暴力ですべて解決!~脳筋ドラゴンJKの異世界冒険譚~

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第5話 ミドル街

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 マンモスの肉を食べながら、3人は街道をまっすぐに進み続けて2時間ほど。
 やがてひとつの中くらいの街に到着しました。
 ミニマ村とは違って、街の周囲は堀に囲まれていて、建物の数も数え切れないほどあります。

 街には北と南にそれぞれ一つずつ跳ね橋があり、街に入るには基本的にそこを通ることになります。
 まあ、龍姫は少しなら空を飛べるので、実際は無理やり街に入る事もできますが、ツンネと偽タピが居るのでそういうわけにもいきません。

「やあ、ミドル街へようこそ!」
 北側の跳ね橋を渡り切ると、街の入口に立っている男性が声を掛けてきました。

「こんにちは。私、ミニマ村から来たツンネ・デレングウェイです」
 ツンネはリュックから冒険者ギルドの会員証を取り出し、男性に手渡しました。

「おお、ミニマ村から? あはは、あの村まだ残ってたんだな」
 男性は笑います。が、ツンネの後ろに居る二人の姿を見て、その笑顔が顔から消えました。
「しかし連れの二人は? 人間じゃないようだが?」

「おれはグラザニア龍姫だ。別の世界から……もごっ!」
 龍姫が自己紹介をしかけた時、ツンネは彼女の口を塞ぎました。

(ちょっと、別の世界から来たなんて言ったら面倒なことになるでしょ?)
 ツンネは小声でそう言うと、龍姫と偽タピをかばうように、一歩前に出ました。

「この二人は、スライムの森で倒れていたのを私が助けたんです。名前以外の記憶が無いみたいなんですけど――危険はありません」
 そしてツンネは嘘をつきました。

「う~ん……危険はない……かぁ」
 門番の男性は少し悩みます。
 が、後ろの二人は見てみると、たしかに危険は無さそうなアホ面をしていますし、まあいっか。と、すぐに納得しました。
「分かった。ようこそミドル街へ」

「おじゃまします」と、偽タピが言って、3人は遂に街へ足を踏み入れました。

 そして3人はツンネの先導で、街の中心街へと向かいました。
 そこは様々な店、役所、そしてギルドの集う場所でした。
 彼らが向かったのはその中でも一際多くの人間で賑わっている場所――冒険者ギルドです。

 両開きのスイングドアを押して中に入ると、その中は一見すると酒場のようでした。
 多くのテーブルがあり、鎧に身を包んだ戦士らしき人や、ゼンマイのような形をした杖を持った魔法使い。その他諸々の、いかにも冒険者という風貌の人たちがテーブルを囲んで談笑しています。

「おや、ツンネ。久しぶりだな。前に会ったのは確か――年末の定例会の時だったか?」

 カウンターの中に立っている禿頭の男性――冒険者ギルドミドル街支部のハゲッシグがツンネの姿を見るなり、声を掛けてきました。
 ハゲッシグは隻腕の中年男性。かつてはそこそこ有名な冒険者でしたが、利き腕である右手を失ってからは冒険者を引退。ギルドの職員として働くようになった人物です。
 
「どうも、お久しぶりです」
 ツンネは頭を下げて、カウンターへ近寄ります。

「どうしたんだ? お前がここに居るってことは――ミニマ村支部は誰が管理してるんだ?」
 そう言われて、ツンネは困ってしまいました。
 ミニマ村支部唯一の職員であるツンネがここに居るということは、当然今は無人状態です。

「それはえっと――」
 と、ツンネが言いかけると――

「がはははは! まあ、細かいことは良いや。どうせミニマ村支部は近いうちに潰す予定だったしな」
 ハゲッシグが意外な言葉を呟きます。
 
「え……?」

「だってミニマ村はもう住民が10人も居ないだろ? 仕事も少ないし、ミドル街に統合したほうが効率的だしな」
 
「だったらもう少し早く言ってくださいよ!」

「わははは、すまんすまん」

「なあ、冒険者ギルドってなんなんだ?」
 仲良く話をしている二人に、龍姫が声を掛けました。
 左手にはなぜかすでに骨付き肉が握られています。どうやら、どこかのテーブルからくすねたようです。

「おや……?」
 ハゲッシグの目つきが厳しくなりました。
「君は何者だ」

「おれはグラザニア龍姫。よろしく」
 龍姫は笑いながら右手を差し出しますが、マンモスを素手で食べたせいで、油でべとべとです。
 けれど、ハゲッシグは躊躇すること無くがしりとそれを握りました。

「……私は冒険者ギルドミドル街支部の支部長。ハゲッシグだ。よろしく」
 ハゲッシグはそう言って、丁寧な口調でさらに続けます。
「冒険者ギルドというのは、魔物の討伐、収集品の納品、その他多種多様な依頼をうけおって、冒険者達にそれを紹介するギルドだ。あとは、冒険者達のパーティマッチングにも手を貸しているし、このように、彼らが情報交換する場所も提供している」

「へぇ、冒険者か。おもしろそーだな」
 
「面白いのは間違いない。が、危険の伴う仕事だ。魔物は容赦がない」

「となると、ますますおもしれーじゃねーか」
 龍姫の目が、キラキラと輝き始めます。
 冒険者になれば、魔物と戦い放題。つまり、暴力を振るい放題ということ。
 それでお金を貰えるとあれば、龍姫にとっては夢のような話しです。

「だったら、君も冒険者ギルドに所属してみてはどうかな?」

「え? ハゲッシグさん……良いんですか?」
 ツンネが言いました。

「もちろん。たとえ魔人であっても、冒険者ギルドは来るもの拒まずだ」
 と、ハゲッシグは笑顔で答えました。
「ただし、冒険者ギルドに入るにはその実力を証明しなくてはならない。私と模擬戦をして、実力を示せば合格だ。危険が伴うが、構わないかな?」

「いいぜ。もちろん」
 ガシッ! と、龍姫は拳を合わせ、威勢よく返事を返します。

「よし、それなら準備が出来次第、街の南門から外に出てくれ。街の中で戦うわけにはいかないからな。あと、ツンネはミニマ村支部の閉鎖について副支部長のパンドラと話してきてくれ」

(模擬戦? そんな決まりいつできたんだろ?)
 ツンネは首を傾げました。
 彼女が冒険者ギルドに入った時は、実戦でのテストなど無くて、精密ステータスチェックの結果と、履歴書を冒険者ギルドに送付し、書類選考と面接によってテストが行われました。
 が……

「わかりました」
 (下手なこと言って、バカな田舎者だと思われたくないし、黙っておこ)と、ツンネは心に決めて黙っておきました。



 ハゲッシグは、龍姫達が外に出ていくのを確認すると、その表情を一変させました。
 厳しく、険しい顔。普段は温厚な彼ですが、今はダンジョンに挑む時のような、緊張した顔です。

(ツンネはあまり心配していないようだがだ――あの魔人、危険な雰囲気だ)

 ハゲッシグは、龍姫をひと目見た瞬間に、当然魔人だと気付きました。しかも、見覚えのない種族の魔人で、目つきも悪いです。

 魔人はこの世界では一応、人間の仲間として扱われますが、冒険者としての経験値が豊富なハゲッシグは、魔人の危険性も良く理解していました。

 ただの魔物よりも遥かに賢く、強力な存在が多いのが魔人です。
 エルフやドワーフのように平和的で善良な種族も居ますが、デーモンのように、悪辣で凶悪な存在も多く居ますし、それどころか、全体を見渡せば、人間に害をなす種族の方が多いのです。

 詐欺組織、盗賊団、そして高利の金貸しといった闇の職業の構成員に魔人が多いというのは周知の事実なので、『魔人は危険』というハゲッシグの差別的な考えは、(多少は行き過ぎていますが)決して極端すぎるというほどではありません。

(もしかすると、魔王とかいう奴の手先かもしれん。ツンネには悪いが――危険は早めに除去しなければな)

 しかし、魔人だからという理由だけで龍姫を街から追い出すような、表立った差別行為は出来ません。
 そんなことをすれば街の評判が落ち込むの当然ですから。
 
(事故に見せかけて殺すのが一番良いだろう。殺すのが一番確実だからな)
 
 ハゲッシグは装備を整えてから、約束した通り、街の南へと向かいました。




「さて、と。龍姫だったか?」

「ああ、そうだ。とっとと始めようぜ」
 龍姫は言いながら、その場で屈伸体操をしています。
 なにせ戦闘は激しく身体を動かしますから、ストレッチしておかないと不要な怪我をする危険があります。
 その後ろでは「ごしゅじんさま、がんばってください」と、偽タピが両手を振って健気に応援しています。

「……武器は使わないのか? 防具は?」
 ハゲッシグはすでに全身を武装していました。
 顔にはフルフェイスの兜。身体には鎧。インナーには鎖帷子くさりかたびらまでつけています。
 それに向かう龍姫は、スカジャンにジーパン。とても戦いに向いている服装ではありません。

「あ? いらねーよ、そんなの」
 龍姫は堂々と答えます。
 というか、他に服はありません、

「……まあ、それは丁度いい」
 ハゲッシグは小さな声で本音を漏らしました。
「では始めるが、準備は良いか?」

「おっけー」
 
 そして試験開始の寸前、ハゲッシグは龍姫から背を向けると、懐から小さな小瓶を取り出しました。
 中に入っているのは黒緑色の液体――マキシマムシの毒を自らの剣の表面に塗り込みました。
 それは一滴でマンモスすら仕留める猛毒。人間であれば、傷口から僅かに入り込んだだけで間違いなく死にます。

「では、やろうか」
 ハゲッシグは(悪いな)と、内心で龍姫に謝りながら、彼女の方に向き直ります。

「もう攻撃しても良いのか?」

「ああ、どこからでも掛かってこい」
 
「んじゃ、遠慮なく!」
 龍姫は大きく口を開きました。
 息を吸い、そして――炎が放出されました。

「なっ!」
 ハゲッシグは、目を見開きました。
 口から炎を出す生物なんて聞いたことがありませんし、長ったらしい詠唱が無かったことから、魔法でもないのは明らかです。

 炎は小さな口から放出されているのが信じられないほど拡散し、大きくなりながら、そして一瞬の間にハゲッシグの元へと襲いかかってきます。

 ハゲッシグは急いで飛び退きますが――

「よ、避けられんッ!」

 ファイアブレスは猛烈な勢いです。
 重装備のハゲッシグはむしろその重みが足を引っ張り、回避が間に合わず、すぐに炎に包みこまれました。

 ちなみに、以前も説明しましたが、龍姫のファイアブレスは5000℃の熱を持ちます。
 これは世界に存在するありとあらゆる物質の融点を上回っています。
 つまり――鎧だろうと溶かしてしまいます。

「ギャアアアアアッ! あ、あつい!」

 ハゲッシグは、炎を全身に浴びると、一瞬にして戦意を失いました。
 
「やべっ、やりすぎた?」

 龍姫はハゲッシグの声を聞いて、すぐに攻撃を中止しました。
 が、時すでに遅し。炎はすでに彼の装備を溶かし、彼の体表にまで到達していました。
 当然、全身に大火傷を負い、焼け焦げてしまいました。

「お、おっさん……?」
 
 龍姫はおそるおそる黒焦げの身体の側に近寄って、ちょんと身体に触ります。
 
「ぐ、あ……べ」
 ハゲッシグはうめき声を出しますが、身体はもうぴくりとも動きません。
 それは当然です。彼の火傷はかなり重度で、治療をしなければ一日も持たないほどの大ダメージですから。
 
「ごしゅじんさま、ころしちゃいましたね」
 偽タピが駆け寄ってきました。

「ち、ちげぇよ! まだ生きてる! おい、さっさと起きろおっさん!」
 バシバシッ、と龍姫はハゲッシグの顔を叩きます。が、彼は壊れたテレビではないので、叩かれても良くなるはずはありません。

「まちにつれてかえったらどうですか? なおせるひとがいるかもしれません」

「街に連れ帰ったら、おれがこのおっさんを半殺しにしたのがバレちまう」

「でも、ここにいたらこのひと、ぜったいしんでしまいますよ」

「そ、それは……でも……」
 と、龍姫は悩みます。
 別の世界に来て、いきなりお尋ね者にはなりたくありません。
 
 正直に『試験で起きた不幸な事故』だと報告しても、よそ者の自分の言葉は誰にも信頼してもらえないだろうことがわかりきってます。

 けれど、保身のために助けられるかもしれない命を助けないというのも、良くありません。

「どーしよ……」
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