短編集:あくまで私は生きている【2023年度文芸部部誌より】

氷上ましゅ。

文字の大きさ
上 下
8 / 8

希死概念

しおりを挟む
「死が怖い」、そう言った輩が、俺の友人に居た。
「それは何故なにゆえ」と彼に訊くと、彼は酷く困ったような笑みをこちらに向けて、足元に咲く雑草の花を妙になまめかしい目つきで眺めて言った。

「俺はなぁ…ホラ、弟が殺されてんだ。だから、その、「弟の分まで生きる」とか、そんな格好つけた、洒落た事なんざ言わねぇけど、言わねぇけどさ…………」

彼は眉を下げて諦めたように軽く顔だけで笑った。そんな彼に言ってしまった。

「そんなにも辛いか。」

彼は一瞬にしてばっと、俺の顔を下から見上げた。

「そら、辛いに決まってるだろ。」
語気が強い。
「何、お前そんな薄情なヤツだったか? アシア 」
「……」

さっきまで、お前お前君アンタと呼びあっていた友人に名前を呼ばれた衝撃と、聞いた事のない語気の強さと、さりげなく食らった人格否定に、返す言葉が見つからなかった。
そうしている内、彼は何気乾いた笑い声を出した。

「まぁいいさ、どうせお前兄弟居ねぇんだ。
家族間での友情みたいなモン、到底築けるような環境じゃなかったんだから。」

彼なりの皮肉で、彼なりの励ましだった。自分はそれを聞いて腕組みをし直しただけで、
それ以降、二人でじっと黙りこくってしまった。

「……くだらない。」

暫く続いた無音のリレーに音を立てて、俺は自室へと帰ってしまった。
まさか、次彼に会うのが、彼の葬式になると知らずに。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「……後追いなんて。            ………くだらない事を…」

希死概念 Fin.

初稿:7月18日
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父の遺したもの

ゆる弥
現代文学
父が遺してくれたもの。それに気がついた私は……

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

処理中です...