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3話。
しおりを挟む「…貴方も自殺しに来たんですか?」
私はそれを聞いた時にハッとした。
…貴方、“も”?
そんな私を横目に由真さんは言った。
「だって幸恵さん、僕と同じ目してるんですもん。」
そう言って由真さんはこちらに横顔を見せた。
喉仏が少しだけ突き出ていた。
「……僕、双子の兄が居たんです。
名前は“ナオ”って言うんですけど、」
そう呟いてから少し下を向いて、無理に笑顔を作ってからもう一度話し始めた。
「…最近、事故、と言うか故意な殺人で死んじゃって…」
指に挟んだ本が小さく音を立てる。
「……ナオは、ただ僕の横に立って、音楽聴きながら、学校行くために電車待ってただけなんです。」
私はその間声を出すことができなかった。
自分の事すら語らない由真さんの纏う空気は、暗い影が張り付いている気がした。
「……けど、電車が来る寸前に後ろから強く押されて…
押したのは僕に密かに恋心抱いてた男友達で…、」
そこまで言うと由真さんはこちらに半ば強引に顔を向けた。
「…こんな事って普通起きますかね?」
その目には涙が溜まっていた。
何処からかやや強めの風が吹き込んでくる。
木がざわつき、葉が舞った。
私はふとカメラを構えてシャッターを切った。
その瞬間に由真さんの口が空いた。
「…、僕なんか撮って何になるんですか、」
泣きぼくろを涙が無情に通過していく。
私は言った。
「私、綺麗なものより醜いものの方が好きなんです。」
由真さんはハッとした表情でこちらを見た。
「だってそっちの方が見ていて新たな発見とか出来るじゃないですか。」
由真さんは物悲しげに笑った。
「けど、貴方は綺麗です。
そんなに痩せているのも、食事が喉を通らないんでしょう、」
由真さんは私の言葉を遮る様に大きめの声で言った。
「早く向こうに行きたいんです。」
そのまま涙を零しながら小声で唇を震わせながら言った。
「…早く、向こうに行きたいんです…
………早く、兄と逢いたいんです…」
そこまで言うと、由真さんは指で涙を拭って言った。
「もし良ければ、僕の隣で逝ってくれませんか?
…もう、独りは嫌なんです。」
私は何も言わずに頷いた。
由真さんの本は指に挟み込まれて、歪な皺を作っていた。
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