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クソ企業
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「まず、ニシジマ重機建設は、俺たちが予想していた以上に“旧体制”だってこと」
「旧体制?」
尋ねると、
「あ、悪ぃ。“俺たち”じゃなくて、俺とアオイな」
正しく言い直されたことに、ムカっとする。
「いちいち修正しなくてもいいですっ!」
と、つっこむと、ハヤミが涼しげな表情でこっちを見ていて、思わず、
「いやいや、あなたもなかなか張り合いますね」
と心のなかでもう1度つっこんだ。
「そりゃあ私は、ニシジマ重機建設が、旧体制だなんて想像もしてなかったですよ。それに、そもそも、旧体制って、何なんですかっ!」
「ほんと言葉のまま。まあ、いわば、いまの時代に合ってない古い体制のまま会社を運営してるってこと」
「…?どこでそんなことがわかったの?」
「まず、面接にニシジマと橋本が加わってるってとこ。大企業でも、取締役や代表が面接に顔を出すことはあるが、その場合は、面接官の数がもっと多い。もしくは、何度目かの面接で、取締役や代表との面接が設定されているケースが多い。それに会社の面接の場合、その場で採用の返事を出すなんてことは、まずない」
「…そうなの…?」
「そうだ。それに、面接に取締役や代表が加わる場合、多くの理由が、取締役や代表の意見を採用に反映させるからに他ならない。たとえば、ヤル気があるか、どれぐらい会社に貢献できそうかなど」
「なるほど」
「ニシジマの場合は、自分の思いどおりに動く人間であるかどうかや会社内での問題をリークしなさそうな人間であれば採用するなど、自分に都合のいい人間を採用するために面接にかかわってる可能性が高い」
「…へぇ…なるほど。そうやって、身辺を固めてるってわけかぁ…」
「ちなみに、面接をしてその場で“採用”を出さない会社が多いのは、面接官同士が採用について意見をしたり、面接後に応募者がツイッターやフェイスブック、インスタなんかのSNSに変なカキコミをしないかどうかを探るため、という理由もある。そういうのもないということは、ますますニシジマの意見でのみ、採用の可否が決められている可能性が高まる」
「言われてみれば…」
「極めつけは…これは昨日もチラっと言っていたように、一部予想通りではあったけど、“大型特殊やクレーンの免許証すら確認しなかった”ということ。免許証などを確認するということも定着していなければ、それをおかしいと思って意見する人間もいないということ。そして、採用するかどうかはほぼ100%、ニシジマの意思で決まると考えるのが自然だ」
「橋本も面接官もいたのに?」
「あんなのは、お飾りだろうな。今回は、アオイが女だったから即採用の返事を出して、他の会社に面接へ行かれるのを阻止したという線が濃い。でも、面接官も慣れた様子だったし、スムーズなやり取りだった。つまり、いつもの流れと変わらず、面接官はいつもどおりお飾りだったという見方が正しいだろう」
「…すごいね。あの短い面接動画を見ただけで、そんないろんなことがわかっちゃうなんて…」
「これが、ボーっと映像を見ている、お前との違いだ」
微妙に得意そうに言うハヤミを、心のなかで数発殴り倒してから、
「え?でも、それと旧体制って、どういう関係があるの?」
尋ねてみた。
「いやいや、いま、この時代に取締役や代表の鶴の一声で何でも決まっていくような会社、やばいだろ?」
「あ、そうかぁ…、橋本や社員はニシジマの言いなり、ニシジマはワガママ言い放題ってかんじだもんね。…ん?でも、…それが…?」
「…頭の悪いヤツだな…ニシジマの面接のやり方を見てるだけで、ロクな企業じゃないってことがわかる。どうせ、先代のときからのやり方を、ほぼほぼ変えずにいまもやり過ごしているんだろう。新しいものや自分に都合の悪いものは一切取り入れない、旧体制という名のボロキレをまとったクソ企業ってことだ」
「う、うん…でも、それが…?」
「ということは、だ。ボロが山のように出てくる可能性がある」
「…へ?」
「ニシジマ重機建設は、あんなご立派なビルを所有して、相当やり手に見えるが、中身はスカスカな可能性が高いってこと。面倒な手続きや約束もぶっちぎってる可能性が高い」
ハヤミはそう言うと、「とりあえず、お前はもう、今日はやることないから帰れ」と一方的に言われ、店から放り出された。
…って、一体、どういう扱いよっ!
「旧体制?」
尋ねると、
「あ、悪ぃ。“俺たち”じゃなくて、俺とアオイな」
正しく言い直されたことに、ムカっとする。
「いちいち修正しなくてもいいですっ!」
と、つっこむと、ハヤミが涼しげな表情でこっちを見ていて、思わず、
「いやいや、あなたもなかなか張り合いますね」
と心のなかでもう1度つっこんだ。
「そりゃあ私は、ニシジマ重機建設が、旧体制だなんて想像もしてなかったですよ。それに、そもそも、旧体制って、何なんですかっ!」
「ほんと言葉のまま。まあ、いわば、いまの時代に合ってない古い体制のまま会社を運営してるってこと」
「…?どこでそんなことがわかったの?」
「まず、面接にニシジマと橋本が加わってるってとこ。大企業でも、取締役や代表が面接に顔を出すことはあるが、その場合は、面接官の数がもっと多い。もしくは、何度目かの面接で、取締役や代表との面接が設定されているケースが多い。それに会社の面接の場合、その場で採用の返事を出すなんてことは、まずない」
「…そうなの…?」
「そうだ。それに、面接に取締役や代表が加わる場合、多くの理由が、取締役や代表の意見を採用に反映させるからに他ならない。たとえば、ヤル気があるか、どれぐらい会社に貢献できそうかなど」
「なるほど」
「ニシジマの場合は、自分の思いどおりに動く人間であるかどうかや会社内での問題をリークしなさそうな人間であれば採用するなど、自分に都合のいい人間を採用するために面接にかかわってる可能性が高い」
「…へぇ…なるほど。そうやって、身辺を固めてるってわけかぁ…」
「ちなみに、面接をしてその場で“採用”を出さない会社が多いのは、面接官同士が採用について意見をしたり、面接後に応募者がツイッターやフェイスブック、インスタなんかのSNSに変なカキコミをしないかどうかを探るため、という理由もある。そういうのもないということは、ますますニシジマの意見でのみ、採用の可否が決められている可能性が高まる」
「言われてみれば…」
「極めつけは…これは昨日もチラっと言っていたように、一部予想通りではあったけど、“大型特殊やクレーンの免許証すら確認しなかった”ということ。免許証などを確認するということも定着していなければ、それをおかしいと思って意見する人間もいないということ。そして、採用するかどうかはほぼ100%、ニシジマの意思で決まると考えるのが自然だ」
「橋本も面接官もいたのに?」
「あんなのは、お飾りだろうな。今回は、アオイが女だったから即採用の返事を出して、他の会社に面接へ行かれるのを阻止したという線が濃い。でも、面接官も慣れた様子だったし、スムーズなやり取りだった。つまり、いつもの流れと変わらず、面接官はいつもどおりお飾りだったという見方が正しいだろう」
「…すごいね。あの短い面接動画を見ただけで、そんないろんなことがわかっちゃうなんて…」
「これが、ボーっと映像を見ている、お前との違いだ」
微妙に得意そうに言うハヤミを、心のなかで数発殴り倒してから、
「え?でも、それと旧体制って、どういう関係があるの?」
尋ねてみた。
「いやいや、いま、この時代に取締役や代表の鶴の一声で何でも決まっていくような会社、やばいだろ?」
「あ、そうかぁ…、橋本や社員はニシジマの言いなり、ニシジマはワガママ言い放題ってかんじだもんね。…ん?でも、…それが…?」
「…頭の悪いヤツだな…ニシジマの面接のやり方を見てるだけで、ロクな企業じゃないってことがわかる。どうせ、先代のときからのやり方を、ほぼほぼ変えずにいまもやり過ごしているんだろう。新しいものや自分に都合の悪いものは一切取り入れない、旧体制という名のボロキレをまとったクソ企業ってことだ」
「う、うん…でも、それが…?」
「ということは、だ。ボロが山のように出てくる可能性がある」
「…へ?」
「ニシジマ重機建設は、あんなご立派なビルを所有して、相当やり手に見えるが、中身はスカスカな可能性が高いってこと。面倒な手続きや約束もぶっちぎってる可能性が高い」
ハヤミはそう言うと、「とりあえず、お前はもう、今日はやることないから帰れ」と一方的に言われ、店から放り出された。
…って、一体、どういう扱いよっ!
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