最凶の魔王に転生した俺、シナリオをぶっ壊してスローライフがしたいのに、直属の六封凶が血気盛ん過ぎて困っています。

菊池 快晴

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022 勇気のある人間

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 ベルディが戻ってからの六封凶は、最後の欠片ピースが埋まったかのようだった。
 たまにしていた言い合いもなくなって、完成しているように思える。

 俺にスープを飲ませてくれた以来、一度も笑顔を見せることはないが、内面は大きく違う。

「喧嘩はダメ。仲良く」
「はい……」
「わかりました、ベルディさん」

 異種間での争いや、掟については相変わらず厳しいが、かなり平和的になっている。
 まあ、剣ではなく包丁を構えるようになっていたが。

 料理の腕前はぐんぐんと伸び、今では町で一番の料理人との噂だ。

 その陰で対抗心を燃やし、シュリが夜な夜な特訓しているとの噂だが、そこには触れないでおこう。

 だがそこに、一人の人間が現れた。

 勇気があるのか、それとも何も考えていないのか、とんでもないことを言い放ったという。

『デルス魔王様に会わせてくれ』と。

 そして今、その彼女・・が目の前にいる。
 背丈は高くもなく、華奢で、青髪の可愛らしい顔つきだ。
 だが背中にはデカすぎる箱を担いでいる。

 魔力も感じられるが、筋力に回しているのだろう。
 
「初めまして、魔王様! お噂はかねがね! 聞いていたよりちっこいのですね!」
「そっちもな」

 今は魔王の間、左右には等間隔に六封凶が立っている。
 ちっこい発言に少しピキっているように見えるが、まだセーフ。

 うむ、成長している。

「それで話はなんだ」
「はい、魔王国の建設を知り、是非取引をしたくてお伺いしました! あ、名前はメリットといいます!」
「取引?」

 建設のことはわざと噂を流している。徐々に浸透させていきたいからだ。

「失礼しまっす!」

 するとメリットは、背中の袋をドンっと置いた。
 危険なものはないかと調べてはいるみたいだが、その場にいる面々が警戒する。

 そこから出してきたのは、上級ポーション?

 原作で見たことがある。

「それは?」
「大きな怪我が治る素晴らしいものです。いかに魔王国であろうとも、やはり危険はつきもの。これだけの大所帯であれば、やはり持っていた――」
「ライフ」
「はっ」

 するとライフが、作り立ての完全回復薬を持ってきた。
 新しくなっているので瓶タイプではなくモチのように丸くてぷにぷにしている。

 飲むのではなく食べるタイプ、持ち運びに便利なのだ。

「……これ……もしかして」

 どうやら一目で気づいたらしい。それだけで、メリットが優秀なのがわかった。

「ああ、なので必要がない」

 さらにライフは、ウィンディーネの浄化モチも出した。
 メリットはそれをみて顎が外れそうなくらい驚いている。

 しかし商人と名乗ったからは伊達ではなく、なんとか踏みとどまり、またガサゴソ。

「これはどうでしょうか! 西地方の業物の剣でございます。武器や防具、それに――」

 すると、ちょうどファイルが奥からやってくる。
 手には魔剣改ver2を持っている。

「ああ、客人が来ていたか」

 禍々しい魔力が漲っていることに気づいたメリットがこれまた顎が外れそうなほど――。

「な、ならば魔法具を!」
「ほう」

 魔法具は興味がある。人間が作ったものは、城にはないからな。
 取り出してきたのは――翼?

「これに魔力を流しこむことで、空を飛び――」

 その瞬間、窓からゴンがちらりを顔のぞかせた。

 いつもの定期警戒連絡だ。

「問題ありません。ご主人様」
「ああ、引き続き頼んだぞ」
「了解です」

 それを見たメリットが――(ry

 泣く泣く出したものを全部直そうとする。その方はひどくむなしい。

 だが俺は気づく。

 ――いや、逆だ。

「メリット、取引しないか?」
「え? 取引?」
「ああ、今ライフの回復薬を見ただろう。たとえばそれだ。それにこの地域でしか取れない素材もある。たとえばそうだな――ドラゴンの鱗とかはどうだ?」

 ゴンはよく脱皮する。それが価値があるものだと原作で知っている。
 他にもこの辺りでしか取れない鉱物もある。

「そ、そんなものを!? でもこちらはなにを対価に……」
「工芸品や野菜の種、知識、後は街を作るにあたって必要な物資がいくつかある。それを頼みたい」

 町はまだ発展途上だ。特に家具はファイルだけじゃ限界がある。
 吸血鬼族やハーピー、蜥蜴族で手先の器用な人物も手伝っているが、最低限欲しい物をそろえておきたい。

「もちろん構いませんが、そんな簡単なものでいいんですか?」
「ああ、逆に手に入りづらいものだ」

 多くの物を手に入れるには信用が必要だ。
 俺たちはそれがない。

 だがメリットは違うだろう。

 ここまで来る勇気と、物資、目利きの良さがそれを現している。

 だが――。

「もちろん双方にリスクがある。特にメリット、俺たちの手助けをしたとなれば、問題が起きる可能性もあるぞ」

 そう、下手すれば大罪だ。
 しかしメリットは笑った。

「あはは、魔王様は優しいんですね。何よりもまず私の心配をしてくれるなんて」
「取引が途中で中断すると損だからな」
「なるほど抜け目ないですね。商人には危険がつきものです。間違いなく儲かる仕事に飛びつかないのは商人ではありません。喜んで引き受けましょう。まずはお互いの信頼の為に少しずつはどうですか?」
「構わない。その提案を飲もう」
「にひひっ、では握手を」
「ああ」

 俺は歩み寄る。これは小さな一歩だ。
 ただ町を発展させるための。

 だが大きな一歩に違いない。
 こうやって進んでいけば、俺たちは必ず認知され、町は街、やがて国となる。

 ただ左右からおそろしいほど殺意が漲っているような気もする。
 いや、警戒しているのか。

「それじゃあ改めてまたリストを作ってきます!」
「ああ、帰り道まで遅らせよう。――アリエル、転移を」
「大丈夫です。一人でここまで来たので帰りも!」
「そうか」

 思えば確かにそうだ。この辺りは危険な領域なのだ。
 しかしメリット……どこかで聞いたことあるような……。

 そして彼女は扉から出ていく。

 少しだけ間を開けて、ビブリアが声を掛けて来た。

「魔王様、良かったのですか」
「どういう意味だ?」
「こちらが欲しい物を伝えるということは、現在の状況を人間に伝わるかもしれません。危険もあります」
「ああ、わかってる。けど信頼ってのはそういうもんじゃない。もし裏切ったらその時は――また考えればいいさ」
「ふ、そうですか。確かに、私たちは何が起きても負けるはずがありませんしね」
「ああ」

 と言っても、裏切るようには思えないが――。

 そしてその時、俺は気づく。

 メリットの風貌、言葉遣い、名前に。

 いや、なぜ気づかなかったのか。

 彼女の名前はメリット・リンリーネ。

 原作、ベクトル・ファンタジーで大商人として有名になった人間だ。
 最終的に大国全ての輸入が彼女を中心で動いていたはず。

 陸路、航路、そして将来的な空路も。

 ……なんか、凄いことなったな。

 まあでも、これで町から街の目途がだった。
 コネも出来た。

 俺には選択肢が二つある。

 ①圧倒的な脅威、現状を維持しながら最強国として誰も来られないようにする。
 ②圧倒的な脅威、現状を維持しながら最強国として権威を持ってもらう。

 今までは①しか考えていなかった。

 だが安定を考えると権威が必要だ。
 国として他国から認められることで、更に強固なものとなる。

 今の俺たちは、大規模だが勝手に秘密基地を作っているのと変わらない。

 圧倒的に難しいが、目指す価値はある。

 ――リスクを取るときだな。

「アリエル、ペール、シュリ、ライフ、ベルディ――派手に暴れるぞ」
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