33 / 56
山田太郎の母
しおりを挟む
「まぁっ!大丈夫?!」
インターホンの向こうから、そんな声が聞こえ、血相を変えた年配の女性が走り出てきた。
きれいに髪を整え、清潔感のある上品な服装の女性。
年齢的に考えても、山田太郎の母親といったところだろう。
近づくとふわりと、少しむせるファンデーションの香りした。
女性は、「しっかり」とレナを軽くゆすって、
「お水、飲める?」
素早くペットボトルのフタを開け、口元に持ってきてくれた。
なんてやさしい人…
こんなやさしい人を騙すなんて…ホント気が引ける。
ハヤミさん、一体、何考えてるんだろ?
彼女とか妊娠とか、まあ、イケメンに言われると悪い気はしないけど、でもでも、やっぱりちょっと違うよね。
山田太郎って人に、聞き込みに来たんじゃなかったの?
軽くハヤミを睨んでみたが、ハヤミは、知らぬ存ぜぬ涼しい顔で、
「申し訳ありません、突然に」
と、まるで紳士を装っている。
「いいえ、いいのよ。それより、お腹に赤ちゃんがいるって言ってたけど、大丈夫なの?何?車酔い?それとも、つわり?」
女性は心配そうにレナの顔を覗き込むと、
「とりあえず、上がって」
とハヤミに言った。
「いや…でも」
躊躇するハヤミの腕を、女性が軽く引っ張る。
「彼女さんが大変なときに、何を遠慮してるの?病院への電話も、ウチからしなさい。さ、早く」
「…ありがとうございます」
丁寧にお礼を言ったハヤミは、軽く「よしっ」と拳を握ると、
「自分で歩け。バカ」
全体重をハヤミにかけて倒れ込むフリをしていたレナをギロリと睨み、女性に気づかれないように突き離した。
「ちょっ、そんな力入れて突き離さなくてもっ!」
慌ててハヤミにしがみついたが、冷めた目で見られ、支えられているフリだけで我慢してやることにした。
…残念。
ここまでイケメンな人の腕で支えられるなんて、もう、死ぬまでにあるかないかの経験なのに。
神様、ちょっと時間が短すぎるわ…
悔しがっていたレナだったが、門を抜けて手入れされた庭を歩き、女性が玄関を開けたとき、
「うわぁ…」
思わず声を上げた。
「あら、大丈夫?」
すかさず心配してくれた女性に、「大丈夫です、すみません」とだけ返し、あらためて玄関をゆっくりと見回した。
ピカピカだった。
玄関の土間に敷き詰められたタイルも、部屋へと続くであろう床板も、つややかに磨かれている。
「母親の身だしなみや対応、家の様子を見る限り、山田太郎は、ちゃんとした教育を受けて育ってそうだな」
ボソっとつぶやいたハヤミに、
「そんなこと、関係あるの?」
と言ってはみたが、確かにハヤミの言うことは、山田に話を聞くうえでは大事かもしれないと思った。
現に、さっきの「彼女」や「妊娠」の演技が功を奏して、山田の家に上がり込むことに成功しているわけだし。
いつも、ハヤミのやることや言うことには、理由がある気がする。
レナはひとまず、気分のすぐれない妊娠中の女を精一杯演じてみようと思った。
インターホンの向こうから、そんな声が聞こえ、血相を変えた年配の女性が走り出てきた。
きれいに髪を整え、清潔感のある上品な服装の女性。
年齢的に考えても、山田太郎の母親といったところだろう。
近づくとふわりと、少しむせるファンデーションの香りした。
女性は、「しっかり」とレナを軽くゆすって、
「お水、飲める?」
素早くペットボトルのフタを開け、口元に持ってきてくれた。
なんてやさしい人…
こんなやさしい人を騙すなんて…ホント気が引ける。
ハヤミさん、一体、何考えてるんだろ?
彼女とか妊娠とか、まあ、イケメンに言われると悪い気はしないけど、でもでも、やっぱりちょっと違うよね。
山田太郎って人に、聞き込みに来たんじゃなかったの?
軽くハヤミを睨んでみたが、ハヤミは、知らぬ存ぜぬ涼しい顔で、
「申し訳ありません、突然に」
と、まるで紳士を装っている。
「いいえ、いいのよ。それより、お腹に赤ちゃんがいるって言ってたけど、大丈夫なの?何?車酔い?それとも、つわり?」
女性は心配そうにレナの顔を覗き込むと、
「とりあえず、上がって」
とハヤミに言った。
「いや…でも」
躊躇するハヤミの腕を、女性が軽く引っ張る。
「彼女さんが大変なときに、何を遠慮してるの?病院への電話も、ウチからしなさい。さ、早く」
「…ありがとうございます」
丁寧にお礼を言ったハヤミは、軽く「よしっ」と拳を握ると、
「自分で歩け。バカ」
全体重をハヤミにかけて倒れ込むフリをしていたレナをギロリと睨み、女性に気づかれないように突き離した。
「ちょっ、そんな力入れて突き離さなくてもっ!」
慌ててハヤミにしがみついたが、冷めた目で見られ、支えられているフリだけで我慢してやることにした。
…残念。
ここまでイケメンな人の腕で支えられるなんて、もう、死ぬまでにあるかないかの経験なのに。
神様、ちょっと時間が短すぎるわ…
悔しがっていたレナだったが、門を抜けて手入れされた庭を歩き、女性が玄関を開けたとき、
「うわぁ…」
思わず声を上げた。
「あら、大丈夫?」
すかさず心配してくれた女性に、「大丈夫です、すみません」とだけ返し、あらためて玄関をゆっくりと見回した。
ピカピカだった。
玄関の土間に敷き詰められたタイルも、部屋へと続くであろう床板も、つややかに磨かれている。
「母親の身だしなみや対応、家の様子を見る限り、山田太郎は、ちゃんとした教育を受けて育ってそうだな」
ボソっとつぶやいたハヤミに、
「そんなこと、関係あるの?」
と言ってはみたが、確かにハヤミの言うことは、山田に話を聞くうえでは大事かもしれないと思った。
現に、さっきの「彼女」や「妊娠」の演技が功を奏して、山田の家に上がり込むことに成功しているわけだし。
いつも、ハヤミのやることや言うことには、理由がある気がする。
レナはひとまず、気分のすぐれない妊娠中の女を精一杯演じてみようと思った。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

悪役令嬢カテリーナでございます。
くみたろう
恋愛
………………まあ、私、悪役令嬢だわ……
気付いたのはワインを頭からかけられた時だった。
どうやら私、ゲームの中の悪役令嬢に生まれ変わったらしい。
40歳未婚の喪女だった私は今や立派な公爵令嬢。ただ、痩せすぎて骨ばっている体がチャームポイントなだけ。
ぶつかるだけでアタックをかます強靭な骨の持ち主、それが私。
40歳喪女を舐めてくれては困りますよ? 私は没落などしませんからね。

淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

【完結保証】愛妾と暮らす夫に飽き飽きしたので、私も自分の幸せを選ばせてもらいますね
ネコ
恋愛
呉服で財を成し華族入りした葉室家だが、経営破綻の危機に陥っていた。
娘の綾乃は陸軍士官・堀口との縁組を押し付けられるものの、夫は愛妾と邸で暮らす始末。
“斜陽館”と呼ばれる離れで肩身を狭くする綾乃。
だが、亡き父の遺品に隠された一大機密を知ったことで状況は一変。
綾乃は幸せな生活を見出すようになり、そして堀口と愛妾は地獄に突き落とされるのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる