最凶の魔王に転生した俺、シナリオをぶっ壊してスローライフがしたいのに、直属の六封凶が血気盛ん過ぎて困っています。

菊池 快晴

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006 冒険者

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 俺は、国民全員を虐殺するはずだったオルトラバ王都に足を踏み入れていた。

「すげえ、マジで原作通りだな……」

 魔王城とは違う綺麗で純白な城が、奥にそびえている。
 街は人で溢れており、商人が声をあげ、子供が騒いでいた。

 本当ならここはもう地獄になっていたはずだ。
 そう思うと、やはり戦争を止めたのは良かったと思える。

「ふふふ、まるでデートですね。デルス魔王――」
アリエル・・・・それは禁句」
「も、申し訳ありません。デル……様」
「まったく、そのくらいは覚えていかないといけないわよ。アリエ」
ペル・・に言われたくないわよ!」

 俺の両腕には、アリエルとペールこと、アリエとペルがむぎゅっと掴んでいた。
 どちらも人間に変装しているので、今は魔族には見えない。

 といっても、俺もそうだ。金髪ショタデルス魔王ではなく、青年とまではいわないが、年齢は16歳ぐらいだろうか? 金髪少年になっている。

 その理由は、冒険者になる為だ。

「とりあえず申請しにいくけど、もめ事には気をつけてね」
「もちろんでござます!」
「生意気な奴がいたら殺したらいけないの?」
「いけない」

 その理由は、これもまた俺の将来の為だ。
 勇者は覚えていない。だがいずれ現れるかもしれないのなら、先手を打っておく。
 つまり俺が冒険者で名を売って高い地位にいれば、目立った奴がいればすぐわかるだろう。

 それならば出る杭を打つことも、情報を知ることもできる。

 魔王の領地拡大も行いつつ、同時並行で冒険者としても活動する。城は、ビブリアとライフに任せているので安泰だ。
 アリエルとペールは、どうしてもついていきたいという。
 
 まあ俺もこの世界のことは知っているが、本当の意味では知らない。

 なので、三人で冒険者になろうと決めたのだが――。

「おい、なんだあの少年、すげえ美女と少女にはまされてるぞ」
「姉妹丼……?」
「うらやましいぜ。貴族か?」

 余計に目立っている気がする。
 さすがに俺が魔王だとは思われないだろうが、失敗した気がする。

 人選ミスか?

「デル様ッ、あの美味しそうな屋台はなんですか?」
「牛肉じゃないかな」

 確か原作ではこの王都の特産品だ。そういえば、そういうのも下見しておかないとな。
 いずれ国を作るのだ。知らべておくにこしたことはない。

「おいしそう……」
 
 するとペールがお腹を空かせているのか、じっと見つめていた。
 
 やっぱり二人は人間のことは嫌いだが、その他すべては普通の感性を持っている。
 ライフの時も思ったが、人と触れ合うことで考え方が変わるかもしれない。

 よし、なら人と交流もしていかないと。

「よし、みんなで食べようか」
「え、いいのですか!? でも、そんな……」
「そうです。さすがに――ぐぅ」

 ペールのお腹が鳴る。
 ちなみにお金は持っている。

「これも視察だよ。我が国を反映させるためのね」
「でしたら……食べたいですわ!」
「ペルも!」

 ま、のんびりと楽しみながらでいいか。

    ◇

「え、これからこれから試験ですか?」
「はい、一時間後なので、問題なければ参加可能ですが、どうされますか?」

 冒険者ギルド内は、木を基調とした造りだ。
 一階は酒場と隣接している。すでに資格持ちの冒険者が酒を飲んでいた。

 申請は簡単だった。戸籍とかいう概念がないのは、正直ありがたい。
 どうも魔王なんですが、と言う必要もないからだ。
 
 冒険者になるには、試験に合格するか、有資格者からの推薦が必要になる。
 推薦の場合は、Bランク以上の人からだ。

 もちろん俺たちは試験を受けないといけない。来月ぐらいかなあと何となく思っていたら今日である。

 何が困るというわけではないが、突然入った予定だ。
 嬉しいような悲しいような気持ちになるあの感じを味わっていた。

 と言っても、断る理由は一切ない。

「じゃあお願いします」

 試験はランダムで、試験官によって違う。
 王都は本来崩壊する予定だったので、試験が何かはわからない。

 まあ、心配はしていないが。

「街を見るのは今度だ。今日は試験を終わらせよう」
「ええ! わかりました……デートは次回ですね……」
「お肉、また食べたいです!」
「ああ、また今度な」

 アリエルとペールはすっかりと食事と観光が楽しみになっているみたいだ。
 順応が早いな。

 するとそのとき、酒を飲んでいた男たちに声を掛けられる。

「なんだぁひよっこですらねえのに女連れとはいい度胸だなあ」
「ほんとだよ、ガキのくせに」

 刹那、アリエルとペールから凄まじいほどの魔力を漲らせる。
 おそらく俺がGOサインを出せば、彼女たちは0.001秒であの男たちを肉片にするだろう。

 いや、肉片が残ればいいほうか?

「アリエ、ペル。あとでよしよししてやるから、我慢しろよ」
「……はい」
「わかりました……」

 ふう……楽なことばかりではないな。

 何とか二人を抑えつつ試験を待っていると、大勢がギルド内に集まってくる。
 試験はすぐ近くの広場で行うらしい。

 そこに試験官として現れたのは、気だるそうな無精髭のおじさんだった。

「よお、きてくれ」

 そんな緩い声で俺たちを呼ぶ。
 流石王都というべきか、大勢が冒険者になりたいらしいく、ぞろぞろと着いて行く。

「最近厳しいって聞いてたけど、あのおじさんは当たりっぽいな」
「ああ、合格してすぐに依頼を受けようぜ」
「余裕だな」

 そんなことを言っている連中もいる。まあ、楽ならありがたい。

 広場は本当に何もない庭だった。
 試験はおじさんと戦うこと。

 また、勝つ必要はなく、素質ありと認められればいいらしい。

「正直、全員勝てるんじゃね?」

 誰がか言ったその通り、確かにおじさんは弱そうだ。
 だが俺は気づいていた。どうみても、魔力が高いことに。

 近くでは、現役冒険者たちがわざわざ見学に来ていた。
 見込みがあれば勧誘させたいのか、それともからかいたいのかはわからない。

「本当に自前でいいのかァ? 知らねえぞォ?」
「ああ、問題ない」

 おじさんの初めの相手はデカい漢だった。
 2メートルは超えているだろう。自前の斧を持っている。

 ぱっとみはどうみても勝てるわけがないように思える。

 だが――。

「――おらッ! ――あ?」
「はい、まだまだ」

 刹那、男は首を打たれて気絶した。
 目にもとまらぬ速さ――だろう。人間の目からは。

 まあ、俺からすればまあまあだな。
 アリエルとペールも何も思っていないらしい。

「はっはっ、勝てるわけないんだよなあ」
「運が悪いよなあ。鬼の教官が相手だなんて」

 現役たちの声からするに、結構強い相手らしい。
 だがその言葉通り次々とやられていき、ことごとく不合格を言い渡される。

「冒険者のほとんどが一年以内に死ぬ。他の試験官は知らねえが、俺は雑魚に資格は与えない。俺ですらランクはBだ。お前らみたいな奴らが生き残れると思うなよ」

 途中で顔つきが変わって、おじさんは少し怒っているみたいだった。
 不作な新人に苛立ちを覚えたのだろう。
 
 そして次は、アリエルだ。

「おお、美女だ! 手加減してやれよー」

 人間たちの物言いにアリエルは怒っているらしく、試合前に落ち着かせる。

「手加減しろ。見せつけるだけでいい」
「はい」
 
 しかしおじさんはわかっていたらしく、対峙した瞬間、真剣な瞳でアリエルに木剣を構えた。
 だが数秒後、アリエの剣が、おじさんの首に触れて、終わる。

「……何者だお前?」
「ふふふ、デル様のパーティーメンバーですわ」

 アリエルが、俺に笑顔で顔を向けた。
 俺の隣では、さっきまでからかっていた男たちも啞然としていた。

 そして続くペールも。

「……は?」
「勝負ありね。デル様ー!」

 余裕勝ち。
 最後は俺だった。

 悪いがおじさん、デビューは目立つつもりなんだ。

「お前には負けな――」
「――じゃあな」

 数秒後、俺はおじさんを気絶させた。
 もちろん首を一撃だ。

「え? 今何をした……?」
「おい、何だ今の動き!?」
「嘘だろ!? 一撃で!?」

 歓声に似た悲鳴が上がり、そして俺は、横で見ていたギルド受付の女性に声をかける。
 目を見開いて、信じられないといった様子だ。

「合格、でいいのかな?」
「は、はい……そうだと思います。すみません、試験官が気絶してしまったので、この後は中止です!」
「「「ええ、おいまじかよ……」」」

「いや、でもラッキーじゃね? 俺たちじゃ不合格だったかも」
「ああ、かもな」

 それから冒険者ギルドに戻り、ランクプレートをもらった。
 初めはFかららしく、最高到達点はSランクだ。

 そして俺は、酒を飲んで絡んできていた男たちをその場で睨みつけた。

 合格してしまえばこっちのもんだ。
 まあ、殺したりはしないが。

「今度、俺のに暴言を吐いたら、殺すぞ?」
「「すいません……」」

 すると、アリエルとペールが両腕を掴む。

「さすがデル様! かっこよかったですわ!」
「ありがとうございます! 私たちのために!」
「まあ、あのくらいはね。でもこれは始まりだ。これから俺たちは魔王国を創って繁栄させていく。だが一方で冒険者としても行動する。裏と表、どっちも俺が支配する。その手伝いを頼むぞ、アリエル、ペール」
「はっ! 仰せのままに」
「もちろんです! デルス様!」

 それからたったの3日で、俺たちのパーティーは周知され、最強の三人が現れたと王都で話題になっていった。
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