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2章

2章11話 詩織先輩との日常2

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 詩織先輩が図書委員の仕事を済ませるのを待って、一緒に帰ることになった。
 ついさっき当の詩織先輩をオカズにオナニーしたばかりなので内心ちょっと気まずかったけど、そこはなんとか表に出さないように頑張った。

「そっか、一緒に映画を見ようとしてくれてたんだ……悪いことしちゃったね」
「いえ、僕が勝手にやったことですから」

 先輩も、僕に変に気を遣うこともなく普通に接してくれている。
 僕は先輩が好きで、先輩も僕のことを憎からず思ってくれている。
 でも恋人になることはできない。それだけだ。
 今まで通り友人でいてくれるなら、それで十分だと今は納得できた。

「映画、面白かったですよ。先輩もきっと気に入ると思います。良かったら見てみてください」
「うん、今度見に行ってみようかな。そしたら一緒に感想会したいね」
「いいですね。ぜひ!」

 駅までの帰り道を歩きながら談笑は続く。
 ほんの十数分の間だけど、僕にとっては幸せな時間だった。

「それじゃあ、私こっちだから」
「はい、また明日」

 そんな楽しい時間もあっという間に終わる。
 僕と先輩の家は反対方面にある。別のホームに向かっていく先輩を見送ると、僕も階段を上って自分のホームを目指す。
 やがてホームに到着した電車に乗り込むと、珍しくかなり空いていた。

 一番角の席に座って、軽く目を閉じる。
 走り出す電車。小刻みな揺れに身を任せてうとうとしていると、自然と詩織先輩のことを考えていた。

 改めて、詩織先輩と気まずい感じにならなくてよかった。
 多分先輩もどこか内心で気にはしてくれていたと思うけど、それを表には出さずに普通に接してくれていた。
 本当に優しい人だ。あんなに綺麗で誰からも好かれるような人が、僕なんかのためにそこまでしてくれるというだけで僕は嬉しかった。

 明日もまた図書室で先輩に会える。
 それで十分だと何度も自分に言い聞かせながら……

 ――清太君♡

「――っ」

 再び、脳内で蘇る艶めかしい詩織先輩の姿。
 大きな胸。柔らかい唇。しなやかな指先。

 ……信じられない。
 もう今日だけで四回も射精してるのに、また性懲りもなく勃起し始めてる。

 どうしちゃったんだろう僕の身体……。
 以前はここまで節操無しじゃなかった。
 やっぱりあのクラブに行ったせいかな……そう溜め息を吐くと、

 ずし、と隣に誰かが座る気配を感じた。
 瞑っていた目を開けると、

「――うわ」

 思わず小さな声が出てしまった。
 それくらい、隣に座った人の容姿は特徴的だった。

 席に座っても一目でわかる、すらりとした高身長。
 目の覚めるような鮮やかな美しい金髪ロング。
 見るからに高級そうなスーツと、それを内から押し上げる大きな胸。

 ちらりと顔を覗き見ると、予想通りと言うべきか、切れ長の瞳に肉厚な唇……線の細いクールな印象の美女だった。

「……」
 ふと周囲を見回すと、電車内はかなり空いていて、他にも空席はいくらでもあった。
 なのにその女性はわざわざ僕の隣に座った。
 どうしてだろう……と思っていると、

「こんにちは」

 なんとその女性が話しかけてきた。

「え……?」

 まさか電車の中で他人に、しかもこんな美女に話しかけられるとは思わずに面食らう。
 女性は顔は正面を向きながら、横目だけで僕の方を見るという奇妙な様子で僕に話しかけていた。

「少しいいかしら?」
「な、なんですか……?」
「私、とある会社の役員をしているんだけど、少しお話に付き合ってくれないかしら」
「……は、はあ……」

 な、なんだいきなり……。
 会社の役員が僕みたいな学生になんの話が?

「実は、あなたにすごくお勧めの商品があるの。その紹介をさせてほしくて」
「…………」

 え、なに、怖い。
 もしかして営業かなにか? 街中での勧誘みたいな感じで、まさか電車の中でセールスするのが最近の流行りだったりする?

咲蓮さきはすビルって知ってるわよね?」
「……いえ、知らないですけど」
「あら、ほんと? じゃあどうやってあのビルの場所を知ったの?」
「いえ、ですから知らないです……」

 咲蓮ビル? 聞いたことのないビルだ。
 まあビルの名前なんてそもそも知ってることの方が少ないけど。

「ほら、近くに映画館があって」
「映画館……」
「奥に秘密のエレベーターがあって」
「エレベーター……。――――え?」


「――カードリーダーにカードを通すと地下に下りていって」


 ――どくん!
 目を見開いて女性の顔を見ると、女性は妖しく微笑んだ。

「思い出した?」
「な……なん、なんで……!?」
「そこにね? いろんな商品が売ってるの。遊ぶだけじゃなくて、購入もできるの」

 ま、間違いない。
 この人……あのクラブの関係者だ!

 もう一度顔を確認する。
 確かにあのクラブにいてもおかしくないようなすごい美人だけど、見覚えはない。
 ただなにか……どこかで会ったような気はするけど……思い出せない。

「な、なにが……買えるんですか? 僕にオススメの商品って……」
「ふふ……実はね、そこではの」
「キャストを……買う?」

 キャストっていうのは、接客してくれるあの女性達のことを指していると思うけど……買うっていう言葉の意味がよくわからなかった。

「指名できるっていう意味ですか?」
「いいえ、そのまま文字通りの意味での。……ごめんなさい、これ以上は私の口からは言えないの。あなたも、私から聞いたって絶対に言わないでね?」
「は、はい……」

 う、胡散臭い……一体何がしたいんだこの人。
 正直……こ、怖い。
 あの異常なクラブの関係者っていうだけでも不気味なのに、こんな電車の中で接触してくるなんて目的が全く見えない。

「もう一度あの場所に戻って、キャストを買いたいと言いなさい。いいわね?」
「か、買うって……誰を?」
「……私からは言えないわ。でも、」

 そこで電車が次の駅に到着した。
 女性は静かに席を立ち、バッグから名刺入れを取り出すと、一枚を僕に手渡した。

「買ってくれたら、きっとあなたを満足させてあげられるわ。――この前みたいに」

 そう言い残して女性は電車を降りた。
 その後ろ姿を呆然と見送ったあと、僕はまじまじと手渡された名刺を見つめて……

「――――え?」

 そこに書いてある内容に、僕は間の抜けた声を漏らした。


(株)ミルキー・パフ 代表取締役
スメラギ サリナ

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