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6章

6章61話 夢の終わり

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『――はーい、終点で~す』

 プシュー、と開く扉。
 するとミチミチに詰まっていた車内から人がゾロゾロと車外へと出ていく。

「んぉおっ!♡」

 僕のおちんちんが、顏ぐらい大きなお尻を左右に持つ女性のおまんこから引き抜かれる。
 その間にもぶちゅぶちゅと激しいキスがそこら中から飛んできていたが、それもやがて終わった。

 どさっ、と電車の通路に仰向けに倒れ込む。

「はあ……♡ はあ……♡」

 朦朧とする意識の中、僕は荒く息づいた呼吸を整えていた。
 そんな僕を置き去りに、女性たちは次々と電車から降りていく。

 そんな光景を眺めながら、僕の意識は少しずつ、霧がかかったような状態から晴れていった。

「…………そうだ、僕……」

 やがて、自分が今まで何をしていたのかがゆっくりと思い出されてきた。

 ……そう、僕はサキュバスクラブに入って、ユメノさんに夢を見せられていたんだ。

「落ち着いてきた?」

 いつの間にか僕の近くのシートにユメノさんが座っていた。

「もう、終わった……んですか?」
「うん。よくがんばったねー」
「ポイント、は……」
「溜まったよ~。シャリアーデさんも事務処理の方終わったらしいから、もうすぐこっちにくるよ」

 そうか……僕はひとまず安堵した。
 満員電車でもみくちゃにされてるときはどうなるかと思ったけど、終わってみれば割となんとかなったような気がする。
 もっとぐちゃぐちゃになって気が狂うような思いをしてもおかしくなかったと思うけど、思ったよりも冷静さは失わなかった。

「僕はこれから、どうすれば……?」
「うーん、とりあえずしばらくはこのままいてもらえる? まだ女の子たちが部屋から出切ってないから」

 なるほど、現実のVIPルームからキャストの人達が全員去らないと僕は目を覚ませないのか。

「……どれくらい時間がかかるんですか?」

 僕は電車を下車していく女性達を見ながら言った。
 もしかすると、こうして電車から女性達が下りていく光景が、現実世界で部屋から女性達が去っていくのと連動しているのかもしれない。

 もしそれがリンクしているのであれば、そんなに時間はかからなさそうだが……。

「ああ、それはすぐ終わるんだけど、問題は君自身の方にあって……」
「僕自身?」
「今君は精神状態や感度を私の方でかなり抑えてるんだよね。そのままの状態で君にフィードバックしちゃうと負担が大きすぎるからさ」
「そ、そんなことできるんですか?」
「もちろん。幻覚の中なら何でも私の思い通りだよ。で、君を現実に呼び戻す前に、ある程度体が落ち着くのを待たないと、大変なことになっちゃうの」
「…………」

 さっき思ったよりも楽だった、なんて考えちゃったけど……どうやら思い上がりだったみたいだ。
 それはユメノさんが快感をセーブしてくれてたおかげで、現実世界の僕は今……どういう状態なのかは分からない。

「待ってる間、例の詩織ちゃんのストリップダンスでも見る?」
「……見たくないです、そんなの」
「君って案外現実との解釈一致を大事にするよね。エッチな同人誌とか見て僕の推しはこんなことしない! って騒ぐタイプでしょ」
「そんなの見たことないですよ」

 以前友達の部屋にあったのをこっそり見たくらいだ。
 僕の部屋にもそんなものはない。

「詩織ちゃん、いい子だね。君の記憶から読み取った詩織ちゃんのイメージは、とても柔らかくて、温かい子だった」
「……本当に素敵な人です。僕なんかにも優しくしてくれて、いつも笑顔で……」
「でもその薄皮一枚剥いだ下に、えげつない下心があったらどうする?」
「……」

 それは僕も、今日ずっと考えていたことだ。

「君が詩織ちゃんの爆乳を想像してオナニーしてたみたいに、詩織ちゃんだって君をオカズにしてたかもしれないよ? 君に優しい笑みを浮かべながら、こっそり君の股間をエロい目で見て、いやらしい妄想に耽ってたかも」
「……やめてくださいよ」
「で、もしそうなら……君はこうしたいんでしょ?」

 ユメノさんがパチンと指を鳴らすと、景色が学校の図書室に切り替わった。
 放課後の図書室。いつもここで詩織先輩と図書委員の仕事をしていた。
 そこで、僕はおどおどと動揺している詩織先輩に詰め寄った。

「――詩織先輩、サキュバスだったんですね」

 僕の意思とは関係なく、僕の口からそんな言葉が漏れ出た。

「……黙っててごめんなさい」

 詩織先輩は恥ずかしそうに、申し訳なさそうに視線を逸らしながらそう言った。

「詩織先輩、これが欲しいんですよね?」

 僕はズボンをそう言いながら素本を下ろし、ビンビンにそそり立ったおちんちんを詩織先輩の前に晒した。

「あぁ……!♡」

 詩織先輩は見たことないようないやらしい目線で僕のおちんちんを凝視し、物欲しそうに舌なめずりをした。

「ほ~ら、これが欲しいならこう言うんだ詩織先輩! 『今日から私は清太様の肉便器です。いつでも詩織のドスケベおまんこを……』」
「……好きですね、そのくだり」

 あははっ! とユメノさんが笑うと、目の前の詩織先輩の姿はいつの間にかユメノさんに代わっていた。

「清太君。私はね、君の頭の中を覗けるんだよ? どれだけトボけたって、君の本当の望みは私には筒抜けなんだから」
「……軽蔑しますか? 卑怯な……最低な男だって」
「君のそんな自己嫌悪の気持ちも凄く強く伝わってくるよ。君は本当に純朴な子。今時珍しいくらい。普通の男の人が君の境遇になれば、喜んで詩織ちゃんを誘ってやりまくると思うよ」
「……」

 僕は真面目なんだろうか。誠実なんだろうか。
 いや、きっとどれでもない。ただ自分に自信がないだけだ。
 僕はただ人より特殊な体質で生まれただけで、偶然それがサキュバスの人たちの好みに合っていただけで……僕自身の人間的な魅力が何かあるわけじゃない。

 それが申し訳ないというか、分不相応に感じているだけ。
 自信がないから、僕の方から堂々と女性を求められないんだ。

「清太君、一つだけ教えてあげる」

 そう言ってユメノさんは優しい声で続けた。

「今日、君がベッドで寝てる間、凄い数の女の子たちが君の体を貪ってた。凄い光景だったよ。私もちょっと引いちゃうくらい」
「は、はあ……」
「そのときの女の子たちがどんな風だったか、君にも見せてあげたい。――もうね、無我夢中とはこのことかってくらい、皆必死に君を犯してた。君が射精する度に、その一滴でもいいからすすろうと懸命に舌を伸ばしてた」
「……」

「だからこれだけは保証してあげる。――サキュバスは、絶対に君を求めてる。どんな子だろうと例外なく。サキュバスは、君とセックスがしたくてしたくて……したくてしたくてしたくてしたくてたまらない子ばかりなの」

「……」
「もし詩織ちゃんがサキュバスなら、遠慮なんてしなくていい。その子は絶対君としたがってるし、君が買いたいなら喜んで購入されるはず。だから自信もって清太君。君は素敵な男の子だよ」

 ユメノさんにそう優しく諭されて、僕は少しだけ気が楽になった。
 詩織先輩が僕を求めてるなら、僕は詩織先輩を求めたっていいんだと……そう納得する口実を手に入れたのだ。

「それじゃあ、そろそろ起こすね。いきなり全身が敏感になって驚くかもだけど、もうシャリアーデさんが来ちゃうから」
「は、はい」
「じゃあいくよ? 身構えてね~。――それっ」

 そうして僕は瞼を開いて、VIPルームの天井を見つめ――


「――――ん“あ“あ“あ“あ“ア“ア“ア“ッッ!?!?♡♡♡♡」


 突如、全身に雷が走り抜けた。

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