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社会的抹消の問題点

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発信機についての詳しいことは何も聞けないまま、

「ニシジマの詳細データ、お前も共有しておいたほうがいいだろ?」

ハヤミに言われ、とりあえずは頷く。

発信機のことは気にかかったが、なんとなく聞いてはいけない気がして、そのまま流すことにした。

「ニシジマの名前、年齢なんかは、この前の資料で共有してるよね?」

アオイに聞かれ、頷く。

「何か、わからないこととかってなかった?」

「んー…あ、そう言えば、“重機建設”って、どんなお仕事なの?」

「は?お前は、そんなことも知らずにニシジマと接触してたのか」

ハヤミは呆れたけど、このタイミングで聞いておかなきゃ、ずっと聞きそびれるような気がした。

「重機建設っていうのはね、まあ、会社によっても違うけど、クレーンやブルドーザー、ダンプやユニック、トラックなど、土木や建築に必要な機械を取り扱っている会社のことを言うんだよ」

「へぇ、アオイくんの説明、わかりやすい!」

「ちなみに、“重機建設”って名前のつく会社の下請けっていうのは基本“〇〇重機”なんていう名称の会社が多くて、元請けである重機建設よりも小型の重機を所有していることが多いんだ。たとえば、重機建設がクレーンの100tを持ってるなら、下請けの会社は10tとかね」

「へぇ」

「それから、元請けと比べると、あきらかに台数も少なくて、オペレーターって言って重機を動かすことができる人材も少ないんだ」

「へぇ…あれ?でも、佐藤建設は、重機っていう言葉が付かないよね?」

「建設ってつくような会社も、建設重機を持っている会社がたくさんあるからね。“〇〇建設”っていうような名前の会社が下請けでも、とくに不思議ではないんだよ。儲かっている建設会社もあれば、そうでない会社もある。じゃあ、ヒマならどうやって稼ぎますか?ってなったとき、形が下請けになるってこともあるし、建設会社のほうが建設重機を持っていて、重機建設に貸すことだってあるんだよ」

「佐藤建設のオッサンの場合は、気でも狂ってるのかと思うぐらい人がイイらしいから、そこにつけ込まれて余計に安く叩かれてるんだろうな」

ハヤミが口を挟む。

はああ、嫌な世の中だ。

イイ人のほうがつけ込まれたりしてバカをみるなんて。

「調べてみたら、ものすごい安い金額で重機や人材を貸し出してる会社も結構あった」

ハヤミは印刷したA4用紙を3枚並べ、

「弱味を握っては、利益の出ないような安い仕事を振ってる感じだな」

頬杖をつく。

「ひいぃっ、こんなに?結構な数、やらかしてる割にはバレないもんなんだねぇ?さらには、女の子が嫌がることまでヤっちゃってるのに、雑誌やテレビではクリーンなイメージ保ってるもんなー。匿名のリークとかあってもいいと思うけどなぁ」

首を傾げたアオイに、

「でも、ニシジマのターゲットが、自分と同じような立ち場の人間ばっかりだって知ったら、リークもできないかもな」

ハヤミが静かに言う。

「あ、そうか。ニシジマ重機建設の株とか受注が一時でも下がったら、生活自体がヤバイ下請けの会社の人たち…うー…どうにかなんないの?」

「うーん…そこが、めちゃめちゃ難しいんだよね。ニシジマを社会的に抹消しちゃうと、いろんな人がホラ、連鎖倒産しちゃうというか…」

アオイが唇を尖らせる。

へぇ、なんだ。

他の人たちに迷惑かかっても、とくに気にせず報酬をもらうために社会的に抹消しちゃうのかと思ってたけど、そうでもないんだ?

内心では、そんなことはないって思ってはいたけれど、実際にそういう鬼畜な感じじゃなかったから、本気で安心できた。

でも、そうなると、これはホントに難しい問題。

「ニシジマを社会的に抹消するのに、ニシジマ重機建設の株も受注率も落とさないなんてこと、できるもんなの?」

つい、ポロっと思ったことが口を突く。

ハヤミも口を結んだまま、天井を仰いだ。
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