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使えないヤツ

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ハヤミがインターホンを押すと、

「あら、この前の…?」

インターホン越しに、山田太郎の母の声が聞こえた。

あぁ…やっぱり、太郎のお母さんの声聞いたら、妊婦だって嘘ついている自分にモヤモヤする。

そりゃあまぁ、ニシジマを社会的に抹殺するためなのだけれど…

良心の呵責に苛まれていたレナを置き去りに、

「この前は、ありがとうございました。近くまで来たので、お礼に」

ハヤミはそう言って、手に持っていた紙袋をインターホンに映るように持ち上げた。

「まぁ、そんな、わざわざいいのに…待ってね、すぐ開けますから」

山田の母が弾んだ声でそう言うとすぐ、目の前をふさいでいた大きな門が開いた。

「お久しぶりです」

丁寧に頭を下げるハヤミを見習って、レナも深く頭を下げる。

「どう?調子は?」

山田の母は、レナに気遣いの言葉をかけながら、

「わざわざ寄ってくださるなんて嬉しいわ」

と、2人の顔を交互に見て微笑む。

そしてすぐ、

「お茶でも淹れるから、なかに入って」

と、声をかけてくれた。

「あ…」

遠慮気味にそう言って目を合せてくるハヤミを、どうにかこの場で貶めてやりたい気分になるのはどうしてだろう?

いつものドSな感じはまったくなく、ほんとに自然に、遠慮してる感じ。

私の棒演技とは全然違う。

ハヤミさんは完璧すぎて、ちょっとイラっとする。

あ…、まぁ、コーヒーを点てるのは苦手かも?だけどw

「あなたも早く」

山田の母にそう言われ、この前休ませてもらった部屋へ通された。

色鮮やかで活気のある花が飾られ、掃除の行き届いた気持ちのいい空間。

お茶を淹れるからと山田の母が席を外した途端、

「…なんか…すごく変な気分…」

吐き出すように言ったレナをハヤミが見つめる。

「前に来たときにも思ったけど、太郎のお母さん、きっとすごくきちんと太郎のこと育てたんじゃないかって…」

うまく言葉にできない。

でも、庭の手入れ、ピカピカの玄関、磨かれた廊下、そして花が活けられた気持ちのよい客間…

太郎の母が思い描いていた未来は、こんな生活じゃなかったはず。

太郎にしたって、歩いて30分の小さな印刷所に無理を言って毎日数時間通わせてもらうような、そんな生活を夢見ていたわけじゃなかったはず。

きっと、大学で取得した資格を生かしながら、ニシジマ重機建設で仲間たちと活き活き仕事をしている毎日を夢見ていたと思う。

それなのに…

「ニシジマ重機建設は…ううん、ニシジマは…、いろんな人を不幸にしてる…」

そう言いながら鼻をススったとき、

「いま、泣いてどーすんだよ?バカか?前にも言ったけど、お前は感情的になりすぎ」

ハヤミが呆れた様子で溜め息をついた。

「だって…」

「だってじゃない。感情的になってたら、冷静に物事を考えられなくなるって、前にも言ったよな?」

ハヤミはレナを睨んだが、

「でもぉ…なんだか、ニシジマに腹が立ってきて、涙が止まらない…」

とうとう、大粒の涙を流し、泣き出してしまった。

「…使えねぇっ!」

ハヤミは軽く舌打ちしたが、

「…まあ、いい。時間もないし作戦変更だ。とりあえず、泣け」

そう言った。
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