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26話 普通のおじさん、凄い事に気づく。
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「どうぞ、お召し上がれ!」
寸胴の中に、たっぷりの食材が入ったスープに煮込まれている。
匂いと色はホワイトシチューのようだ。
今まで何度も異世界飯を食べてきたが、どれも肉やパン、薄いスープばかりだった。
比べるのもどうかと思うが、食欲がそそる。
「ミルさん、いただきます! はい、エヴァちゃん」
「ありがとうっ」
ククリが、シチューなるものを小皿によそってからエヴァに渡す。
まるで姉妹みたいだ。
どれ、私も――一口。
「……美味しい……」
優しい味だ。シチューに似ているが、それよりも口当たりがいい。
牛乳がたっぷり使われているのはわかったが、細かい調味料とかは全く違うのだろう。
こんなに爽やかな食べ物もあるんだな。
備え付けてくれたパンに浸して食べると、これもまた美味だった。
「お口に合って良かったです! それに、本当に命を助けてくださりありがとうございました」
ペコリと、ミルさんがお辞儀する。
彼女は、エヴァが助けた子だ。
聞けばまだ10代で、薬草を取りに行っていたらしい。
魔物は普段見かけないので油断していたとのこと。
そしてその理由は、ここへ来た時に教えてもらった。
「父上に挨拶はしなくてよいのかな」
「大丈夫です。病気をうつすのはよくないと、父も言ってたので」
ミルの父上は、身体が随分と悪いという。
金銭面に余裕がないわけではないが、薬もあまり効かないとのことだった。
エヴァにお願いしようと思ったが、魔法で可能なのは怪我の治療らしく、病気には効かないらしい。
素晴らしい奇跡ではあるが、万能ではない。
「どうぞ、ゆっくりしてくださいね。お父さんも来てもらえたことを喜んでました!」
「そうか、といってもそこまで長居するつもりはないんだ。のんびりとした旅ではなくてな」
「そう……ですか……仕方ありませんね」
ミルは、悲し気な表情を浮かべる。母親は事故でなくなったらしく、一人だと精神的に辛いのだろう。
父上が病気か……いや、もしかしたら――。
私は、ハッとなり食事の途中で立ち上がった。
「ミル、父上は起きているか?」
「ええ、どうしました?」
「会わせてほしい。もしかしたら、病気の原因がわかるかもしれない」
ミルは、申し訳ないと言っていたが、強くお願いして二階へ上がる。
「お父様、良いですか?」
「ん……あ、あなたが客人さんか。娘を本当にありがとうございます。だがミル、来てはダメだといっただろう」
「大丈夫です。少しいいでしょうか?」
「……少し?」
「もしかしたら、病気の原因がわかるかもしれません」
ミルの父上は不安気だったが、なんとか了承してくれた。
私は近づきしゃがみ込むと、手を握って――ステータスを確認する。
ビアン・カーター
レベル:1
体力:E
魔力:E
気力:F
ステータス:倦怠感、気力低下、体力低下、頭痛、筋肉痛・関節痛
しかし、病名は出てくれなかった。
症状は風邪っぽくはあるが、それしかわからない。
当てが外れてしまったな……。不甲斐ない……。
「すみません、わかりませんでした……」
「いや、ありがとうございます。その気持ちだけで嬉しいです」
ミルの父上は悲しがることもなく微笑んでくれた。
期待させてしまったというのに……せめて、何か……。
「……少し待っていてもらえますか?」
私は急いで外に出ると、Nyamazonで栄養ドリンクをワンケース購入した。
医薬品が一番良かったが、その項目はなかった。
急いで戻ると、ドリンクを取り出して手渡した。
「これは……?」
「栄養が詰まってるんです。良ければお飲みください」
「そうか、ありがとう。君は本当にいい人だな。頂くよ」
すると父上様は、グビグビと勢いよく飲みはじめる。
いい飲みっぷりだ。
これでなんとかなるとは思わないが、異世界は少し質素だ。
栄養が足りてないことは間違いないだろう。
そういえば私も、ブラック企業の時によく飲んでいたな――。
「ち……父上?」
「か……身体が……」
あれ? 父上が、立ち上がって――屈伸!?
「凄い、凄いぞミル! 身体が、軽い!」
腕立て伏せ、腹筋、最後にバーピー。
そんな現代風のトレーニングを……? いや、それより――。
私は、栄養ドリンクと手に取って成分表を見てみた。
もちろん、特にめずらしいことは書いていない。
だが――。
「凄い、凄いぞお!」
目の前にいるミルの父上は、明らかに元気だ、いや、元気すぎる。
……もしかして、この世界においてはポーションレベルなのか?
寸胴の中に、たっぷりの食材が入ったスープに煮込まれている。
匂いと色はホワイトシチューのようだ。
今まで何度も異世界飯を食べてきたが、どれも肉やパン、薄いスープばかりだった。
比べるのもどうかと思うが、食欲がそそる。
「ミルさん、いただきます! はい、エヴァちゃん」
「ありがとうっ」
ククリが、シチューなるものを小皿によそってからエヴァに渡す。
まるで姉妹みたいだ。
どれ、私も――一口。
「……美味しい……」
優しい味だ。シチューに似ているが、それよりも口当たりがいい。
牛乳がたっぷり使われているのはわかったが、細かい調味料とかは全く違うのだろう。
こんなに爽やかな食べ物もあるんだな。
備え付けてくれたパンに浸して食べると、これもまた美味だった。
「お口に合って良かったです! それに、本当に命を助けてくださりありがとうございました」
ペコリと、ミルさんがお辞儀する。
彼女は、エヴァが助けた子だ。
聞けばまだ10代で、薬草を取りに行っていたらしい。
魔物は普段見かけないので油断していたとのこと。
そしてその理由は、ここへ来た時に教えてもらった。
「父上に挨拶はしなくてよいのかな」
「大丈夫です。病気をうつすのはよくないと、父も言ってたので」
ミルの父上は、身体が随分と悪いという。
金銭面に余裕がないわけではないが、薬もあまり効かないとのことだった。
エヴァにお願いしようと思ったが、魔法で可能なのは怪我の治療らしく、病気には効かないらしい。
素晴らしい奇跡ではあるが、万能ではない。
「どうぞ、ゆっくりしてくださいね。お父さんも来てもらえたことを喜んでました!」
「そうか、といってもそこまで長居するつもりはないんだ。のんびりとした旅ではなくてな」
「そう……ですか……仕方ありませんね」
ミルは、悲し気な表情を浮かべる。母親は事故でなくなったらしく、一人だと精神的に辛いのだろう。
父上が病気か……いや、もしかしたら――。
私は、ハッとなり食事の途中で立ち上がった。
「ミル、父上は起きているか?」
「ええ、どうしました?」
「会わせてほしい。もしかしたら、病気の原因がわかるかもしれない」
ミルは、申し訳ないと言っていたが、強くお願いして二階へ上がる。
「お父様、良いですか?」
「ん……あ、あなたが客人さんか。娘を本当にありがとうございます。だがミル、来てはダメだといっただろう」
「大丈夫です。少しいいでしょうか?」
「……少し?」
「もしかしたら、病気の原因がわかるかもしれません」
ミルの父上は不安気だったが、なんとか了承してくれた。
私は近づきしゃがみ込むと、手を握って――ステータスを確認する。
ビアン・カーター
レベル:1
体力:E
魔力:E
気力:F
ステータス:倦怠感、気力低下、体力低下、頭痛、筋肉痛・関節痛
しかし、病名は出てくれなかった。
症状は風邪っぽくはあるが、それしかわからない。
当てが外れてしまったな……。不甲斐ない……。
「すみません、わかりませんでした……」
「いや、ありがとうございます。その気持ちだけで嬉しいです」
ミルの父上は悲しがることもなく微笑んでくれた。
期待させてしまったというのに……せめて、何か……。
「……少し待っていてもらえますか?」
私は急いで外に出ると、Nyamazonで栄養ドリンクをワンケース購入した。
医薬品が一番良かったが、その項目はなかった。
急いで戻ると、ドリンクを取り出して手渡した。
「これは……?」
「栄養が詰まってるんです。良ければお飲みください」
「そうか、ありがとう。君は本当にいい人だな。頂くよ」
すると父上様は、グビグビと勢いよく飲みはじめる。
いい飲みっぷりだ。
これでなんとかなるとは思わないが、異世界は少し質素だ。
栄養が足りてないことは間違いないだろう。
そういえば私も、ブラック企業の時によく飲んでいたな――。
「ち……父上?」
「か……身体が……」
あれ? 父上が、立ち上がって――屈伸!?
「凄い、凄いぞミル! 身体が、軽い!」
腕立て伏せ、腹筋、最後にバーピー。
そんな現代風のトレーニングを……? いや、それより――。
私は、栄養ドリンクと手に取って成分表を見てみた。
もちろん、特にめずらしいことは書いていない。
だが――。
「凄い、凄いぞお!」
目の前にいるミルの父上は、明らかに元気だ、いや、元気すぎる。
……もしかして、この世界においてはポーションレベルなのか?
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