顔色はヤバいのだろう。
 
 ……そうか。

「100万ペンス……だが背に腹は代えられない」

 誰かに見られないように空間魔法を出現させ、栄養ドリンクを取り出し、ごくごくと飲み干す。
 これで治るはずだ。

 腕立て、屈伸、バーピーすら可能に。

「良かった……。シガ様の体調が一番ですもんね」
「シガ、まだ顔色やばい」
「あ、ああ。これで完璧……あれ……」

 だがしかし、私の身体から栄養ドリンクが一気に排出した。
 すまない海、汚してすまってすまない。

 そうか、私には効かないのか……。

 酔い止めの薬は医薬品で、Nyamazonにはない……。

「ククリ、エヴァ、今までありがとう。短い旅だったが、楽しかった……」
「し、シガ様!?」
「シガ、しんだ」

 ▽

「晴れやかだな、まるで私たちを歓迎しているかのようだ」
「シガ様、体調が良くなって良かったですね」
「シガ、元気」

 翌朝、なんとか生き延びることができた私は、甲板で空を眺めていた。

 揺ら揺ら揺ら、だが、なんと耐性を得た。

 スキルに、船酔い耐性があるのを見つけたのだ。

 こればかりはチートに感謝しよう。

 だが到着までまだ時間がかかるみたいだった。
 エンジンがあるわけでもなく、風と人力で動いているので仕方がない。

 娯楽施設があるわけではないので些か暇だが……そうか。

「ククリ、エヴァ、トランプしないか?」
「トランプ? それはなんですか?」

 安価なトランプを購入し、二人に見せると、カードの堅さに驚いていた。
 あ、そっちなんだ。

「凄い、鋭利ですね」
「……新しい発想だな。そういえばこの世界でゲーム、遊戯のようなものはあるのか?」
「あると思います。私の里では木を削った駒遊びがありました」

 聞けばチェスのようなものだった。
 そのあたりは私の世界と変わらない。

 ひとまず私は、二人にババ抜きを教えた。
 簡単で人数も少なく楽しめる。

 個人的には大富豪もありなのだが、少し複雑すぎるだろう。

「む、エヴァちゃん強い……」
「えへへ、みんなわかりやすい」

 だがどうやら、私とククリは顔に表情が出やすいらしく、エヴァが連戦連勝だった。
 そして続く神経衰弱では――。

「で、これがスペードの6、こっちもこれで、あ、やっぱり。終わりですね!」
「ククリ、君の記憶はどうなっているんだ」

 一枚開けば、ククリは全てを記憶し、ミスせず当てていく。
 無双だ。勝てるわけがない。私の並列思考はなぜ発動しない?

「はい、大富豪です!」
「富豪だー」
「貧民……だ……」

 結局、二人は大富豪のルールも完璧に覚えてくれた。
 だが、勝てない。

 何故だ、なぜ勝てないのだ?

 たしかにエルフは頭脳明晰と聞いたことがある。
 それにしても、ここまで……。

「次は何にします? あれ、シガ様? 空間魔法をなぜ出したのですか?」
「シガ、トランプ消した」
「遊具は時間制限を設けたほうがいい。あまりやりすぎるとダメなんだ。これは、トランプの正式なルールだ」
「そういうもなんですか……でも、確かに面白いですもんね。また明日もやりましょう!」
「シガ、本当?」

 私は答えなかった。

 私は普通のおじさんだ。

 だが、負けず嫌いおじさんでもある。

 悲しい、悔しい。

 私はトランプが好きだった。

 大人げない、人は私のことをそう呼ぶかもしれない。

 だけどいい。

 私は、大人げないおじさんなのだから。

「……さて、鮭おにぎりとチョコレート、ポテトチップスとコーラを食べようか」
「ええ! 最高の組み合わせじゃないですか!」
「シガ、最高!」

 しかし私はその夜、罪悪感にさいなまれてしまい、もう負けたくないので嘘をついたと謝罪した。

 だが二人は、微笑んで許してくれた。

 ありがとう。

 やっぱり人間、正直に生きるべきだ。


 ただトランプは、たまにしかしないようにするが。


 
 そしてようやく、私たちは大陸に辿り着いた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界でネットショッピングをして商いをしました。

ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。 それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。 これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ) よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m hotランキング23位(18日11時時点) 本当にありがとうございます 誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。

テンプレを無視する異世界生活

ss
ファンタジー
主人公の如月 翔(きさらぎ しょう)は1度見聞きしたものを完璧に覚えるIQ200を超える大天才。 そんな彼が勇者召喚により異世界へ。 だが、翔には何のスキルもなかった。 翔は異世界で過ごしていくうちに異世界の真実を解き明かしていく。 これは、そんなスキルなしの大天才が行く異世界生活である.......... hotランキング2位にランクイン 人気ランキング3位にランクイン ファンタジーで2位にランクイン ※しばらくは0時、6時、12時、6時の4本投稿にしようと思います。 ※コメントが多すぎて処理しきれなくなった時は一時的に閉鎖する場合があります。

チュートリアル場所でLv9999になっちゃいました。

ss
ファンタジー
これは、ひょんなことから異世界へと飛ばされた青年の物語である。 高校三年生の竹林 健(たけばやし たける)を含めた地球人100名がなんらかの力により異世界で過ごすことを要求される。 そんな中、安全地帯と呼ばれている最初のリスポーン地点の「チュートリアル場所」で主人公 健はあるスキルによりレベルがMAXまで到達した。 そして、チュートリアル場所で出会った一人の青年 相斗と一緒に異世界へと身を乗り出す。 弱体した異世界を救うために二人は立ち上がる。 ※基本的には毎日7時投稿です。作者は気まぐれなのであくまで目安くらいに思ってください。設定はかなりガバガバしようですので、暖かい目で見てくれたら嬉しいです。 ※コメントはあんまり見れないかもしれません。ランキングが上がっていたら、報告していただいたら嬉しいです。 Hotランキング 1位 ファンタジーランキング 1位 人気ランキング 2位 100000Pt達成!!

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

気がついたら異世界に転生していた。

みみっく
ファンタジー
社畜として会社に愛されこき使われ日々のストレスとムリが原因で深夜の休憩中に死んでしまい。 気がついたら異世界に転生していた。 普通に愛情を受けて育てられ、普通に育ち屋敷を抜け出して子供達が集まる広場へ遊びに行くと自分の異常な身体能力に気が付き始めた・・・ 冒険がメインでは無く、冒険とほのぼのとした感じの日常と恋愛を書いていけたらと思って書いています。 戦闘もありますが少しだけです。

「残念でした~。レベル1だしチートスキルなんてありませ~ん笑」と女神に言われ異世界転生させられましたが、転移先がレベルアップの実の宝庫でした

御浦祥太
ファンタジー
どこにでもいる高校生、朝比奈結人《あさひなゆいと》は修学旅行で京都を訪れた際に、突然清水寺から落下してしまう。不思議な空間にワープした結人は女神を名乗る女性に会い、自分がこれから異世界転生することを告げられる。 異世界と聞いて結人は、何かチートのような特別なスキルがもらえるのか女神に尋ねるが、返ってきたのは「残念でした~~。レベル1だしチートスキルなんてありませ~~ん(笑)」という強烈な言葉だった。 女神の言葉に落胆しつつも異世界に転生させられる結人。 ――しかし、彼は知らなかった。 転移先がまさかの禁断のレベルアップの実の群生地であり、その実を食べることで自身のレベルが世界最高となることを――

Rich&Lich ~不死の王になれなかった僕は『英霊使役』と『金運』でスローライフを満喫する~

八神 凪
ファンタジー
 僕は残念ながら十六歳という若さでこの世を去ることになった。  もともと小さいころから身体が弱かったので入院していることが多く、その延長で負担がかかった心臓病の手術に耐えられなかったから仕方ない。  両親は酷く悲しんでくれたし、愛されている自覚もあった。  後は弟にその愛情を全部注いでくれたらと、思う。  この話はここで終わり。僕の人生に幕が下りただけ……そう思っていたんだけど――  『抽選の結果あなたを別世界へ移送します♪』  ――ゆるふわ系の女神と名乗る女性によりどうやら僕はラノベやアニメでよくある異世界転生をすることになるらしい。    今度の人生は簡単に死なない身体が欲しいと僕はひとつだけ叶えてくれる願いを決める。  「僕をリッチにして欲しい」  『はあい、わかりましたぁ♪』  そして僕は異世界へ降り立つのだった――

神の使いでのんびり異世界旅行〜チート能力は、あくまで自由に生きる為に〜

和玄
ファンタジー
連日遅くまで働いていた男は、転倒事故によりあっけなくその一生を終えた。しかし死後、ある女神からの誘いで使徒として異世界で旅をすることになる。 与えられたのは並外れた身体能力を備えた体と、卓越した魔法の才能。 だが骨の髄まで小市民である彼は思った。とにかく自由を第一に異世界を楽しもうと。 地道に進む予定です。

処理中です...