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新たな災難の始まり?
監禁Hは酷すぎる?
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朝
侍女たちに付き従われ、湯浴みをするエム、その身体は、昨晩トランにより痛めつけられ、痣だらけだった。
侍女達は心配そうに声をかける。
「傷にしみませんか?」
「大丈夫です、ありがとう」
エムは優しく微笑んだ
侍女達はその笑顔にドキッとして、顔を赤らめた。
「あの、エム様は、トラン様をどの様に思われているのですか?」
「ちょっとケティ、エム様に対して失礼よ!」
「だってマティ、エム様にこんなことなさるなんて」
「そりゃそうだけど……」
エムは、ただただ優しく微笑む。
「…トラン様はワタシの全て、あの方がワタシを求める限り永久にお側に……、もしワタシが不要とおっしゃるなら、この命を断ちましょう」
ケティがくらっとよろけた。
「エム様、なんて…献身的な…」
マティがそんなケティを見て呆れた顔をしていた。
ケティが、エムの前に片膝を付き首を垂れ右手を胸に添えた。
それは騎士が行う忠義の礼
「この不祥ケティ、エム様を末永くお支えします」
するとケティは、どばーッと、湯酌で頭から湯をかけられた。
「ケティ!、軽々しく宣誓してんじゃないわよ!!、あなた恋愛歌劇の見過ぎなのよ!!」
「マティこそ、いやらしい絵草紙見て、自慰ばかりしてるじゃん!」
「じ、自慰なんかしてないわよ!、そもそもそんな事関係ないでしょ!?」
マティの声が裏返る。
額を付けてのガンの飛ばし合い、ケティとマティ、実は彼女達は顔そっくりの双子姉妹。髪が短い方がマティ、ツインテールが、ケティ。
そんな彼女達を慈しむように微笑み眺めているエム
…しかし、その瞳には光がない。エムは心が壊れ、空虚な目をしていた。
………
…
ネイル邸
すぐにでもトラン邸に乗り込む構えを見せていたネイルとシノ、しかし意外にもリンナがそれを制した。
「むやみに突入しても、知らぬ存ぜぬを通されたら、こちらが犯罪者です。あちらの情報と戦力把握が重要です」
という説明に2人は納得する。本当はリンナが一番に乗り込みたいはずと、2人は理解していた。
シノはトラン邸の外回りを、ネイルとリンナは地下道と、手分けして情報集めをする事になった。
ネイルに案内され、中央ロビーから伸びる通路の途中に死角になる様設計された、人1人がやっと通れるほどの狭い入り口が隠されていた。
「不思議、これは有ると認識しないと気づきませんね」
とリンナが感心する。
「認識阻害の魔法がかかっているみたいです」
「なるほど……」
入り口を通り抜けると、すぐに下へと降りる急な階段になっていた、下は暗く見えない。ネイルはランプを点けると、先導して降り、リンナも後に続いた。
かなり下まで降りたところで、今度は横穴に変わった。
地下道に入った。
地下道は、人が二人並んで立って歩けるほどに広く、切り出された石で地面も壁も天井もきっちりと組まれ、しっかりとした造りだ。
「ほとんど使われていませんね」
ネイルはそう言って足元を見た。地下深くなのに、排水がいいのか、水が染み出したり地面も壁も湿ったりしていない。地面に足跡や、石がすり減った痕跡がない事から長く使用されていないという事が伺える。
「有事の際の脱出路…と、いったところでしょうか?、そうすると、向こうもこの地下道を知っていると考えておくべきでしょうね」
長い通路を進むと、鉄格子が前方を塞いでいた。
頑丈で大きな鍵がかかっている。
「ここが屋敷の境界線?」
ネイルは後ろを振り返り、来た通路をランプで照らしてみた。
「歩数的にそうみたいですね」
リンナが鍵に触れようとしたが、そこで手を止めた。ネイルが訝しむ。
「どうしたのですか?、リンナさん」
「…この鍵、魔法がかかっています」
「やっぱり、だいぶ古そうな鍵ですね」
「これも長いこと開けた形跡はないようです」
リンナは鉄格子の周囲を触れずに探った。
「ここは封印魔法だけで、警報的な術はかかっていませんね」
「リンナさんは、魔法がわかるんですか?」
「元の職業柄、そういった技能が必要だったので、多少は勉強しました」
「封印魔法がわかるって、多少ってものじゃないと思いますけど……」
「解除はできませんから」
リンナがふふっと笑う
「じゃあ、鍵の解錠は斥候のシノが適任かと」
「そうですね、…トラン邸まで探りたかった所ですが、焦りは禁物、一旦戻りましょう」
……
一方で、トラン邸の外回りを調べていたシノ、調べた結果、トランの屋敷には、魔法障壁、罠、出入り可能な正面、そして裏門には衛士が各2名常駐している。厳重と言っていいほど守りが徹底されている事がわかった。
「簡単に侵入は出来なさそう」
現状把握を済ませたシノが、ネイル邸に戻ろうとした時、彼女は意外な者達を目撃した。
白い装束に統一した女性冒険者4人。
「アレはラライラ?、あの人達なんでトラン邸に……」
彼女達はトラン邸の敷地内へと入っていってしまった。
ネイルはそこで気づいた。
「……彼女達の長が…いない?」
シノは彼女たちが屋敷に入って行くのを見届けてから、ネイル邸へ引き上げた。
………
…
シノが戻ると、地下道から先に戻っていたリンナ、ネイルが待っていた。
「遅くなりました」
「いえ、充分早いですよ」
リンナかニコリと微笑む
早速シノが、屋敷周囲の状況を説明した。
「屋敷の周囲は、グルリと魔法障壁が取り囲んでいます。さらに屋敷の敷地内は罠だらけです。出入りできるのは正面門と裏門、しかし、いずれも衛士が常駐していて、強行突破は難しいと思います」
「そうですか……魔法障壁ということは、天面は開いているのですか?、障壁の高さは?」
リンナが聞き返した。
「はい、結界ではないので、空は空いています…だけど、かなり高い位置まであるので、鳥みたいに空を飛べないと、越えるのは不可能だと思います」
リンナはフムと考え込んだ。
「屋敷建屋はどうですか?」
「あ、はい、建物は結界が張ってあります。ただ屋根にはかかっていないようです」
「その心は?」
「屋根の上に、ハドリア鳥が営巣していました」
ハドリア鳥とは、遥か海の先、南方より飛来する大型の渡鳥。西の街近くは、彼等の越冬と子育ての領域であり、今はその時期にあたる。ハドリア鳥は『幸せを運ぶ鳥』として西の街を象徴する鳥であり、スガー家の紋章のモチーフにもなっている。そのため、ハドリア鳥に危害を加えることは御法度となっている。ゆえに巣作りの邪魔になるため屋根の上には結界がないことを示していた。
「なるほどハドリア鳥ですか。、リンナさん、屋根には天窓がありますよね?」
「ええ、光を取り込むための……え?」
「そこから侵入できそうですね」
「ええ!?、天窓から!?、3階ですよ!?、どうやって上がるんです???」
困惑するネイルに対し、リンナは笑うだけ。
「私に考えがあります。シノさん、明日の朝、私にお付き合い下さい」
「は、はい」
……
その後は、地下道の話をリンナが説明し、鍵の解除をシノにお願いし、またシノからはもう一つの話がされた。
「ラライラが?」
「はい、トラン邸に入っていきました。でも長のシャイアの姿だけはありませんでした」
ネイルが訝しい顔をして考え込んでいた。
「妙ね。バンコー事件以来、彼女たちは冒険者組合に顔を出していないわ。あの事件が精神的苦痛で、しばらく休養するってと申告が届け出されています。組合は受理しました」
と、ネイルが説明した。
ラライラのメンバーは5人、アルラマージと同じ女性だけのパーティ
騎士でリーダーのシャイア
斥候の、ルールー
拳闘士の、セリン
魔法士の、ソーニャ
僧侶の、ネネ
「ネイルさん、休養中の彼女たちが、トラン邸に何の用だと思います?」
「……彼女たちを最終的に救出したのは、トラン……という事になっていますが…」
「嫌な予感がしますね」
「ええ、しますね」
……
トラン邸地下牢
ラライラはそこに集められていた。
彼女たちの前には鉄の扉。
格子のはまった小さなのぞき窓から漏れ出る女性の喘ぎ声
シャイアを除くメンバーたちは、皆、泣きながら肩を震わせ嗚咽していた。
「んあっ!あああっ!!んあああああっ!!!!」
漏れ出る女性の悶絶する声が悲鳴に近い、一段と大きくなる
「お願いします、お、お願いします!、ください、あなたの、熱いのを早く!!、んああああっ!!」
ギィギィと何か軋む様な激しい音が響いてくる。
「こんな、わたし!、ああっ!ひっ、いやぁっ!、ダメェ!!、い、イいくっ、いっちゃうううう!!」
女性の声は徐々に小さくなっていき
……そして静かになった。
しばらくすると、鉄扉が重々しく開き、中から初老の男性が、ズボンのベルトを締めながら出てきた。
その人物は、この屋敷の侍従長。
上半身はタンクトップ姿、その体は筋骨逞しく、全身傷だらけだった。
「お前たちの長は素晴らしいな、戦闘能力に長け、女としても申し分ない、中々の器だ、実に調教しがいがある」
「シャイア姉様……」
歯を食いしばり、侍従長を睨みつける拳闘士のセリン
「フン、なんだその目は、まだ自分達の立場がわかっていないようだな。お前たちに手を出さないという条件で、あの女騎士は自分の身体で引き受けているんだ、やさしいお姉様に感謝しろ」
侍従長が理不尽にそう言い放ち、ドンっと凶々しい覇気を放った。
侍従長の発する覇気に、ネネとソーニャはひどく怯え、セリンとルールーは動けなくなった。今もしここで暴れたとしても、シャイアは救えない。目の前にいる男には、敵わないことを4人はその身をもって知っていた。
「身の程をわきまえろ、お前達の態度次第で約束は破棄だ、全員を毎日犯してやってもいいんだぞ?」
あのダンジョンで、ラライラはエルフに拉致されのではなかった。
彼女達を拉致した本当の犯人はこの男、トランの屋敷や使用人達を管理監督する立場の『侍従長』だったのだ。
侍従長は迷宮にいきなり現れ、ラライラを襲った。彼女達5人は、この侍従長に全く手も足も出せず、囚われてしまった。
そして、最初に僧侶のネネが、そして魔法使いのソーニャが、この男に凌辱された。
ネネもソーニャも元々男性恐怖症、そんな彼女たちを知ってか知らずか、この男は、真っ先にその場で強姦した。
犯されて泣き叫ぶネネとソーニャを前に、シャイアが「やめて!」と懇願するも、侍従長は容赦なく2人に中出し、更にセリンとルールーをも強姦した。それも何度も容赦なく、シャイアの目の前で絶倫の限りに凌辱したのだ。
そしてついには、シャイアは絶望の中で屈服してしまったのだ。
シャイア達ラライラは、トランの屋敷、完全防音された地下牢に密かに連れてこられ、今はシャイアだけが監禁され、毎日皆の前で、侍従長に調教されるのを見せつけられていた。
それ以来、侍従長はシャイアを人質に、セリンたちラライラの4人に裏の仕事を強要させていた。それは禁制品、非合法な薬品、横流し商品など、手が後ろに回るような品々を、冒険者等級Cと言う肩書きを隠れ蓑に、彼女達に荷運びさせているのだ。
街への禁制品の持ち込みは、衛士隊の検閲によって厳重に監視・管理されているが、例外的に冒険者に対する検閲は緩い。
何故ならば、冒険者が禁制品の持ち込んだ場合は極刑的重罪、即ちバレたら即日死刑。その場で首を落とされても文句は言えない。
それだけ冒険者には『信用』という責任が重くのし掛かっている。
4人は屈辱に耐え、冒険者組合にバレないかと神経をすり減らし、強要された汚れ仕事を実行していた。
既に彼女達は冷静な判断を失い、ただ侍従長に従っている状態にあった。
侍従長は
(こいつらへの支配力も低下してきたな、それと……冒険者組合と衛士隊も感づいているようだ……ここが潮時だな……)
「今日は、お前たちに新たな仕事を与えてやる」
侍従長は4人を見下す目でそう伝えた。
これ以上何をさせるというのか、セリンとルールーは怯える目で侍従長を見つめた
「事が済めば、女騎士を解放してやってもいいぞ?」
「!?」
「本当に?」
「私は嘘はつかない」
「せ、セリン!、ダメよ!」
ルールーが、セリンの肩を掴んだが、セリンはそれを払い除けた。
「これ以上、シャイア姉さまを恥辱には晒せない、私はもう耐えられない」
「セリン……」
「いいわ、なんだってやってやる、人殺しだってなんだって」
「ふふ、よく言った」
侍従長はニヤリと笑った。
……
リンナの指示でギルドに行っていたシノが、ネイル邸に戻って来た。
「ラライラの件について局長代理に確認を取ってきました。それから……」
シノが振り返ると、なんとシェーダが同伴していた。
「あなたは呼んでいませんよ?、シェーダさん」
シェーダがリンナの言葉にカチンと来たようだ。
「うちのシノを使っておいて、その言い草はないんじゃない?」
「局長代理の推薦です」
「アルラマージの長は私です」
静かに睨み合うリンナとシェーダ、先にシェーダがため息をついた。
「別に喧嘩しに来たわけではないのよね」
「そうですか、では何しに来たのですか?」
「何しにはないんじゃない?、エムさんを奪還するために、トランの所に乗りこもうとしてるって聞きましたよ」
今度はリンナがため息をついた
「シノさん……他言無用と言った筈ですが?」
リンナの冷たい視線にシノが後ずさる。
「あうっ…」
「シノを責めないでリンナさん、私は局長代理から直接聞きました。私もエムさん奪還作戦に参加します」
「なぜ?」
「なぜって……、エムさんはアルラマージの恩人だから、今度は私達が助けないと」
「局長代理から聞いてないのですか?、これは私的な行動ですよシェーダさん。これから対峙する相手は家督を継ぐ順位にないとは言え、伯爵家に連なる者です。貴族の不興を買えば、最悪は冒険者登録をはく奪される可能性が高いんです。その点、私は一娼婦、何かあっても、私が泥を被れば良いだけの事」
「何を言ってるのリンナさん、私も一緒ですよ?」
「ネイルさんこそ、今は協力頂いてますが、これ以上は家名に傷が付きます」
「協力してる時点で、共犯だってば」
ネイルはそう言って笑う。
「一族が路頭に迷うことになるんですよ?」
「そんな事、家と絶縁すれば問題ないわ。そしたら南方領か西の大陸にでも渡って冒険者に復帰するだけの話」
「ネイルさんは、冒険者を続けたかったのですか?」
「父との約束で、5年で等級Aに上がれなかったら、冒険者を辞めて、結婚しろって約束だったからね、…実際5年でAになれなかったから、辞めざるを得なかったわけ。それでも冒険者に関わる仕事はしたかった、だから組合の受付になったのよ」
「……それ、お父様が裏で手を回してませんか?」
「どう考えてもそーなのよね、私がAにならないよう工作してたんだと思う」
「抗議は?」
「証拠もないし、今更だし、だから婚活するフリして先延ばしにしてるってわけ。家のことなんて知ったこっちゃないわ」
「ネイルさんの心意気は理解しました。私はあなたを全面的に支持します。困った時は『夜のトバリ』を頼ってください」
「ありがと、リンナさん」
ネイルとリンナはニコリと微笑んだ。
「じゃあ、私は?」
とシェーダ
「あなたは、エム様を助け出したことを口実に、あわよくば褥を共にしたいだけでは?」
「んなっ!?、そ、そんな事、か、考えてないわよ!!」
「確かにエムお姉様は大変魅力的です。どんな男をも魅了するあの肢体、あの声、みなぎる野生」
「野生?」
シノは首をかしげるも、シノはウンウンと頷いてる。
「ち、違うわよ!!」
「シェーダさんも、エム姉様を抱きたい、抱かれたい、…と思う気持ちは、お有りですよね?」
「いや、わ、私は…」
シェーダの顔がみるみる赤くなっていく
「その気持ちはわかります」
「え?、本当?、あ…」
シェーダの反応に、リンナ、ネイル、シノは呆れた目でシェーダを見た。しかし……
「……くく」
リンナが顔を背けて笑い出し、ネイルもシノも肩を震わせ笑いを堪えていた。
「くくく、カッコ悪、シェーダさん」
「ネイルさん、シェーダお姉様は、ちょースケベなんです」
「シノ!、何を言うのよ!、ひっ、ひっかけたわね!!、リンナさん!」
「少なくとも、ここにいる私達は皆同じ考えですね」
「え?」
「さて、冗談はさておき、私は皆さんを巻き込むつもりです。ただし強制はしません。その後の身の振り方もご自身で考えてください」
「自己責任と言うことね」
「そう言う事です、先ほども言いましたが、この件は冒険者組合の助けはありません。と、言うことであなたはどうしますか?、シノさん」
「今さら私だけ仲間はずれなんかにしないで下さい」
「ネイルさんは?」
「聞くだけ野暮ですよ」
リンナはフッと笑い、シェーダに向き直った。
「シェーダさんは、アルラマージとしての長の立場があります。選択を見誤らないで下さい」
「長として、加わります。これはアルラマージの総意です」
「……わかりました。もし何かあれば『夜のトバリ』が面倒見ましょう」
「それは娼婦として?」
「犯罪奴隷に身を費やし、見知らぬ男共に強姦されて一生を終えるよりはいいでしょう?」
『言い方!!』
リンナは全員に突っ込まれた。
「では本題に入りましょう。トランだけなら、私とネイルさんだけで問題ありません。後は精神支配されているお姉様がどうでるか……」
「やっぱり攻撃してくるかな?」
「十中八九、してくるでしょう。…ですがシェーダさん、他にも何かありそうですね?」
「ええ、リンナさんとネイルさんのお二人だけでは、この件は無理だと局長代理が言ってました」
シェーダがそう告げる。
「私達は冒険者ではありませんが、それなりに腕に覚えがあります。トラン如きに遅れは取りませんが?」
「トランじゃありません。問題はあの屋敷を管理している侍従長です」
「侍従長??」
「局長代理が内密にと話をされました。衛士隊が内偵を進めていて、その対象はトランではなく、侍従長です」
「どう言う事ですか?」
「リンナさんは、最近街で多様な禁制品が出回っているのはご存知ですか?」
「ええ、私の店にも飛び込みで行商人が持ち込んできたりしていて、少々危惧していました。無論お断りしてますが……それが?」
「トランの屋敷にいる『侍従長』が衛士隊の捜査線上に上がっていて、かなりの曲者です」
「どんな相手なんですか?」
「その侍従長は『ウリエルダ』と『マルダー』と関係してます」
シェーダとリンナを除き、ネイルとシノは目を丸くした。
「…闇商会と、奴隷商ですか、その侍従長とやら、どちらかの関係者ですか?」
「恐らくウリエルダの者ではないかと、マルダーは領主様も非公式ながら容認されていると聞いてますし……そこにラライラです。どうやら彼女達が禁制品の運搬に使われているようなんです」
「それは、厄介ですね。すると……ラライラが敵に回る可能性があると、シェーダさんはお考えですか?」
『敵!?』
「シャイアを人質に、ラライラ達が汚れ仕事を強要されているならば、そうなるのも必然かと」
驚きの声を上げたのはネイルとシノ、しかしリンナは冷静だった。
「局長代理はそれであなたを?」
シェーダがギリっと奥歯を噛み締めた。
「ええ、万が一との事で」
「彼女達がトランの屋敷に入るのをシノさんが目撃しました。それで組合へラライラの動向を確認するよう、シノさんを使いに出したのですが……やはりそうでしたか」
「リンナさんは知っていたのですか?」
「いいえ、何やらキナ臭いのを感じたので、念のためと思ったんです。最悪な結果ですね」
リンナがそう言ってシノに視線を送ると、シノは頷き説明を始めた。
「ラライラが禁制品の密輸に関わっているのは、確実視されてます。組合の警務官も衛士と合同で調査を始めてます」
「その件、ゴザール様はなんと?」
ネイルとシノの2人は、なぜそこで領主が出てくるのか?、と訝しんだ。
「ゴザール家は関与を否定したそうです。ただし、もしトランが何かしら不都合な関与をしているならば、全面的に強力するとも」
「でもラライラが……彼女達がそんな事するなんて」
ネイルは信じられないと、驚きを隠せない。
「皆まっすぐで、正義感にあふれているわ。犯罪に手を染めるなんて……」
「長であるシャイアさんが未だ行方不明のまま、迷宮騒ぎの後から姿を見た者は誰もいません」
ネイルがはっとする。
「シャイアさんが人質にされて強要されてる??」
「局長代理も同意見でした」
「……やってくれますね、あの男」
リンナの暗殺者の目に、その場の皆がブルリと震えた。
「ですが、私はお姉さまが最優先です、事情がどうあれ、立ちはだかるならば、ラライラといえど容赦しません」
「シャイア達ラライラは、このシェーダにお任せくださいませんか?、彼女達の事はよく知ってるので」
リンナがフムと考える。
「わかりました。ではシェーダさんは私と地下から、ネイルさんとシノさんは、例の方法で陽動していただけますか?」
「例の方法?」
ネイルは首を傾げた。
「そうだ、肝心な事を伝え忘れてました。トランは今夜、冒険者組合の会合に出かけます。焼失した庁舎建て替えの件で、意見を聞くため、等級A以上が呼び出されることになっています」
「それは好都合ですが……局長代理の采配ですか?」
「そうです」
「…わかりました、今夜決行します。皆さんご助力、お願い申し上げます」
リンナが皆に深々と頭を下げた。
…
侍女たちに付き従われ、湯浴みをするエム、その身体は、昨晩トランにより痛めつけられ、痣だらけだった。
侍女達は心配そうに声をかける。
「傷にしみませんか?」
「大丈夫です、ありがとう」
エムは優しく微笑んだ
侍女達はその笑顔にドキッとして、顔を赤らめた。
「あの、エム様は、トラン様をどの様に思われているのですか?」
「ちょっとケティ、エム様に対して失礼よ!」
「だってマティ、エム様にこんなことなさるなんて」
「そりゃそうだけど……」
エムは、ただただ優しく微笑む。
「…トラン様はワタシの全て、あの方がワタシを求める限り永久にお側に……、もしワタシが不要とおっしゃるなら、この命を断ちましょう」
ケティがくらっとよろけた。
「エム様、なんて…献身的な…」
マティがそんなケティを見て呆れた顔をしていた。
ケティが、エムの前に片膝を付き首を垂れ右手を胸に添えた。
それは騎士が行う忠義の礼
「この不祥ケティ、エム様を末永くお支えします」
するとケティは、どばーッと、湯酌で頭から湯をかけられた。
「ケティ!、軽々しく宣誓してんじゃないわよ!!、あなた恋愛歌劇の見過ぎなのよ!!」
「マティこそ、いやらしい絵草紙見て、自慰ばかりしてるじゃん!」
「じ、自慰なんかしてないわよ!、そもそもそんな事関係ないでしょ!?」
マティの声が裏返る。
額を付けてのガンの飛ばし合い、ケティとマティ、実は彼女達は顔そっくりの双子姉妹。髪が短い方がマティ、ツインテールが、ケティ。
そんな彼女達を慈しむように微笑み眺めているエム
…しかし、その瞳には光がない。エムは心が壊れ、空虚な目をしていた。
………
…
ネイル邸
すぐにでもトラン邸に乗り込む構えを見せていたネイルとシノ、しかし意外にもリンナがそれを制した。
「むやみに突入しても、知らぬ存ぜぬを通されたら、こちらが犯罪者です。あちらの情報と戦力把握が重要です」
という説明に2人は納得する。本当はリンナが一番に乗り込みたいはずと、2人は理解していた。
シノはトラン邸の外回りを、ネイルとリンナは地下道と、手分けして情報集めをする事になった。
ネイルに案内され、中央ロビーから伸びる通路の途中に死角になる様設計された、人1人がやっと通れるほどの狭い入り口が隠されていた。
「不思議、これは有ると認識しないと気づきませんね」
とリンナが感心する。
「認識阻害の魔法がかかっているみたいです」
「なるほど……」
入り口を通り抜けると、すぐに下へと降りる急な階段になっていた、下は暗く見えない。ネイルはランプを点けると、先導して降り、リンナも後に続いた。
かなり下まで降りたところで、今度は横穴に変わった。
地下道に入った。
地下道は、人が二人並んで立って歩けるほどに広く、切り出された石で地面も壁も天井もきっちりと組まれ、しっかりとした造りだ。
「ほとんど使われていませんね」
ネイルはそう言って足元を見た。地下深くなのに、排水がいいのか、水が染み出したり地面も壁も湿ったりしていない。地面に足跡や、石がすり減った痕跡がない事から長く使用されていないという事が伺える。
「有事の際の脱出路…と、いったところでしょうか?、そうすると、向こうもこの地下道を知っていると考えておくべきでしょうね」
長い通路を進むと、鉄格子が前方を塞いでいた。
頑丈で大きな鍵がかかっている。
「ここが屋敷の境界線?」
ネイルは後ろを振り返り、来た通路をランプで照らしてみた。
「歩数的にそうみたいですね」
リンナが鍵に触れようとしたが、そこで手を止めた。ネイルが訝しむ。
「どうしたのですか?、リンナさん」
「…この鍵、魔法がかかっています」
「やっぱり、だいぶ古そうな鍵ですね」
「これも長いこと開けた形跡はないようです」
リンナは鉄格子の周囲を触れずに探った。
「ここは封印魔法だけで、警報的な術はかかっていませんね」
「リンナさんは、魔法がわかるんですか?」
「元の職業柄、そういった技能が必要だったので、多少は勉強しました」
「封印魔法がわかるって、多少ってものじゃないと思いますけど……」
「解除はできませんから」
リンナがふふっと笑う
「じゃあ、鍵の解錠は斥候のシノが適任かと」
「そうですね、…トラン邸まで探りたかった所ですが、焦りは禁物、一旦戻りましょう」
……
一方で、トラン邸の外回りを調べていたシノ、調べた結果、トランの屋敷には、魔法障壁、罠、出入り可能な正面、そして裏門には衛士が各2名常駐している。厳重と言っていいほど守りが徹底されている事がわかった。
「簡単に侵入は出来なさそう」
現状把握を済ませたシノが、ネイル邸に戻ろうとした時、彼女は意外な者達を目撃した。
白い装束に統一した女性冒険者4人。
「アレはラライラ?、あの人達なんでトラン邸に……」
彼女達はトラン邸の敷地内へと入っていってしまった。
ネイルはそこで気づいた。
「……彼女達の長が…いない?」
シノは彼女たちが屋敷に入って行くのを見届けてから、ネイル邸へ引き上げた。
………
…
シノが戻ると、地下道から先に戻っていたリンナ、ネイルが待っていた。
「遅くなりました」
「いえ、充分早いですよ」
リンナかニコリと微笑む
早速シノが、屋敷周囲の状況を説明した。
「屋敷の周囲は、グルリと魔法障壁が取り囲んでいます。さらに屋敷の敷地内は罠だらけです。出入りできるのは正面門と裏門、しかし、いずれも衛士が常駐していて、強行突破は難しいと思います」
「そうですか……魔法障壁ということは、天面は開いているのですか?、障壁の高さは?」
リンナが聞き返した。
「はい、結界ではないので、空は空いています…だけど、かなり高い位置まであるので、鳥みたいに空を飛べないと、越えるのは不可能だと思います」
リンナはフムと考え込んだ。
「屋敷建屋はどうですか?」
「あ、はい、建物は結界が張ってあります。ただ屋根にはかかっていないようです」
「その心は?」
「屋根の上に、ハドリア鳥が営巣していました」
ハドリア鳥とは、遥か海の先、南方より飛来する大型の渡鳥。西の街近くは、彼等の越冬と子育ての領域であり、今はその時期にあたる。ハドリア鳥は『幸せを運ぶ鳥』として西の街を象徴する鳥であり、スガー家の紋章のモチーフにもなっている。そのため、ハドリア鳥に危害を加えることは御法度となっている。ゆえに巣作りの邪魔になるため屋根の上には結界がないことを示していた。
「なるほどハドリア鳥ですか。、リンナさん、屋根には天窓がありますよね?」
「ええ、光を取り込むための……え?」
「そこから侵入できそうですね」
「ええ!?、天窓から!?、3階ですよ!?、どうやって上がるんです???」
困惑するネイルに対し、リンナは笑うだけ。
「私に考えがあります。シノさん、明日の朝、私にお付き合い下さい」
「は、はい」
……
その後は、地下道の話をリンナが説明し、鍵の解除をシノにお願いし、またシノからはもう一つの話がされた。
「ラライラが?」
「はい、トラン邸に入っていきました。でも長のシャイアの姿だけはありませんでした」
ネイルが訝しい顔をして考え込んでいた。
「妙ね。バンコー事件以来、彼女たちは冒険者組合に顔を出していないわ。あの事件が精神的苦痛で、しばらく休養するってと申告が届け出されています。組合は受理しました」
と、ネイルが説明した。
ラライラのメンバーは5人、アルラマージと同じ女性だけのパーティ
騎士でリーダーのシャイア
斥候の、ルールー
拳闘士の、セリン
魔法士の、ソーニャ
僧侶の、ネネ
「ネイルさん、休養中の彼女たちが、トラン邸に何の用だと思います?」
「……彼女たちを最終的に救出したのは、トラン……という事になっていますが…」
「嫌な予感がしますね」
「ええ、しますね」
……
トラン邸地下牢
ラライラはそこに集められていた。
彼女たちの前には鉄の扉。
格子のはまった小さなのぞき窓から漏れ出る女性の喘ぎ声
シャイアを除くメンバーたちは、皆、泣きながら肩を震わせ嗚咽していた。
「んあっ!あああっ!!んあああああっ!!!!」
漏れ出る女性の悶絶する声が悲鳴に近い、一段と大きくなる
「お願いします、お、お願いします!、ください、あなたの、熱いのを早く!!、んああああっ!!」
ギィギィと何か軋む様な激しい音が響いてくる。
「こんな、わたし!、ああっ!ひっ、いやぁっ!、ダメェ!!、い、イいくっ、いっちゃうううう!!」
女性の声は徐々に小さくなっていき
……そして静かになった。
しばらくすると、鉄扉が重々しく開き、中から初老の男性が、ズボンのベルトを締めながら出てきた。
その人物は、この屋敷の侍従長。
上半身はタンクトップ姿、その体は筋骨逞しく、全身傷だらけだった。
「お前たちの長は素晴らしいな、戦闘能力に長け、女としても申し分ない、中々の器だ、実に調教しがいがある」
「シャイア姉様……」
歯を食いしばり、侍従長を睨みつける拳闘士のセリン
「フン、なんだその目は、まだ自分達の立場がわかっていないようだな。お前たちに手を出さないという条件で、あの女騎士は自分の身体で引き受けているんだ、やさしいお姉様に感謝しろ」
侍従長が理不尽にそう言い放ち、ドンっと凶々しい覇気を放った。
侍従長の発する覇気に、ネネとソーニャはひどく怯え、セリンとルールーは動けなくなった。今もしここで暴れたとしても、シャイアは救えない。目の前にいる男には、敵わないことを4人はその身をもって知っていた。
「身の程をわきまえろ、お前達の態度次第で約束は破棄だ、全員を毎日犯してやってもいいんだぞ?」
あのダンジョンで、ラライラはエルフに拉致されのではなかった。
彼女達を拉致した本当の犯人はこの男、トランの屋敷や使用人達を管理監督する立場の『侍従長』だったのだ。
侍従長は迷宮にいきなり現れ、ラライラを襲った。彼女達5人は、この侍従長に全く手も足も出せず、囚われてしまった。
そして、最初に僧侶のネネが、そして魔法使いのソーニャが、この男に凌辱された。
ネネもソーニャも元々男性恐怖症、そんな彼女たちを知ってか知らずか、この男は、真っ先にその場で強姦した。
犯されて泣き叫ぶネネとソーニャを前に、シャイアが「やめて!」と懇願するも、侍従長は容赦なく2人に中出し、更にセリンとルールーをも強姦した。それも何度も容赦なく、シャイアの目の前で絶倫の限りに凌辱したのだ。
そしてついには、シャイアは絶望の中で屈服してしまったのだ。
シャイア達ラライラは、トランの屋敷、完全防音された地下牢に密かに連れてこられ、今はシャイアだけが監禁され、毎日皆の前で、侍従長に調教されるのを見せつけられていた。
それ以来、侍従長はシャイアを人質に、セリンたちラライラの4人に裏の仕事を強要させていた。それは禁制品、非合法な薬品、横流し商品など、手が後ろに回るような品々を、冒険者等級Cと言う肩書きを隠れ蓑に、彼女達に荷運びさせているのだ。
街への禁制品の持ち込みは、衛士隊の検閲によって厳重に監視・管理されているが、例外的に冒険者に対する検閲は緩い。
何故ならば、冒険者が禁制品の持ち込んだ場合は極刑的重罪、即ちバレたら即日死刑。その場で首を落とされても文句は言えない。
それだけ冒険者には『信用』という責任が重くのし掛かっている。
4人は屈辱に耐え、冒険者組合にバレないかと神経をすり減らし、強要された汚れ仕事を実行していた。
既に彼女達は冷静な判断を失い、ただ侍従長に従っている状態にあった。
侍従長は
(こいつらへの支配力も低下してきたな、それと……冒険者組合と衛士隊も感づいているようだ……ここが潮時だな……)
「今日は、お前たちに新たな仕事を与えてやる」
侍従長は4人を見下す目でそう伝えた。
これ以上何をさせるというのか、セリンとルールーは怯える目で侍従長を見つめた
「事が済めば、女騎士を解放してやってもいいぞ?」
「!?」
「本当に?」
「私は嘘はつかない」
「せ、セリン!、ダメよ!」
ルールーが、セリンの肩を掴んだが、セリンはそれを払い除けた。
「これ以上、シャイア姉さまを恥辱には晒せない、私はもう耐えられない」
「セリン……」
「いいわ、なんだってやってやる、人殺しだってなんだって」
「ふふ、よく言った」
侍従長はニヤリと笑った。
……
リンナの指示でギルドに行っていたシノが、ネイル邸に戻って来た。
「ラライラの件について局長代理に確認を取ってきました。それから……」
シノが振り返ると、なんとシェーダが同伴していた。
「あなたは呼んでいませんよ?、シェーダさん」
シェーダがリンナの言葉にカチンと来たようだ。
「うちのシノを使っておいて、その言い草はないんじゃない?」
「局長代理の推薦です」
「アルラマージの長は私です」
静かに睨み合うリンナとシェーダ、先にシェーダがため息をついた。
「別に喧嘩しに来たわけではないのよね」
「そうですか、では何しに来たのですか?」
「何しにはないんじゃない?、エムさんを奪還するために、トランの所に乗りこもうとしてるって聞きましたよ」
今度はリンナがため息をついた
「シノさん……他言無用と言った筈ですが?」
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「あうっ…」
「シノを責めないでリンナさん、私は局長代理から直接聞きました。私もエムさん奪還作戦に参加します」
「なぜ?」
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「何を言ってるのリンナさん、私も一緒ですよ?」
「ネイルさんこそ、今は協力頂いてますが、これ以上は家名に傷が付きます」
「協力してる時点で、共犯だってば」
ネイルはそう言って笑う。
「一族が路頭に迷うことになるんですよ?」
「そんな事、家と絶縁すれば問題ないわ。そしたら南方領か西の大陸にでも渡って冒険者に復帰するだけの話」
「ネイルさんは、冒険者を続けたかったのですか?」
「父との約束で、5年で等級Aに上がれなかったら、冒険者を辞めて、結婚しろって約束だったからね、…実際5年でAになれなかったから、辞めざるを得なかったわけ。それでも冒険者に関わる仕事はしたかった、だから組合の受付になったのよ」
「……それ、お父様が裏で手を回してませんか?」
「どう考えてもそーなのよね、私がAにならないよう工作してたんだと思う」
「抗議は?」
「証拠もないし、今更だし、だから婚活するフリして先延ばしにしてるってわけ。家のことなんて知ったこっちゃないわ」
「ネイルさんの心意気は理解しました。私はあなたを全面的に支持します。困った時は『夜のトバリ』を頼ってください」
「ありがと、リンナさん」
ネイルとリンナはニコリと微笑んだ。
「じゃあ、私は?」
とシェーダ
「あなたは、エム様を助け出したことを口実に、あわよくば褥を共にしたいだけでは?」
「んなっ!?、そ、そんな事、か、考えてないわよ!!」
「確かにエムお姉様は大変魅力的です。どんな男をも魅了するあの肢体、あの声、みなぎる野生」
「野生?」
シノは首をかしげるも、シノはウンウンと頷いてる。
「ち、違うわよ!!」
「シェーダさんも、エム姉様を抱きたい、抱かれたい、…と思う気持ちは、お有りですよね?」
「いや、わ、私は…」
シェーダの顔がみるみる赤くなっていく
「その気持ちはわかります」
「え?、本当?、あ…」
シェーダの反応に、リンナ、ネイル、シノは呆れた目でシェーダを見た。しかし……
「……くく」
リンナが顔を背けて笑い出し、ネイルもシノも肩を震わせ笑いを堪えていた。
「くくく、カッコ悪、シェーダさん」
「ネイルさん、シェーダお姉様は、ちょースケベなんです」
「シノ!、何を言うのよ!、ひっ、ひっかけたわね!!、リンナさん!」
「少なくとも、ここにいる私達は皆同じ考えですね」
「え?」
「さて、冗談はさておき、私は皆さんを巻き込むつもりです。ただし強制はしません。その後の身の振り方もご自身で考えてください」
「自己責任と言うことね」
「そう言う事です、先ほども言いましたが、この件は冒険者組合の助けはありません。と、言うことであなたはどうしますか?、シノさん」
「今さら私だけ仲間はずれなんかにしないで下さい」
「ネイルさんは?」
「聞くだけ野暮ですよ」
リンナはフッと笑い、シェーダに向き直った。
「シェーダさんは、アルラマージとしての長の立場があります。選択を見誤らないで下さい」
「長として、加わります。これはアルラマージの総意です」
「……わかりました。もし何かあれば『夜のトバリ』が面倒見ましょう」
「それは娼婦として?」
「犯罪奴隷に身を費やし、見知らぬ男共に強姦されて一生を終えるよりはいいでしょう?」
『言い方!!』
リンナは全員に突っ込まれた。
「では本題に入りましょう。トランだけなら、私とネイルさんだけで問題ありません。後は精神支配されているお姉様がどうでるか……」
「やっぱり攻撃してくるかな?」
「十中八九、してくるでしょう。…ですがシェーダさん、他にも何かありそうですね?」
「ええ、リンナさんとネイルさんのお二人だけでは、この件は無理だと局長代理が言ってました」
シェーダがそう告げる。
「私達は冒険者ではありませんが、それなりに腕に覚えがあります。トラン如きに遅れは取りませんが?」
「トランじゃありません。問題はあの屋敷を管理している侍従長です」
「侍従長??」
「局長代理が内密にと話をされました。衛士隊が内偵を進めていて、その対象はトランではなく、侍従長です」
「どう言う事ですか?」
「リンナさんは、最近街で多様な禁制品が出回っているのはご存知ですか?」
「ええ、私の店にも飛び込みで行商人が持ち込んできたりしていて、少々危惧していました。無論お断りしてますが……それが?」
「トランの屋敷にいる『侍従長』が衛士隊の捜査線上に上がっていて、かなりの曲者です」
「どんな相手なんですか?」
「その侍従長は『ウリエルダ』と『マルダー』と関係してます」
シェーダとリンナを除き、ネイルとシノは目を丸くした。
「…闇商会と、奴隷商ですか、その侍従長とやら、どちらかの関係者ですか?」
「恐らくウリエルダの者ではないかと、マルダーは領主様も非公式ながら容認されていると聞いてますし……そこにラライラです。どうやら彼女達が禁制品の運搬に使われているようなんです」
「それは、厄介ですね。すると……ラライラが敵に回る可能性があると、シェーダさんはお考えですか?」
『敵!?』
「シャイアを人質に、ラライラ達が汚れ仕事を強要されているならば、そうなるのも必然かと」
驚きの声を上げたのはネイルとシノ、しかしリンナは冷静だった。
「局長代理はそれであなたを?」
シェーダがギリっと奥歯を噛み締めた。
「ええ、万が一との事で」
「彼女達がトランの屋敷に入るのをシノさんが目撃しました。それで組合へラライラの動向を確認するよう、シノさんを使いに出したのですが……やはりそうでしたか」
「リンナさんは知っていたのですか?」
「いいえ、何やらキナ臭いのを感じたので、念のためと思ったんです。最悪な結果ですね」
リンナがそう言ってシノに視線を送ると、シノは頷き説明を始めた。
「ラライラが禁制品の密輸に関わっているのは、確実視されてます。組合の警務官も衛士と合同で調査を始めてます」
「その件、ゴザール様はなんと?」
ネイルとシノの2人は、なぜそこで領主が出てくるのか?、と訝しんだ。
「ゴザール家は関与を否定したそうです。ただし、もしトランが何かしら不都合な関与をしているならば、全面的に強力するとも」
「でもラライラが……彼女達がそんな事するなんて」
ネイルは信じられないと、驚きを隠せない。
「皆まっすぐで、正義感にあふれているわ。犯罪に手を染めるなんて……」
「長であるシャイアさんが未だ行方不明のまま、迷宮騒ぎの後から姿を見た者は誰もいません」
ネイルがはっとする。
「シャイアさんが人質にされて強要されてる??」
「局長代理も同意見でした」
「……やってくれますね、あの男」
リンナの暗殺者の目に、その場の皆がブルリと震えた。
「ですが、私はお姉さまが最優先です、事情がどうあれ、立ちはだかるならば、ラライラといえど容赦しません」
「シャイア達ラライラは、このシェーダにお任せくださいませんか?、彼女達の事はよく知ってるので」
リンナがフムと考える。
「わかりました。ではシェーダさんは私と地下から、ネイルさんとシノさんは、例の方法で陽動していただけますか?」
「例の方法?」
ネイルは首を傾げた。
「そうだ、肝心な事を伝え忘れてました。トランは今夜、冒険者組合の会合に出かけます。焼失した庁舎建て替えの件で、意見を聞くため、等級A以上が呼び出されることになっています」
「それは好都合ですが……局長代理の采配ですか?」
「そうです」
「…わかりました、今夜決行します。皆さんご助力、お願い申し上げます」
リンナが皆に深々と頭を下げた。
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