愛だの恋だの馬鹿馬鹿しい!

蘇鉄

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「まぁつまりアレだよ。俺の能力は出涸らしなのさ」

なんてことないように言った戯藍には何の感情も浮かんでなかった。世間話のように彼は衝撃の事実を話す。その身体は黄金の光で作られた鎖によって身動きすら許さないというようにギッチギチに戒められていた。
どうしてこうなっているのかは少し時間を遡る。

数時間前。

「この屋敷って娯楽とかほぼねぇんだよな。大丈夫?」

「新鮮というか物珍しさが勝ってるから全然大丈夫だよ、ぎーくん。正直言って見ている風景は木々っていう学園とあんまり変わらないはずなのに開放感がすごい」

「西川は?」

「オレも平気っスね。空気が綺麗なんで落ち着きます」

「ならいいけど」

物部家は本邸はそれなり豪華だが、別邸はこじんまりとしている。書物の量こそ豊富ではあるがそれ以外はほとんど一般の家庭と変わらない。二人の家庭環境についてあまり突っ込んだことは聞いていないので大丈夫なのかと心配したがどうやら杞憂のようだ。綴は性格上我慢できないことは我慢できないとはっきり言うタイプであるし、西川は我慢してたら顔に出る。大丈夫というのならば大丈夫だろう。

「今日はどうするのぎーくん」

「ふふん、聞いて驚け、物部家の秘密ツアーだ!」

子供のように胸を張ってそう自慢げに宣言した彼はこっちだと言いながら屋敷を歩く。そのあとについていきながら二人は首を傾げた。一つの奥部屋に辿り着くとアンティーク調の鍵を取り出して開ける。その動作を見て綴は内心で驚いていた。
わざわざアナログな手段を取っているのに最新式の電子ロックも搭載されていたからだ。
二重三重のロックは綴であっても突破できない。しかも此処は入り口だ。入り口で情報屋としてハッカーとしてのプロと名乗っても良いレベルの綴が苦難するというのはセキュリティとしては最高峰レベルだろう。

「というかこんなとこ部外者が入っていいの?誘拐とかされるんでしょ」

「大丈夫、大丈夫。入ったところで意味ないし。じじ様と会うなら別だけど別邸にいる時点でターゲットにされることはないよ。シュレディンガーいるし」

『回答。今から向かう場所は当システムにとっての心臓部分です。故に何がなんでも情報は漏れないないように徹底しています。安心して存分に楽しんでください』

何処かにスピーカーでも仕込んであるのか滑らかな機械音声がそんなことを告げてくる。
それはつまり、こちらが何かを話そうとしても情報を遮断してくるということだ。綴達としても物部家を敵に回して良いことなんざ一つもないので話す気もないのだが。
入った部屋はエレベーターがぽつんとあった。中に入るとゴウンゴウン重たい音を立てて下へと下がっていく。

「地下?」

「そー。シュレディンガーは軍用規格だからな。割とでっかい冷却装置が必要なわけよ」

「…組み上げたのってぎーくんのお父さんだよね?」

「おう。仁希は一人で軍用規格のシミュレーター組み上げちゃった野郎だぜ」

たった一人でシミュレーターを組み上げること自体天才の所業だが軍用規格ともなるとそれはもう異常ともいえるだろう。

「待って。シュレディンガーはサポートAIなんだよね?」

「そうだよ。軍用規格のサポートAIだ」

戯藍という存在をサポートする為だけに作られたシミュレーター。ただそのリソースがあまりにも大きいので物部家の書物の管理だのに割いているだけの話だ。だからこそ最優先は戯藍の生活サポートであり、ありとあらゆる手段を用いてシュレディンガーは戯藍の生活を補助していく。

「俺が色々聞くのもリソース消費のため。使わないと勿体無いし、あると便利だからな」

「色々と間違っている気がする…」

「あはは、俺もそう思うよ」

けらけら笑って、彼は先へと進む。小さな部屋だった。生活感に溢れた、雑多なものが転がっている様は散らかっているはずなのに何処か整頓された雰囲気を保っている。大きく嵌め込まれた窓ガラスの先には巨大なコンピューターが鎮座していた。稼働している音が低い振動になって聞こえてくる。

「此処が管理室みたいなとこ。向こうにあるのがシュレディンガー本体だ。適当に座ってくれ。クッションとか引っ張り出していいからさ」

「う、うん」

「で、だ。本題にいこう。どうせ綴から聞いてるんだろ、俺の能力の話」

「戯藍さんが、今、生徒会の奴らに追われてる人っていうのと漆黒の炎を扱うっては知ってます」

「全部喋ったな。まぁ良いけど」

相変わらず距離が近い二人と対面する形で窓ガラスを背にした戯藍は苦笑する。

「此処なら良いだろう、シュレディンガー」

彼は何故かシュレディンガーに許可を求めた。何処からか機械音声が響く。

『回答。レベル3までの解放を許可します。それ以上解放しようとすると警告が発生するのでご注意ください』

「はいよ」

ぶわり、と軽く掲げられたその手のひらから炎が上がる。鮮やかなまでに黒い、漆黒の炎が燃え上がった。
同時に重たい音を立ててその身体を黄金の光が拘束した。首周りから両手足を戒める姿は罪人のようだ。

「そ、れは…なん、なんなの?」

掠れた声で問いかける綴に戯藍は何処までも淡々と答えた。

「俺の〝固有魔法〟はありとあらゆるものを燃やし尽くす漆黒の炎。俺が望めば概念すら燃やすほどの威力がある」

「概念すら?」

「そう。だから能力を抑えるための鎖がコレ。仁希の、俺の養父が残した呪い」

「待ってください、ならどうして戯藍さんは別の能力を使えるんですか?固有魔法は一人一つのはず…」

「仁希の能力が電気系統だったからだよ。俺が鎖に繋がれている限り、使える能力だ。ご覧の通り俺はこの様だからな。まあ、つまりあれだ、俺の能力は出涸らしなのさ」
 
制限された能力は養父の能力によってがんじがらめに縛りつけられており、かつ無理に出そうとすれば黄金の光がスタンガンの役目を果たす。一歩でも動けなくなって、そのまま気絶する。その間は残念ながら非常に無防備になる為に、普段は隠しているらしい。
 
「まあ出涸らしっつっても色々やり方はあるし、出力自体は下手な能力者より強いから良いんだけどさ。感情のコントロールが効かなくなってセキュリティ超える出力叩きだしたら即座にアウトってだけなんだよ」
 
「え、出涸らしレベルで〝阿修羅〟の幹部メンバーの固有魔法破ったの?えぐくない?」
 
「だから抑え込んでんだよ。本気出したら大惨事だろうが」
 
「抑え込まなくてもどうにかコントロールできないんスか?」
 
「コントロール云々の前に縛られててどうしようもないんだよ。何ができるとかそういう情報一切ないし。解放も出来ないし。なんせ、能力者本人は死亡済みだってのに無事に能力は発動してるんだからな」
 
漆黒の炎を握りつぶしたと同時に黄金の鎖も消える。ぶかぶかの袖を手持無沙汰気味に振りながら、
 
「これが、俺の秘密。同時に物部の秘密でもある。元来、どのような能力であれ、封印まがいのことをすることは禁止されている。人権侵害だとかなんだかでな。だから俺の能力は強力だが同時に絶対に本来の力を出せない欠点を抱えている。無理に引き出そうとすれば多分死ぬ。物部家としても家のやつがそんなことをしでかしたことは隠したい訳よ、だから秘密にしている」

「そんな重要情報をあっさり明かしていいんスか?」

「いいんじゃない?」
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