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修羅場

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涙で視界が滲んだとき、

「R18じゃないんで、このへんで割り込んでおかないとねーっ!」

能天気なアオイの声が聞こえたかと思うと、出入り口付近で息を整えていた男性が、勢いよく室内に倒れ込んできた。

アオイが、男性の背後から思いっきりジャンプキックをくらわせたのだ。

「アオイくん…」

思わず声に出そうになったが、慌てて言葉を呑みこんだ。

絨毯の上に派手に転がった男性を見て、ニシジマがアオイの方に向きを変える。

涼しい顔でアオイが、「よっ、女の敵っ!」ニシジマを茶化す。

「はあっ?ふざけんな!お前、誰だよっ?!」

ニシジマは大きくカラダを揺らして立ち上がると、アオイを睨みつけ、威嚇した。

それでもアオイは、涼しい顔を崩さない。

「うぐぐっ…」

床に倒れていた男が床に手をついて立ち上がろうとしたところを、アオイが表情ひとつ変えずに蹴りをくらわせた。

「はぐっ…」

と、床に倒れ込んだ男の背中に足を乗せたまま、

「そっちの子、開放してくんない?」

レナのほうをアゴで示し、

「嫌なら、コイツもあんたも、ボッコボコにするまでだけど」

いつもの能天気な口調で怖いことを言う。

「…」

ニシジマが、少し後ろにたじろいだ。

「ビビるよね?だってこいつ、もともとは格闘技やっててイイ線いってたんだろ?」

そんなふうに、足の下で倒れている男を踏み踏みしながら挑発するアオイは、いつものカワイイ系の爽やかイケメンではなくなっていた。

背景には、荒れ果てた校舎か改造されまくった単車しか浮かばない。

ただならぬ、オーラが渦巻いている。

ニシジマはゴクリとツバをのむと、

「お前らの魂胆はなんだ?」

ジリジリと精一杯に1歩踏み出して、聞く。

「さあね?何でしょう?いまはとりあえず、その子の開放。嫌なら…」

アオイがニシジマに飛びかかろうとしたとき、

「った!わかった!わかったから、やめろ。なっ…」

両腕を大きく前に突き出して身を守りながら、「行け」小さい声でレナに指図する。

固まって動けずにいたレナに、

「行けっつってんだろ!帰れやっっ!!」

ニシジマが叫ぶように怒鳴る。

「あ~あ~、感情的になっちゃって、嫌ぁ~ねぇ」

アオイは、またも茶化しながら、ニシジマの横を平気な顔で通過すると、レナのほうに近づいて頭を撫でた。

「怖かったよね。涙出てんじゃん」

そう言われ、やさしく頬の涙を拭き取られたとき、

「アオイくんっっ!!」

思わずレナは、アオイを力いっぱい抱きしめた。

その瞬間をニシジマは見逃さない。

近くにあったテーブルの上から大理石の灰皿をサッと引き寄せると、アオイの頭めがけて大きく振り上げた。

「…っ!アオイくん、危ない…!!」
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