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何日くらいたっただろう。



さすがに魔王は帰っていて

私は部屋で一人きりだ。



最初は足りないと思っていた

スープが一切手につかない。



ゴリさんが心配して




「なんでも相談してくれよ」



と、言ってくれるけど

私は何も言わずに

うずくまっている。



まだ、気持ちの整理ができない。




私は異世界転生した。


だから、元の世界には

戻れないかもしれない。


当然のことだ。

だから、もう二度と

家族に会えないかもしれない。



断定しないのはわずかな

希望にすがっているからだ。



何かの奇跡でこれが

夢になる、みたいに。



何度も何度もほっぺを

つねった。




なれて痛くなくなるま

でつねった。


それでも目が覚めないから

頭を壁に打ち付けた。


ロックンローラーみたいに。

何度も何度も。



そのときにゴリさんがきて

怒ってくれた。



お父さんお母さんを

思い出してまた泣いてしまった。



ゴリさんは優しく受け止め

てくれた。


私ってこんなに涙もろいんだと、

初めてしった。



しばらく泣いたら

少しだけ気分が良くなる。



それでも、悲しさは

なくならない。




そんなことを何日も

繰り返していた。



せっかく綺麗にしたベッドは

全く使っていない。



眠くならない。



ずっと後悔してる。



もっと、ありがとうって

言うべきだった。




ずっと後悔してる。


周りをもっと見てたら

自転車に当たらなかった

かもしれない。




ずっと後悔してる。


何に対する後悔かも

分からないほど後悔してる。






そして、


完全に塞ぎ込んでしまったとき。



ゴリさんが言った。




「ここをでるか?」



なにを言ってるのだろう?


私は人質だからここを

出せないんでしょう?




「あのな、お前が転生者だって

魔王様に伝えたの、俺なんだよ」




はぁ。

それがなんだって言うんだろ?




「それでな、勇者の素質が

あるか魔王様が確認するのも

分かってた」





ゴリさんは申し訳なさそうな

本当に苦しそうな表情で呟く、





「そのせいでお前に負担をかけ

てしまった。殺されるかもしれない

恐怖でお前を狂わせてしまった」





あぁ、ゴリさんは責任を

感じてるんだ。


私がおかしくなったのは

自分のせいだって。





「許してくれなんて思わない。

それでも謝らせてくれ。


本当に、すまなかった」





後頭部が見えるくらい

深く頭を下げるゴリさん。




なんで、そんなに真摯なんだろう。



塞ぎ込んだ

きっかけは死への恐怖

だったかもしれない。



だけど、結局は自分の

考えのなさが悪かったのに。



なんでゴリさんは

真剣に謝ってくれるんだろう。



そんな姿を見せられたら

泣いているのが情けなく思える。






「大丈夫です。ゴリさん。

私は全然おこってないですよ」



少しだけ笑って言った。



久しぶりだったから

表情筋が弱ってる。


ぎこちない笑顔になったかも

しれない。


それでも、本心から笑えた。


この世界でもこんなに自分を

大切にしてくれる人がいる。


そう知れたことがあり得ないほどに

嬉しかったのだ。





「私が落ち込んでいたのは

元の世界を思い出したから

です。殺されそうになった

ことはまったく関係ありません。

それに、ゴリさんが私を殺そうと

したんじゃないですよね?」





少しだけ嘘をついた。

だけど、それでいい。





「だが、俺はお前が

死ぬ可能性を知っていた。

俺が何もしなかったら

お姫様はそんなに

傷つかなかった」




いやいや。

確かに少しは悪いかも

しれないけど、そこまで

自分をせめないでほしい。





「ゴリさん。


私は感謝してるんです」





「えっと……なにがだ?」




不思議そうに言うゴリさん。




「ゴリさんが私を心配して

くれたこと。ベッドを綺麗に

するときに、手伝ってくれたこと。

ご飯を二食にしてくれたこと。

そして、前世を思い出させて

くれたこと。いっぱい、いっぱい

感謝してるんです。だから、

そんなに謝らないでください」




時間にするとたった数日かも

しれない。

それでも、ゴリさんは

私の人生で大きな存在になっていた。





「もう一度言います。

私は全然おこってないですよ」


    
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