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山田太郎の母
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「まぁっ!大丈夫?!」
インターホンの向こうから、そんな声が聞こえ、血相を変えた年配の女性が走り出てきた。
きれいに髪を整え、清潔感のある上品な服装の女性。
年齢的に考えても、山田太郎の母親といったところだろう。
近づくとふわりと、少しむせるファンデーションの香りした。
女性は、「しっかり」とレナを軽くゆすって、
「お水、飲める?」
素早くペットボトルのフタを開け、口元に持ってきてくれた。
なんてやさしい人…
こんなやさしい人を騙すなんて…ホント気が引ける。
ハヤミさん、一体、何考えてるんだろ?
彼女とか妊娠とか、まあ、イケメンに言われると悪い気はしないけど、でもでも、やっぱりちょっと違うよね。
山田太郎って人に、聞き込みに来たんじゃなかったの?
軽くハヤミを睨んでみたが、ハヤミは、知らぬ存ぜぬ涼しい顔で、
「申し訳ありません、突然に」
と、まるで紳士を装っている。
「いいえ、いいのよ。それより、お腹に赤ちゃんがいるって言ってたけど、大丈夫なの?何?車酔い?それとも、つわり?」
女性は心配そうにレナの顔を覗き込むと、
「とりあえず、上がって」
とハヤミに言った。
「いや…でも」
躊躇するハヤミの腕を、女性が軽く引っ張る。
「彼女さんが大変なときに、何を遠慮してるの?病院への電話も、ウチからしなさい。さ、早く」
「…ありがとうございます」
丁寧にお礼を言ったハヤミは、軽く「よしっ」と拳を握ると、
「自分で歩け。バカ」
全体重をハヤミにかけて倒れ込むフリをしていたレナをギロリと睨み、女性に気づかれないように突き離した。
「ちょっ、そんな力入れて突き離さなくてもっ!」
慌ててハヤミにしがみついたが、冷めた目で見られ、支えられているフリだけで我慢してやることにした。
…残念。
ここまでイケメンな人の腕で支えられるなんて、もう、死ぬまでにあるかないかの経験なのに。
神様、ちょっと時間が短すぎるわ…
悔しがっていたレナだったが、門を抜けて手入れされた庭を歩き、女性が玄関を開けたとき、
「うわぁ…」
思わず声を上げた。
「あら、大丈夫?」
すかさず心配してくれた女性に、「大丈夫です、すみません」とだけ返し、あらためて玄関をゆっくりと見回した。
ピカピカだった。
玄関の土間に敷き詰められたタイルも、部屋へと続くであろう床板も、つややかに磨かれている。
「母親の身だしなみや対応、家の様子を見る限り、山田太郎は、ちゃんとした教育を受けて育ってそうだな」
ボソっとつぶやいたハヤミに、
「そんなこと、関係あるの?」
と言ってはみたが、確かにハヤミの言うことは、山田に話を聞くうえでは大事かもしれないと思った。
現に、さっきの「彼女」や「妊娠」の演技が功を奏して、山田の家に上がり込むことに成功しているわけだし。
いつも、ハヤミのやることや言うことには、理由がある気がする。
レナはひとまず、気分のすぐれない妊娠中の女を精一杯演じてみようと思った。
インターホンの向こうから、そんな声が聞こえ、血相を変えた年配の女性が走り出てきた。
きれいに髪を整え、清潔感のある上品な服装の女性。
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女性は、「しっかり」とレナを軽くゆすって、
「お水、飲める?」
素早くペットボトルのフタを開け、口元に持ってきてくれた。
なんてやさしい人…
こんなやさしい人を騙すなんて…ホント気が引ける。
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軽くハヤミを睨んでみたが、ハヤミは、知らぬ存ぜぬ涼しい顔で、
「申し訳ありません、突然に」
と、まるで紳士を装っている。
「いいえ、いいのよ。それより、お腹に赤ちゃんがいるって言ってたけど、大丈夫なの?何?車酔い?それとも、つわり?」
女性は心配そうにレナの顔を覗き込むと、
「とりあえず、上がって」
とハヤミに言った。
「いや…でも」
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「…ありがとうございます」
丁寧にお礼を言ったハヤミは、軽く「よしっ」と拳を握ると、
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「ちょっ、そんな力入れて突き離さなくてもっ!」
慌ててハヤミにしがみついたが、冷めた目で見られ、支えられているフリだけで我慢してやることにした。
…残念。
ここまでイケメンな人の腕で支えられるなんて、もう、死ぬまでにあるかないかの経験なのに。
神様、ちょっと時間が短すぎるわ…
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「あら、大丈夫?」
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ピカピカだった。
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「母親の身だしなみや対応、家の様子を見る限り、山田太郎は、ちゃんとした教育を受けて育ってそうだな」
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と言ってはみたが、確かにハヤミの言うことは、山田に話を聞くうえでは大事かもしれないと思った。
現に、さっきの「彼女」や「妊娠」の演技が功を奏して、山田の家に上がり込むことに成功しているわけだし。
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