お伽話 

六笠 嵩也

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第二章

2-5 ★

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堂の中はいつもより暗かった。
どうやら明り取りの格子窓が半分ほど外から板を打ち付けられてしまっているようだ。佐吉が足を踏み入れると、まずは光の当る場所にあった布団が目に入った。しかしそこに鈴虫の姿は無い。微かに聞こえる息遣いと、布の擦れるような音に混じって聞こえる何かに吸い付くような音から、角の一番陰になっている暗い場所に蹲っているようだ。

「すず…お鈴ちゃん…怖がらなくていい。俺だよ。」

「ん…さきっさん…さき…だめ、だめなんだよ…見ちゃ…いや…」

「そか、じゃ、見ない。でも、傍に行くよ。」

鈴虫からの返事は無かった。佐吉は堂の奥へ、甘い香りの強くなる方へと静かに歩みを進めてゆく。くちゅくちゅ…と水音が僅かに耳に入った。どうやら鈴虫は佐吉に見られてしまうかも知れないと言うのに、自分を慰める指を止める事が出来なくなっているようだ。
佐吉は膝を着いて目の位置を下げてゆっくり近付いてくる。目が合うと鈴虫は咄嗟に濡れた指先を袖の中に隠した。しかし、何をしていたのか佐吉には気付かれてしまっているだろう。言い訳を考える余裕なんてまったく無い。せめてもと思い、裾を引き寄せて足元を隠そうとしたが、濡れた床板までは隠せず、恥ずかしくてたまらなかった。

「すず、待たせたね…ごめんね。辛かっただろう?」

「おら、ばけもんになっちまったよ…カンゼオンボサツっていう名前のばけもんだ…はははっ…ね、変でしょ?お股、びしょびしょなの!こんなに濡れて…いやらしいでしょ…おかしいよねぇ…お臍のね、ちょっと下の辺りが疼くんだよ。」

「そうだね、おかしいね、お鈴ちゃんの体じゃないみたいだね。きっとまだ頭の中にはお鈴ちゃんが居るけれど、体は乗っ取られちゃったんだよ。だからね、お鈴ちゃんがお股を濡らしてるんじゃないんだよ。きっと!」

「…ほんと?」

「んー?たぶん。観音様が出て行ってくれるまで、すずは何にも悪くねぇ。観音様が全部やったことだ。観音様に責任とって貰おう?」

佐吉は混乱しているであろう鈴虫の気持ちを解してやりたいと思い、出来るだけ柔らかい口調で語りかけた。そして縮こまった鈴虫の肩を引き寄せ、そのまま抱き上げて布団の上に寝かせる。そうする合間も、絶えず甘い香りの蜜が溢れ出し、僅かに佐吉の手を濡らした。

「ぃやッ!お布団が汚れちゃうの!」

「大丈夫、汚れたら俺がまた洗ってやるから。綿は打ち直せば良いだろ?」

佐吉は鈴虫を押さえ込む様に寄り添って寝転がると、鈴虫の裾を割って手を滑り込ませた。湿った下帯を解いてゆくと愛らしい花芯が蜜を湛えて居場所を主張している。佐吉はその先端から溢れる蜜を指先で掬い取った。そして敏感になっている粘膜に擦り付けて、クリクリと尿道の入り口を執拗に責める。すでに溶け出しそうな程に熟れた鈴虫の体は、この刺激に対して抗う事など出来はしない。無意識に身を捩り腰を突き出して、もっと強い刺激を、もっと他の場所にもと強請るように身悶える。戦慄く唇から熱い吐息が零れ、同時に漏れる切なく甘美な嬌声は、普段の鈴虫からは想像し得ないほどに艶かしかった。

「…すず…ねぇ、気持ち良い?ねぇ…すず、すごく良い香がする…ほしい…すず。」

濡れた太腿を開かせてその奥の窄まりに触れる。そこは鈴虫の言葉ではびしょびしょと表現していたが、実際のところは滑りのある粘液と言った方が正しいだろう。ヌラリと肌を滑らせる何とも言えない感触が劣情を掻き立てる。

「ね…これ、俺も…どっしよっかぁ?俺、お鈴ちゃんには悪いんだけど、すんごく我慢してるんだよ。ね、どうしようか?…どうして欲しい?聞いちゃいけないのかも知れないけれど、この前、こうなったときはどうしていたの?どうされたかったの?」

鈴虫もどうして良いのか分からなくて、潤んだ瞳で佐吉の顔を見詰める。本当は早く抱いて欲しい。指で慣らす必要も、香油を使う必要も無い。もう、無理にでも押さえつけて体を開いて、掻き混ぜるように犯してくれて構わない。とにかく体の奥底から湧き上がる欲望を今すぐにでも満たして欲しいのだ。

しかし、そんな事、恥ずかしくて言えるわけが無かった。それを言ってしまったら、この痴態が自分の意思だと認めてしまうようなもの。どうしてもそれだけは赦せない。こんな淫乱な体になっているのは自分の意思では無いと、自分以外の口から出る言葉で掻き消してもらわなければ、心が崩れてしまいそうで怖くて仕方が無いのだ。

佐吉がその矛盾を察してくれさえすれば答えは自ずと出る筈なのに。鈴虫は縋るように佐吉の袖口を握り締め、歯を食い縛り泣き出したいのを我慢した。

「すず…ちょうだい…ね、良いよね?」

「さきっさ…さきっさん…おらを抱くの?それとも…抱かれるのは…菩薩さま…なの。」

佐吉は直ぐには答える事が出来なかった。あらかじめ嘉平に意見を求めておくべきだった。果たしてどう答えるのが正解なのだろうか。真実である必要は無い。今は鈴虫を出来るだけ肯定してあげられる言葉が正解だろう。そう思い佐吉は正直な自分の気持ちを伝える事とした。

「俺はすずしか抱かないって決めてる。だから今から抱くのはすずだ。すず以外には無ぇよ。たとえ乗っ取られても、すずは俺のお嫁さんなんだよ。俺は自分の嫁さんしか抱く気は無いからな!
 …う~ん、そうだなぁ…今のすずは流行り病に罹ったようなもんだと思えば良いんじゃないか?」

その言葉を聞いて安心したのか、鈴虫の体から力が抜けてゆく。

「おらもすっごく我慢してた。でもね、我慢できないのは菩薩様で、おらの気持ちは…まだ、おらの中に残ってる気持ちは…」

「泣きべそかかないの!俺が我慢できないからお鈴ちゃんを襲っちゃうの。いいね?これは俺のわがままだよ。」

佐吉はそう言うと鈴虫の唇を塞いだ。迷いだらけの弱った心をどうする事も出来ずにいた鈴虫にとって嬉しい強引さだ。

「ね、あーんってして…くれる?」

「あーん?」

鈴虫の口がポカンと開き、甘い吐息が零れる。

「嘉平様が飲ませてみろって…あ、あの…こ、こないだ俺がお鈴ちゃんの飲んだみたいに…あっ、あっ、もちろん厭なら…ごめん、今の忘れてくれ!あっ!?」

鈴虫は身を屈めてスルッと腕の中から抜けると、佐吉の裾を割り、更に手を進めて下帯を解いた。目の前には自分のそれとは比べ物にならない大人の雄の昂ぶりがそそり立っている。

「あぁ…おっきい…お口に入るかなぁ…でも、すごく、これ、ほしい。…なんでだろうね。」

細い指がその先端だけで恐る恐る熱く滾る男根に触れる。可憐な紅い唇が触れるか触れないかギリギリの辺りで戸惑っている。この距離では鈴虫が言葉を吐くたびに、熱を帯びた吐息が敏感になっている部分を擽るように刺激する。

「ん…うぅん…どうすれば…いいのかな…あっ、こぼれちゃう。さきっさの…あぁっ」

鈴虫は尖らせた舌を裏筋から上に滑らせて溢れ出した透明な液体を掬い上げて飲み込んだ。初めて口にする不思議な味が口の中に広がる。それは体調のせいなのか、佐吉への愛しい気持ちの表れなのか、鈴虫にとってまったく不快な物ではない。むしろ特別な物を頂戴する行為をしているという緊張感が気持ちを昂ぶらせて行く。鈴虫はその昂ぶりに背中を押されて、思い切って口を大きく開けると深く咥え込んでみた。

「あぁぁっ…す、すずっ、すごい…すごっ!」

「さ…ん、うぐッ…いい…気色…うぅッ…いい…?」

鈴虫は自分のやっていることに全く自信が無くて、何度も上目遣いで見上げては確認を取りたがった。佐吉は答える余裕も無く、ただ鈴虫の頭を撫ぜる事で肯定を表すしか出来ないでいる。

「あのね…おらも…」

「すず…ごめん…良すぎて…あぁ、こっち向けて、俺にもちょうだい。」

二人は体位を変えてお互いの性器を愛撫出来るように横寝に位置を取る。佐吉は目の前に来た愛らしい花芯を口に含み、濡れそぼった菊門を指で揉み解すようになぞる。いつもならばゆっくりと一本ずつ慣らさなければきついはずなのに、今日は吸い込まれるように指が楽に入って行く。そのまま奥へ指を進め、腹側を探りながら降りてくると瘤を見つけ出すことが出来た。佐吉は鈴虫の起立を奥まで口に含んで舌で捏ね回しながら、体内に忍ばせた指先で他よりも少し硬い部分を擦り上げるようにして規則的に刺激する。

「あぁぁんッ…さきっさ…そこ、だめっ、でちゃうッ!あぁん…だしたいよッ。」

「…すず……ちょうだい、俺も、もう…ね、すず…先に楽にしてあげるよ。ちょうだい…すず…欲しいんだ。」

そこから二人は言葉を交わす事をしばし止めてお互いの体を本能が求めるままに貪りあった。
くちゅくちゅと耳を犯す水音と、荒くなった息遣いだけが堂の中を占め、意識が完全に呑み込まれて行く。
佐吉は舌を広げて深く咥え込むと、指を揃えて根元を細かく上下させて振動を与えた。こうすると包皮に引っ張られた裏筋側の尿道口からじんじんと快感が湧き上がってくる筈だ。佐吉の愛撫にすっかり溺れた鈴虫は涎まみれの男根を握ったまま、口を動かす余裕などは無くなっていた。

鈴虫が短く息を詰める。
そして、二、三度腰を突き出すように痙攣すると同時に甘い蜜を吐いて達した。

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