上 下
37 / 56

アオイからの潜入報告

しおりを挟む
モニターの電源を入れてアオイに合図すると、

「頑張ってますよ~!」

いつもの能天気な声が返ってきた。

でも、イヤーカフを通しての映像なので、アオイの姿はまったく見えない。

それでも、

「ちなみに、グットタイミング!もうすぐ夕方だけど、いまからランチタイム。ほかの人が来ないように100tの大型クレーンの中でサンドイッチ食べまぁ~す。だから、おしゃべりOKでーす!」

しゃべり方や声のトーンから、いつものアオイが自然と浮かんできてホッとした。

あぁ、アオイくん、この傷ついた心を慰めに早く帰ってきて…

カナデの出現に痛恨の一撃をくらったレナは、カウンターに突っ伏すと、顔だけを上げて画面に心の声を吐露。

「おい、仕事中だぞ」

ハヤミに注意されても、なんだかどうでもいい気分。

でも、

「おいっ!」

と強く言われて、整った顔立ちで睨みつけられた瞬間、ハッとなって背筋を伸ばしモニターを見つめた。

「ちなみにここは、重機のオペレーターたちが待機する、重機の保管場所兼、駐車場みたいな感じだよ」

アオイが顔をいろんな方向に向け、イヤーカフを通じて周囲の景色をキレイに映し出す。

敷地には、十数台の重機とオペレーターのものと思われる十数台の自家用車、そして、オペレーターたちが待機するプレハブの事務所…

あ~、こんな景色より、アオイくんの元気いっぱいの笑顔が見たいよ~!

「思った以上に、こっちは質素と言うか、お金かけてないのがまるわかりって感じだな」

ハヤミの言葉に、

「そうそう、床もベニア板だし、従業員も使い捨てって感じ。だから、本当にウデのイイ人か、ウデのない40とか50とかの辞めたら転職が難しい人のどっちかしかいないんだよね」

アオイが反応する。

「…なんだかニシジマって、どこまでも嫌なヤツだね。重機なんて、オペレーターさんたちがいなきゃ動かせないのに…」

「レナちゃん、いいこと言う!その通り。運転技術があるスタッフには高額な給料支払ってるみたいだけど、あんなワンマン経営じゃ、長く続かないだろうね」

そう言い終わったアオイのカラダが、急にビクッとなって軽く飛び上がった。

そして次の瞬間、カメラには50歳そこそこの小柄な男性が映り、にこりと微笑みかけた。

いつの間にか男性は、100tの大型クレーンによじ登り、運転席のドアを開けてアオイを見ていたらしい。

いつから…?

不安がつい、アオイの息を飲む音にも影響した。

レナも、まるで自分がその場にいるかのように慌てて息を飲んだが、

「新人さん、お疲れさん」

男性はそう言って、水滴のついたキンキンに冷えていそうな缶ジュースを手渡しただけだった。

「…どうも…ありがとうございます…」

戸惑いながらお礼を言うアオイに、

「キミ、新人だろ?珍しいな。最近の新人は、昼休憩には重機なんかに目もくれないと思っていたが…」

男性が嬉しそうに微笑む。

「重機、好きなんで」

咄嗟に応えたアオイだったが、もう冷静になったのか、女性らしい口調で対応していた。

「ほう、頼もしい。また、会えるのを楽しみにしているよ。ワシはこれから、出動でな」

男性は、隣に止まっている25tのラフタークレーンを親指を立てて示すと、満面の笑みを浮かべた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ヤクザと私と。~養子じゃなく嫁でした

瀬名。
恋愛
大学1年生の冬。母子家庭の私は、母に逃げられました。 家も取り押さえられ、帰る場所もない。 まず、借金返済をしてないから、私も逃げないとやばい。 …そんな時、借金取りにきた私を買ってくれたのは。 ヤクザの若頭でした。 *この話はフィクションです 現実ではあり得ませんが、物語の過程としてむちゃくちゃしてます ツッコミたくてイラつく人はお帰りください またこの話を鵜呑みにする読者がいたとしても私は一切の責任を負いませんのでご了承ください*

【完結】美しい人。

❄️冬は つとめて
恋愛
「あなたが、ウイリアム兄様の婚約者? 」 「わたくし、カミーユと言いますの。ねえ、あなたがウイリアム兄様の婚約者で、間違いないかしら。」 「ねえ、返事は。」 「はい。私、ウイリアム様と婚約しています ナンシー。ナンシー・ヘルシンキ伯爵令嬢です。」 彼女の前に現れたのは、とても美しい人でした。

彼女の幸福

豆狸
恋愛
私の首は体に繋がっています。今は、まだ。

裏切りの代償~嗤った幼馴染と浮気をした元婚約者はやがて~

柚木ゆず
恋愛
※6月10日、リュシー編が完結いたしました。明日11日よりフィリップ編の後編を、後編完結後はフィリップの父(侯爵家当主)のざまぁに関するお話を投稿させていただきます。  婚約者のフィリップ様はわたしの幼馴染・ナタリーと浮気をしていて、ナタリーと結婚をしたいから婚約を解消しろと言い出した。  こんなことを平然と口にできる人に、未練なんてない。なので即座に受け入れ、私達の関係はこうして終わりを告げた。 「わたくしはこの方と幸せになって、貴方とは正反対の人生を過ごすわ。……フィリップ様、まいりましょう」  そうしてナタリーは幸せそうに去ったのだけれど、それは無理だと思うわ。  だって、浮気をする人はいずれまた――

隣の人妻としているいけないこと

ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。 そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。 しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。 彼女の夫がしかけたものと思われ…

危害を加えられたので予定よりも早く婚約を白紙撤回できました

しゃーりん
恋愛
階段から突き落とされて、目が覚めるといろんな記憶を失っていたアンジェリーナ。 自分のことも誰のことも覚えていない。 王太子殿下の婚約者であったことも忘れ、結婚式は来年なのに殿下には恋人がいるという。 聞くところによると、婚約は白紙撤回が前提だった。 なぜアンジェリーナが危害を加えられたのかはわからないが、それにより予定よりも早く婚約を白紙撤回することになったというお話です。

ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました

宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。 ーーそれではお幸せに。 以前書いていたお話です。 投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと… 十話完結で既に書き終えてます。

完結 愛人と名乗る女がいる

音爽(ネソウ)
恋愛
ある日、夫の恋人を名乗る女がやってきて……

処理中です...