愛だの恋だの馬鹿馬鹿しい!

蘇鉄

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「やっぱりお前達って付き合ってんの?」
 
加代から談話室にいると聞いたので足を向けた戯藍はそこでの光景に首を傾げた。綴と西川の距離が近い。具体的に言うとソファだの椅子だのがたくさんある中でわざわざ狭いソファに隣同士、ぴったりくっついて座っているからだ。
気まずいにしてもそこまで触れ合う必要はないだろう。どう考えても恋人か家族ぐらいにしか許さない距離感だ。
 
「別に?」
 
「そんなことないっスよ」
 
「これって俺の考えがおかしいの?」
 
『回答。ユーザー様は一般的に見てもパーソナルスペースが広いですが、これは仕方ないといえる状況でしょう。しかしこれが友人同士の距離というのであればそれで認識を更新しますが?』
 
「やめろやめろ。やっぱ絶対この距離はおかしいって。通常じゃないから。あいつらがどうかしてるだけだから」
 
AIが変な学習をしそうになるのを必死に止める。この状況が普通の距離感などとは絶対に認めてたまるか。
 
「とりあえず今日は休みな。明日の十時にここに集合ってことでよろしく」
 
「はーい」
 
「戯藍さんはどうするんスか?」
 
「俺は寝るー。疲れた」
 
「おやすみ、ぎーくん」
 
「おやすみなさいっス」
 
「おー」
 
 二人と別れ、部屋に戻る。といっても先程訪れた自室ではなく養父が使っていた部屋だ。プログラミングの書籍やらルービックキューブやらチェス盤やらが雑多に転がっている。

『進言。良い加減に遺品整理をなさってはいかがですか?ユーザー様は特に感傷で触れない訳ではないでしょう』

「あー、アレな。そうだな。どっかで整理するか。別にもう『覚えてないからっていう理由で仕置きされる』訳でもないし」

『回答。慰めの言葉は必要ですか?』

「いらなーい。メンタルケアで細かい数字を監視してるからわかってるだろ」

『回答。了解しました』
 
スマホを放り投げる。ベッドの上に着地した端末を見ないで、ぐでんと伸びた。
 
『回答。睡眠をとられるならきちんとベッドにお入りください』
 
「んー…」
 
黄金色の光が文字を浮かばせる。戯藍だけに見える文字。嫌がるように横になっても引っ付いてくるものだ。普段、シュレディンガーとは端末でやり取りしているがこのように能力の応用で文字を浮かばせることもできる。ただし端末でやり取りするよりも遥かに戯藍の負担が大きい為、こういった個人的な場面でしか使えない。
戦闘の途中で使おうものなら集中力が削がれるレベルではないのでまず間違いなく負ける。端末を見ている方が何倍も安全だ。一瞬だけでも見れば内容は読めるのだし。
 
『回答。ユーザー様』
 
「はいはい、口うるさいなあ」
 
『回答。当システムはユーザー様の健康管理も仕事としています。ユーザー様はご自身の健康管理をないがしろにする傾向がございますので必然的に細かく言わなければならないと判断しました』
 
もごもご言いながらもちゃんと布団に潜り込む。所詮シミュレーターなので戯藍に干渉することは不可能なのだが口うるさいまま永遠と言われるだろうことは短くない付き合いでわかりきっていた。
 
「おやすみ、シュレディンガー」
 
『回答。おやすみなさいませ、ユーザー様』
 
電気が自動で消える。しんと静まり返った家はあっという間に夜の気配に包まれた。優しくも厳しい、静かな夏の始まりだった。
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