愛だの恋だの馬鹿馬鹿しい!

蘇鉄

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突然だが宝城学園の人気者には親衛隊という名のファンクラブが結成されていることが多い。隊員の傾向としては小柄な小動物系男子。
沢山群れて集まって、数の暴力を体現する奴らである。過激なものでは制裁と呼ばれるいじめもあった。
委員長にも委員長を陰から応援し隊などという名の親衛隊がある。名前の通り委員長が困っていたらこっそり手伝い、月に一度ある定期報告会(ただの茶飲み大会)での労いの言葉をご褒美に頑張る、戯藍からすればよくわかんねー集団だが。
ちなみに戯藍には特にない。小幡曰く清純な文学少年、委員長曰くただの肉食獣である彼は一人のモブ生徒として日常風景に埋もれているからだ。

喧嘩を売られれば買って再起不能なまでにボッコボコにするのだが毒にも薬にもならない…顔が適度に良くて隣にいても気にならない…そんなタイプになれれば何も問題なかった。
優秀すぎるシュレディンガーがいれば無敵である。だからこそ油断していたといえるだろう。

「戯藍!大変なんだ!」

寮の部屋の共同リビングで綴と共に寛いでた時だった。慌てた様子で委員長が駆け込んでくる。扉が開くのもどかしいといった姿は普段の穏やかな姿からはかけ離れていた。

「どったの、委員長。そんな泡食ってさ。珍しいね」

「あぁ、こんばんは。高宮君、いや、そこはいいんだけど!」

動揺していても挨拶はかかさない真面目さんに戯藍が声をかける。他に情報が漏れないよう扉を閉めつつ、ソファに座るように促す。

「委員長。取り敢えず落ち着こうぜ、ほら深呼吸」

「う、うん。そうだね。そう、来季が部屋に戻ってこないんだ。放課後、誰かに呼ばれてるとは言ってたんだけど…夕飯の時間になっても戻ってこないのは流石に心配で」

「例の転入生?なら親衛隊に目をつけられてるのかもよ。最近、ずっとクラスの人気者がべったりだったデショ。それで親衛隊の子達がピリピリしてるって噂になってたよ」

綴は別クラスだ。クラス内で止まらない程に噂が広まっているということはそれだけ話が大きくなっている。

「チッ。風紀委員に連絡しておけ。俺も出よう。綴は委員長と一緒にいろよ」

「はーい。気をつけてね」

「戯藍」

心配げな声にひらひら手を振って返すと戯藍は部屋の外に出た。親衛隊関係なら風紀委員に連絡するのが一番早い。彼らはそういったことを解決するのが仕事の一つになっているからだ。下手に大人を頼るよりよほど安心できる。
だが来季は友人だ。自分で安否を確認したい。

「シュレディンガー」

『回答。発見しました。西棟、二階の奥、普段誰も使わない教室の一つにいます。映像を送信しますか?』

「風紀委員どもに送ってやれ。危機感を十分煽る形でな」

『了解。ついでに誘拐に関与しているであろう全員の顔写真でも送りつけておきます。映像から見て東雲来季の生存は確認できます。リンチは始まっていないようですし、戻ってもよろしいのでは?』

「それだったらそもそも俺が出てくる必要ないだろ。風紀委員が辿り着く前にリンチが始まらない確証もない」

『回答。本音としては?』

「外で見張ってる阿呆をぶん殴らないと気が済まない」

『回答。ユーザー様は些か脳筋ですね。あと友人想いですと付け加えておきましょう』

「うるさいよ」

学園の中をシュレディンガーの案内で駆け抜ける。抜け道やら何やらで大幅にショートカット。来季をいたぶる為にか時間稼ぎ要員が何人もいるがそんなもの気にする必要もない。映像を見た風紀委員が勝手に全部捕まえてくれるだろう。
騒ぎを起こして目立つのは宜しくないのでカメラに映っても大丈夫なようにきちんとパーカーのフードは被っている。多少派手に動いても顔が見えることはないだろう。

「シュレディンガー」

『イエス』

ばちんと激しい音を立てて電気が消えた。
廊下を含んだ一帯が丸ごと停電させられる。廊下に立っていた見張りを声を上げる暇も与えず即座に無力化した。混乱した声が響く教室にするりと入り込むとしなやかな獣は狩りを始めた。
星明かりが届く廊下ならともかく教室の中に入れば自分の手の先すら見えないほどの暗闇だ。しかもいきなり電気を落とされたものだから人間の目は余計に暗闇を強調する。
慣れたとしても攻撃に対応することは不可能だろう。密閉空間にさせたのが仇になっている。勿論、襲う側の戯藍にとってはなんの問題もない。オロオロしているだけの獲物などあっという間に狩り尽くせた。

時間にしてたったの数分。電気が元通りにつけば戯藍以外すべての人間が床に転がっていた。足で転がし、時に蹴っ飛ばして一つに纏めておく。勿論、気絶から起きたとしても起き上がれないように巧妙に身体同士を組み合わせておくことも忘れずに。

そうやって安全を確保してから手足を縛られて転がされている東雲来季の身体を確認。呼吸に異常はなく、深く眠っているようだった。

「んー…薬物、かな。首、腹とかにスタンガンの後もなし。そういう固有魔法の可能性もあるにはあるが」

『回答。そこで転がっている首謀者の固有魔法は数分間の石化です。一晩中痛ぶるつもりであれば暴れられることを防ぐ意味でも良い能力ですね。関与しているであろう人間の固有魔法を検索しましたが睡眠、気絶といった他者を無力化させる能力者はいませんでした。ユーザー様の観察通り薬物、それも市販で入手できる強めの睡眠薬と推測』

「よし、じゃあ安全も確保したことだし撤退するか」

手足を縛る縄はそのままにしておく。明確に被害者だとわからないと来季が疑われてしまう。本人が返り討ちにしました、なら話はまだ良い方だがわざと捕まっただとかそういった悪意のあるとられ方をされる可能性は潰しておくべきだ。
戯藍が勝手に手を出したのだから来季には何も言わないし知らせるつもりもない。
徹頭徹尾襲われた被害者として貫かせる為にも、彼に余計な手出しは不要だった。

『回答。風紀委員が到着しました。ルートを再構築します。鉢合わせしないよう、注意を怠らないでください』

「あいよ」

ルートはまさかの二階から飛び降りろ、であった。
どこもかしこも厳戒態勢なのだし電気をばっつり停電させたのだからそれは仕方ないことなのかもしれない。外に出れば少なくとも中からは逃げられる。
窓を開けると躊躇いなく飛び降りた。すとん、と上手に力を逃して音も立てずに着地を果たす。

『回答。そのまま闇に紛れて戻ることを推奨します』

ちらりとスマホを見やってポケットに突っ込んだ。勿論、闇に紛れる為である。下手に中に戻ったりしたら鉢合わせするに決まっている。ならバレないようにひっそりとそして迅速に撤退するのがコツだった。後ろなど振り返らない。
狩が終われば食べ残しだけを置いて巣に帰るのが獣の習性なのだから。
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