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命をかけた報酬
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会議室のような広すぎるリビングに戻るとハヤミは、高級そうなシャンパンを開けてレナに注ぐ。
いつもの上から目線な態度とは様子の違うハヤミに、いまさらながらドキドキしてしまい、
「…あ…ありがとう…」
と言ったあとは言葉が出なかった。
「実は…」
ハヤミはそう切り出したっきり、何も話さない。
お互いが無言の、決まずい空気が流れていく。
レナはそれが続くのが嫌で、一気に注がれたシャンパンを飲み干した。
そして、テーブルに置かれていたビンから自分でシャンパンを注ぎ、「ぷはぁっ!やっぱり、高級シャンパンはおいしいですねっっ!」と豪快に飲み続け、とにかく場を和ませようと努力してみる。
「よく飲むヤツだなぁ…」
呆れた様子のハヤミは、「ちょっと待ってろ」と言い残すとリビングから姿を消した。
その間に、いつもなら絶対に飲む機会などないであろう高級そうなシャンパンをグビグビと手酌酒で飲み干す。
いい感じで酔いがまわってきたとき、戻ってきたハヤミがレナの隣に座ると分厚い封筒をテーブルに置いた。
「コレ、いままでの報酬」
目の前にある封筒は、分厚い…
「…え…?」
「アオイのイヤーカフを通して全部みてた。毒針で消されそうになってただろ?」
「…えっ…、あれってやっぱり…」
「あの毒針が刺さってたら、確実に死んでた。針は体温で溶ける仕組みになってるから、死因は心不全だっただろうな」
「…」
あらためてそう聞かされて、鳥肌が立つ。
「ニシジマシンヤがお前を襲おうとしたときも、どうしようか迷ってはいた。けど、山田太郎の母親を揺さぶるには、どうしてもお前の協力が必要だった」
「…うん」
「それに、佐藤建設の娘カンナに近づき、任務を遂行してもらうにはお前が適任だと思ってた…」
ハヤミの口から出た言葉の語尾が濁る。
「でも、さっきシャンパンをバカみたいにガブ飲みしてる姿を見たら、もうこれ以上は危ない目に遭わせられないなって」
手元のシャンパングラスを握っていたハヤミの手に力が入る…。
「最初はイケメン好きで喜怒哀楽の激しいただのバカ女だと思っていたが、意外と他人想いなところもあって…お前が危ない目に遭うと、ヒヤヒヤする…」
「え…?」
それって、それって…?
まさか…恋心の芽生え…?
えっ?えっ?
ついに、ハヤミさんにも私の魅力が…!?
期待しかないこの状況、どうしてくれるっ?
キラキラした瞳で見つめているレナを冷めた目で見ながら、
「なんか勘違いしてるらしいから言っておくが、俺のなかでお前は、やっと人間と同じレベルに達したってことだ」
とキッパリ。
「…は?え…?どういう…?」
「だから、これ以上は危ない目に遭わせるわけにもいかないと思った」
「…あのぉ…」
え?
私に気があるとか、そういう話じゃないの?
ん?
違う…?
「とにかく、お前はもう、この仕事を辞めろ」
「え?」
「封筒に300万入ってる。元カレのせいでできた借金返しても、生活立て直すぐらいはできるだろ?あと、ニシジマたちに狙われないよう、県外にマンションも用意してやる。築年数は古いけど、分譲マンションでお前名義。それなら文句ないだろ?」
「…え…そんなこと急に言われても…しかも、そんな大金…」
「お前、殺されかけたんだぞ?自分の命をかけた報酬が300万なんて、安いもんだろ。文句言われてもいいぐらいだ。それにどうせ、投資で稼いだ金が使い切れないぐらいある。遠慮することはない」
「ちょ…ちょっと待ってよ…」
おいおいレナ、何が『ちょっと待ってよ…』だよっっ。
300万だよ、300万!
しかも、もうハヤミたちの仕事とは縁が切れる。
住むとこだって用意してくれるんだよ。
何をこれ以上話すことがある?
私は毒針で殺されかけたんだよ?
しかもそのあとも、黒髪ちょっとイケメンや黒づくめのヤツらに襲撃された。
こんなの、いつ殺されるかたまったものじゃない。
さっさとお金を受け取って退散するよ、レナ!
レナは自分に言い聞かせてみるが、なぜだかイマイチしっくりこない。
「今日ひとりで帰すのは危険だから、明日、県外の分譲マンションまで送るよ」
いつになくやさしいハヤミの態度も、なんだか気持ち悪い。
「でも、カンナさんに近づくのは、女の私じゃなきゃ無理なんじゃないの?」
勝手に口が動く。
こんな仕事、サッサと辞めたいはずなのに。
どうしてだろ…?
「今日はとにかくお前、レナという人物をタヴェルナに送り込む必要があったからアオイにも協力してもらった。でも、明日からはアオイに変装してもらうから平気だ。今後お前に手伝ってもらうかどうかを迷っている間に、危ない目に遭わせて悪かったな」
「でも…っっ!」
アルコールの力も手伝ってか、無意識のうちに抵抗していた。
でも、ハヤミはじっとレナを見つめて言う。
「お前自身、これまでに散々男たちに騙され、弄ばれてきた身だから余計に力が入るのはわかる。最初はいいヤツだと思っていたニシジマが悪人だと気づいて、自分の見る目のなさにも腹が立っているんだろう?」
「それは…」
図星だった。
「そして、自分と同じようにニシジマを信じて騙され、気が済むまで利用され続けるしかない人たちをどうにかしたいと強く思っている…」
ハヤミに言われた言葉がそのまますぎて、浅く頷くことしかできない。
「確かにお前は持続力もないし、知識や力もなければ、金も時間もない。イケメンを見るとすぐに舞い上がるし、ラクして生きようとする堕落したところも人一倍ある。人生もナメてる。でも、『どうにかしたい』『いい方向に変えたい』というお前の気持ちがヤバイぐらい伝わってくるときがある…」
「…ハヤミさん…」
「だからこそ余計に、命まで狙われているいま、これ以上は任務を続けさせられない。お前は俺たちと違って、この仕事に命をかける理由がない。巻き込んで悪かったな」
いつもの上から目線な態度とは様子の違うハヤミに、いまさらながらドキドキしてしまい、
「…あ…ありがとう…」
と言ったあとは言葉が出なかった。
「実は…」
ハヤミはそう切り出したっきり、何も話さない。
お互いが無言の、決まずい空気が流れていく。
レナはそれが続くのが嫌で、一気に注がれたシャンパンを飲み干した。
そして、テーブルに置かれていたビンから自分でシャンパンを注ぎ、「ぷはぁっ!やっぱり、高級シャンパンはおいしいですねっっ!」と豪快に飲み続け、とにかく場を和ませようと努力してみる。
「よく飲むヤツだなぁ…」
呆れた様子のハヤミは、「ちょっと待ってろ」と言い残すとリビングから姿を消した。
その間に、いつもなら絶対に飲む機会などないであろう高級そうなシャンパンをグビグビと手酌酒で飲み干す。
いい感じで酔いがまわってきたとき、戻ってきたハヤミがレナの隣に座ると分厚い封筒をテーブルに置いた。
「コレ、いままでの報酬」
目の前にある封筒は、分厚い…
「…え…?」
「アオイのイヤーカフを通して全部みてた。毒針で消されそうになってただろ?」
「…えっ…、あれってやっぱり…」
「あの毒針が刺さってたら、確実に死んでた。針は体温で溶ける仕組みになってるから、死因は心不全だっただろうな」
「…」
あらためてそう聞かされて、鳥肌が立つ。
「ニシジマシンヤがお前を襲おうとしたときも、どうしようか迷ってはいた。けど、山田太郎の母親を揺さぶるには、どうしてもお前の協力が必要だった」
「…うん」
「それに、佐藤建設の娘カンナに近づき、任務を遂行してもらうにはお前が適任だと思ってた…」
ハヤミの口から出た言葉の語尾が濁る。
「でも、さっきシャンパンをバカみたいにガブ飲みしてる姿を見たら、もうこれ以上は危ない目に遭わせられないなって」
手元のシャンパングラスを握っていたハヤミの手に力が入る…。
「最初はイケメン好きで喜怒哀楽の激しいただのバカ女だと思っていたが、意外と他人想いなところもあって…お前が危ない目に遭うと、ヒヤヒヤする…」
「え…?」
それって、それって…?
まさか…恋心の芽生え…?
えっ?えっ?
ついに、ハヤミさんにも私の魅力が…!?
期待しかないこの状況、どうしてくれるっ?
キラキラした瞳で見つめているレナを冷めた目で見ながら、
「なんか勘違いしてるらしいから言っておくが、俺のなかでお前は、やっと人間と同じレベルに達したってことだ」
とキッパリ。
「…は?え…?どういう…?」
「だから、これ以上は危ない目に遭わせるわけにもいかないと思った」
「…あのぉ…」
え?
私に気があるとか、そういう話じゃないの?
ん?
違う…?
「とにかく、お前はもう、この仕事を辞めろ」
「え?」
「封筒に300万入ってる。元カレのせいでできた借金返しても、生活立て直すぐらいはできるだろ?あと、ニシジマたちに狙われないよう、県外にマンションも用意してやる。築年数は古いけど、分譲マンションでお前名義。それなら文句ないだろ?」
「…え…そんなこと急に言われても…しかも、そんな大金…」
「お前、殺されかけたんだぞ?自分の命をかけた報酬が300万なんて、安いもんだろ。文句言われてもいいぐらいだ。それにどうせ、投資で稼いだ金が使い切れないぐらいある。遠慮することはない」
「ちょ…ちょっと待ってよ…」
おいおいレナ、何が『ちょっと待ってよ…』だよっっ。
300万だよ、300万!
しかも、もうハヤミたちの仕事とは縁が切れる。
住むとこだって用意してくれるんだよ。
何をこれ以上話すことがある?
私は毒針で殺されかけたんだよ?
しかもそのあとも、黒髪ちょっとイケメンや黒づくめのヤツらに襲撃された。
こんなの、いつ殺されるかたまったものじゃない。
さっさとお金を受け取って退散するよ、レナ!
レナは自分に言い聞かせてみるが、なぜだかイマイチしっくりこない。
「今日ひとりで帰すのは危険だから、明日、県外の分譲マンションまで送るよ」
いつになくやさしいハヤミの態度も、なんだか気持ち悪い。
「でも、カンナさんに近づくのは、女の私じゃなきゃ無理なんじゃないの?」
勝手に口が動く。
こんな仕事、サッサと辞めたいはずなのに。
どうしてだろ…?
「今日はとにかくお前、レナという人物をタヴェルナに送り込む必要があったからアオイにも協力してもらった。でも、明日からはアオイに変装してもらうから平気だ。今後お前に手伝ってもらうかどうかを迷っている間に、危ない目に遭わせて悪かったな」
「でも…っっ!」
アルコールの力も手伝ってか、無意識のうちに抵抗していた。
でも、ハヤミはじっとレナを見つめて言う。
「お前自身、これまでに散々男たちに騙され、弄ばれてきた身だから余計に力が入るのはわかる。最初はいいヤツだと思っていたニシジマが悪人だと気づいて、自分の見る目のなさにも腹が立っているんだろう?」
「それは…」
図星だった。
「そして、自分と同じようにニシジマを信じて騙され、気が済むまで利用され続けるしかない人たちをどうにかしたいと強く思っている…」
ハヤミに言われた言葉がそのまますぎて、浅く頷くことしかできない。
「確かにお前は持続力もないし、知識や力もなければ、金も時間もない。イケメンを見るとすぐに舞い上がるし、ラクして生きようとする堕落したところも人一倍ある。人生もナメてる。でも、『どうにかしたい』『いい方向に変えたい』というお前の気持ちがヤバイぐらい伝わってくるときがある…」
「…ハヤミさん…」
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