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グッジョブ
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帰ってきたのは、山田太郎だった。
部屋へ行こうとしていた太郎を引き留めたのは、太郎の母。
さっきまでの物静かな雰囲気とは違い、鬼気迫る様子で太郎を引き留めている声が障子の向こうから聞こえる。
「あの人たちを救えるのは、太郎しかいないかもしれないのよ!」
太郎の声はモソモソしていて何を言っているか聞こえないが、母が太郎を説得している声はハッキリと聞こえた。
「ねぇっ!ニシジマの2代目を懲らしめてやりたくないのっ?!」
涙の混じった声からは、怒りや苦しみが伝わってくる。
けれどそんな母の言葉は、同僚や後輩たちに次々と裏切られ、心を閉ざしてしまった太郎には届かなかったようだ。
「太郎っっ!」
という、半分叫び声のような母の言葉が聞こえたあと、しばらくして母だけが部屋へ戻ってきた。
「ごめんなさい…実はあの子、ニシジマの2代目を告発するためのデータ、まだ持っていると思うのよ。もしかしたら、それが役に立つかもしれないと思ったのだけれど…」
母は申し訳なさそうに、ポツリポツリと口を開いてそう言った。
「気にしないでください。俺たちは、全然大丈夫なので」
ハヤミはそう言って立ち上がると、レナの手を取ってエスコートし、立ち上がらせる。
「…大丈夫です!」
空気を読んで答える、レナ。
「申し訳ありません、俺たちのせいで嫌なこと思い出させて。俺たちは大丈夫なので…」
ハヤミがそう言うと、一瞬にして母の瞳にじゅわりと涙が溜まり、大粒の涙がこぼれ落ちた。
ニシジマに苦しめられている人は、女の人だけじゃない。
太郎のように真面目で正義感のある社員のほか、下請けも自己都合で切り捨て、とことん嫌がらせをして業界から消し去る極悪人。
絶対に許せない!
ふつふつと怒りが込み上げてくるレナ。
ふと太郎の母に目をやると、
「嫌なことを思い出させてしまって申し訳ありません。俺たちこそ、何か力になれることがあったら言ってください」
と、ハヤミがサッと名刺を渡しているのが見えた。
「…その名刺って…!」
名刺には氏名のほか、ニシジマ重機建設のロゴや文字が入っている。
いつの間に、そんなものを準備していたんだか。
「あ…すみません。つい…」
名刺を引っ込めようとするハヤミ。
うわぁ~っっ、ヤバイ!
余計なことを言ってしまったかも!
車に戻ったら、また怒られる…
怯えたまま俯いたレナの視界に飛び込んできたのは、ハヤミが親指を立てて作ったグッジョブサイン。
そして次の瞬間、
「そうよね…、しみ込んだ習慣やクセって、なかなか抜けないものよね…」
太郎の母は口元を抑え、一気に込み上げてくる涙を我慢しながらそう言った。
この状況の、どこがグッジョブ…?
レナには理解できなかったが、
「ありがとう。頂戴するわ」
涙ながらではあったけれど、太郎の母はすんなりと名刺を受け取った。
部屋へ行こうとしていた太郎を引き留めたのは、太郎の母。
さっきまでの物静かな雰囲気とは違い、鬼気迫る様子で太郎を引き留めている声が障子の向こうから聞こえる。
「あの人たちを救えるのは、太郎しかいないかもしれないのよ!」
太郎の声はモソモソしていて何を言っているか聞こえないが、母が太郎を説得している声はハッキリと聞こえた。
「ねぇっ!ニシジマの2代目を懲らしめてやりたくないのっ?!」
涙の混じった声からは、怒りや苦しみが伝わってくる。
けれどそんな母の言葉は、同僚や後輩たちに次々と裏切られ、心を閉ざしてしまった太郎には届かなかったようだ。
「太郎っっ!」
という、半分叫び声のような母の言葉が聞こえたあと、しばらくして母だけが部屋へ戻ってきた。
「ごめんなさい…実はあの子、ニシジマの2代目を告発するためのデータ、まだ持っていると思うのよ。もしかしたら、それが役に立つかもしれないと思ったのだけれど…」
母は申し訳なさそうに、ポツリポツリと口を開いてそう言った。
「気にしないでください。俺たちは、全然大丈夫なので」
ハヤミはそう言って立ち上がると、レナの手を取ってエスコートし、立ち上がらせる。
「…大丈夫です!」
空気を読んで答える、レナ。
「申し訳ありません、俺たちのせいで嫌なこと思い出させて。俺たちは大丈夫なので…」
ハヤミがそう言うと、一瞬にして母の瞳にじゅわりと涙が溜まり、大粒の涙がこぼれ落ちた。
ニシジマに苦しめられている人は、女の人だけじゃない。
太郎のように真面目で正義感のある社員のほか、下請けも自己都合で切り捨て、とことん嫌がらせをして業界から消し去る極悪人。
絶対に許せない!
ふつふつと怒りが込み上げてくるレナ。
ふと太郎の母に目をやると、
「嫌なことを思い出させてしまって申し訳ありません。俺たちこそ、何か力になれることがあったら言ってください」
と、ハヤミがサッと名刺を渡しているのが見えた。
「…その名刺って…!」
名刺には氏名のほか、ニシジマ重機建設のロゴや文字が入っている。
いつの間に、そんなものを準備していたんだか。
「あ…すみません。つい…」
名刺を引っ込めようとするハヤミ。
うわぁ~っっ、ヤバイ!
余計なことを言ってしまったかも!
車に戻ったら、また怒られる…
怯えたまま俯いたレナの視界に飛び込んできたのは、ハヤミが親指を立てて作ったグッジョブサイン。
そして次の瞬間、
「そうよね…、しみ込んだ習慣やクセって、なかなか抜けないものよね…」
太郎の母は口元を抑え、一気に込み上げてくる涙を我慢しながらそう言った。
この状況の、どこがグッジョブ…?
レナには理解できなかったが、
「ありがとう。頂戴するわ」
涙ながらではあったけれど、太郎の母はすんなりと名刺を受け取った。
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