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025 社会科見学
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六封凶の面々が、魔王の間に集結していた。
まるで初めて会った時のような表情を浮かべ、殺気に近い空気が張りつめている。
「では、引くぞ」
その空気の中で俺は、白い箱に手を入れる。
ガサゴソと取り出した紙には、ライフと書かれていた。
「や、やったあ!」
続いてもう一度、いや次でラストだ。
「ん……ベルディだ」
「わかりました」
少しだけ微笑んだかのように見えるが、気のせいかもしれない。
その瞬間、アリエルとペール、シュリ、ビブリアが悲し気に声を上げた。
「ま、魔王様……わたくしはどうすれば……」
「いや、お留守番しといてね」
嘆くアリエル。まあ、他の選ばれなかった連中も同じように喘いでいる。
デルス街の建設自体は順調で、何も問題はない。
ただ一つ問題があるとすれば、俺たちのほうだ。
全員が、人間界のことを知らなすぎるのだ。
メリットやファイル、リリは問題ないが、肝心の幹部である俺たちは人間国を知らない。
俺も冒険者で少し任務を受けたのと、原作で知っているくらいだ。
実際にこの目で見てきて得るものがあるだろうと思った。
つまり社会科見学みたいなものだ。
もちろん全員で行くことはできない。
六封凶に募ってみたが、私が、私が! と案の定揉めてしまったので、平和的にくじ引きに決まったのである。
「ライフ、ベルディ、ちょっと派手だな」
「そ、そうですか?」
「わかりました」
俺はいつも通り変身魔法でショタから少年デルスへ。
二人にも溶け込んでもらえるようにと服を用意してもらったが、ライフは性格と真反対のたゆんたゆんが見えまくっているお姉さんスタイルで、ベルディはまたパニエマシマシロリータだった。
これにはさすがに危険だ。できるだけ静かに観光をしたい。
「おお、それがいいな」
「嬉しいです、デルス様」
「ありがとうございます」
しかしまあ何とか普通の服もあったらしく、ライフはいつも着ているアオザイに似たワンピース、ベルディは茶色を基調とした素朴な感じになった。
期間はそれほど長く予定していないが、できるだけ俺が知らない街や国へ行くつもりだ。
理由は原作で知っているところはつまらないのもあるが、知見を広めたいからだ。
ライフとベルディなら何があっても対応できるだろうし、思いのほか、良い人選になったかもしれない。
「悪人がいるといいね! ベルディちゃん」
「いっぱい、いてほしい」
あ、うん。たぶん……。
「それじゃあアリエル、ペール、シュリ、ビブリア。留守を頼んだぞ。みんなにも伝えているが、仲良くやってくれ」
「「「「はっ!」」」」
そしてアリエルが転移魔法を出してくれた。
といっても、俺が最初に行く予定の街までは飛べない。
近くの森まで飛ばしてもらって、そこからは徒歩だ。
短い期間だが、冒険っぽさも味わえるのでいいだろう。
「それじゃあいってくる」
みんなに見送られながら、ライフとベルディと窓をくぐる。
そこからはただひたすらに歩いた。
ある程度舗装された道に出ると、行きずりの馬車を見つけたのでそのまま相乗り。
ライフもベルディも見た目大人しいので、一安心だ。
「冒険者ですか?」
「ええ、少しバリアウ街の見学に」
「……バリアウですか?」
馬車の中で真面目そうな男性に聞かれ、何気なく答える。
地図で見たところ一番近いのがそこだったのだ。
原作では訪れることのない街で楽しみだが、なんだか男性の顔が不安げだ。
「無事に過ごせるといいですね」
「ん? ああ。ありがとうございます」
意味深な言葉に不安を覚えつつ、数時間後に到着した。
しかし街はまだ遠い。どうせなら近くまで送ってほしかったが、わがままはいうまい。
「ま、たまには歩くのもいいか」
「そうですね、天気もいいですし」
「気持ちがいい」
ライフの言う通り、青空が綺麗だ。
一日目として最高すぎる。
大体七日ぐらいで帰る予定だ。回れるのは三つか四つくらいだろう。
それだけあれば、色々と知見も広がるはず。
しかし街の近くでなんだか不安を感じた。
いや、俺の隣で馬を走らせていたやつらがいたのだが、明らかにそのなんというか――。
「はっは、もうすぐだぜええ!」
「我が街、バウリア!」
「いやっふぅ!」
モヒカンにパンク風の服(ボロボロなだけかも)、すげえ世紀末みたいなやつらだったのだ。
まあ、いわゆる暴力好きそうな……。
そしてその不安は、見事的中した。
街に近づいた瞬間、明らかに悪そうな奴らばっかり見えてしまう。
門なのに兵士はいなさそうだし、昼間から酒を飲んでいるやつもいる。
「……不安だ」
いろんな意味で。
そして案の定、声を掛けられる。
「なんだ、てめぇら?」
「おいおい、いい女じゃねえか!」
「ちっこいけど、こいつも可愛いな!」
うーん、さよなら粛清コースかニコニコ菩薩コースか。
どっちにしようかな。
まるで初めて会った時のような表情を浮かべ、殺気に近い空気が張りつめている。
「では、引くぞ」
その空気の中で俺は、白い箱に手を入れる。
ガサゴソと取り出した紙には、ライフと書かれていた。
「や、やったあ!」
続いてもう一度、いや次でラストだ。
「ん……ベルディだ」
「わかりました」
少しだけ微笑んだかのように見えるが、気のせいかもしれない。
その瞬間、アリエルとペール、シュリ、ビブリアが悲し気に声を上げた。
「ま、魔王様……わたくしはどうすれば……」
「いや、お留守番しといてね」
嘆くアリエル。まあ、他の選ばれなかった連中も同じように喘いでいる。
デルス街の建設自体は順調で、何も問題はない。
ただ一つ問題があるとすれば、俺たちのほうだ。
全員が、人間界のことを知らなすぎるのだ。
メリットやファイル、リリは問題ないが、肝心の幹部である俺たちは人間国を知らない。
俺も冒険者で少し任務を受けたのと、原作で知っているくらいだ。
実際にこの目で見てきて得るものがあるだろうと思った。
つまり社会科見学みたいなものだ。
もちろん全員で行くことはできない。
六封凶に募ってみたが、私が、私が! と案の定揉めてしまったので、平和的にくじ引きに決まったのである。
「ライフ、ベルディ、ちょっと派手だな」
「そ、そうですか?」
「わかりました」
俺はいつも通り変身魔法でショタから少年デルスへ。
二人にも溶け込んでもらえるようにと服を用意してもらったが、ライフは性格と真反対のたゆんたゆんが見えまくっているお姉さんスタイルで、ベルディはまたパニエマシマシロリータだった。
これにはさすがに危険だ。できるだけ静かに観光をしたい。
「おお、それがいいな」
「嬉しいです、デルス様」
「ありがとうございます」
しかしまあ何とか普通の服もあったらしく、ライフはいつも着ているアオザイに似たワンピース、ベルディは茶色を基調とした素朴な感じになった。
期間はそれほど長く予定していないが、できるだけ俺が知らない街や国へ行くつもりだ。
理由は原作で知っているところはつまらないのもあるが、知見を広めたいからだ。
ライフとベルディなら何があっても対応できるだろうし、思いのほか、良い人選になったかもしれない。
「悪人がいるといいね! ベルディちゃん」
「いっぱい、いてほしい」
あ、うん。たぶん……。
「それじゃあアリエル、ペール、シュリ、ビブリア。留守を頼んだぞ。みんなにも伝えているが、仲良くやってくれ」
「「「「はっ!」」」」
そしてアリエルが転移魔法を出してくれた。
といっても、俺が最初に行く予定の街までは飛べない。
近くの森まで飛ばしてもらって、そこからは徒歩だ。
短い期間だが、冒険っぽさも味わえるのでいいだろう。
「それじゃあいってくる」
みんなに見送られながら、ライフとベルディと窓をくぐる。
そこからはただひたすらに歩いた。
ある程度舗装された道に出ると、行きずりの馬車を見つけたのでそのまま相乗り。
ライフもベルディも見た目大人しいので、一安心だ。
「冒険者ですか?」
「ええ、少しバリアウ街の見学に」
「……バリアウですか?」
馬車の中で真面目そうな男性に聞かれ、何気なく答える。
地図で見たところ一番近いのがそこだったのだ。
原作では訪れることのない街で楽しみだが、なんだか男性の顔が不安げだ。
「無事に過ごせるといいですね」
「ん? ああ。ありがとうございます」
意味深な言葉に不安を覚えつつ、数時間後に到着した。
しかし街はまだ遠い。どうせなら近くまで送ってほしかったが、わがままはいうまい。
「ま、たまには歩くのもいいか」
「そうですね、天気もいいですし」
「気持ちがいい」
ライフの言う通り、青空が綺麗だ。
一日目として最高すぎる。
大体七日ぐらいで帰る予定だ。回れるのは三つか四つくらいだろう。
それだけあれば、色々と知見も広がるはず。
しかし街の近くでなんだか不安を感じた。
いや、俺の隣で馬を走らせていたやつらがいたのだが、明らかにそのなんというか――。
「はっは、もうすぐだぜええ!」
「我が街、バウリア!」
「いやっふぅ!」
モヒカンにパンク風の服(ボロボロなだけかも)、すげえ世紀末みたいなやつらだったのだ。
まあ、いわゆる暴力好きそうな……。
そしてその不安は、見事的中した。
街に近づいた瞬間、明らかに悪そうな奴らばっかり見えてしまう。
門なのに兵士はいなさそうだし、昼間から酒を飲んでいるやつもいる。
「……不安だ」
いろんな意味で。
そして案の定、声を掛けられる。
「なんだ、てめぇら?」
「おいおい、いい女じゃねえか!」
「ちっこいけど、こいつも可愛いな!」
うーん、さよなら粛清コースかニコニコ菩薩コースか。
どっちにしようかな。
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