お伽話 

六笠 嵩也

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第一章

1-27 ★

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薄紅色の着物に鈴虫の体を包み込んで佐吉は布団を出た。気配に気が付いて目を覚ました鈴虫が、袖を握って引き止める。明り取りの格子窓からは、まだ朝焼けにも満たない薄い光が差し込んで、鈴虫の寝ぼけた顔を浮かび上がらせていた。

「外に誰か居るよ。待っていて、見てくるから。」

佐吉は鈴虫の手を優しく解いて戸口の方へと様子を見に行った。佐吉が慎重に拳一つ分程戸を開けて外の様子を窺い見ると、そこには喜一郎が立っていた。その手には粥の盛られた椀が二つと青菜の漬物が一鉢載った盆を捧げ持っている。

「おはよーございまーす、お二人さん。飯だよ。ササッと食べて人に見られないようにお帰りくださいませ。」

瞼の腫れ上がった仏頂面と、わざとらしい平坦な口調に佐吉は思わずプッと噴き出した。

「喜一郎!どうしたんだ!?帰れたか、良かった!あっ、ありがとうな!朝早くから申し訳ない。ご馳走になるよ。」

「ありがたいと思ったら、俺の良い噂話をあちこちで撒いてやってれ。例えばだな、釜戸の火を熾すのも面倒臭がらず、旨い朝飯を易々と作るから嫁になる娘はさぞや幸せ者だろう…とかな!」

「…どした?」

「…聞くな。」

喜一郎は三日後の午後にまた来るようにと告げて去っていった。

佐吉は出された粥を鈴虫と仲良く食べ終えると、また会う約束をして早々に屋敷を発った。
鈴虫と会えない三日間は懸命に仕事をしよう。今までは喜一郎が親父を手伝ってくれていたから自由が利いたのだ。しかし、喜一郎が屋敷に帰ったとあっては人手が足りなくなるはずだ。あまり親にも面倒を掛けられない。鈴虫は寂しそうであったが、その寂しそうな顔を再び笑顔に変える日を楽しみに、佐吉は自分に出来ることを精一杯こなしてゆこう思うのだった。



三日という時間は佐吉にとって長い時間であった。その間にも屋敷に何度か顔を出したが、体力を使い果たした鈴虫はまたしても体調を崩して寝込んでしまっているという。どうやら体に不調があると熱が出てしまうのが鈴虫の体質のようなのだが、今回は夏風邪を引いたような症状で腹も壊しているそうだ。たくさん食べると宣言したばかりなのに、重湯を啜るのが精一杯と言う状態になり、またしても痩せこけてしまったそうだ。鈴虫の好きな真桑瓜の時期はもう過ぎてしまった。佐吉は何か喜んで食べてくれる物を新たに探し出さなければならないと思った。しかし自分が食べ物に無頓着なせいもあり、いざとなると何も思い浮ばない。

「あの…佐吉でございます。あの…三日過ぎたので…参りました。」

佐吉はさんざん考えた挙句に手ぶらで屋敷に赴いた。土間に入ると廊下の向こうから嘉平が出迎えに来た。余程大切な事なのだろうか。すぐさま挨拶代わりに爪の手入れ具合を確認された。

「佐吉や、よく来てくれたねぇ。鈴虫がお前に会いたがっていたよ。でもねぇ、また熱を出して寝込んじまったから今日は軽めに頼むよ。香油だの布だのは堂の中に葛篭つづらを一つ用意したから、全部その中に入ってる。足りなくなったら言ってくれ。泊まっていくだろう?すぐに水と握飯を用意するから持って行ってくれ。」

「あ、握飯、ありがとうございます。行水して体を清めてから参りますので、外の廊下に置いて貰えますか。水は俺が汲んで持って行きます。」

庭に廻り井戸に向かって歩き始めると、佐吉の視界をスィッと赤蜻蛉が横切った。その向こうには芙蓉の花が色もそのままに散っている。佐吉はほんの少しばかり季節が変わり始めるのを感じながら、それでもまだ汗ばんだ体を汲み上げた冷たい水で清めた。

「佐吉ぃ!爪の間もちゃんと洗って、口も漱ぐんだよ。ここに置いておくからね。」

そうこうしている内に、お妙の機嫌良さそうな声が掛かった。
浅漬けと握飯の載った盆をお妙が廊下に置いてくれていた。ふと考えてみると秋の収穫前の米の蓄えが一番少ない時だというのに何所から米など調達してきたのだろう。貴重な隠し米をわざわざ自分達のために工面してくれているのではないだろうか。そんな風に考えると佐吉は少々申し訳ない気がした。

堂の戸の前から声を掛けると中からは可愛い返事が返ってきた。鈴虫はお待ちかねだったようでご機嫌であった。

「さきっさっ!」

鈴虫が満面の笑みで嬉しそうに胸に飛び込んできた。

「おぉっと!待って。今ね、手が塞がってるんだよ。お鈴ちゃん、ちょっと待ってくれる?」

握飯と水桶を置いて、鈴虫を抱きしめた。纏っていた単衣が紙風船を潰す様にくしゃっと潰れ、その中に柔らかさを失って棒切れの様になってしまった体があった。元々細かった体がたった三日で一回り小さくなってしまったのではないとか思われるほどに痩せてしまっていたのだ。

「お鈴ちゃん…体…大丈夫か?大丈夫じゃないよなぁ、これ。」

「うぅん…?お腹痛くて…お熱も出たし…。でも、さきっさん来てくれたからもう平気!」

「平気じゃないよ。お鈴ちゃん、平気じゃないよ。これ、食べよう?ね?」

「…う~ん…。さきっさん?あのね、先に抱いてくれねぇ?」

「いいや、食べなきゃ抱かない!」

鈴虫は口を尖らせてちょっと困ったかのような顔をした。食べたくないには鈴虫なりの理由があるが、それを言ったら佐吉の興をいで嫌がられるかもしれない。今はまだ快楽が少なからず苦痛の上に成り立っていると言う事を秘密にしたいのだ。
鈴虫は暫しもじもじと迷っていた。しかし隠し事はいけないような気がして佐吉には正直なところを話そうと決めた。

「…食べたら…食べて遣ったら吐くかもしれねぇ…。胃袋が持ち上がったみたいで苦しくなるから…食べたばかりじゃ辛いかも…」

「お鈴ちゃん、もしかしてこの前も食わずに遣ったのか?今日は止めよう!やったふりすれば良いじゃないか?飯食って、抱っこで一緒にぐっすり寝ようよ!俺はお鈴ちゃんと一緒だったら幸せなんだから。」

「しあわせ?…しあわせ…か…う~ん、それ、幸せだねぇ!おら、さきっさんとずっと一緒が良いっ!でも…でもねぇ、日にちを空け過ぎると道が塞がっちゃうんだって。そうするとまた痛くなるから…」

佐吉は鈴虫を抱きしめたまま困った顔して暫し考えた。

「じゃぁねぇ…達しても飯食い終わるまで寝ちゃ駄目。いいね?」

鈴虫は納得したようにコクリと頷いた。

佐吉は鈴虫を横たえると抱き合うようにして自分も横になった。佐吉は手探りで裾を割ってゆく。白地い布地に紺色の糸で細かく縫い取りされた下帯が露わになった。熱が少し引いてきた頃、布団の中で暇潰しに自分で何枚も縫ったのだそうだ。ご自慢の下帯を解くと慎ましやかな花芯が露わになった。

佐吉も下帯を解き、香油の入った壷に指を浸すと二人の性器を纏めて握って擦り上げた。くちゅくちゅと卑猥な音を立てながら二人の起立は熱を帯びる。鈴虫は始めのうちは佐吉にされるがまま、任せ切りであったが、恐る恐る手を伸ばして一緒に動かしてみた。

「この前、駄目だって言われたけど、俺…これ、気持ち良いなぁ、いいよね?」

「さきっさんと同じになるみたいで好き…。ね、さきっさん、それ、おらにも生えてくる?」

「ん?下の毛か?あと…そだなぁ、一、二年かな?うっ…あっ、いけねっ!あんまり扱くと出ちまうよ。」

「ん…うぅん…あぁん…本当に生えるかなぁ…あっ、さきっさん、おらのいいところばっか擦って…ずるい!あっ、おらも出ちゃうってば!待って…あぅっ、だめ…」

鈴虫は上気した顔を佐吉の胸にぎゅっと埋めた。横から口を挟む人間が居ない分、心が開放されているのだろうか。今日は鈴虫も佐吉の愛撫を素直に受け入れることが出来ているし、自分の言いたい事を少しずつではあるが伝えようとしている。あまり他者と心を開いて会話などすることの無かった鈴虫は言葉の遣り取りを楽しんでいるようだった。

「すず…ねぇ、後からと前からだとどっちが良い?」

「あのね…さきっさんのお顔が見える方が良いなぁ…後だとお顔が見えないもん…」

「すず…じゃぁ、力を抜いて…長く息を…」

そう言うと佐吉は体を起こし、半分覆い被るような体勢で中指をゆっくりと鈴虫の体に入れた。蕩けるような温かな粘膜が指に纏わり付く。鈴虫の味を知ってしまった佐吉の脳は、それだけでご馳走を前にした犬のように本能を昂ぶらせてしまう。十分な硬さを持った男根の先に涎を滲ませていることはまだ鈴虫には隠しておこう。
鈴虫が長い一息を吐き終わる頃には、指先がまだ覚えたての小さな瘤を捉えていた。ゆっくりと押し込んでは放す。じわっと広がる重く甘い快楽の波が鈴虫の下腹部を呑み込んでいく。潤んだ目を細め、緩く開かれた口元から熱い息を漏らす。
佐吉は痛みを感じていない様子を確認し指を増やした。縦に差し入れた指を抽挿しながら位置を変えて満遍なく拡げてゆく。気持ちが強張っていないせいか、体が慣れたせいなのか、鈴虫の体から無駄な力みが薄らいでいるようだ。

「すず、もう一本指入れなきゃなんないのに…我慢出来ない…って言ったら笑う?」

「…うっん…あぁっ…さきっ…おいでっ、おいでよ…ぁあっ…」

「ああっ駄目だ!待って、すずのこと早く欲しいけど、やっぱり間違いがあっちゃいけない。」

「さきっさん…おいでよぉっ…あぁん…!いじわるするの?」

佐吉は鈴虫に求められているのが嬉しかった。それでも自身の技量に自信の無い佐吉は教えられた通りにしないと不安なのである。三本目の指を加えて深い所まで押し開いていった。鈴虫は佐吉の指の動きに合わせるようにして短く呼吸を繰り返す。艶かしい吐息が耳を擽り、思わず喰らい付きたくなる衝動に駆られてしまう。

「すず…そのくちびる…ちょうだい…」

二人は目を閉じて唇を重ねた。

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